窮鼠猫を噛む。
万事休す。
絶体絶命。
いやどれでもない。
俺は自分より強い男に会ったときでも、こんなに伝わることのなかった汗を拭きながら背を伸ばした。
「オスカー」
「はいっ!」
おっと、俺としたことが思わず、ルヴァ相手なのにも関わらず敬語になっちまったぜ。
「これはですね、たった今貴方が駄目にしたこの本は……惑星β系星暦3500年前の大変希少な、もうこれしか現存しない本だったんです。そうですねぇ……貴方の館が一軒立つくらいの価値のある書物なんですよ!」
こんなに怒っているというかキレたルヴァを見たのは初めてだった。
すぐに終わるかと思われたこの遊戯は思っていたよりも長引いていて、俺はルヴァとそれなりの時間をそれなりの頻度で過ごすことが多くなっていた。
束縛されない。
永遠(とわ)の約束もない。
ただ一緒にいるだけ。
それが心地よかった。
これが悩ましいレディとであれば、そんな関係は物足りなかっただろうが、何故か俺はルヴァとの関係に満足していた。
四六時中一緒にいるわけではないが、恋人と呼べるそれなりの時間をルヴァと過ごしてきて俺はこの男を理解していた。
否、理解していたつもりだった。
ところが、ルヴァが本気で怒ったところに遭遇したのは実をいうとこれが初めてだった。
いつもはどちらかというと困ったような怒っているのか何なのかよく判らない怒り方をする男が。
どんなに俺が女の匂いをさせてきても、
男のプライドを擽る発言をしても、
一向に気にしなかったあのルヴァが、
たった一冊の本で。
こんなに激昂するとは思わなかった。
いつものようにルヴァの館に忍び込んで、溢れる性欲を発散しようと寝室へ向かう。
ソファーに座って本を読んでいたルヴァを確認すると後ろから忍び寄る。
ちょっとした悪戯だったのだ。
後ろから掻き抱くと驚いたルヴァが慌てて振り返る。
タイミングが悪かった。
ルヴァの持っていた重そうな本が飛び、ナイトテーブルに置かれていたガラスの水差しにぶつかり嫌な音を立てて割れる。
その水を吸った古書は与えられた衝撃に逆らえず破れた。
青褪めて呆然としているルヴァに謝罪する。
「あーすまん」
状況を把握し始めたルヴァがいつもは笑って細められているその目を見開いている。
これはまずったな……
流石に拙いことをやってしまったと考えて顎に手を当てて弁明を考えた。
ふっと笑って口付けられる。
機嫌が直ったのか?
さっきの今でそんなバカな、と思いつつルヴァの唇を味わおうとしたところで、唇をこじ開けられると何かの塊を飲み込まされる。
常であればそんな怪しげなもんは絶対に飲み込まないのだが、ルヴァの雰囲気に押されて飲みこまざるなかった。
舌の奥で留めておこうとしたけれど、ルヴァの舌で更に奥へと挿し込まれて。
ごくりと飲み込んでしまった。
なんだこれは。
「えー、同性愛者の男性向けの誘淫剤です。先にいっときますけど前の媚薬よりももっときついですから」
そうにっこりと微笑むルヴァに背筋が凍る。
なんでそんなものを持っているんだ!
おまえはホモかと返そうとして気が付く。
コイツは俺の恋人だった。矛盾していない内容に気付きそのまま押し黙った。
「あー、明日はきっと貴方の足腰が立たないでしょうし。とうとうジュリアスにバレてしまうかもしれませんねぇ」
にこにこと柔和に笑うその顔に別の男の面影を見て、背の毛が逆立った。
「毎度のコトながら反応が良すぎますよねー」
つんと勃ち上がった桃色の頂を押し潰しながら、ルヴァがいう。
既にはビンビンに勃ち上がった下半身は無視され、上半身だけ愛撫される。
俺は下半身に血が集まるのを遣る瀬無く見ている。
セックスするときのルヴァはマイペースだ。
まるで子どもが興味深い物体を触るときのように、乳首をくりくりと指で摘まれる。
「あぁぁ」
開発された膨らみは血が溜まって赤く染まっている。
「こんなにとんがって。ほらっ、快楽を示してますよ」
ルヴァの声色は熱に浮かされることもなく、いつも通りののんびりした口調だった。
「先のほうもすごく気持ちいいんでしょう?」
胸だけしか弄られていないのに、俺の下半身の先端は天を向いて聳え、蜜を垂れ流している。
治めることも拭き取ることもできず、重力に逆らえず体液は内腿を伝い後ろに流れた。
自分でいうのもなんだがイヤラシイ眺めだった。
「貴方には罰が必要ですね」
股を割られて自分の手で開脚されるように固定される。
促されるまま俺は手を脚の後ろから回した。
屈辱的な姿勢だったが仕方がない。
少しの罪悪感と身体の反応で俺はルヴァの促すまま動く。
筋まで浮いている中心の先走りを親指に絡めつつ、ルヴァの足の腹で根元から擦り上げられる。初めは緩く、徐々に強く。
快楽に浸っていると反ったモノにルヴァの足で下から強く踏み付けられる。
「やめ! お、折れ、うあっ…る」
「そう簡単には折れませんよー」
そういって再び足を上下に動かし始めるルヴァに俺は翻弄される。
調子に乗ったルヴァが糸を引いた足先をペニスから外すとそのまま下へと辿っていく。
袋の後ろから徐々に後ろのほうへと蠢くが肝心なところには触れない。
俺の内腿は痙攣して今以上の快楽を待ち侘びていた。
「ああぁ…ッ」
「オスカー? 悦ばれると罰にならないじゃありませんか」
性器を足下にされて身悶える俺をルヴァは心底呆れたように見下ろしてくる。
「はぁあああ」
「ああ、後ろがまだあいてましたね…」
ルヴァの言葉に俺は反応する。
なぜなら既に俺のケツ穴は排泄口だけではなくルヴァのための性器となっていたからだ。
刺激を求めてきゅっと力が入った後孔は、妖しく蠢きだす。
疼き出した肉壁をルヴァは一瞥したものの、そこに指一本触れることなく言った。
「だけどこれはセックスじゃなくて罰ですから」
ルヴァの言葉に俺は失望した。
待ち望んでいたモノを得ることが出来ずに力を落とす。
拘束されている訳でもないのに身体の自由が効かないのはさっきの薬のせいか、目は良い筈なのに薄ぼんやりとしかみえなくなったルヴァを睨む。
少し怯んだようにみえたのは気のせいか?
「そんな切なげな瞳でみつめられても……これは罰ですからねぇ」
切なげ?
俺は睨みつけただけだぞ?
ルヴァはさっきまでの冷徹な表情を少し緩ませ、こちらを見て照れたように笑う。
更に俺の息子をその足で嬲り出す。
吐き出された欲望をルヴァの足の指から溢れさせ、器用とはいえないルヴァの足の動きがまた俺の想定を裏切り、快感を呼び起こす。
足の平から伝わる温もりと刺激に俺の中心はだらだらと先走りを溢れさせ、筋は血の動きとともにびくついている。
「しかし、こんな目にあって、おっ勃てているなんて…オスカー、貴方は本当にマゾフィストというか……」
「ルヴァ、挿入れてくれ!」
ルヴァの責め句を遮って、何度もしたことのある懇願を、今日はより一層の剣幕で伝える。
薬が本格的に回ってきたのか…
身体の内部から、脳から、凄まじい熱がくる!
熱いのを通り越えて痛い。
昨日今日で覚えた味でもないのに欲しくて堪らない。
その細い指で、いや、足の指でもいいから挿入してかき回して欲しい。
できればその熱い楔で突き上げてほしい!
狂いそうだった。
前のワインも凄かったが、と思い出すと羞恥と憤怒で何ともいえない感情に支配されそうになる。
しかし、今回は意識がはっきりして分たちが悪い。
身体だけが快楽に支配されるタイプの薬らしく、意識も飛ばない。
飛ばないが冷静な分、高まっていきすぎる身体を持て余す。
俺はルヴァの腰にしがみ付くと、下衣を脱がし、飛び出たモノに食らいついた。
まだ柔らかいそれを俺は必死で貪る様に口へ含んだ。
根元まで咥え込んで唇と舌と喉をすべて使い、硬くしていく。
何とかルヴァをその気にさせなかれば……
腹につくくらい勃起した自分のをルヴァに腰にこすり付けて、溢れ出す先走りをルヴァに塗れさせる。
男の味は女の味より微妙な感情をもたらしたが、それでもこれは俺を最高の快楽へと導いてくれる存在だ。
鈴口からまるっと飲み込み、仕上げにきつく吸い付くとルヴァが啼く。
「あぁ…」
ルヴァの唇から漏れた吐息と嬌声に俺は笑った。
俺の勝ちだ。
喉に突く熱い塊を強く吸うと根元から舌を使い仕上げていく。
準備の出来たルヴァに満足して俺は圧し掛かった。
快楽に支配された身体は平衡感覚がおかしくなっているのかバランスが悪く倒れこみそうになる。
ルヴァは慌てて俺の身体を支えた。
しかし俺の重みを支えきれずふらついている。
こんなに頼りない酷い男なのに、それでも信頼して身体を任せられる理由を俺は知っていた。
やっと得た獲物を、先から味わうように腰を落とす。
俺の唾液とルヴァの先走りを使い、一番太い部分を飲み込むとそれは俺の中へぴたりと収まった。
「んっ…」
常であれば少しの痛みを伴う行為であったが今の自分にはやっと水を得た魚のように歓喜のみが広がる。
早くその味を得たくて腰を使い出すと、ルヴァもやっと興に乗ったのか合わせて動かしてくる。
ルヴァに貫かれた俺の身体はしなった。
「ぁん」
中から掻き回されて、それに合わせて腰を上下に動かすと肉のぶつかる音がする。
尖りきった乳首をルヴァの胸板に押し付けて、漲る中心をルヴァの腹に押し付けて3点を同時に刺激する。
くるっ…
「イクっ」
トロトロとした体液を噴出してルヴァの腹へと撒く。
ルヴァを締め付けると代わりに身の内にルヴァの熱い精液を受け止めた。
熱い熱が通り過ぎると、さきほどより思考がクリアになってきた。
「あー…オスカー、これじゃちっとも罰にならないじゃないですか…」
そう溜息を吐いて肩を落とすルヴァに俺は口付ける。
自慢じゃないがキスには自信がある。
より深く味わうように舌を侵入させるとルヴァの舌も絡んでくる。
本気になったキスに俺は再びほくそ笑んだ。
結局、いつも通りルヴァの精気を2度ほど搾り取った。
たまにはこういうプレイもいいもんだと漏らしたら、ルヴァに恨みがましい視線を受けた。
その後珍しく続けてヤることになり……
翌日、ルヴァの予言通り立てなくなった俺は休暇をジュリアス様に願い出た。
『二人』分の休暇願いにジュリアス様は首をひねっていたと使いにやった者に訊いたのは後の話だ。
つづく