白猫と黒猫の特徴を

短歌で比較してあります

飼うときのご参考に

(なりません)

白猫と黒猫って、無地だからなのか、真反対のようで似ている面もありそう。

テーマごとにピックアップしました。

同じ歌に複数のテーマが含まれる場合、そのうちのどれかを選んで振り分けました。

詠まれる頻度

黒猫がやや多いが大差なし

100,375首中、白猫42首、黒猫49首(2019年11月8日現在)

※クロネコヤマトは除外しました。

ふるまい

どんなふるまいが詠まれるのか、まずは予想してみた。

猫の特徴的なふるまいといえば?

よく眠る、すり寄る 、ひっかく、顔を洗う、猫パンチ……。

他の動物と共通のふるまいは、歩く、走る、飛び跳ねる、鳴く、食べる、噛む……。

さて、どんなふるまいをどう詠んでいるのか?

★眠る

寝る・瞑想を含めました。

葡萄色の

長椅子の上に眠りたる猫ほの白き

秋のゆふぐれ

ルビ:葡萄色(えびいろ)、長椅子(ながいす)、白(じろ)

石川啄木『一握の砂』1910

白き猫あまたゐねむりわがやどの晩夏の正午近まりにけり

ルビ:晩夏(ばんか)、正午(まひる)

北原白秋『桐の花』1913

眠りゐし黒猫が起ちてゆきたればその下に繊くありたる亀裂

ルビ:起(た)、繊(ほそ)

真鍋美恵子『玻璃』1958

真夜中のアスファルトに寝る黒猫が黒猫である不思議つやつや

望月裕二郎『ひらく』2009

胡桃ほどの脳髄をともしまひるまわが白猫に瞑想ありき

葛原妙子『原牛』1959

★歩み去る

「歩く」はあまりなくて、「歩み去る」「去る」が多い。また、「寄る」などの近づいてくるものは少ない。


毛ほどの隙も見せずに歩み去る老の白猫がわがこころ知る

前川佐美雄『松杉』 1992

黒き猫しづかに歩みさりにけり昇菊の絃切れしたまゆら

ルビ:絃(いと)

北原白秋『桐の花』1913


ひとしきり水を舐めたる白猫は尾行をさそふごとく去りにき

ルビ:白猫(はくべう)

小池光『日々の思い出』1988

影の中にふと飛び込みし黒猫は影より黒き体もて去る

花山周子『屋上の人屋上の鳥』2007


★目つき

ふるまいとは違いますが。

白猫の眼にうつされし灯が揺れて父の胸奥にねむる軍港

ルビ:胸奥(むなど)

春日井建『未青年』1960

白猫と目が合っている路地の裏 時の割れ目と思う下町

俵万智『サラダ記念日』1987

★その他のふるまい

それは大変でしたねと言う役割を終えてしずかに白猫のびる

東直子「短歌研究」2012年3月

ふうがはりなるしろねこのふうはがりなる欠伸して昼の寝をぬる

紀野恵「未来」2011年9月

落日のひととき赫と照りしとき樹にのぼりゆく白猫を見つ

前川佐美雄『大和』1940

うちつれて吻黒き猫ひるがへり空の青みのなかにぞ入りぬ

葛原妙子『をがたま』(未刊歌集。短歌新聞社版『葛原妙子全歌集』1987に収録)

みちのくの夜空は垂れて電柱に身をすりつける黒猫ひとつ

岡部桂一郎『緑の墓』



※ 猫といえば「ひっかく」と思いましたが、1首もありませんでした。

季節や気候

★春夏秋冬

季節と猫の取り合わせは白秋が多かった。

白き猫泣かむばかりに春ゆくと締めつゆるめつ物をこそおもへ

ルビ:締(し)

北原白秋『桐の花』1913

よき椅子に黒き猫さへ来てなげく初夏晩春の濃きココアかな

ルビ:椅子(いす)

北原白秋『桐の花』1913

夏がみている夢ひとつ 髭先のひかりかすかに重い白猫

佐藤弓生『世界が海におおわれるまで』 2001

白き猫秋くさむらの照りにをりその葉のそよぎうれしかるらし

北原白秋『橡』1943

黒猫と鴉三羽の対峙する冬の敵意も月のぼるまで

百々登美子『風鐸』2005


★雨と雪

雨との組み合わせがいくつかありました。

漆黒の毛なみを雨で湿らせた猫がつるりと超えたサルビア

山崎聡子

堕ちてゆく河のようだね黒猫の目をうつくしい雨が濡らして

井上法子『永遠でないほうの火』2016

木犀の香を纏うゆえ白猫は雨降る闇に紛れはしない

ルビ:白猫(はくびょう)

神﨑ハルミ

白猫が半眼をつむる 淡雪が中天流る 早や春が来る

紀野恵『白猫倶楽部』2017

神秘など

橋を来る白猫に会いぬ橋を渡る猫をはじめて見たりと思う

佐佐木幸綱『ムーンウォーク』2011

白猫のげにおごそかなるおこなひはかみそりの刃にその舌ふれつ

小池光

そういえば音階のない音楽もシロネコの耳から流れ出ていた

早坂類

白猫も青磁の壷もかがやけばかかる夜擾乱はたやすく起きむ

ルビ:白猫(はくびよう)

真鍋美恵子『蜜糖』

不可思議なる発光体と見てゐしが冷えて白猫あゆみ去りゆく

藤井常世『画布』

やがて発光するかと思うまで夕べ追いつめられて白猫膨る

永田和宏『無限軌道』

白猫と目が合っている路地の裏 時の割れ目と思う下町

俵万智『サラダ記念日』

石積みにとどろく風をまたぎゆくスコットランドの黒猫一騎

井辻朱美『水晶散歩』

ローソンの角を曲がれば黒猫の昼寝が町をわれを食べたり

望月裕二郎『ひらく』2009

ふくれつつ宇宙は冥し黒猫の隻眼としてうかぶ地球は

ルビ:冥(くら)

神﨑ハルミ

あかんぼを黒き猫来て食みしといふ恐ろしき世にわれも飯食む

ルビ:飯(いひ)、食(は)

北原白秋『桐の花』1913

飼い主のふるまい

★抱く・撫でる

白き猫膝に抱けばわがおもひ音なく暮れて病むここちする

北原白秋『桐の花』1913

人にいふごとく物いひ白猫のしろきのど毛をかき撫でてゐる

片山廣子『野に住みて』1954

うるはしき猫日和かもこともなく白猫抱き歩みゆかなむ

ルビ:猫日和(ねこびより)、白猫(はくべう)

山中智恵子『玲瓏之記』2004

みずみずと垂れるみどりの黒猫をいだいて甘い夏の空間

佐藤弓生『世界が海におおわれるまで』2001

★その他

いかなるくらししていむ白猫の毛のひとすじをスーツにつけて

杉﨑恒夫

混血の黒猫ばかり飼ひあつめ母の情夫に似てゆく僕か

寺山修司

谷間のこの公園に黒猫とゴキブリがいる照らされながら

永井祐

竜のひげに産みおとされたしろねこは私のようだ愛にまみれたい

こずえユノ「かばん」2018/5

2019年11月8日

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高柳蕗子