6-2-2-②行政に対する要望と回答

6-2 下志津演習場

6-2-2 特殊演習場の発見と行政に対する要望

② 行政に対する要望と回答

■□花見川■□素材■□花見川■□素材■□花見川■□素材■□花見川■□

【行政に対する要望と回答】

平成23年9月6日千葉市長宛ての「下志津特殊演習場に関連した要望」を千葉市環境保全課に提出しましたので、以下報告します。

1 要望の提出経緯

このブログの6月19日記事「下志津射場図5近衛師団管轄演習場規程(下)」で、千葉市花見川区の下志津特殊演習場(毒ガス演習場)の存在事実が、戦後66年経って初めて「再発見」され、世の中に報告されました。

平成19年以降近傍の農場から多量の毒ガス弾が発見されている事実等を考えると、毒ガス演習場の存在事実は、毒ガス災害事故発生の可能性を新たに懸念させるものとなりました。

また、毒ガス演習場の存在という、誰もが知っているべき歴史的基本事実を千葉市、国(環境省)が把握してこなかったという異様な事態も注目に値するものと感じます。

このような問題意識から下志津特殊演習場について若干の調査を行い、このブログで次の情報発信をしました。

千葉市花見川区に在った旧軍毒ガス演習場1

千葉市花見川区に在った旧軍毒ガス演習場2

千葉市花見川区に在った旧軍毒ガス演習場3

千葉市花見川区に在った旧軍毒ガス演習場4

千葉市花見川区に在った旧軍毒ガス演習場5

また、得られた情報を地域づくりに役立てる一つの方策として、近傍生活者の視点から対応策を4点の要望にまとめ、このたび千葉市に提出しました。

2 要望(提出文)

平成23年9月6日

千葉市長 様

下志津特殊演習場に関連した要望

住所 千葉市花見川区○○○○○

氏名 ○○○○

1 下志津特殊演習場に関する調査経緯

① 趣味活動「ブログ『花見川流域を歩く』」の一環として「絵にみる図でよむ千葉市図誌 下巻」551ページ掲載地図「下志津射場図」をGIS分析する中で、「特殊演習場」記載を発見する。

② 「下志津射場図」(正確には「近衛師団管轄演習場規程付図第六其一下志津演習場要図」、以下「演習場要図」とします。)の親本「近衛師団管轄演習場規程」を防衛省防衛研究所史料閲覧室にて閲覧したところ、「特殊演習場」とは毒ガス演習場であることを確認する。

③ ブログでこの件を情報発信(資料1)するとともに、6月19日千葉市環境保全課にメールで報告連絡(資料2)する。

④ 「演習場要図」原本を各方面にて探すが、見つからなかった。関連調査を行う。

⑤ ブログにて関連調査の結果を情報発信する。(資料3)

⑥ 千葉市教育委員会に問い合わせ、「演習場要図」の所蔵者が判明する。(資料4)

2 下志津特殊演習場に関して明らかになった事柄

上記調査から、次の点が明らかになりました。

① 下志津演習場内に下志津特殊演習場が存在していたこと。

② 陸軍習志野学校関係者の回顧録に、下志津演習場における毒ガス実弾演習実施が記録されていること。

③ ただし下志津特殊演習場の利用詳細を示す資料は見つかっていないこと。

④ ①、②の事実は戦後の千葉市社会・行政に全く伝わってこなかったこと。そのため、特殊演習場敷地は毒ガス災害事故に対して全く無防備な状態で地域開発が進んできたこと。幸い毒ガス災害事故の発生記録はないこと。

(過去において毒ガス災害事故が本当になかったのかどうか精査する必要があります。仮に毒ガス災害事故が発生していても、毒ガスの存在が関係者の念頭に全くないので、別の事故や病気として取り扱われた可能性があります。)

⑤ 「演習場要図」の所蔵者が判明し、所蔵者が所蔵している資料内容及びその公開の有無によっては、下志津特殊演習場あるいは近傍の習志野特殊演習場等のより詳細な情報入手の可能性が生じたこと。

3 要望

上記の通り、下志津特殊演習場の存在事実が、戦後66年経って、初めて明らかになりました。

これまで毒ガス災害事故が発生しなかったのは、単に「知らぬが仏」で時間が過ぎてきていて、幸運であったに過ぎない可能性を排除できません。つまり、今後関係地域近傍で毒ガス災害事故が発生しないという保証ができない状況になりました。

このことから、次の対応を千葉市に要望します。

① 下志津特殊演習場に関して現在までに判明した情報を全て、直ちに市民・関係機関(居住者、耕作者、立地施設管理者、国道事務所等)に公表周知し、無知に起因する事故発生の可能性を排除すること。

② 専門家を含む態勢で調査を早急に実施し、下志津特殊演習場が存在したことによる毒ガス災害事故発生の懸念に対する評価を行い、必要な対策を執ること。

③ ②の結論が出るまでの間、応急的対応措置(開発行為等の凍結など)を執ること。

④ 「演習場要図」所蔵者に対して、千葉市(場合によっては環境省)が関係資料(注)の全面公開を要請すること。

以上

注)「演習場要図」所蔵者が下記の近衛師団管轄演習場規程付図を所蔵している場合、それらを全て公開していただくことが、次の2点の理由から大切です。

①付図には下志津特殊演習場だけでなく、習志野演習場内の習志野特殊演習場、富士裾野演習場内の瀧河原特殊演習場、板妻特殊演習場の情報が掲載されています。この情報により千葉市のみならず千葉県習志野市、八千代市、船橋市、静岡県御殿場市の市民生活安全にかかわる重要情報が得られる可能性があります。

②近衛師団管轄演習場規程は終戦時に米軍に押収され、その後返還されて現在防衛省防衛研究所史料閲覧室でのみ公開されている貴重な歴史資料です。しかし、付図が全て欠落しています。付図の存在が明らかになり、公開されることによって、演習場関係地域の地域づくりのための貴重な基礎資料を得ることができるとともに、地域史・誌研究の促進、旧軍歴史研究の進展を図ることができます。

近衛師団管轄演習場規程付図リスト

付図第一

其一其二 富士裾野演習場要図

其三 瀧河原特殊演習場要図

其四 板妻特殊演習場要図

其五 瀧河原廠舎ノ配置及収容人馬数要図

其六 板妻廠舎ノ配置及収容人馬数要図

其七 駒門廠舎ノ配置及収容人馬数要図

付図第二

其一 北富士演習場要図

其二 北富士廠舎ノ配置及収容人馬数要図

付図第三

其一 西富士演習場要図

其二 西富士廠舎ノ配置及収容人馬数要図

付図第四

相模原演習場要図

付図第五

其一 一ノ宮演習場要図

其二 一ノ宮廠舎ノ配置及収容人馬数要図

付図第六

其一其二 下志津演習場要図

其三 下志津特殊演習場要図

其四 下志津廠舎ノ配置及収容人馬数要図

其五 栗山廠舎ノ配置及収容人馬数要図

付図第七

其一其二 習志野演習場要図

其三 習志野特殊演習場要図

其四 西廠舎ノ配置及収容人馬数要図

其五 東廠舎ノ配置及収容人馬数要図

其六 東新廠舎ノ配置及収容人馬数要図

付図第八

溝ノ口演習場要図

付図第九

其一 八柱演習場要図

其二 八柱廠舎ノ配置及収容人馬数要図

演習場要図における特殊演習場の図示

特殊演習場の現代地図における図示

特殊演習場の現代地図における図示(拡大)

資料1 略

資料2 略

資料3 略

資料4 略

3 要望に対する対応

千葉市環境保全課の担当官より、要望は国(環境省)とも相談して対応し、(時間はかかるかもしれないが)回答していただけるとのお話をいただきました。

4 行政当局に対する期待

戦後66年経って、初めて毒ガス演習場の存在が判明したという、とんでもない事態が発生しました。

私の想像では、すでに市街地化が進んでおり、過去に毒ガス災害事故発生の記録が見つかっていないので、新たに毒ガス災害事故が発生することは、緊急性という観点からみると低いと思います。しかし、油断しているうちに大きな災害事故発生が起きるという可能性があるので、事の重大性には十分に注意が必要だと思います。

行政当局にはこの事案の取組に際して、この事案の情報が一部の人に悪用されたり、恣意的に使われたりしないために、公開性、公平性、透明性を高めていただくよう期待します。

また、迅速な対応をお願いします。迅速に対応することにより無用な混乱や過度な不安をなくすことができると思います。

■□花見川■□素材■□花見川■□素材■□花見川■□素材■□花見川■□

(花見川河川争奪に関するシリーズ記事掲載が長引くことになりましたので、シリーズを中断して「『下志津特殊演習場に関連した要望』に対する回答」記事を掲載します。)

千葉市長より、2011年9月7日記事「毒ガスに関する要望の提出」で紹介した要望の回答を受領しましたので報告します。

……………………………………………………………………

平成23年9月27日

○○○○様

千葉市長熊谷俊人

下志津特殊演習場に関連した要望について(回答)

平成23年9月6日付「下志津特殊演習場に関連した要望」につきまして、貴重な情報をご提供いただきありがとうございます。

早々に所管である環境省に情報を送付し、検討頂きました。その結果、次の3点の理由から、現在早急に対応しなければならない切迫した危険な状況にはないとの回答がありましたのでお知らせします。

今後、新たなリスクの存在を疑わせるような廃棄・遺棄情報等が認められましたら、環境省と協議し、必要な対応及び所要の環境調査等の実施を検討してまいりますので、引き続き情報の提供をお願いします。

① 演習場要図に示された特殊演習場周辺で、戦後における化学兵器の廃棄・遺棄、発見情報がないこと。

② これまでに同場所周辺での市民生活に化学弾によると思われる支障がなく、周辺の地下水調査においてもヒ素濃度に異常値が認められないこと。

③ 化学兵器を繰り返し使用して野外演習が行われていた旧陸軍習志野学校の演習場跡地において、平成19年度に行われた環境調査においても、毒ガス成分やその関連物質は検出されておらず、本件演習場においても同様の状況であると推測されること。

なお、旧軍下志津演習場内の長沼原町の研究農場においては、化学弾の可能性のある砲弾が発見・回収されておりますので、土地改変等による掘削作業における災害の未然防止のための広報として、周辺住民の皆様や、建設・土木業者の方々に注意喚起のリーフレツトを配布し、不審物への注意喚起を行っております。

また、近衛師団管轄演習場規程付図の開示につきましては、所蔵管理機関に問合せたところ、開示を希望される方が直接相談してほしい旨の回答がありましたので、直接お問合せ下さるようお願いいたします。

問合せ先

千葉市環境保全部環境保全課

(以下略)

……………………………………………………………………

感想

ア 下志津特殊演習場存在事実の認知

戦後66年経って初めて、国(環境省)と千葉市によって千葉市花見川区に在った毒ガス演習場の存在が認知されました。

遅すぎた感は否めませんが、永遠に無知であることと比較すると画期的な出来事であると思います。

イ 毒ガス事故発生の懸念に対する評価

私の毒ガス事故発生に対する懸念に対して、行政として、主として緊急性の観点から、次のように評価していただきました。

「現在早急に対応しなければならない切迫した危険な状況にはない」

環境省の専門的判断として受け止めたいと思います。

ウ 行政としての一定の規範の発生

アとイから、次のような行政上の一定の規範が生じたものと理解します。

・中長期的観点から、毒ガス事故発生の可能性を排除しないで、当該地域に対する監視を行うこと。

・周辺住民に対して啓発活動を行うこと。(現在稲毛区住民に対して啓発活動が行われていますが、花見川区住民に対しても啓発活動を行うことが大切です。)