蝉たちが命を削って鳴いている。
あそこでもよく聞こえたものだ。
懐かしい神社での暮らしを思い出して石切丸は目を細めた。
「茹だる」
三日月が漏らした言葉に石切丸は苦笑しながら返す。
少しでも冷たい板間のほうへ寝転がっている三日月宗近をみて、石切丸は涼を取りたい気持ちはわかるが痛くないのかと思う。
刀から肉の身を得て、初めての季節。
他の刀たちはその気性に応じて、庭で水を張った桶のようなものに入り涼んでいたり、空調の整った部屋へ集合していたりしていたが、石切丸は自室にいた。
確かにこう暑いとぼうっとするが、そこは心頭滅却すればなんとかといいながら石切丸は普段よりも薄い着物になったこともあり耐えていた。
そばには、同じ三条の三日月宗近。
三日月は空調の整った部屋(博物館)暮らしが長かったせいか暑さに弱いらしく、特に暑い今日はずっと暑さに喘いでいる。
かといって短刀たちのように水遊びするわけでもなく、人工的な風を嫌ったのか空調の整った大部屋にいくこともなくこうして部屋にいた。
「仕方ないだろう。もうそろそろ六月祓の時期なのだから」
「分かってはいるんだが。しかしこう暑いとかなわんな」
いつもの優雅な動きではなく手早に扇をはためかせながら続ける三日月に石切丸は閃く。
「少し待ってなさい。氷を貰ってきてあげるから」
石切丸が立ち上がるのを緩く視線で頷いただけの三日月に参ったと頭を掻きながら石切丸は部屋をでた。
台所では、暑くとも夕餉の支度中でその当番に氷を貰って良いか尋ねる。
ちょうど麺つゆを仕込んでいた歌仙が気付いて、それこそ茹だるような部屋の中であるというのに優雅に笑われながら、氷だけではなく透明な器に入った茶を渡された。
「君も大変だね」
含みのある笑顔と言葉に石切丸は薄ら笑いと礼を返すと、氷が溶けぬよう足早に部屋へと戻った。
「宗近」
三日月の頬へ器を触れさせれば、パチリと目を開けて涼を楽しむ姿が見られる。
悪戯に硝子の器を揺らせばそれに合わせて三日月の顔も揺れる。
その様がおかしくて笑うと手元が少々狂い、跳ねた茶が三日月の顔にかかる。
その冷たさも心地良いようで三日月は剥れることもなく笑った。
「石切」
風を得るため開け放たれた障子の先からは強い日差し一筋と遅咲きの梔子の甘い香りがする。
促された石切丸は器の氷を茶ごと口へ含むと三日月の口へと舌を使い渡す。
氷は石切丸の熱で水となり茶と混じり、三日月の喉を潤した。
氷が完全になくなってからも三日月の舌は石切丸の口腔を探り、その冷たさを石切丸へ伝える。
二つの舌が元の温度に戻るとやっと三日月は口を離す。
「はっはっはっ、石切のせいで余計に暑くなったではないか」
そう笑って手を伸ばしてくる三日月に石切丸も手を伸ばすと三日月を抱えながら畳のほうへ転がす。
「では、責任をとろうか」
石切丸の返事に三日月は石切丸の首に手を回すとその髪を撫でた。
今度は熱い舌が三日月の口内を探ると三日月もそれに合わすように自らの舌を動かす。
温い体液が唇の端から漏れるのも気にせず、ただ舌を交じらせる。
石切丸が三日月の少し長くなった前髪をかきあげると何かを堪えるように閉じられていた三日月の眼が開く。
豊かな睫が汗に濡れより黒くみゆる。
人の形のかんばせを美しいと思うなどとは刀としては愚かだと思うけれども。
本来であれば脈打つはずのない胸がしきりと大きな音を立てる。
三日月の眼に映る自分の淫らな表情(かお)に目を逸らせば同じ表情の三日月がいて、
石切丸の内部にいい表せない衝動が走る。
三日月と肌を重ねる際のこの衝動を石切丸は嫌いではなかった。
口吸いだけで主張し始めた前張りをわざと石切丸に当ててくる三日月の腰を抱くと一気に下穿きごと下衣を脱がす。
畳が汚れぬよう手拭で三日月のまらを包めば三日月が抗議のように石切丸の胸を叩いてくる。
手拭越しにゆっくりと撫で上げれば耳元に聞こえる愉悦の声。
一度達せさせようと裏の敏感なところを掻き、先走りで張り付いた手拭を捲くり直に触れる。
先を丹念に擦れば三日月の拳を作っていた手は開放され震えながら石切丸の着物を掴む。
「はぁ…っ、ぁあ…っ!」
石切丸の手に吐き出された三日月の子種を指に絡ませる。
手拭に余分なものを吸い取らせつつ、汗ばんだ皮膚が当たる感触を楽しみながら、尻を揉んでいく。
中心の窪まりまで辿り着くと手拭へ拭き取らせただけでは間に合わないのかそこは三日月の放ったものが滴り微妙に濡れていて、残った白濁を潤滑剤代わりに揉みこめば、三日月の鞘は石切丸の指を二本併せて飲み込む。
石切丸はそこを慣らしながら自分の着物も取り払うと手を止めて三日月を抱きしめた。
「好きだよ」
何となく恥ずかしいので顔も見ずに三日月の耳元へ囁いて、自分の胸に当たる三日月の赤い尖りを含んで、慣らしを再開させる。
石切丸が自分に縋り付いていた三日月の手がなくなったことに気付いて顔を上げると、外気以上に火照った顔を手で覆う三日月がいる。
その手を優しく剥がして再び口を吸えば、いつものように鷹揚な声で返ってくる。
「俺もだ」
「君は本当に……」
「?」
「可愛すぎる」
もう少し蕩けさせてからのつもりだったが我慢のできなくなった石切丸は、
三日月をそのまま己の腰に跨らせると重力の重みで下がるそこを一気に貫く。
物理的な痛みを堪え切れなかったのか石切丸の腰に三日月が爪を立てる。
「あっ! ぁあんっ…ッ!」
己の汗ばんだ皮膚に薄く赤い血が滲むのをみても石切丸は不愉快に思わず。
それどころか逆に感じる多幸を神に感謝しつつ、三日月ともっと深く交わるために腰を使い出した。
ぼうっとしてたのが原因かいつもよりも夢現に終わった行為の後、三日月が眼を閉じ出す。
「宗近! そのまま眠るつもりかい?」
まだ夕方なんだけどなと続けると三日月は瞳を開け、きょとんとした表情で返す。
「放てば眠くなる。そうだろう?」
三日月はそういって布団代わりに石切丸の懐へ入ると寝息を立てだした。
夜に近づき気温が少し下がったとはいえ、これは暑い。
茹だるといっていたのは誰だったのかなと石切丸は溜め息をひとつ吐いた。
すっかり薄く生温くなった茶が入った器を横目に夕餉までは寝かせてやろうと考えて。
その胸に熱いものを抱きしめながら石切丸も目を閉じた。
そんなある夏の日。