川縁を飛蝗が跳ねる。
それはまるで僕の心のようだった。
熱すぎる夏が終わって、珍しく河村から誘いがあったものだから予定すら確認せずに快諾した。
「ホントは皆でこれたらよかったんだけどねー、親父からもらった券2枚しかなくてさ」
そう困ったように笑いながら頭を掻くキミと。
鼻腔を満たす硝煙の臭いと、生温い風。
河村の家がある街の花火大会。
どうやらその街でお店をやっている都合上入っている商工会議所の関係で、花火大会の閲覧席が手に入ったらしい。
河村の妹は母方の田舎に帰っているらしく、好きな子でも誘えと親父さんから渡されたらしい。
僕はただ幸せだった。
もう少し手を伸ばすときっと指に触れる。
僕より一回り大きいその手を触れたくて。
そっと手を伸ばそうとするとまだ明るいことに気付き躊躇する。
そして置き場のない手がそのまま宙に浮いた。
「このスペースちょっと狭いね」
そういってキミが笑う。
「そう?ちょうどいいよ」
汗で張り付いたTシャツの背中を彼の背にくっつけて僕も笑う。
打ち上げ場にも近いせいか、音と歓声で耳元に近寄らないと相手の声も聞こえにくいせいか、近所のカップルや親子連れは皆その距離を詰めていた。
黒い空に赤や黄色の光が舞いだすと歓声が聞こえる。
夏の空に更に花が咲く。
更に大輪の花に湧く歓声に包まれた。
今なら誰も僕たちを見ていない。
そっと手を伸ばし、河村の手の上に僕の手を被せた。
キミは途端に暗闇でも判るくらい赤く染まったけれど。
そのままそっと僕の指を握り返してくれたのは、
あの夏の思い出。