鍛えられた二の腕に喉が鳴った。
何を考えてるんだ。
僕は部室のドアを閉めると座り込んだ。
青い春
いつもの部活の終わり、いつもの部室、いつものメンバーでふざけ合っていた。
運動部の思春期の男のニオイというのは強烈なもので。
それは潔癖症の手塚が率いるこの青学でも当然のごとく、部活の後は雄のニオイが充満している。
今日はそれに加えて別に雄のニオイが溢れるものを一年が持ち込んでいた。
「これみてくださいよ」
「ウホッ! すごいな!」
池田が持ってきたのはかなり際どいポルノ雑誌で未成年が手に入れても良い物ではない筈だ。
たわわな乳房を持つ女が黒のストッキングだけを身に纏い扇情的なポーズでこちらを見つめている。
「やべぇ! オレ外人じゃたたねぇ! なにこのホルスタインみたいな乳」
「エージ先輩、下品ッス!」
英二自重しようね……
僕は雑誌から目を離すと着替えに戻る。
僕はどちらかというと運動部のワリには中性的な顔立ちをしているし、小奇麗にしているほうだと思う。
髭どころか体毛も薄い方だし、筋肉だって文化部のヤツらと比べたら付いている方だとは思うけれど全体的に薄めだった。
桃たちのようにグラウンド100周とかいわれることが滅多にないから、かな?
今度わざと手塚をからかって走ってみようか。
まだ中2だしこれから大きくなる筈。
そういえばこの間気付いたけれど裕太に身長抜かされてたっけ……
とにかく僕は華奢な自分の身体が少し嫌いだった。
ポルノ雑誌に目を向ける。
イマイチ何の感情も湧かなかった。
この年になるまで女の子と付き合ったことがないのは交際が面倒なのもあったけど性欲が薄いほうなんだと思う。
正直女の子に興味がないわけじゃない。
がっつく桃たちのようにはならないけど性的なものに興味はあった。
だけど、こうやってはしゃぐ英二たちと混じろうとは思わなかった。
手塚や大石がスミレちゃんに呼ばれていてしばらく部室に戻ってこないのが判っているからか皆解放的だ。
雑誌は二年の手に渡り、妖艶に微笑む女はたくさんの男たちに視姦されていた。
あーあ、つまんないな。
ふと部室を見渡すと彼と目が合った。
部室の喧騒に困ったように笑っているだけだった河村だったけど僕と目が合った途端、目尻を下げて笑う。
少し赤いその顔は興奮しているから?
河村も思春期の男だし。
だけど河村は雑誌を見ている同級生を気にせず脱ぎ掛けだったTシャツを捲り上げて着替えを再開し始めた。
鍛えられた上半身が露になる。
河村の身体は第二次成長が進んでいるのか肩から背、腹から腰のラインに至るまで僕とぜんぜん違う。
胸板が少し厚くなっていて、首筋から喉仏まで完璧に大人の身体だった。
すっかり大人のその身体つきに思わず見惚れてしまう。
テニスで鍛えられた身体つきじゃないのが気になったけど。
「不二…そんなにみられると着替えにくいんだけど…」
「いや、美味しそうだなって思って…」
僕の台詞に目を白黒させていた河村だったけど、すぐにからかわられたと判断したのか、笑いながら僕の目の前に腕を差し出した。
「食べる?」
僕の前に差し出されたのは河村の二の腕。
目の前に、ある、
急に頭に血が上った気がする。
「もう帰るから!」
僕にしては珍しく慌ててテニスバッグを担ぐと逃げるように部室を出た。
さっき、差し出された河村の、鍛えられた二の腕に喉が鳴った。
何を考えてるんだ。
僕は部室のドアを閉めると座り込んだ。
ああ、彼が好きだ。
心臓が破裂しそうなほど早く脈打っている。
熱を帯び始めた顔と下半身をどうしようか。
そして僕は欲望とともに恋を知った。