(「食欲」という語の使い方を見ます。食欲を表現するのとは少し違いますよ。)
具体的な食べ物名でなく、「食欲」だなんて無粋な言葉を使う歌なんてめったになかろう、と思って検索したら、なんとちゃんとこの語を生かして歌に詠み込んだ人がいる。
データベース「闇鍋」の短歌93,090首中11首あった。
こういう言葉を自在に使う歌人は、いかなる食材もご馳走に仕上げちゃうすごいシェフみたいだ。
木下利玄
斎藤史『うたのゆくへ』
塚本邦雄『水銀傳説』
井辻朱美
柴田瞳
すこやかなる身の食慾、すなほなる食欲、こほろぎほどの食慾、翼竜のすずしき食欲、星降る夜の異常食欲……。
なるほど、こういう使い方かあ。
青系のもの、すずしい感じ、音なら「す」が合う題材なのかな??
「食欲」ついでに「性欲」も検索してみた。。
性に関することを詠む歌はありそうだが、「性欲」という語を使うかしら、と思ったのだが、な、な、なんと、33首もあった。
「食欲」の3倍ではありませんか!!
永田和宏『無限軌道』
河野裕子
辰巳泰子
岩尾淳子
吉田隼人「早稲田短歌」43号
江田浩司
森本平
梅内美華子 『若月祭』
岡井隆『ET』
藤本玲未『オーロラのお針子』
瀬戸夏子 『そのなかに心臓をつくって住みなさい』
瀬戸夏子 『そのなかに心臓をつくって住みなさい』
大森静佳
林和清
松木秀
フラワーしげる 『ビットとデシベル』
フラワーしげる 『ビットとデシベル』
「食欲」の類語というと、「食気」「食い意地」か。「空腹」「すきっぱら」も有りか。
「空腹」系が15首あった。
少しあげておく。
榛名貢『非言非黙 弐』
東直子『青卵』
江田浩司
杉山モナミ「かばん」新人特集号1995
「性欲」の類語というと、「性愛」「愛欲」「肉欲」「欲情」等々ずいぶん多い。
「性欲」の類語を含む歌は75首もあった。少しだけあげておく。
与謝野晶子『朱葉集』
斎藤茂吉『つきかげ』
小島ゆかり
久真八志
★変わり種
渡辺松男
吉井勇
米川千嘉子 『滝と流星』
俳句と川柳はあまりデータを持っていないので明言はできないが、「食欲」も「性欲」も、あまり詠み込まないようである。
見当たらなかった
2018年10月8日 どうでもいい追記
最初の方に、「食欲」という語は、青系のもの、涼しい感じ、そしてなぜか「す」がつく語と相性が良さそうだ、ということを書いた。
つまり、食欲は暑苦しいものなので、〝まんま〟はウケないのだろう。
で、相性の良さそうな語を探してみた。
推理小説:「どうなるどうなる」と読み進む感じと飽くなき食欲。
スカンジナビア半島:半島と食欲って理由は謎だが良い取り合わせだ。
水琴窟:なんかステキな空腹感。
朱雀:地名OK。なぜかマッチする。神獣だと食欲は付きすぎにならないように注意が必要。
スバル:星や望遠鏡は既に無難な領域になっているが、他の要素をうまく使えばまだ行ける。
スケルトン:骨は食欲の対極なので〝付きすぎ〟をうまく回避できれば使える。
「食欲」という無粋な語を「すこやか」など肯定的描写で美化してあげるという方法は既に先人が開拓しちゃったので、これからは意外性や味わいの微妙さで攻めるべきだろう。