ひとりごと漏らせば山野秋めくをひっそりとわれ卵あたたむ

渡辺松男 『歩く仏像』

橘やかをらむ宵を独り言つタマシヒカヘセタマシヒソムケ

佐藤元紀 「かばん」新人特集号95年10月

独り言いってるように叱りつつ麦藁帽を被せてやりぬ

前田康子『キンノエノコロ』2002

仏壇にしなびたリンゴがひとつあり「まだいける」ってひとりごとを言う

久野はすみ

くりかえし潰れつづける雨粒のひとりごとを聞く水の駅です

風野瑞人 2014年6月Twitter歌会たかまがはら採用歌

青白い月がゆつくりついて来る ひとりごといふ母と歩いた

新井蜜『月を見てはいけない』2014

ひとり言ひとり聞くべき花かをりひとりの時間おもむろに濃き

榛名貢『非言非黙 弐』

五日月沈まむとする春の夜を森のふくろがひとりごといふ

片山廣子『翡翠』

晩秋の棕櫚のさやぎの高きことひとりごとこそうつくしければ

佐藤弓生『薄い街』

欧州の帽子の下にひとりごつ殺戮はまこときらびやかなり

佐伯裕子『現代百人一首』より

ざわめきとして届けわがひとりごと無数の声の渦に紛れよ

山田航『さよならバグ・チルドレン』

更新をされるひとりごとのなか軽い喜びあふれやまずも

東直子「短歌往来」2008.12

半減期みたいなもんかとひとりごち不謹慎だと詫び入ることの

法橋ひらく『それはとても速くて永い』2015

妻も子も死ねり死ねりとひとりごち火を吐く橋板踏みて男ゆく

窪田空穂『鏡葉』

朝な夕な笹竹の子を食ひつづけ喉こそばゆしとひとりごちつも

結城哀草果『おきなぐさ』

さうだねと応へるまでをテーブルに立てかけられたひとりごとかな

光森裕樹『うづまき管だより』2012

ひとりごつ如くに降りてまた見ればひっそりとただ積もりいる雪

高安国世『虚像の鳩』1968

のびのびと蚊帳なかに居てわが体すこし痩せぬと独言いへり

斎藤茂吉『あらたま』

けふもまた雨かとひとりごちながら三州味噌をあぶりて食むも

斎藤茂吉『赤光』

ひとりごと置きて妻行きひとりごと残されたまま居間にいすわる

小高賢『眼中の人』

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2019.02.11 高柳蕗子