退職後, 医薬分業の存在意義について考えることが多くなった. これまで薬学部に籍を置いたとはいえ,ずっと基礎系であり,研究者養成に近い領域に居たため薬剤師養成教育を真剣に考えたのは,私立大学へ異動した後であ る.それでも実家が薬局であるため,他の教員よりは薬剤師に関わる問題を容易に理解できたのは事実である.逆に考えると,他学部出身者や研究のみをやって きた教員(ほとんど)にとっては,発想の大転換をしないと付いて行けないのではないかと思うことも多かった.規制緩和で全国に薬剤師養成学校が雨後の筍の ように誕生したが,薬剤師をつくればよいという問題ではないことを大学経営者は分かっているのだろうか.最近は,巨額な財政負担を必要とする医療費の削減 に医薬分業が役に立っているのか疑問と指摘する声も聞かれる.
我が国の医療制度, 医療費について具体的に料金で考えてみると, 医療従事者の存在性と責任が見えてくる.
平成22年4月より, 調剤報酬が改訂された. その内訳の概略は, 以下の通りである.
処方箋による調剤費用=薬剤料
+調剤技術料(調剤基本料+調剤料+各種加算料)
+薬学管理料(薬剤服用歴管理指導料+薬剤情報提供料+長期投薬情報提供料
+後発医薬品情報提供料+調剤情報提供料+服薬情報提供料+その他)
1点は10円となっており, 基本調材料 40点, 基本調剤加算 10点,調剤料 5点×日数, 薬剤服用歴管理料 30点, 薬剤料 薬価×薬剤個数である.
例えば, 典型的消炎鎮痛剤(ロキソプロフェン 60mg)1回1錠1日3回服用3日分で, 薬代は180円程度なのに, 約1100円の費用がかかる. 健康保険で3割負担の場合, 約330円を支払うことになるが, 各種加算を考慮すると実際に動く金額は医師の処方箋発行料を加えると2000円位になる. 当然のことながら, 薬剤師の居ない医院では動く金額は少なくなる.
このように見てくると, 調剤報酬が妥当なのか判然としないが, 大手チェーンが参入していることを考えると経済状況に左右されずビジネスとして成り立つのであろう. 薬剤師は, 各種加算に見合う責任を負っていることを自覚する必要がある. また, 薬系大学の教員もそのことを自覚し, 教育にあたる必要があることは言うまでもない.
[一言] 医薬分業は薬浸け医療を是正するために厚生省が推進してきた. ところが薬の使用量が減ったという情報ははっきりしていないようである. 「院内処方では院外処方に比べ“500円前後”薬剤料以外でお安くなります」と宣伝している病院も出始めている.