気になる富士

江戸狂歌と近現代短歌

富士山の見立て

けっこう笑えます(^^)

末尾に引用歌一覧

狂歌は、本流の和歌で使えない語彙をふんだんに用い、

だいたんな見立てでさまざまに富士を描いていました。


狂歌の富士に続いて現代短歌の富士も紹介します。


わけあって、本文は画像でお見せします。

それとは別に、

引用歌一覧を末尾に置きます。

「鹿首」14号の特集「見立て」に寄稿した「気になる富士」という評論です。

狂歌における富士山の見立て表現を紹介。続けて、現代短歌の富士山の見立て表現も考察しました。

(かつてジャパノロジストとして知られ、現在、狂歌や一茶など研究されている、

ロビン・D・ギル(Robin D Gill)さんにインタビューして、ご協力をいただきました。)

評論と言っても、狂歌の解釈部分はヤワラカイ内容です。(^^)

ロビン・D・ギル(Robin D Gill )さんによる狂歌の英訳もついてます。

各ページの画像ですので画面を大きめにして御覧ください。

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引用歌一覧

富士の狂歌

富士のねも筑波の山も武蔵野のはらを抱えて笑ふ春の日 沢辺霞丸 『狂歌題林集』

春さむし富士と筑波と睨みくら互ひに笑ひ吹き出だす風 手柄岡持 『江戸狂歌本選集』

風の手にこそぐり立つる山の腰くつくつ笑う春は来にけり 綾織主 『近世上方狂歌叢書』

春風に富士のすそ野を吹き上げてあし高山も現れにけり 綱引方 『江戸狂歌本選集』

立ちそめた霞の衣はる風にかけて干すらん富士の大たけ 栗毬 『近世上方狂歌叢書』

夢のように睦月は立てきさらぎの二日灸(やいと)に富士を見る哉 千舩 『狂歌題林集』

品川に富士の影さえ引きにたり貝ふむ泥の足を厭うて まさ雄 『近世上方狂歌叢書』

西行のたばこの煙空に消て鼻の穴より出し富士のね 貞柳 (画賛)

折り取りてかざす桜は手弱女の額の富士にかゝる白雲 一寸法師 『近世上方狂歌叢書』

瓦屋は煙立つと云う富士に似て夏でも雪を見する卯花 庵丸 『近世上方狂歌叢書』

むさし野にはゞかる程の団(うちわ)がな扇ぎてのけむ富士のむら雲 月洞軒 『狂歌大観』

美しきふじのおやまにほの字かな、雪の肌えの塩尻のなり 信海 『狂歌大観』

ほとゝぎす富士と筑波の天秚に両国橋をかけたかとなく 黒人 『江戸狂歌本選集』

踏み跨ぐ両国橋の股ぐらに富士のすゝへの風薫る也 馬鹿人 『近世上方狂歌叢書』

武蔵野に今日ハ遠慮もしら雪の富士を股から見る若菜摘み 貞意 『狂歌題林集』

行衛(ゆくえ)しらぬ時しらぬとて白雪をひっかふりふるふしのいたゝき 信海 『狂歌大観』

時宜(よろ)しからぬ山はするがのふじなれや夏冬とらぬ雪の綿帽子 三休斎白掬 『近世上方狂歌叢書』

不尽の山夢に見るこそ果報なれ路銀もいらず草臥(くたびれ)もせず 鯛屋貞柳 『狂歌大観』

蓬莱の山で楽しき君が代やふしの薬に風は引くとも 茂喬 『近世上方狂歌叢書』

富士の山たかねの雪は消えもせで早するがにはなすの初なり 無為楽 『近世上方狂歌叢書』

見し夢のふじより高き名をあげて鷹のごとくになれなれなすび 白玉翁 『狂歌大観』

人の欲喩えんかたは無かりけり富士の山にも頂きぞある 松永貞徳 『狂歌大観』

特別参加

狂歌には塵がつもれば山になるほど不尽だから不二の題すき 敬愚(Robin・D・Gill )

その形(なり)ハ鼻てふよりも大空の手に引っぱられつつあるティッシュ (同上)

近代の富士(富士の見立て表現がない)

凪ぎし日や虚の御そらにゆめのごと雲はうまれて富士恋ひて行く 若山牧水『海の声』1908

ひたぶるに汽車走りつつ富士が根のすでに小(ちひさ)きをふりさけにけり 斎藤茂吉『あらたま』1921

目測千米(メートル)にあまる横雲の速度烈しくして富士を移動せしむ 前田夕暮『富士を歌ふ』1943

現代の富士の見立て歌 ( 見立てではない関連歌含む)

冬晴れやビルの谷間に富士山が見えれば人の立ち止まる国 田村元『北二十二条西七丁目』2012

富士となりそびゆとみれば崩れゆくひとりあそびの大根おろし 坂井修一『青眼白眼』2017

どんなにかさびしい白い指先で置きたまいしか地球に富士を 佐藤弓生『眼鏡屋は夕ぐれのため』2006

あー今日もいちんち意味が(富士山を乳首に込めて)出ませんように 鈴木有機「かばん」2003.2

お天気の日は富士山がみえますとなんどもなんどもきいたそらみみ 穂村弘『水中翼船炎上中』2018

非現実とこの世を接合したような薄さでかなたに立ちのぼる富士 井辻朱美『クラウド』2014

こちらもいかが?

毎日新聞1981年2月27日

+富士を詠む重信句