闇鍋ひとくちアンソロジー
かばん詠草提出例1
2012年12月作成~2015年9月作成
(「かばん」会員向けに、歌稿提出例として使用したものです。)
2012年12月作成~2015年9月作成
(「かばん」会員向けに、歌稿提出例として使用したものです。)
【ご注意】
・2016年12月現在、データベース「闇鍋」には11万ほどの句歌(うち短歌7万5千)が収録されていて、都度点検しておりますが、誤りを見逃している場合があります。
下記の歌を引用して原稿をお書きになる場合は、文言や表記を、何らかの方法で確認してください。
・「かばん」内部の詠草提出例なので、「かばん」所属の歌人の歌をやや多くしていますが、 原則として高柳のその日の好みで、斬新だと思う歌を気楽に選んでいます。 (たまに自分の歌をまぜてしまいました。すみません。)
・投稿例を作成し始めた当時と現在では「闇鍋」のデータ数が倍ぐらいに違います。古いものは、今のデータベースで選びなおすと、また違ったものになると思います。
・半年分、一年分先のぶんまで選んでおくもので、適宜まとめて追加アップします。
★実際の作者
セロファンに包まれたるを春の野に光らせながらほどくおむすび 柳宣宏
椎骨のひとつひとつを光らせて真夜は巨きい古い生きもの 佐藤弓生
氷嚢の下より/まなこ光らせて、/ 寝られぬ夜は人をにくめる。 石川啄木
青嵐 教室の中鬱として発光しだす君の「さびしさ」 入谷いずみ
夢を見るちから失わないために吠え声のごと 光らす陰毛 陣崎草子
空からも地からも夜の雪ふれば発光エビとなるまで歩む 杉崎恒雄
おでこからわたしだけのひかりでてると思わなきゃここでやっていけない 今橋 愛
かなしみは光となりて額より放射するゆゑにわれはひれふす 斎藤茂吉
★実際の作者
俺はいま空ろな牡牛地平に立つ白き稲妻に照らされながら 佐佐木幸綱
あれみんな空っぽじゃない? うたがいぶかい奴は卵屋にはなれません 飯田有子
透明なたましいをひとつ住まわせる砂時計この空っぽの部屋 杉崎恒夫
ピーマンの青い空洞には夭折の詩人の住んだ痕跡がある 杉崎恒夫
黄金虫【こがねむし】飛ぶ音きけば深山木【みやまぎ】の若葉の真洞春ふかむらし 北原白秋
空洞を籠めてこの世に置いてゆく紅茶の缶のロイヤルブルー 佐藤弓生
からっぽのからだかかえて鳴りやまぬ蝉を礼拝堂と呼ぶべき 佐藤弓生
空洞の如きさびしき音のする吾がうつしみを搔きて居たりき 近藤芳美
★実際の作者
翼のないタクシーばかりの街と思ふ世界に負けてゐる二、三年 荻原裕幸
タクシーはどこへ行くんだおれを棄て君を下ろしてしまったそのあと 植松大雄
思ってたよりは元気だね流れてく星をタクシーみたいに止めて 小島左
ミュンヘンのかっぱえびせん売りを乗せタクシードライバーが笑いだす 笹井宏之
青によし赤と通行人によし 指さし確認する奈良タクシー 平川哲生
青森市にてタクシー乗客と乗用車運転手口論、乗客刺殺 藤原龍一郎
厳密の扉の前に立つだろう地平に光るタクシーが来て 加藤治郎
斎場へ急げと請えば迅速に路地をぬひ行く〈つばめタクシー〉 小笠原和幸
★実際の作者
母親はうつろな器くるぶしに糸みたいな血がおりてゆきます 東直子
髪質のよく似た妹とすごすチョウのくちばしみたいな日曜 北川草子
電話してまず謝ろう ベランダに芽キャベツみたいな月が出たなら 植松大雄
ごっとんとさも投げやりに転びでるジュースみたいなおまえの態度 杉崎恒夫
ねむりながら笑うおまえの好物は天使のちんこみたいなマカロニ 穂村弘
負けたとは思ってないわ シャツはだけかさぶたみたいな乳首を曝す 飯田有子
身めぐりをかこむ記憶のみっしりと果肉みたいなあなたを愛す 佐藤弓生
砕かれたピーナツみたいな夕焼けに約束された明日などない 田村元
★実際の作者
きみが歌うクロッカスの歌も新しき家具の一つに数えむとする 寺山修司
ねえ二本ともにぎっていてねあかねさすあなたの未来家具のようにね 飯田有子
家具たちの配置わくわく考える北枕とか気にしない主義 柴田瞳
家具としての音楽といふ論ありていかなる椅子かマイケル・ジャクソン 香川ヒサ
売約済みの傷入り家具にふれながらががんぼ風に少しうかれる 東直子
冬陽入る家具屋の家具はうつくしきあまたの指紋燃やしておりぬ 東直子
四月二十九日の宵は深酒のかがやく家具に包まれて寐し 岡井隆
しんしんと背中がさむし冬野からいま連れてきたような家具たち 杉崎恒夫
★実際の作者
恋人も恋人の恋人もアホ(タンスを先に積んでテレビだ) 増尾ラブリー
岩国の一膳飯屋の扇風機まわりておるかわれは行かぬを 岡部桂一郎
うらがわで勝負するなら洗濯機よりも冷蔵庫のほうがつよそう 鈴木有機
腕組みをして僕たちは見守った暴れまわる朝の脱水機を 穂村弘
ふるさとの炬燵の足はすべっこく桜の幹でくみ立っている 山崎方代
愛が趣味になったら愛は死ぬね… テーブル拭いてテーブルで寝る 雪舟えま
土屋文明の破調の如く本棚よりあふれたる本を丁寧に積む 松木秀
パソコンのZたたけり にんげんを必要とする動物すくなし 大滝和子
★実際の作者
かうがうし鶴はこの世のものならず幽かに啼けば生きたるらしも 北原白秋
真白羽を空につらねてしんしんと雪降らしこよ天の鶴群 岡野弘彦
荒梅雨の夜のバスより降りんとしわたくしにある鶴のくちばし 小島ゆかり
おびただしき鶴の死体を折る妻のうしろに紅の月は来たりき 小池光
気持ち悪いから持って帰ってくれと父 色とりどりの折り鶴を見て 東直子
湿原の高草に透きて立つ鶴よ白き嚢【ふくろ】となりて闇にねむれ 葛原妙子
春の日はしずかなりけりつぎつぎと鰌は鶴の喉くだりゆく 山崎方代
動物園に行くたび思い深まれる鶴は怒りているにあらずや 伊藤一彦
★実際の作者
蝙蝠のひとつまっすぐ落ちてくる夕ぐれ脳に罅入るあたり 佐藤弓生
わたくしの水のほうへとまっすぐにブタイビジュツは歩いてくる 杉山モナミ
ロジカルに来る朝がある 低地からまっすぐ晴れるミュンヘンの霧 中沢直人
まっすぐにわれをめざしてたどり来し釧路の葉書雨にぬれたり 岡部桂一郎
まっすぐな棒を一本刺してくれ脳のだるさにねじれるぼくに 俵万智
洪水の夢から昼にめざめれば家じゅうの壜まっすぐに立つ 吉川宏志
軽蔑をはじめて軽蔑おわるまでまっすぐ地平線をみている 笹井宏之
まっすぐに落ちる水あり眼裏が河馬の欠伸のように明るい 今井恵子
★実際の作者
なかぞらのつきのいくとせぐちゃぐちゃのふたりの閏二月のわかれ 佐藤元紀
「ぐちゃぐちゃのあたしの頭に風穴をダーティーハリーがあけてくれたの」 藤沢賢二
弾丸が右のコマより飛来して左ぺージのママのぐちゃぐちゃ 古谷空色
日本の中でたのしく暮らす 道ばたでぐちゃぐちゃの雪に手をさし入れる 永井祐
大切なものだったんだねくしゃくしゃに丸めてしまった今日の夕暮れ 植松大雄
ナイル川のみどりの鰐のうつくしき鞄の底のメモのくしゃくしゃ 東直子
こうもりの寝顔のようにくしゃくしゃできみは自動車学校にゆく 加藤治郎
組み立てた昭和の団地ぐしゃぐしゃに壊してわたしの天国はどこ 三好のぶ子
★実際の作者
むかしの女がしろくさまよふ背戸裏の夢より覚めて汗ぬぐひをり 岡井隆
もろともに秋の滑車に汲みあぐるよきことばよきむかしの月夜 今野寿美
晩秋の深紫のクロイツェル・ソナタむかしの澱浮かびくる 佐藤弓生
人はいさ心もしらず古郷は 花ぞむかしの香ににほひける 紀貫之
殴らむといふに/殴れとつめよせし/昔の我のいとほしきかな 石川啄木
月やあらぬ春や昔の春ならぬわが身ひとつはもとの身にして 在原業平
さつき待つ花橘の香をかげば昔の人の袖の香ぞする よみ人しらず
おどろきて見つつ勇気を覚えたる昔の冬のさかんなる霜 馬場あき子
★実際の作者
大股の一歩が青空を超えてゆくみずたまりのなんという怖さ 井辻朱美
なんという青空シャツも肉体も裏っかえしに乾いてみたい 佐藤弓生
なんにんもの人を愛する来世ならいいね、ねえ、なんという青空なの! 東直子
なんという重さ上も下もなくかかえる桃桃桃を落とせない 三好のぶ子
なんという無責任なまみなんだろう この世のすべてが愛しいなんて 穂村弘
短夜のこころを殺す なんといふ上べばかりの花野であるか 岡井隆
なんという日々の小さき抱擁をあるいは生の限界として 内山晶太
君がフォークをタルトに刺してなんといふなんと愚かな夕暮だらう 森本 平
★実際の作者
前髪はこの社会からういている? いいえわたしがうかせているの 杉山モナミ
散るさくら 同じくらいの引力を帯びた前髪ひとはかきあぐ 吉川宏志
焼却炉にてすこし焦がした前髪を掻き鳴らしゆく指はあり 秋 佐藤弓生
いにしえの王【おおきみ】のごと前髪を吹かれてあゆむ紫木蓮まで 阿木津英
紅梅にあわ雪とくる朝のかどわが前髪のぬれにけるかな 山川登美子
持つてゐますか? 前髪がみな風に切らるる額【ぬか】というふこの岸辺 笹原玉子
前髪を切りそろえてあなたと暮らします鉄のお皿に歯を吐きました 飯田有子
重さうに前髪を払ふひとの後ろくらげ殖えてゆく棒状の海 辰巳泰子
★実際の作者
水道管埋めし地の創なまなまと続けりわれの部屋の下まで 塚本邦雄
星しずか かんかん照りの庭先の水道管に花の緋の降る 佐藤弓生
水道管凍った夜は幻の家族をひとつ真中におく 東直子
十字なす銀をひねりてひとすじの水道水の影呼びだせり 大滝和子
考えがすべて体言止めになる 生ぬるくて勢いのいい水道水 大滝和子
さ夜なかに地下水道の音きけば行きとどまらぬさびしさのおと 斎藤茂吉
水道をとめて思へば悲しみは叩き割たき塊をなす 大西民子
窓の奥にふらふら揺れるシャツがある町の水道水の水質 東直子
★実際の作者
寄せては返す人恋しさよ 上をゆくカモメの腹にへそを探せり 石川美南
逢いたくてふらふらゆけば月光に腹をうねらす夜の鯉幟 入谷いずみ
かくばかりわれをもとむるいのちあり網戸を隔て蚊の裏をみつ 雨谷忠彦
五月雨の夜を硝子戸に腹見せて守宮はをりき燈火消すまで 前川佐美雄
みごもるといふ連想は夢のうちに揚羽の腹の息づくを見き 石川不二子
夢の中の街がほんとうにあるような無情に青い翼竜の腹部 井辻朱美
カミソリを当つればスッと切れそうな蛙の白き咽【のみど】と腹【おなか】 奥村晃作
旅客機の腹を見ながら甘えても良いかといちいち許可をとるひと 柴田瞳
★実際の作者
アロエの葉きみを複製することを思いつくほどの水滴だから 加藤治郎
彗星をつかんだからさマネキンが左手首を失くした理由は 穂村弘
いいからここにおすわりなさい胸にある言葉は夢の薬莢だから 東直子
青嵐ぬける図書室「きれいだから」すぐに盗られる『宝石図鑑』 入谷いずみ
結局は一人ぼっちのボクだから顔ぶら下げてそのままに行け 奥村晃作
起立性貧血症の薔薇だからきゅうに抱きあげたりはしないで 杉崎恒夫
だからってカスタネットの赤と青塗りわけたのは神様じゃない 村上きわみ
むちゃくちゃに窓の多いビルだから月はいちいちのぞいておれぬ 杉崎恒夫
★実際の作者
グリム嫌ひイソップ嫌ひ父に臀百叩かるる夢を愛して 塚本邦雄
銀の尻の象のごとくに浮かびいる飛行船など 秋の教室 井辻朱美
整形前夜ノーマ・ジーンが泣きながら兎の尻に挿すアスピリン 穂村弘
若いひとがあんまりいないのでさみしい長椅子の端にお尻をひっかけて待つ 早坂類
おしりからピースを埋めてゆきました ららら冬の日らららゆふやけ 東直子
柴犬のむっちり臀部の筋肉がドーブツドーブツ歩いています 久保芳美
だれもしあわせになっていないけどいいやビュッフェにならぶ尻たち 柳谷あゆみ
尾瀬沼はましづかにわが臀部にあり坐してひろごるさざなみのおと 渡辺松男
★実際の作者
人形の手首曲がりて花を嗅ぐかくもしずかな心臓をもち 井辻朱美
欠けたまま空うけとめて鳥の巣は冬のけやきの心臓である 古谷空色
はたはたとはかなし冬の陽のもとにヘリコプターは空の心臓 佐藤弓生
街あかりのなかに薄れしさそり座の心臓の赤い熱帯夜です 杉崎恒夫
背から抜く赤乾電池 メアリーのとてもしずかな心臓ふたつ 村上きわみ
煮られゐる鶏の心臓いきいきとむらさきに無名詩人の忌日 塚本邦雄
電話きてどきんとゆれた心臓が壁画の劣化すすめてしまう 雪舟えま
ざわめく樹海の緑もみくちゃの心臓ひとつかかえていたる 加藤克巳
★実際の作者
叫びながら目醒める夜の心臓は鳩時計から飛びだした鳩 穂村弘
ひゃっといい始発列車が飛び出してしまった口をあわててふさぐ 笹井宏之
暮れながらたたまれやまぬ都あり〈とびだすしかけえほん〉の中に 佐藤弓生
銀紙を圧せば飛び出すカプセルは蛾の産卵に似てさびしきを 杉崎恒夫
光る夏わたしのタンスをとび出したメロンは街へ街で生きてる 杉山モナミ
生きている証にか不意にわが身体(からだ)割(さ)きて飛び出で暗く鳴きけり 前川佐美雄
ぽつぽつと雀飛び出づ薄の穂日暮まぢかに眺めてゐれば 北原白秋
焦点をここ→*←に合わせて見て下さい。一首がとび出して見えます。鈴木有機
(鈴木有機のこの作品は、実際にはもっと文字の配置に視覚的工夫がなされた形で発表されました。)
★実際の作者
わらう鳥わらう神様わらう雲チャックゆるくてふきだす涙 東直子
きみの背の感触残るわが背骨 チャックを開くように別れき 田中槐
翅なんか持たないくせにジッパーの背中が割れて出てくるサナギ 杉崎恒夫
巨大なるジッパーに時が停りいる化石鳥類の長い頸椎 杉崎恒夫
拒まれて帰るゆうぐれチャック状の傷跡のあるトマトを選ぶ 中沢直人
噛んでどうにもこうにも動かないファスナーよりはましだね君は 久保芳美
胸から腹へ断ちおろすごとくジッパー下げ中身のわれを取り出し居り 斎藤史
順番がやうやく来るがさつきから財布のチャック咬んであかない 佐藤理江
★実際の作者
少女らの足裏幾百軽々と春の王墓を踏みつけてゆく 入谷いずみ
霧ふかき谷の工場に幾千の納豆巻の横たわる夜 鯨井可菜子
幾千の種子の眠りを覚まされて発芽してゆく我の肉体 俵万智
楠【くすのき】は幾万の青き実を結び一つ一つはどうするつもり 奥村晃作
同じものばかりを食べて幾万の夜をすごした民のともしび 東直子
幾万の交差点みな赤と青間違うことなく交互に光る あまねそう
幾億の風に吹かれた髪たちをいつもの色に染めてください 柴田瞳
まだ地上にとどいていない幾億の雨滴をおもう鞄をあけて 加藤治郎
★実際の作者
天井の染みに名前を付けている右から順にジョン・トラ・ボルタ 木下龍也
天井に手洗水のてりかへしゆらめく見れば夏は来にけり 三ケ島葭子
天井の木目の渦がゆっくりと銀河に溶ける 死を知りそめて 佐藤弓生
人質のごとく差し出す履歴書の写真の顔は天井を向く 松村正直
天井の白にふれては消えていく想像でしかない悲しみは 東直子
天井を逆しまにあるゐてゐるやうな頸のだるさを今日もおぼゆる 前川佐美雄
天井低きホテルに我ら逃げこみぬウォッカオレンジのような二時間 俵万智
天井に金魚が泳ぐ裕福な家に生まれた醜い娘 榎田純子
★実際の作者
口笛を吹くなら小室メロディーはやめろよ記憶の芯が痛いよ 千葉聡
知んないよ昼の世界のことなんか、ウサギの寿命の話はやめて! 穂村弘
逆さまに持つのはやめて冬咲きの薔薇のあたまに血がのぼるから 杉崎恒夫
恋愛のことはやめろと諭されて嫁入り道具の一つか歌も 俵万智
そのへんでやめておけよと北風の向かうから赤城山がつぶやく 田村元
がくがくと夕暮れていくもう君は人の形をやめてください 永田紅
ははそはの母の話にまじる蝉 帽子のゴムをかむのはおよし 東直子
乗るときにやたら車体を触る癖やめてくれよと言われてやめる 柴田瞳
★実際の作者
横禿の男が笊で売りあるく青き蜜柑に日の暮れそめぬ 吉岡実
あかがねの色になりたるはげあたまかくの如くに生きのこりけり 斎藤茂吉
禿頭のダンサー匙をふと置いて腕の先より語りはじめる 佐藤弓生
秋の陽に先生のはげやさしくて楽譜にト音記号を入れる 東直子
十円ハゲはいちど百円まであがりデフレにて十円にもどった 松木秀
ハゲアタマ、ハゲアタマとぞののしりし少年の日は単純なりき 奥村晃作
「ひいふうみい……九つここにも禿があり」橋の擬宝珠叩いて渡る 永井陽子
黙礼して過ぎれば何か言いかけてみるみる禿げる御尊父様よ 高柳蕗子
★実際の作者
たまさかに水をそそげばほの暗きサボテンの土ふうとふくらみ 佐藤弓生
血の色のサボテンのよう生きているこの世の辻の四角いポスト 井辻朱美
ゆふぐれはサボテンと化すこころかな夕陽にトゲが突き刺さりゐる 永井陽子
サボテンはサボテンの子がかわいくて棘にすっぽり包んであげる 杉崎恒夫
スヌーピーのすみかを探す日常をサボテンにまで嗤はれてゐた 荻原裕幸
神の旅 鋼の把手つよく引きサボテンの花仕舞ふひきだし 古谷空色
サボテンに水をあたえる 寂しさに他の呼び名をふたつあたえる 法橋ひらく
グレイハウントバスから眺めるサボテンはのどかにラジオ体操しており 田中章義
★実際の作者
コンビニ中のお寿司二人であおむけに楽にしてやる夜討ち朝焼け 鈴木有機
夫婦にて働くさまを見ておりぬ小さな町の小さな寿司屋 俵万智
オセキハン・オニギリ・オスシ・クリゴハン・・・おんがくには2人の指揮者がいる 杉山モナミ
革靴が流れてきてもチャップリンのように食べてる回転寿司屋 松木秀
回転の寿司こそよけれ軍艦もイクラをのせてイラクへいかず 吉岡生夫
いっぴきの蛾の全力であらわれてお寿司のうえをはばたき渡る 内山晶太
スーパーの寿司のまぐろはひとつずつ白くきれいなものに張り付く 鯨井可菜子
アメリカのまみみたい娘【こ】がSUSHI【寿司】をみて、ははーん、だからMAH-JONG【麻雀】なんだ 穂村弘