さよならバレンタインのつづき
さっきから携帯の着信がウルサイ。
誰からかなんてディスプレイをみなくてもわかる。俺は携帯の電源も落とした。
ベッドに寝転がり丸まる。
やっぱ女のコの方がいいよな……
俺だってそうなんだもん!大石だってそうだろ?
チョコだって男と女の行事だ。男が男にやるものじゃない。
ニ段ベッドの下に転がしておいたカバンをみると、開いたところから今日女の子たちから貰ったチョコが見えた。
梯子を降りてその中の一つを取り出す。
オーロラ色の紙でびらびら包装されたのを破り綺麗に並べられたチョコを摘んだ。
「あまっ…」
チョコは甘かった。
胸焼けするくらい甘かった。
次の日からできるだけ大石に会わないように行動した。
もう部活引退しててよかったぜ。もし現役だったらダブルスの練習で嫌でも顔と息をあわせなきゃいけない。
大石に会うのは恐かった。
はっきりさせるのが怖かった。
結論を出すのが恐くて俺は大石から逃げ続けた。
ちょうど学年の終わりで休みが重なったこともあってすぐに自由登校の期間に入った。
初めは何も言わなかった大石だけど、とうとう痺れを切らしたらしく呼び出された。
学校に呼びだされたから仕方なく学ランに着替えて家をでる。
うちのガッコ、ジャージ以外は休みの日でも制服着ていかなきゃならないんだ。
面倒だけど、生活指導のセンセーに捕まってスミレちゃんに絞られるよりずっといい。
一応、念の為カバンも持っていくことにする。
学校までの道を唸りつつ歩く。
三月も半分過ぎたというのに雪がちらちら降っていた。
傘を差すほどじゃないのでそのまま歩く。
俺の機嫌はMAXに悪かった。
ちょっとまてよ?よく考えれば……なんだよ!俺が悪いんじゃないだろ?
どう考えても大石が悪いんじゃないか!
確かな約束なんてしてなかったけど、一応俺たちは恋人同士だった筈で、浮気したのは大石の方なんだから。
今日はどっちだろう?やっぱ別れを切り出されたりするのかな…
大石のヤツ……結構、優柔不断なとこもあるから誤魔化されるかも。
思い浮かぶのは悪い想像ばかりだった。
待ち合わせた校舎裏に大石はいた。
待ち合わせた時間よりも大分早くきたのか寒そうにしている。
あまりにも……らしくて笑いそうになった。
大石はいつものように笑顔を浮かべながら近付いてくる。
「英二!」
大石の態度があまりも普段と変わらなくて拍子抜けした。
大石に促されるまま部室に入る。
前年度に副部長をやってたせいかまだ鍵を持っているみたいだった。
大石ってけっこう……抜け目がないというかなんというか……
呆れる俺の目の前で、大石は自分のカバンの中から何やら取り出した。
小さな白い包み?
なんだろう?
?を浮かべた俺に大石は「はいっ」とさわやかに笑いながらそれを渡してきた。
開けていいか確認を取って包紙を剥がす。
中にはいっていた小さな箱の蓋を開けるとチョコレートが並んでいた。
「ちょっと遅くなったけどバレンタインのチョコレートのつもり」
は?何いってんだ?コイツ…
唖然とする俺に大石は説明しだした。
「一ヶ月遅れになったけどバレンタインのチョコだよ。俺から英二に」
訳が分からない。バレンタインのチョコレート?今日は別れ話じゃなかったのか!?
俺は一番聞きたかったことを口に出していた。
「なんだよ、これ。あの女はどうなったの?」
「え?女?」
「大石、バレンタインの日に女と会ってたじゃないか!」
今度は大石が顔に?を浮かべる番だった。
大石はしばらく真剣に考え込んでいたけれど、やっとそれに思い当たったらしく合点のいった表情で頷いた。
「ああ!あの電話の時にいた子のこと?彼女にはチョコ買ってもらったんだ。英二への」
「へ?」
「へって……それで怒ってるんじゃないのかい?」
俺はまたもや訳が判らず続きを促した。
「だって、まさか英二にあげる為のチョコを妹や母さんに頼むわけにはいかないだろ?
でも、やっぱり恥ずかしくて……委員会の後輩だった子にどうしても必要だからって頼んだんだよ。
だけど、英二それで怒ってるみたいだったから自分で買い直したんだけど……」
「バカヤロウッ!」
こいつはバカか?
俺は目の前の男を睨みつけた。
「おっまえなぁ!いいか。男が男にチョコなんて渡さなくていいんだよ!」
「え。でも英二気にしそうだったし……」
う。まさか俺も買ったなんていえない……
大石の方をみると、また困ったような顔をしてた。
「いいの。俺たちにはそんなのいらないの!バレンタインなんか関係ないだろ!?」
「でも、やっぱり英二は特別だから…」
今、大石なんて言った?
大石は柔らかく浮かべていた笑みを更に深くして言った。
「バレンタインってホントは女の子の為のイベントだろうけど、俺たちには関係ないんだろうけど……気持ちだけ渡すのも悪くないって思ったんだ。特別な日に特別な人にプレゼントするのもいいもんだろ?」
何かが頭を掠めた。
ヤバイ…今、たぶん俺の顔真っ赤かだ。
「大石!」
「な、何?」
大石の両袖を掴み、揺さ振る。
「俺、特別?」
「ああ、なんだ英二知らなかった?」
「ホントに?」
「うん。英二は俺の……特別だよ」
そのことばを聞いた瞬間、俺はいてもたってもいられず大石に抱きついた。
せっかく大石から貰ったチョコも吹き飛んでしまった。
俺は勿体無いと思いながらも夢中で大石にしがみついた。
ふっ飛んだチョコに目を丸くしていた大石だけど、慌てて俺を抱きしめ返してきたから、そのままキスしてやった。
こうして俺の散々なバレンタインとその続きは大団円で幕を閉じた。
後で、ふっとんだ大石のチョコと俺の鞄から発掘したあの日のチョコを二人で食べたんだけど……
二人で食べたチョコは、一人で食べたチョコよりもずっとずっと甘かったのは何でだろう?
<終>