「本当におめでとうございます、陛下」
「ありがとう、ルヴァ」
女王の執務室へと地の守護聖であるルヴァがやってきたのは即位式が終わってすぐのこと。
「お人払いをしていただけませんでしょうか?」
珍しいことをいうものだと思ったもののロザリアや女官を下がらせる。
ルヴァは二人きりになると、本当はもっと前にお渡ししようと思っていたのですが、とローブの袂(たもと)から箱を取り出した。
「これは?」
「もらってやってください。いつも身に着けていただけるものを、と思いまして」
渡された箱を開けるとでてきたのは一対の耳飾り。
「イヤリング? とっても綺麗……」
「陛下はピアスはされないのでイヤリングにしてみたんですよー。
本当はその翠玉のような瞳と同じ色の石にしようと思ったのですが、陛下の金の髪に映える石が手に入ったのでそれで作ってもらいました。
もう必要ないと思いましたが……差し上げたかったので」
「ありがとう。でもルヴァ様。その台詞ちょっとオスカー様みたい…」
「……アンジェ」
「ふふっ、ジョークです。ルヴァ様がくれる言葉ならなんでも好きよ」
他意はないであろう、その言葉にルヴァの頬が染まる。
いつの間にかお互いにかつての呼び方に戻っていたのは、試験が終わって間もないためか、
それともあまりにも女王候補時代に過ごした時間と似ていたからだろうか。
そして、それを咎める者もこの空間にはおらず。
耳飾りを受け取ったアンジェリークはそれを光に透かし見入っていた。
ルヴァのほうを向いて。
「ルヴァ様、お願いがあるの」
「? 何ですかー?」
「この女王の衣装まだ慣れなくてちょっと重いんです。動きにくくて……ね、これつけてくださいませんか?」
「え?」
戻された耳飾りと彼女を見比べて目を見開く。
「あ、あとでつけていただければっ!」
「ダメですっ、今すぐつけたいの!」
そういってルヴァのほうへ右側の身体を預けてくる。
こうなった彼女をとめるのはロザリアでも難しいことをルヴァは知っていた。
彼女は女王候補時代から、男の性を知らないのか、様々な状況で無邪気にルヴァに身体に触れることを許していた。
その度に、ルヴァは自分が病気ではないかと思うほど心の臓が脈打って、その挙句とまってしまうのではないかと考え、戸惑ったものだ。
まさか至高の女王になってもそれが許されるとは思わず、告げられた内容に驚いた。
ルヴァは深く息を吸って覚悟を決めると、ベールと金の柔らかな髪を掻き分け、その柔らかな耳朶に触れる。
純白の星型の飾りを外す。
触れるその柔らかな弾力や髪の香りに不埒な思いを浮かべたものの何とかやり過ごし、耳朶を掴んだ。
自分がつけているピアスとは勝手が違うためか、なかなかうまくクリップに差込できない。
「ぁ…、んっ」
痛くならないよう優しく掴んでいたせいか、それがくすぐったかったのか、アンジェリークの唇から吐息が漏れる。
聴覚から、視覚から、くる感覚に、今度はやり過ごせず、ルヴァは固まった。
理性を手放して目の前の引かれたラインを超えたくなったものの、そこを超えるわけにはいかなかった。
雑念を振り払い指先に神経を集中させるとようやくつけることができた。
「できましたよ、アンジェ」
「ね、ルヴァ様。似合いますか?」
「ええ、とってもよく似合ってますよー」
「大切にしますね」
その後、輝石が手に入るたびにルヴァからアンジェリークに贈り物が届けられ、アンジェリークが
女王の衣装と責任の重さに慣れた後でも、それを初めてつけることはルヴァの役目になったという話。