少し前に発見された惑星の調査が終わり安定した大地だと判明した結果、地の守護聖であるルヴァがその惑星に視察にいくことが決まったのが必然だったことは宇宙を支える守護聖であれば判ることだった。
女王の命で彼が旅立ったのは聖地の時間の流れで一ヶ月ほど前のこと。
幸い宇宙に地のサクリアは満ち足りていたため、数ヶ月の不在は問題とならなかった。
炎の守護聖オスカーは苛立っていた。
光の守護聖ジュリアスの前であればオスカーはそれを隠しただろうし、水の守護聖リュミエールの前であれば、その苛立ちのまま言葉をぶつけ合い不毛な口論となっていただろう。
だけど今オスカーの前にいるのは夢の守護聖オリヴィエだった。
「苛立ってるねェ」
「何がだ」
いつもよりも更に低音のオスカーの声にオリヴィエは肩を竦める。
睨みつけてくるオスカーの視線を笑みで交わすとそのまま楽しげに言った。
「昨日、「外」に遊びにいったんだって?」
「……」
オリヴィエの独自の情報網は味方にすると心強いがこんな状況となると困ったものになる。
オスカーは経験からそれを知っていた。
「花街まで行ったのにどこにも寄らず帰ってきたんだって? 一体どういうコトなのカナ~?」
「……」
あまりにも真実すぎる内容にオスカーは視線を外すと押し黙った。
「フフ、ルヴァが出掛けてから長いもんねェ」
「!」
判っているのか判っていないのか聡い夢の守護聖のことであるから、おおよそ感づいているのではと思っていたが、こうもピンポイントで抉られると心地よいものではない。
ここのところルヴァでしかオスカーの性欲を満たすことができなかったから、ルヴァのいないこの一ヶ月はオスカーは禁欲状態だった。
オスカーとしてはルヴァに操を立てていたのではなく、単純に前だけでは満足することができない身体にされてしまっていたために、かつてのようにレディたちと夜を過ごすことがなくなっていたのだった。
ここで他の男とヤるという発想がでなかったのが元々女好きのオスカーである。
昨日も夜の相手を求めて花街へと降り立ったものの美しく着飾れた女たちに声をかけようとして、疼きだした後肛に苦い思いを感じ帰ってきたのだった。
「変われば変わるもんだよね」
オリヴィエが笑ってからかってくるのをいつものように軽口で流せず額に手を当てる。
オスカーとオリヴィエは似たところがあったため聖地の中では気が合う仲間だった。
人の妻との道ならぬ愛に堕ちたときも諌めることなく、燃え上がって灰になってしまった恋の後も慰めるわけではなくただ仲間として見守ってくれた。
それが当時は有難く感じたものだったが……相手がルヴァになるとこう心地が悪くなるのは何故か。 それに何故か判らないがオリヴィエとルヴァは仲が良かった。オスカーが二人の親交に気付いたときは驚いたものだ。今の相手がオリヴィエの友人であることがこの心地の悪さの原因かもしれない。
オスカーは何ともいえず、溜め息を吐いた。
「オスカー」
肩に手をかけられ耳元で囁かれる。
常であれば気色悪いからやめろと乱暴に振りほどくところだったが、告げられた内容にそれを忘れてしまう。
「ルヴァさっき帰ってきたらしいよ? 良かったねェ」
キャハハと笑うオリヴィエが天使のように見えたとは思いたくなくオスカーは目を擦った。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「帰ったなら連絡くらい寄越せ」
「オ、オスカー!? 急に現れないでくださいよー。吃驚して心の臓が止まってしまうかと思っちゃったじゃないですか」
あの後、オリヴィエへ礼も挨拶もそこそこに駆け出したものだから、オスカーの額には汗が浮かんでいる。
オスカーは自分でもなぜこんなに必死になって走ったのか判らなかった。
陛下への挨拶が終わって今戻ってきたところですよーとのんびりと返すルヴァに苛立つ。
「ただいま帰りました」
そういって微笑んだルヴァを見たオスカーは感じていた苛立ちが急にどうでもよくなって、旋毛を掻きながら言った。
「おかえり」
そのままルヴァに口付け壁に追い詰める。壁というか書棚だ。
ルヴァはしばらく目を泳がせていたものの、興が乗ってきたのか自分もオスカーを屠りだす。
長いキスの後、透明な糸を伝わせて離れた唇にオスカーは欲情していた。
オスカーのほうが体格が良いものだから、書棚に押さえつけられたルヴァがオスカーに縋りつく体勢になっていたが、少し空間を取るとルヴァはオスカーを後ろ向けにしバックから抱え込むとズボンを膝まで一気に引き摺り落とす。
オスカーの黒の下着は自身の先走りで水分を含み淫らな状態になっていた。
ルヴァはそれを確認し満足そうに微笑むと臀部から粘り気と水分で皮膚に張り付いた布地をずらし、自身を挿入させる。
「くぅっ…」
オスカーの秘所はしばらくぶりに潤滑剤もなくルヴァを受け入れたために、はち切れそうな肉塊を咥え音を立てて限界を告げている。
当然、きついのかルヴァも痛そうにしていた。
「オスカー……逢いたかった」
ルヴァに耳元で掠れた声で囁かれれば、胸に広がる甘苦い痛みにオスカーは舌打ちしたくなる。
身体を捻りルヴァに再び口付けると、オスカーに差し入れられていたルヴァが更に大きくなったのをその身でもって感じる。
下着の中で膨らんだオスカーをルヴァの手が布地の上からなぞっている。
布越しの刺激がオスカーの性感を更に高めた。
「んっ…ああっ」
オスカーの甘い声が漏れるとルヴァの律動が激しいものへと変わった。
「ルヴァッ!」
達したオスカーがルヴァを更にきつく締め上げるとすぐに熱くどろりとした体液がオスカーの中へと放出された。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ぐったりとしたオスカーを抱え込んでいたルヴァがオスカーのピアスの後ろから唇で愛撫しながらいう。
「おめでとうございます。オスカー……しかし、もう間に合わないかと思いましたよー。いやー間に合ってよかった」
「なにがだ?」
何が間に合ったというのかオスカーの脳裏には疑問が浮かぶ。
その表情をみていたルヴァは幾分か焦った表情で答えた。
「あれ? 今日は貴方の誕生日だったんでは?」
すっかり忘れていたその日にオスカーは驚く。
そういえば館を出るときに、メイドたちが祝いを述べてた気がするが、気に留めていなかった。
去年は聖地や外の彼女たちに盛大に祝われたのも今は遠い思い出だ。
そんなことに興味がないと思っていたルヴァが自分の誕生日を覚えていたのも意外だった。
「なんでアンタが知ってるんだ?」
オスカーの問いにルヴァはため息を吐くと困ったように笑った。
「恋人じゃないですか」
返されたその言葉がオスカーのなかでリフレインして吸い込まれていく。
心の奥底に芽生えた思いにつける名前をオスカーは知っていた。
溢れる多幸感に包まれたオスカーは再びルヴァに口付けるとそのまま瞳を閉じた。