5-1-2土木遺構の評価

5-1 印旛沼堀割普請

5-1-2 土木遺構の評価

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【土木遺構の評価】

千葉市域にある唯一の花見川関連文化財説明板

花島公園内設置 左岸サイクリング道路利用者の目には触れない

土木遺構としての花見川の文化的価値について、それが社会的にどのように評価されているのか、素掘掘割部分に焦点を当てて確認してみました。

1文化財指定

千葉県と千葉市について調べたところ、花見川に関する文化財指定はありませんでした。

ただし、花島公園内に花見川関連の文化財説明板が1基設置されています。

千葉市教育委員会の文化財担当者に電話でヒアリングしたところ、「花見川を文化財に指定しないのは、規模が大きく、区域の特定が出来ないことや実用河川で使っていることなどによる」とのことでした。

千葉市としては、花見川の文化的価値は認めるが、特段の行政上の位置づけはしていない、ということだと思います。

2土木遺産認定

土木学会選奨土木遺産という認定制度があります。土木学会ホームページによるとその認定制度について次のように説明しています。

土木学会選奨土木遺産の認定制度は、土木遺産の顕彰を通じて、歴史的土木構造物の保存に資することを目的として平成12年度に創設されました。

土木学会としては、その結果として、

社会へのアピール

(土木遺産の文化的価値の評価、社会への理解等)

土木技術者へのアピール

(先輩技術者の仕事への敬意、将来の文化財創出への認識と責任の自覚等の喚起)

まちづくりへの活用

(土木遺産は、地域の自然や歴史・文化を中心とした地域資産の核となるものであるとの認識の喚起)

失われるおそれのある土木遺産の救済

(貴重な土木遺産の保護)

などが促されることを期待しています。

花見川はこの制度で認定されていません。

3民間グループによるリストアップ

ちば河川交流会という河川関係者の民間グループがあり、ここから「遺しておきたい伝えたい千葉の水辺(自然・景観・土木遺産)」(2009.3)という冊子がでています。この冊子では千葉県内30の「遺しておきたい伝えたい千葉の水辺(自然・景観・土木遺産)」対象がリストアップされており、花見川はその一つとして、「印旛放水路」名称で、次のように記載されています。

●表題:下総台地を開削して印旛沼の水を東京湾へ

●名称:印旛放水路

●所在地:千葉市検見川~八千代市平戸

●説明:印旛沼周辺の水害解消、農地拡大を目的に、江戸時代から工事が始められ、昭和43年に印旛沼~東京湾間16kmが開通した。江戸時代天保のお手伝い普請では全国から1万人を超える人夫が集められており、沿川の千葉市横戸には庄内農民の墓がある。沿川はサイクリングロードに指定され市民の憩いの場になっている。

この他、写真図、アクセス、その他、備考、印旛放水路サイクリングマップが掲載されています。

法的な文化財指定や選奨土木遺産認定が例えなくとも、ちば河川交流会のような民間活動が社会にあるのですから、もっと花見川の歴史に関する情報提供があってもよいと思います。

花見川サイクリング道路を訪れた人が(素掘掘割の現場に来た人が)花見川の歴史について学べる仕掛け(例えば道路沿いの説明板)があると、地域や河川に対する理解や愛着が増すと思います。

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「運河再興の計画 房総・水の回廊構想」(三浦裕二他編著、彰国社)

既報のように兄弟ブログ「ジオパークを学ぶ」をはじめました。この中で、哲学者・思想家・歴史文化学者などの図書の学習に取り組もうと思っています。

手始めに参考になりそうな図書を我が家の書庫で探していました。その時、偶然「運河再興の計画 房総・水の回廊構想」(三浦裕二・高橋裕・伊澤岬、1996、彰国社)を見つけました。「ジオパークを学ぶ」ブログ活動の最初の副産物のように感じましたので、せっかくですから、記事にしてみます。

房総・水の回廊構想は知っていました。しかし、私の活動は花見川流域を散歩して、受身的観察をして、それを頼りにして流域の魅力を発見しようとしています。現場での発想に直接関係する図書しか関心がありませんでしたから、この本の存在はほとんど忘れていました。今回偶然にこの本を手に取って、ぱらぱらめくってみると、「続保定記」の引用などもあり、参考になる情報が多いので、興味が湧きました。そこで、この本の概要を報告します。

まえがきでこの構想を次のようにうたいあげています。

「東京湾岸の新都市幕張、その南端に注ぐ花見川を遡り、印旛沼を経て利根川を下り、太平洋の銚子、鹿島に至る延長約120kmを水の道でつなぎ水運文化を復興させ、沿川19市町村の新たなる連係と活性化を図ると共に、印旛沼を浚渫することで水環境の改善を図り、同時に水資源を確保し、日本の原風景たる田園の景観を保全しようとするものである。」

花見川の改修については、次のように述べています。

「水運を可能とさせるためには、まず花見川の改修が必要となる。大和田の排水機場で花見川の河床は新川のそれより4.6m高い。自然流下させるためには河床の底下げが必要となる。しかしながら天保の開削の面影を残す区間については歴史的な視点からも現状を維持することが大切であり、その他の区間でも極力自然的工法を採用することが前提となる。」(アンダーラインは引用者)

掘割区間の歴史的意義を認め、その維持を述べています。専門家による、このような活字文章を、私ははじめて読み、大変こころ強く思いました。

本の構成は次のようになっています。

第1章房総水の回廊構想

第2章印旛沼の成り立ちと環境創造

第3章運河のアメニティとデザイン

第4章房総水の回廊構想シンポジウム

第5章印旛沼湖上座談会

第1章房総水の回廊構想では、花見川改修と印旛沼浚渫によりこの構想実現を図ることが詳しく述べられています。次ようなメインとなる2つの仕掛を説明しています。

・印旛沼を浚渫するとともに、被圧湧水に期待して新たな水源を確保し、沼の貯水容量を現在の4倍にする。

・大和田と花島にロックを設け、沼の水位・水量をコントロールし、船の通行が可能となるよう花見川を改修する。

第2章では地史的視点からの構想の意義が、第3章では海外事例を引用して、運河がアメニティの源泉であることが詳しく述べられています。

第4章、第5章はシンポジウムの記録です。実は、第4章のシンポジウム(1994年3月)に私も聴衆の1人として参加したことを憶えています。

まことにロマン溢れる、雄大な構想です。

この本を手にとってみて、その後この構想がどうなったのか気になりました。WEBで検索してみると、「房総水の回廊構想 社会実験」と銘打って2010年8月6日に大和田機場から花見川河口までボートで下ったことを連想させる画面が見つかりました。教育・研究の場ではこの構想が生きているようです。

今後アンテナを張り、この構想がどうなっているのか、知りたいと思います。