6-2 下志津演習場
6-2-1 下志津演習場の区分と施設等
① 演習場要図のGIS取り込み
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【演習場要図のGIS取り込み】
宇那谷川流域紀行11 下志津射場図 1
「絵にみる図でよむ千葉市図誌 下巻」(千葉市発行)550、551ページ
このページには下志津射場図と演習場境界プロット図が掲載されています
1 下志津射場図の解読を目指す
以前の記事「トーチカ五差路(遠近五差路)」で紹介したように「絵にみる図でよむ千葉市図誌 下巻」(千葉市発行)に下志津射場図が掲載されています。それに記載されている情報から、射弾下掩蔽部が遠近五差路の名称由来であることが判明しました。
この下志津射場図を良く見ると演習場境界、使用区域区分、特殊演習場、危険予防上の注意区域の区域などの情報とともに、射撃陣地と射方向、射弾下掩蔽部、爆撃基本目標の情報が赤と青の色刷りで出ています。
さらに基図の「注意」欄には「警戒旗掲揚ニ関スル規約」が掲載されており、実弾射撃をする使用区域毎に警戒旗掲揚場所の記述があります。その警戒旗掲揚場所の記号は「記号」欄に出ています。また「記号」欄には展望観測所、ペトン観測所、測点、警戒標などの記号も出ています。
これらの「注意」や「記号」を手がかりにしてこの下志津射場図を解読すれば、下志津演習場の運用実態の一部を垣間見ることができそうです。
また、「絵にみる図でよむ千葉市図誌 下巻」(千葉市発行)の424ページには「近衛師団管轄演習場規程」付図第六其二の一部が掲載されています。この図には射撃の目標を置いてはいけない区域や電気発火用疑砲火埋設線、畑貸与地などの情報が掲載されています。
「絵にみる図でよむ千葉市図誌 下巻」(千葉市発行)424ページ
このページには「近衛師団管轄演習場規程」付図第六其二の一部が掲載されています
下志津演習場の運用実態が少しでもわかれば宇那谷川流域(勝田川流域)ひいては花見川流域の成り立ちの理解が進みます。そうすれば私の興味である「花見川流域の魅力、アイデンティティを徹底的に探る」ことの歩みを進めることに役立つことがいろいろあるのではないだろうかと思うようになりました。軍事的な事柄を忌避するのではなく、正面から歴史的事実を知りたいと思います。
2 関連資料の入手
下志津射場図を解読する手始めに、現物を一度手に取って確かめたくなりました。印刷の擦れもひどく読めないところもあります。また「近衛師団管轄演習場規程(別冊第一)」が出典であり、その「演習場規程」自体にも興味があります。
「絵にみる図でよむ千葉市図誌 下巻」には付録として図版一覧があり、収録されている全ての情報について所蔵者を含む詳細情報が掲載されています。そこでこの図版一覧を調べたところ、下志津射場図(「近衛師団管轄演習場規程」付図)の所蔵者欄が空白です。そこで千葉市郷土博物館に問い合わせたところ、調べていただきましたが、判らないとの回答をいただきました。特殊史料であるため、情報提供者名を公表しない約束で情報提供を受けたなどの事情があったのかもしれません。
現物にはたどりつけていないのですが、次の資料コピーを国会図書館で入手できました。
下志津射場図(昭和15年3月 野戦砲兵学校)
下志津射場図(大正15年3月 野戦砲兵学校)
いずれも「絵にみる図でよむ千葉市図誌 下巻」収録カラー版の下志津射場図のカラー印刷部分を除いた基図部分の地図です。特に大正15年版は印刷が鮮明であり、文字や細かい図柄が完全に判るので、有用な資料です。
下志津射場図(昭和15年3月 野戦砲兵学校)
下志津射場図(大正15年3月 野戦砲兵学校)
また、「近衛師団管轄演習場規程」原本が防衛省防衛研究所に所蔵されていることがわかり、近々閲覧できる状況になりました。しかし、残念ながら別冊付図は欠落しているとのことでした。
3 下志津射場図の解読に着手する
「絵にみる図でよむ千葉市図誌 下巻」に収録されたカラー版下志津射場図の画像2点とモノクロ版基図のコピー2点をそのままGISに取り込み、情報を取り出し、他の資料(1万分の1旧版地形図〔大正6年測量〕)の情報と重ね合わせて、演習場の実態解明の作業に着手しました。
(つづく)
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宇那谷川流域紀行12 下志津射場図 2 GIS取込技法
ゆがみ補正前(左)とゆがみ補正後(右)
下志津射場図に記載されている情報を効果的かつ正確に取り出し、他の地図情報と重ね合わせて検討できるようするため、下志津射場図をデジタル化しGISに取り込みました。
次にGIS取込で私が使っている方法を説明します。レトロな雰囲気のするパソコン手作業です。しかし、この作業をすることにより、書籍掲載地図情報や紙の地図をGISに取り込むことができるので、汎用性の高い方法であると思います。興味のある方には役立つと思います。
なお、下志津射場図は緯度経度が掲載されている資料ですので、正確にGISに落とせますが、緯度経度が出ていなくても、精度をあまり気にしなければGISに付属する機能を用いて落とすことが出来ます。
1 スキャン
・「絵にみる図でよむ千葉市図誌 下巻」(千葉市発行)551ページをスキャンします。
・今回は、通常のスキャナーで、カラー、解像度1000dpiでスキャンしました。(A4判、jpegファイルで保存)
・紙の地図からスキャンする場合、私は普通、解像度を600 dpiにするのですが、今回は原本A2サイズがA4サイズに縮小して複写掲載されたもののスキャンになります。したがって、解像度を上げました。
2 ゆがみ補正
・スキャンした画像ゆがみを訂正して図を正四角形にします。
・「絵にみる図でよむ千葉市図誌 下巻」掲載図版は原本の段階で破れたところをセロテープで張り合わせたりしており、既に大きなゆがみがありますので、これを補正します。
・紙の地図から直接スキャンする場合もゆがみは必ず発生しますので、その補正は必須です。
・私は、作業をフォトショップ(Adobe)で行いました。以下のフォトショップの操作手順説明はバージョンの違いにより多少異なるかもしれません。
・なおパソコン画面が大きいと作業がしやすくなり精度も上がります。ディスプレイを2台、3台とつなげれば作業効率は飛躍的に向上します。
作業A 準備
・フォトショップにスキャンしたファイル(jpegファイル)を取り込みます。
・画面にグリッドを表示します。(ビュー→グリッドを表示)
・グリッドのマス目は、私は、カラーはシアン、スタイル実線、グリッド線1ピクセル、分割線8に設定しています。(ファイル→環境設定→ガイド・グリッドで変更できます。)
・画面上の画像の大きさを最大付近まで拡大します。(ctrlと+)
作業B 図の1辺を水平(あるいは垂直)にする
・4つの図郭線のうち直線性の最も優れている辺(図郭線が途中で曲がっていない辺)を対象にして、その辺をパソコン上で正確に水平(あるいは垂直)にします。
・フォトショップのものさしツールで、直線性の最も優れた図郭線に合わせてものさし線を引きます。表示はされませんが、それだけで角度の計測がパソコン内で行われています。
・イメージ→画像回転→角度入力を次々にクリックすると、角度入力欄にすでに数値が入っています。ものさしツールで計測しておいた数値です。OKをクリックすると画像全体が回転して対象辺が水平(あるいは垂直)になります。
作業C 図を正四角形にする。
・ゆがんだ図を、矩形選択ツールを利用して、ゴム布を引っ張るように変形させて正四角形にします。
・ただし、作業は少し複雑です。多少のなれが必要です。ゆがんだ4点をつまんで正四角形の4点に会わせる作業ができれば簡単なのですが、それは出来ません。
・ゆがんだ図の近くに設定した正四角形(矩形選択ツールで設定する)をつまんでゆがませることによって、ゆがんだ図を補正するという方法になります。つまりゆがんだ図の近くに設定した正四角形を反対にゆがませ、結果として図を補正します。
原理を次に図解します。
ゆがんだ地図
ゆがんだ地図に矩形選択ツールで矩形を設定します
編集→変形→自由な形をクリックして矩形角にマークをだします
マークをつまんで画像のゆがみを補正する位置に移動させます。
矩形選択ツールのアイコンをクリックして、適用画面を出して適用をクリックします
結果としてゆがんだ地図が補正され正四角形になります
3 後処理
・ゆがみ補正の済んだ画面の余白部分を全て切り取り、図郭だけの情報ファイルにします。(矩形選択ツールで選択→イメージ→切抜き)
4 GIS取込
地図画像の四隅の緯度経度情報を使ってGISに取り込みます。
下志津射場図は四隅の緯度経度は出ていませんが、緯度経度情報が図郭外整飾部分に複数個所記載されていますので、按分比例計算で四隅の緯度経度を求めました。この日本測地系のデータを世界測地系に変換して、GIS取込に利用します。
なお、今回の作業には関係ありませんが、大正7年以前の地形図は、記載されている経度情報に10秒4の補正を加えて、正しい日本測地系のデータを得る必要があります。
(このブログの作業で使っている旧版1万分の1地形図は大正6年測量であるために、経度10秒4の補正をして正しい日本測地系のデータを得、それを世界測地系データに変換してGIS取込に利用しました。)
上記文章を次のように訂正します。(2011.6.17)
なお、下志津射場図は昭和15年3月修正となっていますが、経緯度情報は大正7年以前の測量成果をそのまま利用しています。そのため、このブログの作業で使っている旧版1万分の1地形図(大正6年測量)と同様に、経度10秒4の補正をして正しい日本測地系のデータを得、それを世界測地系データに変換してGIS取込に利用しました。
詳しくは6月17日記事「下志津射場図 3 10秒4の補正(GIS取込の実際)」をごらんください。
■□花見川■□素材■□花見川■□素材■□花見川■□素材■□花見川■□
宇那谷川流域紀行13 下志津射場図 3 10秒4の補正(GIS取込の実際)
1 前報訂正
前報の「下志津射場図 2 GIS取込技法」の最後に次の文章がありますが、間違っていましたので訂正します。
誤
なお、今回の作業には関係ありませんが、大正7年以前の地形図は、記載されている経度情報に10秒4の補正を加えて、正しい日本測地系のデータを得る必要があります。
(このブログの作業で使っている旧版1万分の1地形図は大正6年測量であるために、経度10秒4の補正をして正しい日本測地系のデータを得、それを世界測地系データに変換してGIS取込に利用しました。)
正
なお、下志津射場図は昭和15年3月修正となっていますが、経緯度情報は大正7年以前の測量成果をそのまま利用しています。そのため、このブログの作業で使っている旧版1万分の1地形図(大正6年測量)と同様に、経度10秒4の補正をして正しい日本測地系のデータを得、それを世界測地系データに変換してGIS取込に利用しました。
下志津射場図の基図は野戦砲兵学校が製作したもので、陸地測量部発行地形図ではありません。従って陸地測量部地形図のような経度の修正は行わなかったものと考えられます。
また、下志津射場図掲載の緯度情報が1箇所間違っています。35度42分であるべきところが36度42分になっています。この間違いは大正15年版にも、昭和15年版にも同じ箇所にあり途中修正されていません。このことから、演習活動では緯度経度情報は重要なものではなかったと考えられます。
なお下志津射場図の基図は旧版1万分の1地形図(大正6年測量)を編集したものと考えられます。
10秒4の補正をしなかった場合のずれ(花見川のずれが確認できます)
●10秒4の補正とは
1892年(明治25年)に陸地測量部が日本経緯度原点を告示し、以後これに基づいて地図測量が実施されました。その後の調査で経度について10秒4.05の誤差が認められ、1918年(大正7年)9月に日本経緯度原点の経度が変更されました。従って、大正7年9月以前発行の地形図は図郭に10秒405の誤差があります。大正7年9月発行以降の地形図は、図郭の経度に10秒4の端数を記入して対応し、昭和30年代頃までは続きました。
10秒4の端数のある地形図(昭和37年発行)
2 GIS取込の実際
次に示す画像は緯度経度情報に経度10秒4の補正をして日本測地系データを得、それを世界測地系データに変換してその通りにGISに貼り付けた画像です。GISに正確に取り込んである旧版1万分の1地形図や現代情報とずれがあります。
緯度経度を使って貼り付けときの誤差
この誤差はおそらく下志津射場図図郭外整飾部の緯度経度位置が正確でないことに由来しているものと考えられます。(緯度経度情報は使わないから飾りとして大雑把に書き込み、だからミスも訂正されないでいつまでも残ったという状況だと思います。)
一方上図から下志津射場図の左辺は旧版1万分の1地形図の図郭線であることがわかりました。
そこで、後は手仕事で微調整移動して、下志津射場図をGISの中で各種誤差が最小になるように位置を決めました。結果としてかなり満足のいくGIS貼り付けが出来ました。
微調整後