アイツが俺の耳を舐るのが好きだ。
薄い唇から紡がれる拙い言葉や吹き込まれる吐息も口には出さないが気に入っている。
愛しい女性には簡単に囁けるその言葉を俺はどうしてもアイツに告げることはできなかった。
お誕生日イメクラ「執事とご主人様」
聖地の時間のなかで時の過ぎ去り方を気にしていなかった俺はその日を迎えてしまった。
気がつけば、陽も落ち始めていた。
最近は事情があって節制していたため、誕生日に愛を囁き合う女性もおらず、かっぽりと開いた時間に珍しく途方にくれる。
外界にでも行くか?と考えが過ぎるが、今日はジュリアス様が視察に行くと仰られていた日だ。
ジュリアス様とかち合うのは非常に拙い。
今日は外に行くのを諦めてオリヴィエとでも呑もうと思ったが、ヤツも勅命で出かけており、帰ってくるのはあと数日掛かることを思い出す。
フン、不貞腐れていても何の意味もない。
俺はすぐに気分を入れ替えると稽古でもつけてやろうかとランディの館の方角へ足を向けた。
俺はなぜかランディの館の門へは入ることはなかった。
ランディがいなかった訳ではない。ただ魔が差したのだ。
そう、魔が差しただけだ。
ランディの私邸の前の道をそのまま北上する。右に曲がり、垣根の隙間からよく知った裏道へと進んでいった。
「オスカー?」
その男の前に立つと俺の影がその男の読んでいた本に落ちた。
男は顔をあげる前に俺の名を呼ぶ。
「おや? 珍しいですね。いったいどうされたのですかー?」
ルヴァは本を閉じてテーブルに置く。
そして俺のほうを不思議そうに見上げた。
いい年をしたオッサンだというのに少し垂れ目のその顔は少年のような幼さすら感じさせる。
俺は構わず告げた。
「今日は何の日か知ってるか?」
ルヴァは自分の問いに応えることもなく告げられた俺の質問に戸惑いはしたが、すぐに正解を導き出す。
「あぁ…そうですね。今日はあなたの……おめでとうございます。あー……言い辛いのですが、プレゼントとか、気の利いた用意はしていないのですよ」
当たり前だ。俺に言われるまで意識すらしてなかっただろうに。
俺はニヤリと笑うと言った。
「俺に一晩付き合え」
「はぁ?」
ぽかんと口を開けて首を傾げるルヴァの頭を掴むとその唇にキスを落とす。
薄く開いたままだった口は俺の舌が入っても拒むことはせず、次第に思い出したのか俺の動きに応えだす。
ルヴァは目を瞬かせていたものの拒否はせず、俺の舌を追い、互いに吸い付く唇が心地よかった。
一度、唇を離すとルヴァの唇に飲み込めなかった液で汚れるのが見えた。
拭うこともせず乱れた呼吸を整え始めるルヴァに言い放つ。
「いいか、今夜はあんたは俺の執事だ」
「はい?」
言質はとったぞ。
俺はルヴァの疑問で放った言葉を承諾と捉えて進める。
「シツジ? あー、ウシ目ウシ科の羊じゃなくて執事ですかー……って、私が執事なんです? オスカー」
俺が頷くとルヴァはきょとんとした顔から疲れた顔をする。
「オスカー、あのですね~」
「ご主人様だろ?」
俺がルヴァを寝台の方に誘うとルヴァはそれ以上反抗することなく素直に従った。
ブーツを脱がせられるとアンダーごと取り払われ足の指先から踵にかけて丁寧にクリームを擦り込まれる。
ルヴァの指は次第に上に、脹脛を撫ぜると硬くなった肉を解す様な動きで触れられる。
油分を吸った肌は照り、ランプの明かりの中で妖しく輝く。
えらく扇情的な光景に唾を飲むと静かな空間の中に鳴り響いた。
堪えきれず俺は目を逸らすとルヴァが面白そうに笑う。
不意にルヴァが更に身を屈めると足の先からルヴァの唇で薄い皮膚の上を辿られる。
「ふふっ、ご主人様?」
趣旨を理解したルヴァは要所を押さえて俺を煽ってくる。
ルヴァの唇と指はそのまま脇腹を辿り、たまにきつく吸われる。
「アァ…」
「ご主人様は皮膚が薄いところが弱くて…」
そういって更に上へと侵略を開始したルヴァの指が黒のハイネックの上から俺の乳首を転がすと、身体全体への愛撫と期待だけで今日は初めて触れられたというのに硬く尖っており、ルヴァの指の動きによって更に大きくなる。
快楽に慣れている身体は正直で俺はルヴァに与えられる快楽に身を任せる。
硬度を増し掴みやすくなった先端をルヴァは更に弄り出した。
「あなたは左よりも右のほうが感度が高いですよね。はて、利き腕の関係でしょうかね?」
引き出しから香油を取り出すとハイネックの上から垂らそうとする。
「それはやめろ」
間髪入れずに止めると、ルヴァは俺の身に着けていたものをピアス以外取り払っていく。
その間もたまに乳首に刺激を与えてくるものだから堪らない。
「ハッ…ァ」
すっかり起立した俺のJr.に触れることもせずにルヴァの手は後ろへ回った。
いつのまにか指から滴るほど香油を塗りつけていたらしく、俺の後孔はルヴァの中指を飲み込んだ。
しばらく馴染むように突き入れられただけだったが、俺が腰を揺らしたのを合図に動かされていった。
「うーん……しばらくぶりですし。少し狭いですねー。ちょっと慣らしますね」
一本目に慣れた頃、人差し指も差し入れられ手前に軽く折られると、ちょうどソコに当たる様に擦りあげられる。
「んっ、あっ」
曲げられた指の腹がそこをやわやわと触れていく。
「ル、ヴァ、前も…」
利き腕ではないほうに前を握らせるとルヴァは湧き出ていた体液を潤滑油として上下に扱き出した。
ただでさえ欲求不満だったところに、自分が与えるわけではない刺激と開発済みの後孔への久々の刺激に俺はおかしくなっていく。
「あっ、もう、ルヴァ、はやくっ」
「はいはい、今ご希望のモノを差し上げますからねー」
ルヴァが指を抜くとカポッという音がした。
急な喪失感に俺は失望するがこの後に与えられる充足を俺は知っている。
ルヴァが香油を手に取り掌でそれを温める。
それを自身の雄に塗りたくると、締め付けるものを失いヒクついている俺のそこへ一気に差し込んだ。
「うぁあぁぁ!!」
温められた油とルヴァの体液が俺の肉を更に柔らかくする。
ルヴァが深く肉を抉るとそれさえも肉は歓びルヴァを包み込む。
「ああ…ここは私を、覚えているんですねぇ…」
忘れるわけがない。俺の身体をこんな風にしたのはアンタだろう?
「……こうやって乱暴に突かれるの、結構お好きですよね? 声、殺さなくて大丈夫ですよ。ご主人様、ほら、音聞こえていますか?」
乱暴にといってもルヴァの動きは俺に比べれば緩慢で。
やたら丁寧な愛撫が続いたせいかと意外と簡単に根元まで飲み込めて拍子抜けしてしまう。
中をルヴァで満たされて直接的な刺激に飛びそうになっていたときにそれは起きた。
ルヴァが俺の耳朶を食む。そのまま耳の穴へと舌が差し込まれる。
「ヒッ!」
「相変わらず可愛いですねえ」
なんかデジェブが……
ああ、そうだ。
俺だけがルヴァを覚えているんじゃない。
ルヴァにこのヤリ方を仕込んだのは俺だった。
俺の身体のどこに性感帯があるのか、俺がどのやり方が一番好きか。
この男はぜんぶ知ってるんだった。
「バカだな。そこは好きだと囁くべきだぜ」
中に入ったルヴァの更なる膨らみを感じ俺は大きく仰け反ると、ルヴァの熱い体液がすべて中に出し切られるまで久々の感覚に溺れていた。
ベッドに仰向けに倒れこみ胸を大きく上下させているルヴァは微笑むと俺の名を呼んだ。
「オスカー」
答えるのもだるくて俺はただルヴァに顔を寄せる。
「これからも私を覚えていてくださいねー」
直接的な言葉ではないのにこんなに恥ずかしいとは!
何と返すのも恥ずかしい俺はルヴァを抱きしめるとそのまま二回戦へと進んでいった。
End.