ちょろぱ

物売りの口上

子どものころ、金魚屋が「きんぎょーえーきんぎょー」と売り歩いていた。今でも竿竹屋は「たぁけやー、さおだけー」と言って回る。

このごろめったに聞かないが、石焼芋屋も

「いしやーき、いもー、ぉ、やきたてー。栗よりうまい十三里」

などと、昔ながらの節回しで通ることがある。

行商の口上は、決まった節、独特の言い回しで言って歩く。物売りだけでなく、趣向をこらした物乞いや大道芸も、いろいろな口上を持っている。

大道芸の歴史は驚くほど古い。なにしろ『日本書紀』に、海人部が、魚介および芸能と交換に農作物を得た、とあるぐらいである。芸にもいろいろあるが、おしゃべりの芸は人気の高いもののひとつだ。


★江戸時代 は言葉が売り物になった

江戸時代には複雑な口上や語りをする物売りたちが、いろんな声をはりあげて町をめぐり歩いていたらしい。

歌って踊る飴屋などの芸人兼物売りもいれば、趣向をこらした物乞いがたくさんいて、門付けをしてまわっていたという。

おもしろいのは物を売るときの口上だけでなく、言葉を売る者がいたことだ。

「読み売り節」という節をつけて瓦版を売り歩く「読み売り」、『太平記』を読んで聞かせる「太平記読み」、 祭文などに即興の歌や語りを交えて銭を稼ぐ「祭文語り」「ちょぼくれ坊主」などの願人坊主(僧形の物乞い)といった人々がいて、話術や語りのさまざまな芸、ニュース解説と風刺など、ウィットを売ったのだ。

子どものとき一度だけ紙芝居屋を見たことがある。あれは、こうしたものの流れをくむ商売だったのだ。


★辻占売り

淡路島通ふ千鳥の恋の辻占


★江戸の唐がらし売り

とんとん唐がらし、ひりりと辛いが山椒の粉、すはすは辛いが胡椒の粉、七味唐がらし


★『運勢早わかり』売り

丑年は、辛抱強く、根気よく、腹たつときは止めやうもなし

久保田万太郎の戯曲『萩すすき』に出てくる。

『運勢早わかり』を売る男が露地づたいに歌い流してゆく歌。


★歌舞伎の「外郎売り」に出てくる薬売りの早口言葉のような長い口上

「(・・・すみません準備中です・・・)」


★映画の寅さん(渥美清)の口上

結構毛だらけ猫灰だらけ、見上げたもんだよ屋根屋のフンドシ、

見下げて掘らせる井戸屋の後家さん、上がっちゃいけないお米の相場、

下がっちゃ怖いよ柳のお化け、馬には乗ってみろ人には添ってみろってね。

(中略)

チャラチャラ流れるお茶の水、粋なねえちゃん立ち小便、驚き桃の木山椒の木、

ブリキに狸に蓄音機、弱ったことには成田山、ほんに不動の金縛り、

捨てる神ありゃ拾わぬ神、月にスッポン提灯じゃ釣がねえ、

買った買ったさァ買った、カッタコト音がするのは若い夫婦のタンスの環だよ

★オイチニの薬売り

オイチニ、オイチニ 生盛薬館(せいせいやくかん)製剤は親切実意旨となし

ハイ オイチニ オイチニ 病の根を掘り葉をたずね その効験を確かめて

ハイ オイチニ オイチニ 売薬商たる責任を 尽くし果たさんそのために

ハイ オイチニ オイチニ 春夏秋冬へだてなく 貧苦の人に施薬せん

ハイ オイチニ オイチニ オイチニの薬を買いなさい オイチニの薬は良薬ぞ

ハイ オイチニ オイチニ

明治の末の生盛薬館という薬屋の行商。軍服の傷病兵が、手風琴を弾きながら歌って売った当時の名物。


★すたすた坊主

すたすたやすたすたすたすた坊主の来る時は、世の中よいと申します。

とこまかせでよいとこなり。お見世も繁盛でよいとこなり、旦那もおまめでよいとこなり

すたすた坊主は江戸時代の物乞いの一種。

寒い日に素ッ裸でしめ縄の腰蓑を巻いてやってきて、よいこと尽くしのこの口上とともに踊り歩いたそうだ。


★御利生

葛西金町半田の稲荷、御利生御利生大きな御利生すてきな御利生

江戸時代の物乞いのようなもの。

半田の稲荷を名のり、持ち歩いている鳥居のついた箱から、伸び縮みする狐の首を飛び出させて見せて歩く。

「御利生」とは男性のあれを言う隠語だそうだ。


★親孝行

人形の上半身を胸につけ、子どもが親をおぶったように見える格好で、「親孝行でござい」と言って歩く江戸時代の物乞い。たまに本当に人をおぶってやって来る者もあったという。


★瞽女さんの門付け

商売ではないが、農村の家々をまわる瞽女さんが門付する際の歌。

見初め逢ひ初めつひ慣れそめて いとど想ひのソリャ種となる

千夜通ふて逢はれぬときは ご門とびらにアラ文を書く


★イタコの神おろし

東北のイタコが死霊を呼ぶときの呪文のような言葉。イタコさんごとに文句が違う。

ヤーイナー、きょうの水よぶ、なんの水よぶ、若き小枝の水よぶ、

袖は涙にぬれてくる、裾は露やらぬれてくる、形はみないで声ばかり、

姿はみないで音ばかり、七瀬も八瀬も越えてくる、

降りて遊ぶや、舞の笏と、物語るかや、きたりそうろゆかや(平川フヨ女)

★川上音二郎のオッペケペ節

自由民権運動が盛んになころはやったオッペケ節。

権利幸福きらひな人に 自由湯をば飲ましたい オッペケペッポーペッポッポー

固い上下かどとれて マンテルズボンに人力車

いきな束髪ボンネット 貴女に紳士のいでたちで

うはべの飾りよけれども 政治の思想が欠乏だ

天地の真理がわからない 心に自由の種をまけ オッペケペッポーペッポッポー

米価騰貴の今日に 細民困窮みかへらず

目高にかぶった高帽子 金の指輪に金時計

権門貴顕に膝を曲げ 芸者太鼓に金をまき

内には米を倉に積み 同胞兄弟見殺しか

いくら慈悲なき欲心も 余り非道な薄情な

但し冥土のお土産か 地獄で閻魔に面会し 賄賂払ふて極楽へ

行けるかへ 行けないよ オッペケペー オッペケペッポーペッポッポー 」

★「痴楽つづり方狂室」(柳亭痴楽)

山手線の駅名の語呂合わせ、 「痴楽つづり方狂室」も、機会があればもう一度聞きたい。

「柳亭痴楽は良い男、鶴田浩二や錦ノ助(中村(万屋))、それよりもっといい男。

上野を後に池袋走る電車は内回り、私は近頃外回り、

彼女は奇麗なうぐいす芸者(鶯谷)、にっぽり(日暮里)笑ったそのえくぼ、田畑(田端)を

売っても命懸け。

我が胸の内、細々と(駒込)、愛のすがもへ(巣鴨)伝えたい。

おおつかな(大塚)ビックリ、故郷を訪ね、彼女に会いに行けぶくろ(池袋)、

行けば男がめじろ押し(目白)。

たかたの婆や(高田馬場)新大久保のおじさん達の意見でも、しんじゅく(新宿)聞いてはいられない。

夜よぎ(代々木)なったら家を出て、腹じゅく(原宿)減ったと、渋や顔(渋谷)。

彼女に会えればエビス顔(恵比寿)。

親父が生きて目黒い内は(目黒)私もいくらか豪胆だ(五反田)、

おお先(大崎)真っ暗恋の鳥、彼女に贈るプレゼント、どんなしながわ(品川)良いのやら、

魂ちいも(田町)驚くような、色よい返事をはま待つちょう(浜松町)、

そんな事ばかりが心ばしで(新橋)、誰に悩みを言うらくちょう(有楽町)、

思った私が素っ頓狂(東京)。

何だかんだ(神田)の行き違い、彼女はとうに飽きはばら(秋葉原)、

ホントにおかち(御徒町)な事ばかり。やまては(山手)は消えゆく恋でした」

商売にかかわりのある短歌


★足袋屋「永沢屋」の貼り紙

明治初期のころ浅草に開店した永沢屋という足袋屋が店の前に貼り出した歌。

このたびは姫もぬひます厚木綿かゝが縫ひます安く売ります


★瀬戸物屋「一不二」の看板

築地場外市場の「一不二」という瀬戸物屋さんの看板に書いてある短歌

一不二の器に盛りて山海の珍味も更に映えて輝く

(「更に」に売り物の「皿」をかけた心憎い出来。 俳人の高橋龍さんから聞いた。)


★理想のうんこ?

山吹のなぎなた一本紙いらず香りよくして量多き哉

近所の薬屋さんでもらったある便秘薬のチラシの歌。

聞いたことのないメーカーの薬で、チラシも素人くさく、いかにも誰かがうんうんうなって作ったような歌だが、理想的なうんこのありようを描いたという点で珍しい歌。


★大流行したハッパフミフミ(昭和40年頃?)

短か日のキャプリキとればすぎチョビレすぎ書きスラのハッパフミフミ

私が中学生のときに流行った万年筆のCM。大橋巨泉がこう言うのに合わせて懸命に覚えた。

意味はわからないようでわかる。ボールペンや鉛筆では味わえない、万年筆独特の風流な気分みたいなものを表している、のではないか。

(追記:2003・7・25 ハナモゲラ語)

「雑学面白ことば」(三省堂)によると、これはハナモゲラ語というものだそうだ。

バンドマン用語、ジャズのスキャットなどを源流とし、ハネモコシ語、ヘラハリ語、バブリング語等々ともいう。

ジャズマンの小山彰太の定義では、

「ひしゃげんの法」(野の百合:にょのやり)、

「はしょりんの法」(自動車:じゃ)など、

さまざまな技法でコトバを変化させるものだそうだ。

きらすずる よぎのあさまつ ひらさけて つづるもぐめに よってはらめろ

(これは新年の朝日新聞を見て詠んだ歌だという。)

※寺山修司にもこういうのがあったような。(なかったっけ?)

★整腸剤の効き目

おなかが急に大分県、お顔の色も青森県、わかもと飲めと岩手県、

やがて効き目が三重県、大喜びで沖縄県

「わかもと」という薬の昔のおまけの本に出ていたという言葉遊び歌。

三重県でリズムが崩れているが、七五の句を続ける語呂合わせ。

ついでに、こういう県名遊びでよく知られた名作として、

「鉄砲かついで鳥取県」「ぼくは勉強秋田県」「しゃがんだあとは福岡県」もあげておこう。


★ロッテリアのマツタケバーガーの宣伝短歌

(2001年の秋ごろ?)

マツタケをハンバーガーにしてみればうまさ爆発チョーいけてるじゃーん