「正しい」は

どう詠む?

♥お気に入り♥

正しいという人がいていくつもの窓枠の縦×横、青さ

兵庫ユカ『七月の心臓』

死にながら暮れてゆく町の正しさを僕はエレベーターにて放屁

望月裕二郎『ひらく』2009

癌のなかにゐずまひ正してきみはありゐずまひはかなし杏子のかをり

渡辺松男『雨(ふ)る』2016

西湖の溶岩壁を立つ鳥の羽ばたきを聴けば間隔正し

北原白秋『夢殿』1939

下向きの矢印が正しく降りそそぐ(読んでください)やさしくしずかに

柳谷あゆみ『ダマスカスへ行く 前・後・途中』2012

記念日はちゃちなビーズね飾るより散らばした方がきっと正しい

間宮きりん「早稲田短歌」44号

竜胆の正しいこころむらさきは青にちかくて近づけぬまま

三好のぶ子「かばん」1998.10

それぞれの正しさ秘めた脳みそが電車のなかでゆらめいている

谷川電話『恋人不死身説』

プリンカップを逆さにしたりパンドラの匣のただしき開けかたとして

光森 裕樹『山椒魚が飛んだ日』2016

みんな違う理由で泣いている夜に正しく積まれるエリエールの箱

たかだま『短歌ください その二』

民俗の小暗き宵の辻々を歩幅ただしくあゆみたまひき

中山明

力には力をもちてというような正しいことは通じないのよ

山崎方代

何とかなる場合もあるが君の正しいパソコンと俺のパソコンは違う

中沢直人『極圏の光』

こん、という正しい音を響かせてあなたは笹の舟から降りる

笹井宏之『ひとさらい』

貼るカイロ・貼らないカイロ 二種類の正しい冬のレビューをきみに

柴田瞳

関節の正しく五十五年間うごくを

謝して雨夜あゆめり

高野公彦

子供らの手には空蟬 いなくなる理由はどんなときもただしい

田中ましろ『かたすみさがし』2013

正しさの効能なんてわからないわたしはふつうのセックスをしたい

田丸まひる『硝子のボレット』2014

いつもより正しくつなぐ月曜日つながるためにはたらいている

法橋ひらく『それはとても速くて永い』2015

神木にウェストポーチをまきつける 正しいことがしたいあまりに

笹井宏之『てんとろり』2011

透き通るほどに抱きしめられている夜も正しく動く天球

鈴木晴香『夜にあやまってくれ』2016

海光よ 何かの継ぎ目に来るたびに規則正しく跳ねる僕らは

穂村弘『水中翼船炎上中』2018

愛し合うことを最優先させた結果であってこれで正しい

辻井竜一「短歌」2018.4

2019.1.29 高柳蕗子