ここにアップするのは、戸田市郷土博物館「重信展」図録に掲載した50句に、「父の沖」(「遠耳父母」の中の一連)など
少し句を足したものです。
「代表作をちょっと見たい」「雰囲気だけでいいから読みたい」というかたのための暫定的なもので、ここのHP作りの制約から、表記が書籍のとおりになりません。このまま引用しないようにお願いします。
たとえば、もとは正字(旧字)ですが、パソコンで出せないものは、普通に通用する字に直しました。
総ルビの句もありますが、ここではルビをつけられないため、ルビをつけていません。
また、重信句は、多行書きが主で、普通の俳句のように一行になっていないものがほとんどです。
この多行がここではうまく配置できず、ズレていることがあります。
滑空機枯葦薙いで降りにけり
凩や我が掌のうらおもて
日本の夜霧の中の懐手
きみ嫁けり遠き一つの訃に似たり
身をそらす虹の
絶巓
処刑台
§
「月光」旅館
開けても開けてもドアがある
§
月下の宿帳
先客の名はリラダン伯爵
§
船焼き捨てし
船長は
泳ぐかな
§
見つめられ
寒がりながら
出てくる満月
§
やがて縊死する
そんな予感の
苗木を植ゑる
「伯爵領」
吹き沈む
野分けの
谷の
耳さとき蛇
§
遂に
谷間に
見出だされたる
桃色花火
§
山脈の
襞に
聴
き
澄
み
埋も
れ
る
耳
ら
§
海へ
夜へ
河がほろびる
河口のピストル
電柱の
キの字の
平野
灯ともし頃
§
軍鼓鳴り
荒涼と
秋の
痣となる
§
日が
落ちて
山脈といふ
言葉かな
§
くるしくて
みな愛す
この
河口の海色
§
しづかに
しづかに
耳朶色の
怒りの花よ
§
杭のごとく
墓
たちならび
打ちこまれ
花火
はなやぎ
着飾り終へし
喪服の時間
§
いまは遠き
火の見の
鐘が
いま打たれ
§
この河
おそろし
あまりやさしく
流れゆき
§
まなこ荒れ
たちまち
朝の
終りかな
§
たてがみを刈り
たてがみを刈る
愛撫の晩年
§
あまりのどかで
生かして置けぬ
鳶の輪ひとつ
§
こころ
急かれて
身は斜め
海の足軽
「高柳重信全句集」「遠耳父母」
見殺しや
じつに静かに
百鳴る銅鑼
§
兄は
身代り
百年前から
濡葉の下
§
耳の五月よ
鳴乎
鳴乎と
耳鐘は鳴り
(ここより「父の沖」)
沖に
父あり
日に一度
沖に日は落ち
§
沖の父
誰も見知らず
在りとのみ
§
父もどく
海彦や
長鳴くは
母の鶏鳴
§
地下に
海あり
月もなき
父の通ひ路
§
父は
近きか
大き汐干に
華やぐ母
§
凧あげや
沖の沖より
父の声
§
父よ
沖よと
島の高樫
のぼりゆく
§
海辺の芒
誰か
名づけて
父招ぎ
§
海の中道
沖へ駈けゆく
父隠し
§
凪ぎて
鳥舞ふ
海彦に
沖の墓あり
§
母は
島籠め
死に忘れして
狂ひもせず
§
海は
見晴らし
足下の海は
父の墓 ※(「父の墓)に「みおろすな」とルビ)
§
沖を行き
父を旅ゆく
二十歳
(ここまで「父の沖」)
§
春夏秋冬
母は
睡むたし
睡れば死なむ
飛騨
飛騨の
山門の
考へ杉の
みことかな
§
葦原ノ中國
琴抱いて
無名の
神が
漂着せり
§
七浦を
六浦
あそびて
海の鰐
§
倭国
舞ふ鳶と
海の
國見や
十年老ゆ
§
魏は
はるかにて
持衰を殺す
旅いくつ
§
日本軍歌集
目醒め
がちなる
わが盡忠は
俳句かな
松島を
逃げる
重たい
鸚鵡かな
§
一に
生駒
二無し三無し
四は拾遺
§
如何如何と
伊吹は
雪の
問ひ殺し
§
夜をこめて
哭く
言霊の
金剛よ
§
雪しげき
言葉の
富士も
晩年なり
秋風
世阿弥
蓑虫・詩学
草木染
§
春風
是是非非
雲雀・流悌
い音便
水過ぎゆくここにかしこに我立つに
友よ我は片腕すでに鬼となりぬ
おーいおーい命惜しめといふ山彦
タソガレドリは言葉の鳥か我も言葉
此の世に開く棺の小窓といふものよ