油断した。
迂闊にもそんなことを思いながら、床柱に背をつけて深く息を吸った。
隊長を任された遠征も無事終わり、宵まではまだまだ時間があった故、身を清めてから午後の加持祈祷でも行おうかと湯殿へと通じる露地を通ると縁側で茶を飲んでいた鶯丸に話しかけられた。
「石切丸、今帰りか?」
「ああ、問題もなく終えられたよ。しかし疲れたねぇ」
大げさにいい自らの肩を叩くと鶯丸が小さな袋をこちらへと放り投げた。
慌てて手を伸ばし、何とか受け取ると鶯丸は笑う。
「鶴丸から貰った。元気がでる薬だそうだ」
「くれるのかい?」
「俺は疲れていないからな」
鶯丸へ礼を告げ、湯殿へと向かう。
正直嫌な予感はしたのだけど、五条鶴丸が鶯丸に渡したものであれば(この二振りは意外と仲が良い)大丈夫だろうと、身を灌いだ後自室に戻り、冷茶でそれを流し込んだ。
……予感には従うべきだった。
飲んで数十分、私は自分の意思とは異なり変化を示す身体に驚く。
確かに元気になったけど……想定とは異なる部分であった。
こうなってしまえば男型とは不自由なもので加持祈祷どころではなく、どうにかやり過ごそうと布団を敷こうとしたけれど歩くたびに擦れる袴のせいで私の石切丸は硬度を増していくため断念する。
自室の床柱に凭れ変化の原因を考える。
どう考えても五条鶴丸の薬のせいに違いない。
熱が冷めたらどうしてやろうか。
そんなことで気を紛らわせていたけれど。
途中からはそれすら考えるのが億劫で膝を立てて蹲る。
心の臓がどくどくと音を立て急激に鼓動が早くなっていくのが分かる。
身が熱く、中心は今まで見たことがないほど立派に反り返っている。
鋼が子孫を残すことなどないというのに。
命の存在と釣り合わない皮肉を感じるが、思考ももやがかかったようにぼんやりとしており、
鋼の頃に感じた身と意識の乖離のようでよい気分ではなかった。
欲を吐きたい。
御神刀たるものそんな煩悩に負けてどうするとは思うが、肉の身とは弱いもので欲に支配されそうになる。
抗おうと必死に祝詞を口遊む。
祓い給え……清め給え、と。
「石切丸、はいるぞ」
突然、障子が開くと三日月宗近が入ってくる。
私は驚きのあまり後退ろとするが既に柱を背にしていたため適わず。
三日月は私と同じ三条の刀で共に過ごすことも多いが、普段は流石に三日月とはいえ、先に声をかけずに私の私室へ入室してくるなんてないことだったから驚いた。
私の様子を確認した三日月はその美しい顔を盛大にしかめると尋ねてくる。
「鶴が持ってきた物を飲んだのか?」
三日月は五条に対して気安い。
元々五条は三条の傍系に当たるからか、鶴丸自身と気が合うのか、三日月は鶴丸に対して私たちへと同じくらい親しみをもって接していた。
すぐこのような言い方で五条鶴丸のことを話す。常であれば全く気にしないところだが、余裕のない私にはひどく気に障った。
「放っておいてくれないかな!」
私の返事を聞いた三日月は机の上の小袋と私の身の変化を確認して告げる。
「では、やるか」
そういって腰をつけている私の視線に合うくらいにしゃがむ。
人型をとってから大分時間が経っている。
私の身の変化が何を表しているのかは理解している筈だ。
「ッ! 冗談は……」
「そのままでは辛かろう? 別の派の短刀や脇差に手を出されて三条の名が落ちるよりは良い案だと思うんだが」
三日月の言葉に血の気が下がった。
どうやら私が思っていたよりも三日月は刀派を大事に思っているようで、私の処理を行うことをまるで何とでもないようなことを言うから、私も身の熱さに任せて少し昂ぶった声で言った。
「へぇ? 天下五剣の兄様が私の相手をしてくれるというのかい?」
私の言葉に三日月は少し心痛な面持ちを作る。
そんな顔をさせたいわけではないというのに。
これでは私が悪いみたいじゃないか。
近寄ってくる三日月を静止しようと手を掲げる。
だけど、三日月はそれを了と取ったようで、私の手を掴むと懐に飛び込んできた。
緩められた帯と袴と脚の間に天下五剣たる刀が跪き、私の性器をしげしげと眺めていたかと思うと口に含んだ。
「三日月!」
いきなり深く食いついたせいか、口のサイズにそれが合わないのか、咽て涙目になる三日月の背を擦ると三日月が私を見やる。
「人も刀も大きいことはいいことだ。だがこれは大きすぎて俺の口では無理だな」
そういって三日月が私のそれから口を放したのでほっとする。
少しだけ、少しだけ残念な気がするけれど、私は兄弟も同然の三日月を犯す気はなかった。
油断したところに勃起したそれを今度は手で握られ、横に抑えつけられた身の、三日月の手で覆えない部分を唇で愛撫される。
萎えない私の化身は私の心情とは裏腹にそれを喜び、歓喜の涙を流す。
三日月は満足そうに笑うと更に手と舌を動かした。
ぴちゃぴちゃと水気の音がする。
もう限界なほどに筋が浮き上がって、いつのまにか天辺まで来ていた三日月の舌で小さな穴を刺激される。
「ンっ!」
薬の影響下にある肉の身は制御ができず、慌てて身を引こうとすると三日月には意図が伝わらなかったのか、いや、伝わって抵抗されたのか。
「あゝッ」
常よりも数倍の白の体液が三日月の美しい顔を汚すのを霞がかった意識の中で見た。
「はははっ、ここまで飛ぶとは」
三日月は顔を汚した体液を指で絡めとるとそれを舐めた。
「な、なにしてるんだい?」
「ふむ、旨いものではないな」
当り前だろうと続けようとして三日月が笑ったことに気が付く。
視線を辿れば。
「一度出したくらいじゃ収まらんか」
欲を吐き出したというのに全く硬度を失わない私の分身を見て三日月は自身の胸の金の防具を外していく。
届きにくい後ろ紐を外すのを強請られて普通の人間の情事みたいだと思いつつ、もう抵抗することはなかった。
初めて斬るのではなく触れた肉はとても柔らかで鍛え上げられた筋は美しい。
壊してはならないものだからそっと三日月に触れていく。
まらは血がまた溜まって腹につくほど起き上がっていたが、私は三日月を壊さぬよう知る限りの知識を動員して身を暴いていく。
恐る恐る挿しいれた指一本で掻き回す。
「石切や、初めてでもない故、もっと乱暴にしてもかまわんぞ」
三日月が私を気遣って告げたと思われるその言葉を聞いた私は身体を満たす情欲も刹那忘れて、身を焦がすような想いに囚われる。
急に止まった私に三日月は首を傾げる。
さらりと流れた藍を帯びた黒髪や桜色に染まった白磁のような肌が見える。
これに己ではない何かが触れたのかと思うと身の内が騒いだ。
その不穏な感情を抑えようと首を振ると、三日月の頬を傾け無我夢中でその口に吸い付いた。
柔らかな唇同士が触れ合う。
慣れているのか慣れていないのか。
不慣れな様子でたまに当たる歯の音に三日月は照れ臭そうに笑った。
しかし、三日月のそこは互いの先走りだけで私の指を二本も飲み込む。
三日月も平気そうな顔をするから壁を広げていた指を四本に増やすと濡れた頭を挿し込んだ。
「ひっ!」
私の背に回った三日月の指が私の背を抉るけれど背の痛みよりも繋がったことに対する悦びのほうが大きく気にせず貫き通した。
私の性器を受け入れた三日月の後孔は捲れ上がり限界を告げている。
動こうとすれば三日月の腰が逃げて、また近づく。
「ぃ、し、石切丸……」
仕方なく私に抱かれている筈なのに。
三日月の私に縋るその手や。私を見つめるその目に恋慕のような色を感じて戸惑う。
思い違いだ。
そう思うにはあまりにも都合のよいことが思い浮かんだ。
三日月の額には玉のような汗が浮かんで、ぎちぎちと肉を割るのが辛いのか、目元には汗ではない水滴が散っていてる。
ふと嫉妬心でも欲でもない何かがこみ上げてくる。
血流は先程までと変わらず動いているのに不思議と心が凪いだ。
三日月の目元に口付け、水滴を舐め上げると、三日月はなぜかもっと泣きそうな顔をしてこちらを見上げてくる。
馬鹿なことを考えるな。
三日月は最初に私に告げたじゃないか。
三日月の中は私をぎゅうぎゅうに締め上げ、媚薬によって齎された熱よりも遥かに熱く。
「ハッ」
射精が終わるまで三日月の腰を押さえつけて注ぎ込む。
出し終えてもいつまで経っても硬度が変わらない身を三日月の胎内に擦りつけて。
何度も抽挿を繰り返せばぎっちりと受け入れる肉も柔らかくなってくる。
「うぅ…」
快楽を追えば三日月に負担がかかることは頭の片隅にはあった。
慌ててすっかり萎えてしまった三日月の前張りを撫で上げると痛みに耐えていた三日月が叫ぶ。
「石切! 俺はいらんぞ!」
三日月は私を止めようとするけれど根元から何度も愛撫すると男型の宿命か硬く聳え立つ。
敏感なのか頭を数度せめれば白濁を放った。
「あぁぁぁぁぁ」
後孔と繋がっているらしく、三日月が達したときに繋がっていた部分が収縮して。
私は何度目か分からないほど子種を三日月の中へ注ぎ込んだ。
「一度、退け」
息苦しいのか呼吸を乱しながらいう三日月に私が素直に体を引けば。
ぽっかりと私の形に開いた三日月の後孔から太ももを伝う白の残滓が流れた。
それを見ると、まだ燻っていた欲望が形を持ち出す。
名残のせいで抵抗も少なくなった三日月のそこを後ろから再び貫く。
「待てっ! さっき気をやったばかりッ!」
三日月の口を吸って抗議を収める。
私は刀では塗れることがなかった様々な体液に塗れながら何度も三日月の中へ欲を放った。
☆
翌日、腰といつもは使わない部分の身が痛く起き上がるのも億劫で。
起きるとなぜか私の顔をじっとみていた三日月と目が合って慌てて詫びを告げる。
「すまなかった」
と頭を下げれば。
私の言葉にどちらかというと愉しげだった三日月の顔が蒼褪めたが赦しの言葉を得られる。
「かまわんさ」
「あっ……」
そそくさと簡単に身支度を整えて出て行こうとする三日月の腕を思わず掴んだ。
「どうした?」
「いや、あの……」
口ごもる私に三日月は短刀たちにするように頭を撫でた。
「なんだ、もう一回するのか? もう熱は治まっているだろう?」
すっかり静まった私の下半身を見ながら笑う三日月に私は何もいうことができない。
「そんな顔をするな。一夜みた夢の話と思えば良い」
そういって去る三日月を私は今度は止められずに茫然と見送った。
蛇足的な次の日