第256代女王の御世が始まってはや数ヶ月。
宇宙の転移の際に起きた混乱も収まって、宇宙は元の輝きを取り戻しつつあった。
白亜の廊下に足音と楽しげな声が響く。
数人の守護聖たちが謁見の間に向かっているところだった。
「しっかしさー、アンジェはきっとアンタとくっつくと思ってたのに、あっさりと女王になったよねー」
あっさりととはいうが、崩壊が始まっていた宇宙とを救い、女王のサクリアで宇宙ごと転移させたのだ。
前女王の力もあったにせよ、宇宙を支えた挙句、衰えていた力だけでは成し遂げることはできなかっただろう。
しかし彼が言っているポイントはそこではないと改めて告げられた言葉を解析すると、
「え、あ、お、おお、オリヴィエ!? あなたは何をいっているのですか……」
オリヴィエのいうことに青くなったルヴァに、傍にいたゼフェルとマルセルも追い討ちをかける。
「試験の終わる少し前なんか、アイツ、オッサンとばかり過ごしてたもんなー」
「そうそう! アンジェ…じゃなかった、陛下は日の曜日なんかぼくたちがお部屋に誘いにいく頃にはもうルヴァ様のところにいってたもんね!」
年若い仲間の話にルヴァは青くなったり赤くなったり。
告げられた内容は大体が事実であったが、ルヴァにだって事情があった。
女王試験がかなり進むまで、自分の中に生まれたその想いを、それが恋だと気づかなかった。
知識では『恋』たるものを理解していたが、自分の中の不可解な感情をその知識と結び合わすのができなかった。
それと恋だと気付いたときには、ルヴァのサポートとアンジェリークの懸命な努力によって、エリューシオンの中の島への到達も射程に入ったところで。
本当は、ルヴァだって自分の想いに気付いてから、アンジェリークに告げる機会を伺っていた。
アンジェリークが受け入れてさえくれれば、女王としてではなく自分の想い人として聖地へ連れ帰ろうとも。
ところが前女王のサクリアの衰え、そして宇宙の崩壊への速度が思ったより速かった。
気付けば、アンジェリークの背には純白の羽が生えていて、その意味を知るルヴァにはとても想いを告げることはできなかった。
想いを返してもらうことは、宇宙の絶望を意味するようになっていたから。
年若い守護聖たちと違い、おおよその事情が手に入る自分の立場が疎ましいと感じたのは、初めてだった。
誇りにすら思っていたその立場がアンジェリークへ想いを告げるのを諦めさせた。
間に合わなかったのだ。
重要なときだって鈍い自分に呆れて落ち込んだのも束の間、これからの長い時間を、想い人と同じ時間で過ごせることに安堵したのも真実だった。
そして時間が彼女への想いを、すべての感情を、穏やかなもので洗い流してくれるだろうとも。
そう考えて自分の想いを心のうちへと封じ込めた。
ルヴァは女王が待つ広間への扉を開けた。
開けられた扉から差す光が中心を照らす。
すでに玉座にいるアンジェリークはルヴァたちを認めると、ふんわりと微笑んだ。
それはまるで天使のようで。慈愛の女神に相応しく美しい。
今はまだ心が痛むけど、これでよかったのだ。
自分の決断は正しかった。
彼女はすべてを愛すべき女王、すべてから愛されるべき存在なのだから――
こんな穏やかな日々が続けばいい。
そう願いながらルヴァは愛すべき女王に頭を垂れた。