してみたい

こと


本日の「闇鍋」の短歌は約8万4千首。その中に「~してみたい」歌は101首ありました。

(「てみたい」「てみたし」およびその活用形を抽出。「~したい」は対象外。)

今回はそのなかから、してみたいことの奇抜さ(意外性、印象深さ等も)で歌を選びます。

(奇抜だから名歌というわけではないですが、私は奇抜なものが好きなので)

拙作に、

はるばると鮫にまたがり影ふたつ海溝を落ちのびてみたいの 高柳蕗子

というのがありますので、

「鮫にまたがって海溝を落ちのびてみたい」を「普通の奇抜」とし、

同等かそれ以上に奇抜だ、と私が思う歌を50首選びました。

あの人と最も小さなものになり輝く管を流れてみたい 雪舟えま

『たんぽるぽる』2011

ふるさとに一度帰って下山の畑の土を食べてみたいよ 山崎方代

胸のうちいちど空にしてあの青き水仙の葉をつめこみてみたし 前川佐美雄

ルビ:空【から】 『植物祭』1930

あを草のやまを眺めてをりければ山に目玉をあけてみたくおもふ 前川佐美雄

『植物祭』1930

コシのないうどんのように一冬を越してみたいと思うのだけれど 東直子

「かばん」2008年2月

湯船からいまゆっくりと心臓をあずけるように着てみたい 月を 杉山モナミ

虹斬ってみたくはないか老父種子蒔きながら一生終わるや 伊藤一彦

ルビ:老父【おいちち】 一生【ひとよ】

眠れない夜は彼女のなかみにも触つてみたいつまり寂しい 西田政史

『ストロベリー・カレンダー』1993

楽器より深く眠れる父の胸に夜は楽器を抱かせてみたい 服部真里子

『遠くの敵や硝子を』2018

ひたすらに爆竹をうつなりわいをしてみたき日ぞ空をながむる 小熊秀雄

樹となりて光合成をしてみたし君とはぐれてしまった場所で 土橋磨由未

『二人唱(アンサンブル)』2002

月にある静かの海へひとつひとつことばほどいて浮かべてみたい 東直子

「かばん」2005年6月

ちんちんの尖端をつかみあげ世界の天蓋として お花畑を照らしてみたい 瀬戸夏子

『そのなかに心臓をつくって住みなさい』2012

死ぬまへにいちど棺で寝てみたい死んでる花にとり囲まれて 結樹双葉

「早稲田短歌」43号 2014年3月

なんという青空シャツも肉体も裏っかえしに乾いてみたい 佐藤弓生

8000000の東京ドームを敷き詰めてそっと歩いてみたい日本 高松紗都子

人魚らの単性生殖くりかえす海の温度を調べてみたい 杉﨑恒夫

目の前の菓子皿などを

かりかりと噛みてみたくなりぬ

もどかしきかな 石川啄木

ルビ:菓子皿【くわしざら】 噛【か】 『一握の砂』1910

髭もじゃのだるまに口づけぼろぼろになるまでわたしを使ってみたい 雪舟えま

『たんぽるぽる』2011

日ようの朝の夏野菜売り場の端でわたしも売られてみたい 雪舟えま

『はーはー姫が彼女の王子たちに出逢うまで 』2018

二行目のない一生がまたあれば俵万智から生まれてみたい 井上閏日

瞼なる膜の薄さよひきちぎりひきやぶきして見てみたし、きみ 田中槐

深海の潮匂える「くえ」食(は)めば信じてみたし人魚伝説 道浦母都子

ルビ:食【は】 『青みぞれ』1999

虎の尾を踏むといふことしてみたしをみなにあらぬ思想と思う 馬場あき子

『晩花』1985

瓦斯タンクにのぼってみたい、と囁かれ。ぼくらはこんなにも、風のなか 穂村弘

『ラインマーカーズ』

霧雨に傘と云ふもの知らぬから傘と暮らしてみたき菜の時 菅井正廣

かばん1999年6月

あの寺の井戸をのぞいてみたくなりしやにむに夜更けの家を飛び出す 前川佐美雄

『植物祭』1930

トロンボーンの金の骨格手にあらば風ある方へ伸ばしてみたし 澤村斉美

その中につかのまさらはれてみたし海鳥あまた飛びかはすなり 近藤健一

朝日新聞夕刊2012/7/17

王冠を被きてみたき衝動を押さへつけ押さへつけ水に沈めよ 光森裕樹

『鈴を産むひばり』2010

教室の壁に貼られたヘンデルのふりふり袖のシャツ着てみたい 新井蜜

『鹿に逢ふ』2014

とどきたる手紙にきいてみたくなるあなたの町の夕焼けポスト 杉﨑恒夫

つり橋のまん中に来て立ちどまるここから下ろしてみたき垂線 俵万智

『チョコレート革命』 1997

背の高いひとに生まれてみたかった西日のなかに消え残るから 法橋ひらく

『それはとても速くて永い』2015

顎だけがだらんと床に垂れている そんなに神を食べてみたいか 足田久夢

2016短歌研究応募作

人みなを殺してみたき我が心その心我に神を示せり 中原中也

未刊詩篇/初期短歌

さびしさをめくってほしいかなしみをはがしてみたい上澄みだけ、でも 田丸まひる

『硝子のボレット』2014

に、してもひざにだれかの耳をのせ穴をのぞいてみたい夜長だ 蒼井杏

『瀬戸際レモン』2016

何か一つ騒ぎを起してみたかりし、

先刻の我を

いとしと思へる。 石川啄木

『悲しき玩具』1912

おまへなんか最低だつて泣きながら言はれてみたし(我も泣きたし) 石川美南

『砂の降る教室』2003

公園の音割れラジオのじいさんにたずねてみたい長い愛のこと 雪舟えま

『たんぽるぽる』2011

かごいっぱいマンゴー買ってみたかった 野心に夏を凍えてすごす 雪舟えま

『たんぽるぽる』2011

山ひとつ動かしてみたい衝動をマニッシュに決めることさらに君へ 田川みちこ

そうだそのように怒りて上げてみよ見てみたかった象の足裏 渡辺松男

iPadはてのひらふたつぶんの闇 老蛸のマリネ冷やしてみたし 東直子

「短歌研究」2010年10月

骨の髄味わうためのフォークありぐっと突き刺してみたき満月 俵万智

『チョコレート革命』 1997

せり、なずな……七つの草に忍ばせて伝えてみたき言の葉がある 俵万智

『チョコレート革命』 1997

早く速く生きてるうちに愛という言葉を使ってみたい、焦るわ 穂村弘

『手紙魔まみ、夏の引っ越し(ウサギ連れ)』 2001

あなたのことも含めて一度なにもかも

脱ぎ捨ててみたい 本音を言えば 林あまり

『ベッドサイド』1998

「君の唇にゆびをすべらせ音楽を奏でてみたいと思っているのさ」 岩本知子

ルビ:唇【くち】 「かばん」詩人特集号1995

2019年1月5日 高柳蕗子