『最近の若者は…』
と思ってしまうのは、自分が年を重ねたせいかもしれない。
そう考えて光の守護聖ジュリアスは深く息を吐いた。
最近交代した鋼の守護聖ゼフェルについて光の守護聖ジュリアスは頭を痛めていた。
守護聖交代時の惨状を思えば同情もなくはないが、サクリアが目覚めた際には大なり小なり葛藤は抱えるものだ。
それを乗り越えるのが守護聖としての最初の課題である。
守護聖としての自覚を得て、初めて女王を、宇宙を支えていけるのだ。
そして自覚し、女王に忠誠を誓った守護聖をまとめるのが首座の仕事だとジュリアスは思っている。
それなのにゼフェルは自覚どころか拒絶と否定の日々だった。
ジュリアスも首座として、またかつてそれを乗り越えてきた先達としてゼフェルを見守ろうと考えていたが見過ごせない状況になった。
もっとも最近は以前のように反抗的ではあるものの落ち着いてきたと聞いた。
地の守護聖ルヴァが教育係となってからゼフェルも安定したのだろうとジュリアスが最も信頼を置いている炎の守護聖が述べていたのはつい先日のことだった。
ルヴァをゼフェルの教育係に指名したのはジュリアスだった。
大らかで気のいい緑の守護聖の指名も考えたが、あれの遊び好きのところが影響されても困る。
それよりはと素行の真面目なルヴァに決めた。
この決断が良きものとなることをジュリアスは期待していた。
「あなたも大変ですねぇ」
「ルヴァ…」
のんびりと苦笑いを浮かべたまま向かってくる男にジュリアスは視線を向ける。
地の守護聖ルヴァ。
髪には故郷の風習だというターバンを巻き、砂除けする必要もない聖地で砂防の仕掛けのついた服を執務服としている。
今日は土の曜日。火急の用がなければ休息日である。
ルヴァは薄い色のついたターバンと執務服よりも簡易な形状のローブを纏っていた。
ルヴァはジュリアスにとって不思議な男だった。
闇の守護聖であるクラヴィスと緑の守護聖カティスを除けばルヴァとはそれなりに付き合いが長い。
炎の守護聖オスカーとのように気が合うわけでもなかったが長きに渡る職務の結果一緒にいることが多く、年若い守護聖たちよりかは幾分か気を許した関係だとジュリアスは思っていた。
という訳で、ジュリアスは休息日だというのに執務室を訪ねてきたルヴァを見やると用件を促した。
ここのところ宇宙に問題はなく、執務も通常通り特定の守護聖の分が少々溜まっているだけだ。
それも昨日代行可能な守護聖に振ってあった。
その代行の一人であるルヴァがこうしてここにきたということは何か問題でも起きたのか?
しかしそのような用件であればルヴァは淀みなくジュリアスに伝えだすと思うが、何故かルヴァは言い辛そうに苦笑いを浮かべるのみであった。
しばらく「あー」だの「えー」だの唸っていたルヴァだったが急にぽんと手を叩くとさらにジュリアスの傍に近寄ってくる。
「最近お疲れなのではありませんかー? ほら、こんなに硬くなって」
ルヴァがジュリアスの背に触れて、柔らかなトガ越しにその背中を撫で上げる。
ジュリアスも本日は執務服ではなくいつもよりも飾りの少ない格好をしているため、ジュリアスの白い首筋や背を守るものは薄い布だけしかなかった。
ルヴァの手から布越し伝わる温度がジュリアスを妙な気分にさせる。
ジュリアスはその気分を良き予感と捉える捕らえるか嫌な予感と捕らえるか迷っていた。
思案していたジュリアスにルヴァから続けて声がかかる。
「ほぐしても?」
「ああ…頼む」
ルヴァは新しい知識を得ることに至上の喜びを感じるタイプらしく、少し前には書物で知ったという辺境の惑星に伝わる人体の筋肉を調整し身体の歪みと疲れを取る方法をかなり熱心に学んでいた。
ルヴァは手先のほうはそう器用でもなかったが、仲の良い緑の守護聖や夢の守護聖相手にその技を磨き、今では現地にいる職人と同じくらいのスキルを得ているだろうという話だ。
ジュリアスもそれには同意していた。ジュリアスもルヴァの手技の恩恵に与っていたからである。
執務室の少し奥まった続き部屋にあるソファに腰をかけ、ルヴァの手がジュリアスの凝った体を解していくのを見ながら思う。
ルヴァとは気が合うわけではなかったが、ジュリアスはルヴァが嫌いではなかった。
膨大な知識に聡明な頭脳、穏やかで人物的には問題が少ない。
ただもっと積極的になれば大成する男だろうに控えめ過ぎて表に立つことがない。
他者に促されて躊躇いつつ意見を述べる様子は苛立たしい。
その意見や話がまた的を得ているものだから難儀なものだ。
自己主張は控えめで仕事はきっちりとやる。
そのようなルヴァは一部の者に利用されやすかった。
そうして厄介ごとをすべて抱え込まされて、慌てている様子をジュリアスは何度も見てきた。
その殆どがジュリアスが命じたり、首座のジュリアスに頼めずにいた者が回した案件であることに、ジュリアスは気づいていなかったが。
気も漫ろにいると白く長いものが額に触れた。
ルヴァの指が額を這う。緊張したこめかみを少し強く押されると痛いが気持ちが良い。
弛緩していく身体に自身の疲労も開放されていくことが分かった。
ジュリアスのサークレットをルヴァは取り外すと豪奢な執務机へ置く。
額や背や肩に触れていた手がいつの間にか腰や尻に回され、別の意図を持ち始めたのに気付いたときには遅く、ジュリアスはルヴァに抱え込まれていた。
「まて! 今はまだ昼だぞ!」
「ふふふ、あなたが待てないんじゃないですかー? ジュリアス」
そういってルヴァがジュリアスのトガを捲りあげると、その白い陶器のような肌が現れる。
ただの手技療法であったのにジュリアスの身体は過剰に反応しており、中心に血が集まっている。
張り詰めたその硬さをルヴァは笑ってみていた。
ルヴァは白の中に二つだけ赤くなっている尖りを口に含むと舌で重力をかけた。甘噛みすると尖りはさらに硬く赤く色付く。
ジュリアスの首元に当たる柔らかなトガが触れるのがくすぐったい。
柔らかな責めから逃れようと身を捩じらせるとルヴァの手が後ろに回った。
「やめっ」
「ここもほぐしますね……こんなに緊張してかわいそうに」
ジュリアスは人の話をきかんかとルヴァを睨み付けてみたもののルヴァは飄々とした様子で進めていく。
ルヴァの片側の手で尻たぶから体幹に向けて肉を揉み解されて、ジュリアスの身体が解されていくが下肢の男の部分は硬くなっていく。
滑らせられる指先がそこには触れられず歯痒い。
「ッ!」
ルヴァの手がそれを包んだときには息を飲んだ。
ルヴァが指を使い、それを掻き出すとただ声を漏らさぬように唇を噛み締める。
休息日とはいえ、今は昼でここは執務室だ。
特に隣に聞こえると色々拙い事情があった。
「ふっ、はっ」
それでも漏れる声を慌てて殺した。
緩んだ筋肉は再び緊張を強いられる。
カチカチに張り詰めた中心をルヴァの細い指で押し込められ、余った別の手の指がジュリアスの中に入ってきたからであった。
細いとはいえ男の指を押し込められて圧迫感に耐えるが、暫くすると柔軟にのみこんでいく。
中心から垂れた体液がルヴァの手とジュリアスの尻を伝いぬるつかせる。
べたつく中で柔肉も解され手前側を絶妙な感覚で刺激されるとジュリアスはもう耐え切れなかった。
「アッ……ッ!」
張り詰めたものが解かれ、余韻に浸っているとルヴァと目が合う。
「あー、あなたもお疲れのようですし……今日は挿入れずに済ませましょうか」
ぼんやりとした意識の中で告げられた言葉の意味を認識すると、ジュリアスはルヴァを凝視した。
おそらく善意で言われているのに関わらず、悪魔の囁きに聞こえる。
自分からルヴァに強請る行為はジュリアスの辞書にはなく、その矜持からしても難しい。
ただ煽られて沸点に達している自身の欲を持て余すことなく処理できるのか、ジュリアスは葛藤していた。
ジュリアスの瞳の色が巡るましく変わるのをルヴァは面白そうにみつめている。
「ここ貸してくださいねー」
ルヴァの手がジュリアスの先走りに塗れて卑猥な音を立てていた。
自然に伝わった体液だけではなく、手についたものもジュリアスの内股に塗り込められる。
そこに勃ちあがったルヴァの中心が差し込まれた。ルヴァの熱い熱がジュリアスの内ももを蹂躙する。
溢れ出るぬめりが内股を這うとそこは性器ではないはずなのにジュリアスに快感を与える。
ルヴァは気持ちよさそうにしているがジュリアスにとってはそれはもどかしい快感で、それより強い快楽を知っている窪まりには柔らかな刺激だけしか与えられず、ジュリアスは苛立つ。
中途半端に熱を受けた窪まりが何かを求めて蠕動するのが遣る瀬無い。
「あれ? ふふっ」
ジュリアスの下肢を見て笑うルヴァをジュリアスは睨み付けるが、ルヴァは肩を竦め苦笑いするのみだった。
いつもの意趣返しなのかと思い、表情を伺ったがそこにジュリアスを卑下するような色はなく、いつもの地の守護聖だった。
初めてこの行為を受けたときは羞恥と怒りに震えていたものだが、受け入れてしまえば何のことはなかった。
そのときを思い出し、ジュリアスは葛藤の末にルヴァの身体を引き寄せる。
ルヴァはほんの少しの間、思案していたが下肢の覆いを緩めてジュリアスに告げた。
「えーと、ジュリアス。脚を広げてください」
促されるまま大きく前を開くとルヴァの身体が覆いかぶさってくる。
散々焦らされたところへ待ち望んだ熱い塊がジュリアスの中へと入ってくる。
ジュリアスはそれを飲み込んでいく。
ジュリアスは知らずうちに笑みを浮かべていたがそれを見たのはルヴァだけだった。
「もっと全身を預けてもらって構いませんよー」
含みのない満面の笑みで告げるルヴァにジュリアスは呆れつつも、自らの腕をルヴァの背に、足をルヴァの太ももに絡ませしがみつくと、挿し入れられているモノが大きくなった気がした。
与えられる優しい律動に我慢できずにジュリアスは自ら腰を振って激しいものへと変化させる。
次第にルヴァの動きも早くなり満足したジュリアスはルヴァの腰を脚で引き寄せ、より深く繋がろうと絡みつく。
「アアッ」
この行為に特別な感情なんて存在しない。
ただの同僚であり、仲間である。
行為自体も性衝動を互いに処理しているだけであるとジュリアスは考えている。
特別なものは何も存在しないが、他の守護聖には見せられない顔をみせてしまうのはなぜか。
何事も結論を早急に求めるジュリアスであったがその問いに答えを出すのは先送りにすることにした。
「いい子ですね」
熱も発散され、力の抜けた全身をソファーに預けているとルヴァに頭を撫でられた。
同格の男に子ども扱いされて、怒るべきところを怒る気になれず顔を背けたが、ルヴァに顎を掴まれて口付けられた。
澄んだ灰色を見るのが気に食わず瞳を閉じた。
「ンッ」
時間を置いて唇が離されると透明な糸が伝わる。
ルヴァはそれを指の腹で拭うと言った。
「あなたに祝福を。今年も豊かな大地の知恵があなたを満たし実り多きものにならんことを」
「……知っていたのか」
自らの誕生日を祝われてジュリアスは戸惑う。
瞠目したがうろたえているのを悟られたくなく目を伏せた。しかし、答えられた内容にルヴァを見た。
「あなたとは長い付き合いですし、ね?」
にっこりと目をなくして笑うルヴァにジュリアスは息を呑む。
『最近の年寄りは…』
食えないやつが多いと続けようとして自分はそうではないと思い直し、ジュリアスは唇を噛んだ。