『総天然色フルカラー』
鋼の身ばかりで『三日月宗近』という意識体として生じた頃は、時間がとても緩やかでどの時代を巡っても何かに執着することがなく過ごしてきた。
他の数多に真似のできぬ特徴的な反りと三日月のような打除から三日月という号を得て、天下五剣中最も美しい一振りと持て囃された。
幾時を得てもそれは変わらず、ただ銀色の世界でまどろんでいた。
また時代を経て――
数々の主を辿り、武器の本質として実戦に使われるも、ただ灰色の世界に色付くのは血の赤のみ。
その赤すら人の子の戦術が変わり刀が美術品として飾られるようになれば見えなくなった。
そして千年以上が経ち、使命を帯びて、いや負わされて、顕現させられてみれば、
眼の前にいたのは……
初めて色付いたのは艶やかな若菜色の衣と、菫の目元には戦化粧の赤。
冷静になって考えれば、肉の身を得たことによる視覚の変化と同派の気配を感じ取っただけだとは理解しているが。
石切丸と邂逅し、一面灰銀色の世界が一瞬で総天然色に切り替わった。
銀でもない赤でもない数々の色が網膜に宿る。
石切丸がふわりと笑んだ。
初めて色付いたその景色を忘れられず。
それを追いかけて、俺は執着というモノを知った。
それが恋慕に変わったのは運命の悪戯か必定か。
「三日月?」
耳元で俺の名を喚ぶ声がする。
目を開けて、俺とは異なる蒼を目に入れる。
否、よくよく見れば虹色を混ぜたような菫が舞っていた。
身を少し起こし俺を呼ぶ俺の世界を変えた刀に、俺は極上の笑みを向ける。
俺は色付いた景色を眺めるために再び石切丸の膝の上に頭を乗せた。
『食欲・睡眠欲・色欲』
食べる・寝る・交わる
人の身の三大欲というのは不思議なもので、これらが付き纏う。
顕現して暫らくの間はそれに慣れず、しきりと首を捻ったものだ。
肉の身を得て慣れぬことは他にも多少ある。
お洒落もそのひとつだが、幸い先に生じた刀が同じ三条ということで、戦衣装に、平時の衣装と、こうも複雑な着替えを適う限りは手伝ってくれている。
「このハイネックというとっくりは暑いのではないか?」
「そうかな? しかし身体を冷やすとこの身にはよくないらしいからね」
「そのようなものか」
石切丸の用意した衣装を着せてもらいながら頷く。
この刀は、俺と同日に顕現したわりに人のみ身に造詣深いというのだろうか。
最近は美術品として世間知らずに暮らしてきた自覚はあるが。
こやつとて普段は御神刀として箱入りで神社暮らしをしてたのではなかったのかと懐かしい大坂の地を思い出していた。
「どれ、おぬしの帯は俺が結んでやろう」
着替えが終わって石切丸が着替えているところに世話されているばかりでは悪かろうと既に結ばれてしまった帯を留めようと帯紐と数分格闘して結びきれば。
「結びきりとは珍しいね」
そうしか結べなくても直さずにいる石切丸にかわいいやつめと思いながら、やはり世話をするよりされるほうが良いなと笑った。
「で、今日は馬当番だったか?」
今日は戦には出ずに当番が割り当てられていた筈だ。
大抵、俺の予定を把握しているらしい石切丸に問えば、その首が縦に振られた。
「しかし、武器が畑やら馬やらの世話をすることになるとはねえ」
呆れたように呟く石切丸にふと戯れに思い浮かんだことを言う。
「夜伽当番もそのうちできるやもしれんぞ? 自主勉強でもするか。はっはっはっ」
そういって笑えば、驚いた表情の石切丸が見えた。
あの審神者がそんな訳ないだろうとでも返ってくるかと思ったんだが。
突然だった。
急に石切丸が後ろに回ったかと思うと抱き締められて。
袷の隙間から何かを探るように石切丸の手が這う。
「まて」
さすがに焦って止める。
「この間の呪まじない……うまく眠れるようになっただろう?」
いきなりなんぞ?
確かに、それをいわれるとあの呪いはよく効いたが。
しかしこのような状況はまるでこれは……
「自主勉強など不要。どのような欲も色もすべて、どれも私が教えて差し上げよう」
その無垢な器(カラダ)にすべて、などと笑止千万。
撥ね避けることもなぜかできず。
紫に吸い込まれる。
ああ……まずいものにつかまってしまった。
後ろから耳を食まれる。
石切丸の吐息がくすぐったいというのであろうか恐怖を感じたわけでもないのに背の毛が粟立つ。
初めての感覚に身を竦めて俺を覆う石切丸を見上げてみれば。
「千年も生きた翁が童のような反応を召されるな」
「お、おぬしだって似たようなものであろう?」
焦る気持ちを差し押さえて流し目で問えば、石切丸は無邪気に笑った。
「あ……やはり分かった? 私とて実践は初めてだからね。緊張するよ」
緊張すると言う割には、手際よく徳利(とっくり)までにされてしまう。
俺の肌蹴た袂や裾を直すのは石切丸の役目だというのに、今それを乱しているのが同じ刀などだと。
「ぅ、ふっ……」
胸は女性(にょしょう)の様にはならぬが、しきりと指の腹や先で揉みこまれて。
緊張ゆえかくっきりと形どられたそれをなぞる様に触れられると腰の辺りが震える。
まぐわいを見たことがないとは言わぬ。
しかし、初めて起こる身と心の変化についていけぬ。
あがる息を落ち着けようとしたところ――
「ま、まて!」
石切丸の手が下に伸びた。
慌ててその手を留めようとするととっくりを中途に脱がされ、両腕だけにかかった状態にされる。
止めることができる手はないのを良いことに石切丸は俺の下半身を触りだす。
男の象徴たるモノをやわやわと揉みこまれて……雄として当然の反応を返してしまう。
石切丸の前戯により既に緩く勃っていたそれに直接の刺激を与えられて、俺の唇からは今まで聞いたことのような声が漏れいずる。
「ぁ……んッ!」
天辺の穴を綺麗に整えられた爪で掻かれば、今度は腰ではなく背を走るものがくる。
「あぁッ!」
己で欲を散らすのとは違って次が読めぬ。
未だ散らしきることができずに身は疲れてぼんやりとするものの意識は手放せず。
なにより尻に当たる石切丸の硬く熱いモノが気にかかる。
ちょうど尻たぶの辺りに走る一本の熱い杭のような太いものがずっと当たっておる。
身体は初心(うぶ)とは云え、男の形(なり)でもそれを受け入れられるという知識はあるが、これはさすがに俺でも無理だ。
俺の不安を読んだのか石切丸が言う。
「大丈夫、今日は入れないよ」
そう笑って。俺の股の間に熱い棒が分け入り挟み込まれる。
分け入った手が抜かれると腿の肉がそれを包んだ。
「三日月……」
初めはぎこちなく上下に擦られて、長く丸い頭がぬるぬるとした体液を纏いながら、俺の内腿を濡らしていく。
そのうちに驚くほどに肥大したそれが俺の根元や排泄口を掠める。
粘度の出始めた液を潤滑剤に俺のそこを熱い肉の棒で刺激される。
「アッ…ぁあ!」
今や抑える袖もなく続け様にあられない声をあげてしまう。
俺の反応をみた石切丸はそこを確認するととんでもないことを言い出した。
「一本だけ馴らしてみようか」
止める間もなく本来は出口の筈のそこに石切丸の指が挿入される。
刀を振るうときはよくこんな白魚のような手でと思っていたが、我が身の内に入ろうとするそれは意外と剛健で節々の骨が身を肉を抉っていく。
正直ただ気色が悪いばかりだが。耐え切ろうと石切丸の胸に凭れてただ身体の力を抜いていた。
石切丸の指の腹がそこを掠めるまでは。
「!?」
「あ、ここが良いのかい?」
後ろから覗き込まれる。抱え込まれているゆえ、表情を確認できないんだろうが、それが拙かった。石切丸が身体を折り畳んだときに俺の身も曲がりそこを強く押された。
「あっあっ!」
「おや……」
あなや……達してしまった。
達したせいで訪れる静寂感に包まれて荒ぶる息を吸いながら身体の力を抜き石切丸に一層凭れ掛かってやる。
石切丸は達した後の俺の残骸をなぜか凝視していた。
「……おぬしとて別にみたのは初めてであるまい」
「さすがに己のもの以外みる機会はなかったからね」
あってたまるかと頭を振って抗議する。
振っていた頭髪を軽く撫でられたのでそれを告げる。
「俺に色を覚えさせるのが己だというのであれば、おぬしにそれを覚えさせるのも俺だと思っても良いのか?」
夫婦というには同じ男形(カタチ)、義兄弟というには系譜からいえばもう既に同じ様な物。
それでも互いに欲を教え契るというのであれば何になるのであろうな。
石切丸は頬を染めてその首を縦に振る。
それを確認した俺は唇を歪めた。
「ならば、これからは色に耽るのは俺だけにしておけ」
そう告げると、目がなくなるほどの笑みを浮かべた石切丸に抱き締められ口を吸われる。
俺が完全に石切丸の色に染まってしまうのはそう遠い日のことではなかった。