first love
あれは小学校一年の秋の休日、幼馴染のお姉さんが通っている学校の文化祭のチケットをもらった。
親父から小遣いをもらった俺は幼馴染と共に出かけた。
文化祭というもの自体、初めて経験で目に映るものすべてが珍しくて……いつのまにか幼馴染とはぐれた事にも気付かなかった。
「困ったなぁ……はぐれちゃった」
まぁ、帰り時間は決めていた上、その時間もあと一時間ほどだったから、しばらく回って後で校門前にいこうと露店を見て回ることにした。
大きいお姉さんたちに混じってなぜか自分と同じくらいの子が店番をしているところがあった。
関係者だろうか……
なんとなく他の店は気後れして立ち止まって見られなかったけれど、優しそうな顔立ちの同じ年くらいの子に微笑まれたので思わず近寄ってしまった。
置いてある商品は贈呈用のタオルやら皿やらに混じって見慣れないものが置いてあった。
これなんだろう?
「これきみの?」
「うん」
こくりと頷くその子に。
同じくらいかと思ったけれど少し年下かもしれない。
「このえーとも、もの?ってなにかなぁ?」
未だ習ったことのない文字を読んでみる。
「これ? これはね、モノポリーだよ」
「モノポリー?」
熱心に説明してくれる。
隅っこにくるように促されて。
「このダイスをね……」
初めてするゲームは面白かった。
ちょっとアルファベットが判らないところもあったけど、詳しく説明してもらったおかげでなんとか飲み込めた。
「このゲーム面白いね」
彼女は今まで浮かべていた笑みをもっと深くして。
「うん! 大好きなんだ」
「これね、弟が書いたんだ」
「弟?」
「うん、一つ下でね、賢いんだよ。もう文字書けるんだ」
そういって微笑む彼女に、なぜだか鼓動が早くなる。
「あら、それ売れそうなの? まぁ、可愛いお客様ね」
安くするわねと優しそうなお姉さんがいったので思わず「それください」といってしまった。
袋に詰めてくれたその子の指があたったときにはドキリとした。
会計が終わってそこから立ち去る。
振り返るとそれに気付いたその子が、手を振ってくれた。
名残惜しかったけれど約束の時間がきそうだったから。
何度も振り返った。
きっとあれが初恋だったと思う。
しかしなぁ……
てっきり女の子だとばかり思っていた。少し長めの髪に柔らかな物腰。
まさか中学に入って再会するとは思わなかった。
そしてその再会にもなかなか気付かなかったわけだけど。
再会したときにはその子はすっかり少年で。
ほんのちょっと、今更だけど失恋した気になったのは内緒だ。