◇十夜◇-----------------------
『ぬくもり』
肉を得た三日月は重ね着しているにも関わらず戦慄いている。
「ずっと鞘に包まれていたからな」
「だからといって何故私の寝床にいるのかな!?」
「石切は俺専用の行火だろう?」
仕方なく共寝する。この温度を手放せなくなったらどうするんだと息を吐いた。
[解説]
微妙だったので改訂。
肉を得た三日月は寒がりだ。
「ずっと鞘に包まれていたからな」
「だからといって何故私の寝床にいるのかな!?」
「石切は俺専用の行火だろう?」
仕方なく共寝し足先を温めてやる。確かに独り寝よりも温かい。
この温度を手放せなくなったらどうするんだと一人ごちた。
作務衣の下にタートルネックを着ている寒がり三日月が暖を取ろうと石切さんのお布団に入っている話。
しかし、そのぬくもりを気にいっているのは石切さんも同じなのですというオチ。
◇九夜◇-----------------------
『恋して愛して、憎んでる』
「俺を憎むか?石切」
「なぜ?」
「俺に恋した。ははっ、御神刀といわれるお主が愛を覚えて穢れただろう?」
月の目は笑っておらず、石切丸は三日月の意図に気づく。
ああ…面倒な刀だ。だがそれも愛しい。
「ああ、この想いを穢れたと君が云うのであれば私は君を憎むかもしれないね」
[解説]
こっちのほうが分かりやすい改訂。
「俺を憎むか?石切」
「なぜ?」
「俺に恋した。ははっ、御神刀が愛を覚えて穢れただろう?」
月の目は笑っておらず、石切丸は三日月の意図に気づく。
面倒な刀だ。だがそれも愛しい。
「ああ、この想いを穢れたと君が云うのであれば私は君を憎むかもしれないね」
そう愛を告げた。
御神刀の石切さんに恋を覚えさせて穢れさせてしまったと考えている三日月が内心びくびくしながら、石切さんに憎まれていないか確認する話。
石切さん的には三日月を愛しいと想う気持ちは穢れとは考えてもいないため、それを穢れだと言われるほうが心外だと三日月を慰めました。
◇八夜◇-----------------------
『神様なんていない』
神たるもの皆等しく愛さねばと求愛を断った――筈だった。
「一応、私は御神刀で……」
「神なんて居ぬ」
三日月が断する。君だって付喪神だろう。
「ここに居るのは俺を好きな只の男だろう?なぁ?」
素直に認めろといって頬を取り口付けてくる男に抗うことができず、私は恋に堕ちた。
[解説]
御神刀として過ごしてきた石切さん。
三日月から告白されて三日月のことは好きだけど人の身を得たとはいえ一刀に執着するのは如何なものかと断ります。
ブチ切れた三日月が自分を好きだと知っているんだと石切さんを強請って晴れて両想いとなりました。
三日月のほうが素直な分、求愛が強くなります。
◇七夜◇-----------------------
『こんちには、恋心』
最近調子が悪い。厄だろうか?
加持祈祷のし過ぎではないかと次郎殿にからかわれたけれど。
「で、どういう症状なの?」
「熱があるのか身が昇る様で胸の音が早くなるんだよ。ずっと続く訳ではないんだけどね」
「それってさぁ…三日月のコト考えたりしてるとき?」
「よく分かったね」
[解説]
人の身となって暫く経った頃の石切さん。
次郎姐さんと飲酒中に調子が悪いと零したところ。
この後、姐さんにそれは恋心だと教えられ自覚しました。
◇六夜◇-----------------------
『星降る夜の願い事』
星々が煌めく。周りを囲む異形の軍勢。
夜戦だというのに太刀、大太刀で出陣したものだから、敵方から弓矢の強襲を受け、陣形が崩れてしまった。
立ち残るは二振り。
「やるか」
「不浄の気を払おうか」
口には出さずとも互いに願うことは同じだと併せた背中が知っていた。
[解説]
星振る夜の戦で石切さん以外は太刀で出陣したため、レア三日月と大太刀石切さんしか残らず。
コイツがいるなら勝つ(生き残る)という信頼感と負け戦になった場合でも相手だけは生き残って欲しい男のロマン的な願い事でした。
◇五夜◇-----------------------
『時間よ止まれ』
「よきかなよきかな」
小春日和の縁側で茶を啜る。気の置けぬ刀と。
「確かに。武器としての本業も忘れそうだ」
「虫干を思い出すな」
「君ね…」
「今日は少し寒いが」
手を擦ると石切に手を取られる。…人の身は温い。
時間よ止まれとは思わぬがほんの少し長く続けばいいと思った。
#幕間三条
「いわとおしー!三日月たちがいちゃいちゃしていますよ!」
「おー、いつものことではないか」
「あるじさまがいちゃいちゃはだいすきなものどうしでするといってました。ぼくらもしますよ!」
「おぉう…」
(主よ。小さきものに何を教えているんだ!)
[解説]
小春日和の春の日、縁側で日向ぼっこをしている石切さんと三日月。
しかしまだ少し寒いので暖を取ろうと三日月が手を擦り合わせていたら、石切さんが手を繋いできたので身も心も温まり、幸せなこの時間が延びたらいいなと思う三日月の話。
ただのバカップルを庭で遊んでいる今剣と岩融が見てる余談付きでした。
◇四夜◇-----------------------
『幸せになってよ』
「まさかお主の方が先に折れるとは」
土に還る様刀身を庭に埋める。
「最期の…俺に幸せになれといっておったが…幸せとはなんだろうな」
いつも二人でみていた空を見上げる。もう隣には誰も居ぬ。
「まだ俺は笑えているぞ、石切」
だが幸せにはなってはやらんと恨み言のように呟いた。
[解説]
破壊ネタ。
一緒に出陣したものの折れてしまった石切さん。
破壊前に三日月に幸せになれと言い残して逝ったのですが、いつも一緒にいた石切さんが隣にいないと幸せにはなってはあげないよという三日月の話。
刀は折れることもあるという認識があるから笑うことはできるけど、その認識がある上で自分の大事な刀だった石切さんが折れて悲しいし、一緒に居ないなら石切さんの希望も叶えてやらないというのが書きたかったらしい。
◇三夜◇-----------------------
『よくもそんな恥ずかしい台詞を』
「なぜ退かなかったんだ?」
「逃げるのは性に合わん。それに…」
石切丸が首を捻ろうとする。肩の外れた俺がその背に負ぶわれているため叶わないが。
「それに?」
「石切が屠ると思っていたからな」
信頼しているとその背に顔をつけた。
「よくもそんな恥ずかしい台詞をいえるね」
[解説]
共に出陣し少々強めの敵にあったときの話。
狩り残してもうちの旦那が残りを全部倒してくれるから退却はしなくていいという三日月の信頼と惚気に旦那の石切さんがノックアウトされているだけという。
信頼に応えて狩り切ったうえに負傷した三日月を背負って帰る男前の石切さんでした。
友情でもいける話だと思っていますが微妙?
◇二夜◇-----------------------
『惚れ直した?』
一筋で大将の首を取った。
誉れを背負い戻ると仲間に労われる。
「お疲れ様、主から活躍したと聞いたよ」
「石切よ。惚れ直したか?」
「おや、私が君に惚れているっていうのが前提なのかい?」
「ふむ、惚れておらぬのか?」
そう問えばその男は首を横へ振った。
[解説]
デキているのかいないのか微妙な時期に三日月だけ出陣して帰還時の話。
三日月のプッシュが強いのは美しい形で愛されてきた自信があるためです。
◇一夜◇-----------------------
『自惚れないで』
最後に紅色の紐を結ぶ。
「できたよ」
「すまんな」
「一人で支度を整えたらどうだい?」
「惚れた相手を着飾るのも男冥利に尽きるだろう?」
「…自惚れないでくれないかな」
「かわいいやつめ」
ふと思いついた様に三日月を振り返る。
「私としては脱がすほうが好きなんだけどな」
[解説]
お洒落には疎いので他人の手を借りる三日月。
腰紐の結びも石切さんにお手伝いしていただきますが、まだデキていないという。
出陣のたびに身支度を手伝わされる石切さんの苦言に軽口を返したら、際どい台詞を返されて一本取られた三日月でした。