光の守護聖は珍しく高揚する気分を隠せずにいた。
先日、地の守護聖からジュリアスが十五の誕生日だとされる日にこれで大人になったのだと性に対する講義を受けた。
それは女王に祈るとやや子を授けてくれるというジュリアスの知識を一新し、新しい感動をもたらした。
あれから三月弱と月日流れて、今度は闇の守護聖クラヴィスの十五の誕生日が来る。
私がクラヴィスに性とは何か教えよう。
ジュリアスはルヴァに教えられた内容を思い出す。
そう思うと心の臓が高く鳴り出し、身体の奥が疼き出すのであった。
この心情を何と言うのかジュリアスは未だ知らなかった。
「私がやる」
ジュリアスの発言に七人の男たちがジュリアスを見つめた。
心配そうな顔をしている者、面白そうな顔をしている者、焦っている者、傍観している者、なぜか引き攣った顔をしている地の守護聖たちをジュリアスは気高さを感じさせる視線で一瞥する。
会議の内容が内容であるからか宮殿の広間ではなく休憩に使うような部屋へ八人の守護聖が集まっていた。
闇の守護聖クラヴィスがいないのはその身の話だからだ。
ジュリアスは再度皆へ向けて言った。
「クラヴィスへの教育は私が行う」
他に手を挙げようとする者がいなかった訳ではないが、首座の少年、いや青年に逆らう者はおらず、ジュリアスがクラヴィスへの教育を行うこととなった。
「また寝ているのか」
ジュリアスは寝台を囲う薄紗の覆いを開けて寝ているクラヴィスの枕元に陣取った。
見知ったクラヴィスの執事に止められないのをいいことにクラヴィスの寝室へと忍び込んだジュリアスは寝台で丸まっているクラヴィスを覗き込む。
クラヴィスは入ってきたジュリアスに一瞬驚いた顔をしたものの、すぐに気だるげな表情を取り戻し言った。
「……騒がしい」
すぐに上掛けを被ろうとするクラヴィスにジュリアスはそれを遮る。
クラヴィスは少々ムッとしつつジュリアスに告げる。
「まだ執務の時間には早いが…」
「そなたには先触れで本日は教育の日だと伝えておいた筈だ」
クラヴィスはいつになくやる気に満ち溢れているジュリアスを訝しいと思ったが、まだいつもの時間より大分早く起こされて思考が虚ろだった。
昨夜も夜明けまで星見をしていたのだから。
それでも言い出したら聞かない幼馴染を知っているからもぞもぞと動き出す。
「起きるからそこを退け」
「このままで良い」
身体を寝台に伏せたままのクラヴィスにジュリアスが覆いかぶさる。
教育だといっているのに寝台に縫い付けられてクラヴィスの思考は少々混乱していた。
顔には出さなかったが。
「何を…」
「クラヴィス、そなたは子はどうやって生すのか知っているか?」
「は?」
何を言ってるのか分からないという風情でジュリアスをみつめたが、それがジュリアスには肯定に見えたらしい。
「やはり知らぬのだな!」
クラヴィスの呆けた顔を見て、ジュリアスは自信満々な笑みで言い切る。
「このようにするのだ」
ややクラヴィスの方が大きくなったものの、そんなに違いない体格のジュリアスに圧し掛かられて、夜着の裾からその手の進入を受ける。
下穿きを捲られて雄の部分を握りこまれた。
クラヴィスは何が起こっているか分からず、いや理解するのが恐ろしくジュリアスを押し退けようとしていた。
その間もジュリアスはクラヴィスの竿を握り込み、大人の手に成長しつつある指で上下に扱いていく。
クラヴィスからすれば自分と同性で、会えば反り合う幼馴染が自分の性器を弄るという異様な状況であったが男であるから物理的な刺激を受けるとそれは力を持ち始める。
それを確認したジュリアスがどうだといわんばかりに激しく手を動かす。
しかしその動きは強い刺激に慣れていないクラヴィスには辛い。
その拙い愛撫にクラヴィスは眉根を寄せるがジュリアスは気付かった。
ジュリアスがクラヴィスのペニスを刺激すると僅かな先走りがジュリアスの手を濡らしていくが、射精までは至らない。
さすがにジュリアスも気付いた。
「どうしたのだ? 子種がでてこぬぞ」
「……おまえが下手なだけだ」
クラヴィスに端的に指摘されてジュリアスは怒りのあまり口篭った。
羞恥から顔が朱に染まっていることは鏡をみなくても判る。
ルヴァに同様にされて、ジュリアスはあっけなく反応を示してしまった。
それと変わらず作業をしているというのにクラヴィスは反応しない。
しょげたままのクラヴィスの分身を確認しては擦り、力をなくしたままのモノに首を傾げた。
これはルヴァの講義していた不感症なるもの症状ではないかと思い当たる。
ジュリアスが何を考えているのか分かったのかクラヴィスが薄く笑った。
「下手過ぎる」
止めを受けたジュリアスはシーツにのめりこみそうな程落ち込むがクラヴィスは意に介さずジュリアスを見ているだけだ。
二人の間に沈黙が落ちるのはそう珍しくないことであったが、このようなシチュエーションで起こったことはなく、クラヴィスはジュリアスを煽った犯人を考えて眉を寄せる。
静寂を破ったのはジュリアスだった。
「そなたは可愛くなくなった!」
ジュリアスの突然の苦言にクラヴィスは驚いた。
苦言はいつものことで慣れているがその内容にだ。
クラヴィスは意図が掴めずジュリアスの言葉を遮らぬよう返事はしなかった。
「……」
「昔はずっと私の後ろをついてきたではないか! それが今は私より大きくなって…」
クラヴィスは思う。
たしかに10を過ぎる頃まではジュリアスと共にいることが多かった。
クラヴィスとしてはそういわれてもあれは六つや七つそこらの話で、大人たちがまとめて世話をするために同じ年頃の二人を一組にしていたため一緒にいたと認識していた。
母親と引き剥がされて心細かった気持ちは自らと同じ境遇のこの首座をみていると忘れられたが、自分から近寄った覚えはなかったとクラヴィスは思う。
今一度思い返してみても自分の周りに寄ってよってきていたのはジュリアスのほうではないかと考えたが、それをジュリアスに告げても袋小路になるであろうことを幼馴染のクラヴィスにはよく分かっていた。
互いに改組された記憶を持っているのか。相手だけか。
背だって成長期には追い抜かすこともよくある話で。
いつまでたっても子どものような幼馴染を呆れつつ見つめる。
昔はジュリアスの言葉に傷つきもしたが今はこの男の性格をよく理解している。
子どものままなのだ。
ジュリアスはクラヴィスの夜着を掴んでいった。
「そなたは…」
「……」
「そなたは…」
何が苦痛なのか、それとも悔しいのか顔を顰めて下を向き自分を呼ぶジュリアスにクラヴィスは何も返さない。
突然、ジュリアスが顔を上げた。
ジュリアスは自身が恥ずかしかったそれをクラヴィスに行うことはやめようと考えていたが、それをクラヴィスに行うことにした。
反発し合いつつも一番自分を理解しているだろうクラヴィスに自分の思いが伝わらなかったからだ。
ルヴァが言ってただけはないか、これこそが男同士で愛し合うためには必要な行為だと。(言ってません)
自身が教育を受けてから恐る恐る読んだ書物には大人になる儀式だとも書いてあったではないか。
このためにわざわざ昼食のバターを使わずにこっそり小瓶にいれておいた。
ルヴァに頼めばもっと良いものを手に入れられたかもしれないが、ジュリアスの自尊心がそれを邪魔させた。
「私がそなたを大人にしてやる」
ジュリアスは告げた。
親元から離れて心細がっていたクラヴィスを励ました日々を思い出した。
いつの間にか成長し、自分の後ろをついてこなくなった幼馴染にそれを少し寂しく思っていたなんて告げるつもりなんてなかった。 それがなんだ。
誇り高き光の守護聖である自分があのように無様な心情を吐露するとは。
だが良いのだ。
他の誰にも
かつて戯れにした唇を軽く触れ合わせるものではなく、地の守護聖にされたように舌を突き出してクラヴィスのものと絡めてみる。
ふわっと匂う香りはどちらのものか、ジュリアスは夢中になってクラヴィスの唇に己の唇を合わせると吸い付いた。
魂を抜かれたようなクラヴィスを良いことに舌を侵入させてクラヴィスのものと絡ませる。
ジュリアスはバターを手に絡めるとクラヴィスの奥にある窪まりを目指す。
さすがにクラヴィスも我に返った。
「や、やめろ、ジュリアス」
「嫌だ」
未だ侵入を許したことがない蕾がジュリアスの指の侵入を受けて。
クラヴィスはまともに抗うことができないままジュリアスに開かされていく。
「あぁ…」
怒りと羞恥心と身に受ける刺激でいつも白いクラヴィスの肌が赤く染まっている。
その反応だけでジュリアスの性器は既に勃ち上がっていた。
「挿れるぞ」
クラヴィスの静止も気にせず
未だ硬い蕾へ自身の剣を突き立てた。
「っ!!」
ジュリアスのペニスは油分により既に三分の一ほどクラヴィスに食い込んでおり、更に奥に入ろうとしている。
これ以上はいくら面倒でも洒落にならないとクラヴィスはジュリアスの胸を叩いた。
クラヴィスが激しく抵抗するとジュリアスは固まった。
「すまぬ」
「……早く抜け」
「ああ」
ジュリアスに腰を引かれてクラヴィスはほっと息をつこうとする。刹那、抜け始めていたそれで再度身体を貫かれた。
かっぽりと開いた箇所から流れ出る半濁と血が再び体内に戻される。
「ジュリアス、なにを…」
クラヴィスは何を考えているのだと怒りつつジュリアスを見遣ったが、そこにいたのはよく知っている筈なのにそうではない少年だった。
男の顔をした幼馴染にクラヴィスの背がぞくりと粟立つ。
お互いの体液で滑りも良くなったせいか、クラヴィスの抵抗がなくなったせいかジュリアスの動きは止まらない。
「や、ふっ、あっ」
「クラヴィス…クラヴィスッ…」
自分の名を呼びながら腰を振り続ける男の金の髪を見ながらクラヴィスは思う。
初めての快感に我を失い忘れている幼馴染の姿は正直滑稽で。
いつもは誇りを司るという光の守護聖の痴態にクラヴィスは抵抗も馬鹿らしくなり力を抜いた。
痛みは我慢できるがとんだ茶番だ。
やがてジュリアスの身体が小刻みに揺れると身体の奥に温かいものを感じた。
どうやら終わりを迎えたようだ。
身体の中からずるりとジュリアスの性器が抜き出されるのが分かった。
クラヴィスは熱い何かが足の付け根から流れるのをただ見つめていた。
下から反対になります
押さえつけられた身体がだるく、いつも以上に億劫だった。
精をクラヴィスの中に放ちどこか虚ろだったジュリアスに尋ねる。
「おまえはなぜこのようなことを」
「ルヴァに教わったのだ」
思ってもいない人物の名を出されて、クラヴィスは戸惑った。
たしか最近交代した地の守護聖で関わりがないが、挨拶に来たときは純朴で素直そうな少年だった。
たまに話すカティスからは聡いが自ら主張することはなく好感の持てる男だと聞いていた。
そのルヴァがこんな無体をジュリアスに教えるようには思えなかった。
幼馴染得意の暴走だろうと思っていたのだが。
「ルヴァに何を教えられた?」
「…ッ!」
視線を逸らすジュリアスを問い詰める。
「男同士が愛を交わすにはここを使うとルヴァが言っていた」
「私とおまえとの間に愛なぞ芽生えた覚えはないが……」
「ッ! そなたと私は幼馴染ではないか!」
その返事を聞き顔を顰める闇の守護聖にジュリアスは疑問を浮かべる。
その表情を見たクラヴィスは自分のほうが疑問を浮かべたいと思った。
何か勘違いをしているジュリアスにクラヴィスは溜息を吐きそうになるが巻き込まれるには慣れている。
ただでさえ長い聖地の時間で良くも悪くも共にいた相手だ。
だが、クラヴィスとしてもこのままジュリアスのいいようにされるのは癪に障る。
いつものように言葉の応酬で終わらせる気はなかった。
「ジュリアス……私にもやらせろ」
クラヴィスの要求に意外なことを言われたようにぽかんと口を開けるジュリアスに、今日は珍しいことが続く日だと思ったが、自分だけが
恐らく幼馴染は性行為を勘違いしている。
その勘違いによって自分の身体はぼろぼろだ。
「おまえだけにいい思いをさせてたまるか」
クラヴィスがいうと、クラヴィスの予想とは違い従順な返事があった。
「私はかまわないが」
全くもって読めない日だとクラヴィスはジュリアスを寝台に押し倒した。
ジュリアスの装飾品を外しながらその装束も取り払っていく。
クラヴィスは絡み合う身体が同性なのは不思議なものだと思いながら嫌悪はなかった。
薄く開いたジュリアスの唇を舐めて。
口付けはせず、首筋を唇で辿っていく。
ジュリアスは不思議そうにしていたが、クラヴィスは意に介せずジュリアスの心の臓に近い赤い蕾を口に含むと転がしていく。
唇や舌で弄ぶうちにジュリアスからくぐもった声が漏れてくる。
自然に上がる声を我慢しているようで、それをみたクラヴィスは少し嗤うときつく吸い付いた。
「あぁんっ」
自身が発した叫びに呆然とするジュリアスの再び力を持ち始めた性器をクラヴィスは掴むとゆるゆると上下に掻いていく。
「はっ、うっ……っっっ!」
頂点を爪で弾くとジュリアスは呆気なくクラヴィスの手の中へ精を放つ。
放たれた精液をジュリアスの蕾に撫で付けると指を沈めていく。
「はっ!ぁっ…」
その間にも力を失った竿を緩やかに擦られてジュリアスの敏感な身体は次の快感を求めて蠢いていた。
「んっ、あっ」
「……」
ジュリアスの体内にクラヴィスの指が三本飲み込まれるころには、ジュリアスの身体は蕩けて、自ら強請るようにクラヴィスへ腰を押し付けてくる。
「用意はいいようだな…」
クラヴィスが指を抜くととろんとした目をしていたジュリアスが正気を取り戻す。
そこを狙ってクラヴィスはジュリアスの蕾に自身の猛りを沈めていく。
慣らされたとはいえ指とは違う圧迫感にジュリアスは呼吸を荒くしていたものの馴染ませられるとクラヴィスの性器が自らの良い部分に当たるように腰を振り出す。
「あっあぁぁん」
さすがにこれにはクラヴィスも驚いた。
「淫乱だな」
「っ!」
ジュリアスはクラヴィスに反論したいのであろうが、クラヴィスを咥え込み腰を振っている様子ではできないようで、怒りのあまりか涙目で自分を見上げるジュリアスにクラヴィスは微妙な感情を芽生えさせていた。
こんなジュリアスはみたことがなかった。
自分の知らないよく知った幼馴染の痴態に。
もっと知りたいとクラヴィスもジュリアスの奥へ奥へと侵入する。
「「!」」
不思議なことに最後に果てたタイミングは同じだった。
あと十年ほど共に過ごせば理解できるようになるのだろうか。
クラヴィスは眠るジュリアスを見やると休息を必要としている自身の身体を休めるためジュリアスの隣に倒れこんだ。