炬燵をどう詠む?

なにもかもありたけ質に置炬燵

かかろう縞の布団だになし

落語/掛取り万歳

こたつから猫もあきれて首を出し

落語/転失気

静かにくつろいで過ごす

おとなしく炬燵にはひり日暮なりふりつつやみし雪のあとの冷

北原白秋『風隠集』

★うん、すごくフツーだなあ。

人来ねば炬燵に顔をおし伏せて時雨の雨と思ひつつぞきく

ルビ:思(も)

岡 麓

★さびしそうだなあ。で、人が来たらどういう絵になるのか?

お茶の間の炬燵の上の新聞の番組欄のぐるぐるの丸

穂村弘『水中翼船炎上中』

★炬燵の新聞のぐるぐる丸を見たら、その炬燵でテレビを見ていた人の心身のありかたがまるごと伝わって来ちゃった、そういう瞬間を描く。

丸を書いた人はおそらく、晩年の老人で、用事はなく、多くの時間を炬燵で一人静かにそこにある楽しみで素直に楽しんで過ごしていた。ささやかな楽しみであるTVの、気に入った番組を見逃すまいと番組に印をつける。

歌の主体は今、その人がのこしたささやかな興奮の跡を見ている。

そのことから、読者は、もしかして炬燵にもうその人はいないのかも、とまで想像する。うまく凝縮されている。優れた表現だ。

こたつの中では

ゆめのなかの母は若くてわたくしは炬燵のなかの火星探検

穂村弘『水中翼船炎上中』

羊水の溜まりはじめた妻の腹あかく照らされ炬燵のなかに

吉川宏志『青蝉』

暖かくなったな。炬燵も点けなくていいかな。踵、妻の陰部にあたる

久真八志 「鯖を買う/妻が好き」2015(第58回短歌研究新人賞候補作)

ないてゐた。こたつのていぶるのしたで わたしはママをよんで、こはくて

目黒哲朗『VSOP』

その他注目した歌をいくつか

国連でこたつを「強」にしていたらカナダから「弱」にされてしまった

笹井宏之

下手投げこらへつつあるかたちしてこたつたてかけられてしづけし

大松達知

暖かき火燵かかえて憶いおり人に仕えし遠き雪の日

宇佐美ゆくえ『夷隅川【いすみかわ】』

両脚をこたつに伸ばし「夜の梅」なる羊羹をしんしん食べる

染野太朗 「詩客」2013-02-22

人類がこたつみかんで堕落するのをぬくぬくと待っている猫

松木秀『RERA』(2)

愛は愛だ!ぼくはこたつをひっくり返し冬の空気を春にかえした!

石井僚一『死ぬほど好きだから死なねーよ』

ふるさとの炬燵の足はすべっこく桜の幹でくみ立っている

山崎方代

俳句の炬燵

短歌より詠まれる頻度が高いのか、ずいぶんありました。

選ぶのがめんどうなので、見つけたものをすべて貼り付けます。

古典が混じっています。

句を玉と暖めてをる炬燵かな 高浜虚子

耳たぶに手をあてもする炬燵舟 阿波野青畝

上手より来る舟も又炬燵抱く 阿波野青畝

猫が出た穴があるだけ春炬燵 前田吐実男

今そこに居たかと思ふ火燵かな 寺田寅彦 終夜(妻の)柩を守りて

炬燵出て歩いてゆけば嵐山 波多野爽波

炬燵に顎のせ友恋か山恋か 矢島渚男

留守番つまらなし炬燵から出て歩く 越智友亮

言霊のすゝと避けゆく春炬燵 池田澄子

共生と対話の装置炬燵赤赤 御中虫

ルビ:炬燵赤赤(こたつあかあか)

春炬燵足を遥かに伸ばしたり 山尾玉藻

ポップコーン炬燵に積もらせてひとり 野口る理

妻入れて春の炬燵となりにけり 長谷川櫂

枕繪の赤なつかしや置炬燵 高橋睦郎

炬燵に穴のこして海を見にゆけり 大石雄鬼

夢に見る仏かすかや置炬燵 堀本裕樹

ポメラニアン春の炬燵の中に吠ゆ 辻桃子

神棚へ炬燵にのぼり手をのばし 高野素十

淀舟やこたつの下の水の音 大島蓼太

住みつかぬ旅の心や置火燵 松尾芭蕉

春惜しむ宿やあふみの置火燵 与謝蕪村

下京を廻りて火燵行脚かな 内藤丈草

ルビ:廻(めぐ) 火燵(こたつ)

死下手とそしらば誹れ夕炬燵 小林一茶

ルビ:死(しに) 誹(そし)

川柳も少し

炬燵という、なんとなく古川柳っぽい連想脈がありますよね。

でも、現代の川柳はやや少ない感じがしました。

ひとりよいひとりこたつにひとりさむ 今野空白

キウイ飼う炬燵に足をそっと入れ くんじろう


雪の朝親を炬燵へ叱り込み 北斎(古川柳)

泣く時の櫛は炬燵を越えて落ち (古川柳)

面見れば炬燵の中の手が違いひ (古川柳)

生若いに炬燵を出ろと叱られる (古川柳)

心配もこたつですると眠くなり (古川柳)


うちの亭主とこたつの柱 なくてならぬがあって邪魔(都々逸)

高柳蕗子 2018.11.19