あまりにもあの方が無邪気に仰るものですから少し注意を促したほうが良いと
そう思ったのです。
それがまさかこんなことになるなんて――
今日も平和な神鳥の聖地で、地の守護聖ルヴァは女王アンジェリークとのんびりお茶を飲んでいた。
ルヴァとアンジェリークがこうして二人分の茶器で一杯になる小さなテーブルを囲むのは珍しいことではなかった。
女王の執務室から一番近い東屋は女王のお気に入りとして周知されていた。
ルヴァは微かに漏れた女王の溜息とその台詞に気付いた。
「……羨ましい」
ままならないこともあるとはいえ神鳥の女王であるアンジェリークが何を羨むというのか、常であれば聞かなかったふりをするルヴァはアンジェリークに尋ねた。
「いかがなされましたか?」
「えっ! 私なにかいってました?」
自覚なしに漏れた言葉だったらしい。慌てるアンジェリークにルヴァは微笑んで促す。
アンジェリークは苦笑いすると言った。
「内緒にしてくださいね?」
そういって片頬を少し膨らませ人差し指を自らの唇に沿わせる仕草にルヴァの心臓が跳ねる。
ルヴァはアンジェリークが女王候補の頃から彼女を好きだった。
最初は妹のような教え子のような存在だった少女がいつのまにか心を占めるようになり恋する人となった。
運命の悪戯か想いを告げることは許されなくなったけれど今でも好きだった。
一時は手がとどなくなった彼女と、たとえ恋人という枠組み以外であっても、今はこうしてのんびりと二人で過ごすことができるだけでルヴァは幸せだった。
アンジェリークが話し出した内容にルヴァはため息を吐く。
あるときからロザリアがそれまで以上に綺麗になったのだという。
女王試験の半ばまではいろいろ合ったとはいえ、途中からは本当に仲の良い彼女たちをみてきたルヴァだったからアンジェリークのロザリアに対する評価は疑っていなかった。
自分は今の今まで気が付かなかったが……。
そういえば、先日補佐官とあったときに感じた違和感はこのことかと思い当たる。
確かに綺麗になったというか色気のようなものを感じた。
鈍い自分にも判る位なのだからアンジェリークのいうとおりなのかと思う。
ロザリアは良い恋愛をしているのだろう。
朴念仁のルヴァだって女性が綺麗になる理由くらいは知っていた。
「私だって綺麗になりたい!」
「陛下はそのままで十分お綺麗ですよ」
アンジェリークはルヴァの回答に不満らしい。
眉根を寄せ頬を膨らませながら更に言う。
「私だって、いちゃいちゃしたりキスしたりえっち…いえっ、お泊りしたり色々したいです!」
「は?」
とんでもない台詞を訊いたとルヴァは額を抱えるとアンジェリークが頭を振りながら言った。
「ロザリアに負けたくないんです!」
「陛下……」
そうだった。このぽよよんとした風情の女王陛下は意外と負けず嫌いで、それが試験にはうまく効果を発揮したのもあって今その王座は彼女が座っている。
このようなことで競わなくても良いのにとルヴァは唸るが、ふと閃いた。
アンジェリークは誰かに恋をしているわけではない。
ただ恋という効果で綺麗になったロザリアに負けたくなく、闘争心を燃やしているのだろうと。
こんな風に自分にいうのであれば良いが、炎の守護聖なんかといるときに発言されたら拙い。
絶対に食われる。
それだけは阻止せねば!
恋とは心理的な面だけではないのだ。それこそ先ほどアンジェリークの発言に繋がると、地の守護聖ルヴァの顔は赤らめたり青褪めさせたり忙しかった。
決して某守護聖のようにと魔が差したわけではなく、あまりにも警戒心の薄い彼女に危機感を持ってもらうため、と自分にいいわけしてルヴァはアンジェリークの頤を掴むとそのまま自分の唇と彼女のそれを重ね合わせた。
アンジェリークは驚いたのか息が苦しいのか顔を赤くしていた。
大胆な発言をするわりには初心のアンジェリークにルヴァは一度唇を離し笑って告げる。
「鼻で息をしてください」
やりかたを理解したのかアンジェリークからも押し付けられる唇をルヴァは貪った。
想像よりもずっと柔らかく甘美な唇が離れることに名残惜しく思ったもののそれを離す。
「陛下、貴女の仰られていることはこれよりすごいことをするんですよー」
少し荒治療だがこれに懲りて大人しくしてもらえればと。
脅したつもりだったというのに。
「ルヴァ……」
ルヴァに強引に口付けられたというのにアンジェリークの頬は紅色に染まり、揺れる睫にジュレを纏うエメラルドは熱を孕んでルヴァを見つめてくる。
「ルヴァ、もう一回してください」
「え」
ルヴァはアンジェリークの台詞にむせたがその背を当のアンジェリークが優しく撫でてくれる。
「……これよりすごいこと教えてくれませんか?」
ルヴァの頭の中に警告音が鳴り響く。
鳴り止まないその音を振り払うかのようにアンジェリークの白いドレスの上から左の膨らみへルヴァの手が伸びた。
恐る恐る撫でるとアンジェリークが更に身体の距離を詰める。
胸元に飛び込んできた柔らかな塊ごと抱きとめて。
拒否されていないどころか、こんなことまで許された。
嫌がられていないどころか、自分の腕の中に彼女がいる。
ルヴァはそのままドレスに手をかけようとして我に返った。
「やっぱり駄目ですよ! このようなところで貴女を奪う訳にはっ」
身体を離すと乱れた衣服を直しだす。
慌てて吐いたルヴァの台詞をアンジェリークが誤解したのは運命だったのかもしれない。
「今日、ロザリアは帰ってこないの……」
ルヴァの中で何かが弾ける音がした。
◇ ◇ ◇
女王の寝室に初めて入ったルヴァは戸惑う。
女王候補時代の彼女たちに用意された部屋には幾度となく入ったことがあるが、そのときは部屋に鎮座する寝台に何も思わなかった。
何も思わなさ過ぎて一部の同僚たちの話題についていけなかったほどだ。
それが今、女王の寝室の最奥にある寝台に身体中の血液が激しく収縮するのを感じていた。
「ルヴァ」
現れたアンジェリークにルヴァは凍りついた。
女王の執務服を脱いできたらしい。
飾りを取った黄金の髪は流れるままにおろされ肩に掛かっている。
華奢なその肩から柔らかな曲線を包む白のレースとその細い腕。
まだ誰にも見せたことがないだろう部分を隠す小さな布地も共布の純白で。
清純な印象の下着に比べて脚を覆うタイツとそれを繋ぐガーターは何故か黒い色でそれが白い肌に映えやけに艶かしい。
まだ昼間だというのに何をやっているのか自分はと思うもののルヴァは自分をとめられず。
たとえ、少女の好奇心で強請られたのだとしても好きな女を抱ける機会に男であるルヴァは食いついてしまった。
心の奥で冷静になるようにともう一人の自分が戒めるもののそれに逆らった。
「陛下……」
アンジェリークの首へ腕を回し口付ける。
分け入った金の髪がくすぐったい。
先ほどの学習の成果が出ているのかアンジェリークも応え自然と深いキスになる。
「とてもお綺麗です、陛下」
ルヴァは心からアンジェリークにそう告げるとそのまま彼女を押し倒した。
絡み合っているうちにアンジェリークの様子がおかしくなったことに気付く。
そのまま続けようとしたが、ある一点を見つめたまま固まってしまっているアンジェリークが気になり問いかける。
「どうされました?」
直立したルヴァの高ぶりを凝視していたアンジェリークが青い顔をしていた。
おそらく初めて見たのだろう。
ごく平均的なサイズのそれに怯える様は彼女が乙女だということを匂わしていて、さらに続けられた台詞にそれは確信へと変わった。
「うそ! そ、そんな大きいの!? 無理でっ」
「……大丈夫です」
口と頭はパニック状態で下半身はひけているのにも関わらず、アンジェリークの上半身はその恐怖の対象であるルヴァにすがり付いてくるものだからルヴァは思わず笑みを漏らす。
拒まれないのをよいことにアンジェリークの下半身を引き寄せ、花園へ直接侵入し小さな蕾を探す。
アンジェリークはくすぐったそうに身を捩らせたもののルヴァの指を受け入れた。
そのまま下のレースをとりはらえば、まだそこは未成熟なものの微かな蜜を溢れさせていた。
「陛下、とっても可愛いですよ」
「やだっ!」
否定の言葉を返しつつ擦り寄ってくるアンジェリークにルヴァは欲情とは別の感情を抱く。
真実彼女が愛おしい。
それを口にすることがないまま行為を再開し始めた。
指に蜜をからめ、固い蕾を入念に解していく。
指を締め付けてくる柔肉が二本目を受け入れるようになった頃、ルヴァの指がとある部分に触れるとアンジェリークが声を上げた。
「ルヴァ、そこヘン、ヘンなの!」
「おや? 陛下はここが良いのですねー。一度イッておきますか?」
「い、いくってどこに?」
アンジェリークの反応をみたルヴァがその部分ばかり執拗に責め立てる。
何もかも初めてのアンジェリークはそれを必死で受け入れた。
「やっ! な、んか……っっ!!」
「今のがイクということです。気持ち良くなかったですかー?」
初めて達し放心しているアンジェリークを抱き寄せて。
抱きたい。
ルヴァは早くアンジェリークと繋がりたかった。
アンジェリークの身体に自分を刻んで最初の男になる。
この先未来がなくてもそれだけで生きていける気がした。
「あぁ…少し辛いかもしれませんが我慢してくださいねー」
我に返りこくこく頷くアンジェリークが愛しくて。
いつのまにか三本の指を飲み込んでルヴァの手首まで伝う体液を自分のモノへ纏わせる。
すべての指を抜くとそこへ怒張した分身を突き立てた。
「っっんっっ!」
「男と女はこうして睦みあうのですよ」
アンジェリークを抱き上げ、下から突き上げる。
初めての結合にルヴァは意外と冷静だった。
痛みに耐えているその表情も可憐でルヴァとしてはもう少し楽しんでいたかったが、このまま終わらなければアンジェリークが辛いだろうと気遣い、終わらせるために動き出す。
「動きますね」
痛みを和らげようとルヴァはアンジェリークの赤い頂に吸い付き、もう片方にも指で刺激を与えていく。
甘噛みするとアンジェリークが啼いた。
「あぁああん」
自然と漏れた嬌声が恥ずかしいのか口を覆いだすアンジェリークのその手をルヴァが掴む。
「陛下のお声もっと聴かせてください…」
「やっ、はぁ、んっゃぁ…」
アンジェリークの未開拓だった狭いそこがルヴァを受け入れて温かく包み込む。
ルヴァは夢中で腰を使った。
吸い付いてくるような感触を味わうとルヴァは男が女に溺れるのが理解った気がする。アンジェリークのことがすべて支配でき何もかもが理解った幻影を抱く。
アンジェリークからそれを告げられる前までは。
「ルヴぁ、っ……好き…ずっと好きっ」
一段ときつくなった締め付けに耐え切れず、ルヴァはせめて外に吐き出そうと思っていた欲望をそのままアンジェリークの最奥へ放った。
◇ ◇ ◇
疲れきって動けないアンジェリークを綺麗にした後、自分の欲望と破瓜の証がついたシーツをみてルヴァは一人で赤面する。
なんてことをやってしまったのかと思うものの後悔を上回る幸福感は否定できず。
眠ってしまったアンジェリークの耳元で囁く。
「私もです、アンジェ」
ルヴァは幸福な疲労と戦いつつ、明日からの算段を考えて冷静に頭を働かせていった。
HappyEnding?