「ユウジ先輩かて、小春先輩にヤラせてもらわれへんのでしょ」
それが恋じゃなくても
追い出し会の準備で遅くなり、憎らしいけど可愛いとこもある一つ年下の部活の後輩と一緒に帰ることになったある日。
ここ数日考え込んでる様子だった後輩がユウジにそう尋ねた。
それを言ったのは財前光。今の三年の仲間たちが口説き落とした天才と呼ばれる男だ。ユウジたちより一つ年下の彼は三年の無茶ぶりにも持ち前のスルー力で対応し、人を見て悪態をつく。ユウジは悪態をつかれた時はどづきまわしたくなるくらい憎たらしく思うけれど、自分も他人に遠慮はしないタイプだったので概ねその関係は良好で、ユウジにとって財前はそれなりに可愛い後輩の一人だった。
日が落ちゆく夕方五時。
あの楽しかった日々は終わり、すっかり季節は冬だ。
何の話題からそういう話題になったのか、ユウジの性経験の話になって。
ヤりたい盛りとはいえ、ユウジの本命は男で、その相手がユウジの求愛をひらひらと躱すため、ユウジにはキス以上の経験がなかった。
『ノーお笑い、ノーライフ』なユウジは特技を生かしてモノマネお笑いライブも開催している。
ソロライブでもそれなりに客を呼べることもあって、白石のような正統派のイケメンではないがわりとモテる。
これまでも女子からの誘いがなかったわけではないが、(むしろ同学年ではモテる方だが小春にしか興味がないユウジには興味がなかった。)彼女たちにはその気にならず、女子と付き合ったことはなかった。本命の金色小春――同じクラスの同じ部活の同じ性を持つ男とはネタとしてキスくらいしたことがあるが、そこに恋愛におけるキスの意味なんてなく、ユウジとしては恋愛的な意味を持たせようとしても良かったけど、小春に体良く断られた。小春からキスされることもあるのにユウジは、それが納得できない。いまだに諦めずにいるけれど。
そうして、先ほどの財前の発言に戻る。
ユウジは思わず公道ということも忘れて声を荒げた。
「おまッ……なにいっとるねん!俺ら中学生やど? 受験もテニスもあるし、小春に負担かけてどないするねん」
「……やっぱソッチもユウジ先輩がツッコむ方なんスか……そんなんいうても早いヤツらはもう経験しとるでしょ」
財前があまりにも何事も無いように表情を変えずにいうのでユウジは呆れた声で返す。
「お前なぁ……オトコ同士のセックス知ってていうてるんか? 小春に負担はかけられへん言うとるやろ!」
ユウジは毎度の通り拳を作り喚く。
財前にはこういったけど、ユウジの中で、同じクラスで同じ部活でテニスと漫才と人生のパートナーである金色小春を抱きたいと思ったことはあまりない。
全く欲情したことがないというと嘘にはなるが、少なくともこの数年で覚えた自慰のときに小春をオカズにしたことはなかった。
ユウジにとって小春は好きのかたまりで、ずっと大切にしたいとか可愛いとかそういうピュアな気持ちで恋をする対象だった。小春を想うとドキドキしたし、その視線が他を向いていれば独占したくなるし、キスだってネタでもできると嬉しい。たしかにユウジは小春に恋をしていたけれど、それ以上の性的な欲求はまだ中学生の自分には早いのだろうと思っていた。
あとネットで見た男同士のセックスがあんなにヒドイコトだと知ってしまった今、愛する小春にあんな負担はかけられないと思っている。
「先輩、こないとこでデカい声ださないでください。恥ずいっすわ」
耳を塞ぐ動作をする財前にユウジは返す。
「おどれが悪いんやろ!」
「あー、いちいち声がデカいわ」
財前は耳を塞ぐ動作をした際にズレてきたテニスバックを元の位置に戻すと笑っていう。
財前が嬉しい時や楽しい時にでる笑顔ではなくて、どこかなにか諦めたような笑顔だった。
普段から大人びた表情をする男やったけど、こんな風に笑う男だったか?
財前は無表情なことが多く、それがテニスでもポーカーフェイスで次の手を読ませない利点もあったけど、笑うときはわりと素直に笑ったはずだ。俺らのネタには反応せんけど。ユウジは少し違和感を抱いたが続いた財前の台詞にすべて吹っ飛んだ。
「で、その様子じゃユウジ先輩は童貞なんやと思ってるんですけど」
「だーかーらー、お前なぁ、俺らまだ中学生やど」
ユウジは再度言う。この後輩は何を言ってるのか。いつもクールで何も興味がないという顔をしてユウジたちに辛辣なツッコミを入れていくそんな男が。それでも一応、後輩という気持ちはあるらしく最後はユウジたちの話に応じているが、どうもユウジには気安いらしく、たまにこのように強引になるのが気に食わないし、こうなった財前にはいつもとは反対で押されてしまう。
大体、ヒトのことを童貞、童貞と連呼するけど、この男にも彼女とか特定の恋人などいなかった筈だ。
居たらユウジは全力で小春や謙也と揶揄っている。ユウジは四天宝寺の中では顔が広い方だが二年生の間でもそんな話は聞いたことがない。小春ほどではないが結構カワエエツラしとるとは思うけどモテへんのか?とユウジは財前の方に向き直る。
財前が首を少し傾ける。
「夏も終わったし、あと数ヶ月で卒業やないですか」
童貞からも卒業しませんか、とめちゃくちゃなことを言う財前の顔は後ろから夕日が差し、逆光になっていてよく見えない。そこまで暑くもないのにユウジの背を汗が伝った。
ユウジも年頃の男であるから小春を欲望の対象にできないとはいえ性的なことに興味は大変ある。昨日も家族全員の帰宅が遅かったので兄の部屋からこっそり拝借した大人なDVDで抜いたばかりだった。自室にテレビがないため、リビングでの恐る恐るの行為はヒヤヒヤする。特殊な性癖を小春に自覚させられたユウジは大人になっても他人とセックスすることがあるんやろかと薄っすら考えていつも虚しいまま自分の掌で果てる。それが今、後輩から誘われている?
思わず唾を飲み込む。
「一応いうときますけど、小春先輩やなくて俺でですよ」
やけに掠れた声でそう告げられた。
財前の声変わりは終わっている。しばらく前にユウジはそれを小春と揶揄ったことを覚えている。それは財前が大人の体になっているということで。
ユウジは財前の言葉の意味を理解した。顔が、体が、熱くなる。
「とりあえず俺のうち、近いんできますか?」
今日家族はみんな夜遅くまで戻らないんすわと続けられて。
少し、少しだけ、目の前の男で淫らな想像をしてしまった。
だからだ。財前の提案に変な顔をして頷いてしまったのは。
◆ ◆ ◆
何回か訪ねたことのある財前の部屋にいつもとは違う用事で訪れたユウジはいつもは自分の部屋のように過ごしているそこでキョロキョロウロウロと所在なさげにしていた。
「そんなウロチョロせんと座っといてください」
それでも聴いてまっててください、と薄い音楽プレイヤーを渡されて、幼そうな女が歌う曲を聴く。
財前とは趣味が結構合うこともあってこうやって音楽プレイヤーを借りて聴くことは初めてではないが、ボーガロイドと言うんだろうか、ユウジにもわかるくらい有名なその声が歌う曲は初めて聴いた。
いつもはUKバンドのメタルロックなんかユウジの趣味に近いものを借りているが今日のはバラードだ。財前がユウジに聴かせるにしては珍しい。いつものような打ち込みテクノでもない。
なにかのカバーだろうか? 聞きなれないその曲はロックを好むユウジにもやはり好きな感じだった。
ユウジが財前と絡むようになったのはテニスでも小春が財前の反応を気に入ってるからでもなく、音楽がきっかけだった。たまたま財前の聴いてた音楽プレイヤーの音漏れがユウジの好きな洋楽バンドのもので、その新一年が気になって話しかけてみれば、無口な後輩(まだ財前の毒舌が先輩相手に全開ではなかった頃だ)の割に話が弾んだ。話してみると音楽だけでなく、映画なんかも趣味があった。好きなタイトルを聞いたときには絶対話が合わんわと思ったけど、意外と勧められたモノを見たら面白かったのだ。それからたまに小春や謙也に付き合ってもらえないときは財前と観に行くことが多くなった。謙也は趣味ではない内容の時もたまに付き合ってくれるけど、映画帰りのファーストフードで、映画の内容について熱く語るのは趣味が合うほうヤツとのほうがお互いに気兼ねがない。
ユウジは財前の毒舌は好きではないが、アナログとデジタルの違いがあるとはいえ、モノを作るという趣味が同じせいか、解釈や視点が近いのでたまに財前の入れてくる返しが楽しく、家で映像をみるときも予定が合えば財前を誘っている。
財前に勧められた漫画は自分も一式揃えてしまったし、財前の方はなぜかユウジの部屋へ読みにくるほうが多かったけれど、とにかく趣味があう。
そう、いろんな趣味が合うのだ。この後輩とは。
オフに過ごす時間が多くなると、部活中も絡むようになった。そしたら、向こうからもこちらは大体毒を吐きにだが絡んでくる。こうなると馴れ合いみたいなもんでユウジの隣にいる小春も財前が可愛いと言い出すようになった。
あまりにも趣味が合いすぎて自分たちに絡んでくるのは小春目当てかと思っていた時期もあるが、先輩らキモいっすわと定番のセリフを吐かれるだけなので、財前はただのシニカルなややこしいキャラの男なだけで、ユウジは自分たちは先輩としてある意味慕われているのだろうと自分に都合よく思っていた。
だけど、ある日、他の委員会が長引いて遅くなってるメンバーが多かったとき、手持ち無沙汰で財前に無理やりユウジが小春に恋に落ちた日の話をしてると珍しくヤツは何もツッコまず様子がおかしかったことがあった。
話を聞いてないのかと思って怒鳴るとすぐに「先輩らキモイっすわ」と返され、元の財前に戻ったけれど。
やたらと切なげなメロディに乗って奏でられる歌い出しと英語の歌詞にユウジは誰の曲だろうと片耳だけにイヤホンを突っ込んでボーとしてしまった。
胸が痛くなるような悲しい歌がぐるぐるとユウジの思考を溶かした。
◆ ◆ ◆
ガチャとドアを開ける音がして正気に返った。
「先輩? 先輩もシャワー使います?」
「あ、俺はええわ…」
夏の大会が終わって、秋の合宿や冬の大会で伸びていた引退式もしばらくすれば迎えるこの頃、財前とは違ってユウジは今日はボールすら打っていない。ひたすら衣装を縫っていただけだ。去年の藤吉郎祭のテニス部の出し物の女装喫茶でもユウジの裁縫スキルは大活躍だった。今年もそれで受験生で追い出させる側だというのに顧問のオサムちゃんに衣装係を頼まれている。5コケシもらえるらしい。部室で作業しているので、最後に鍵をかけることの多い部長の財前と一緒に帰ることが最近多い。
財前は表情を変えずに呟く。
「そうですか」
上下黒のスウェットに首に掛けてるタオル。どうみても普段の財前だ。
今からそういう雰囲気になる感じじゃないとユウジが気を緩めたとき――
「ほな、やりましょ」
財前がタオルを外し、トレーナーを捲り上げる。薄っすらとした腹筋が見える。まだ少年の身体だ。ユウジだって似たようなものだけど。慌ててユウジは止めた。
「やっぱアカンのちゃう?」
「じゃ、なんでついてきたんや……」
財前が深く息を吐いた。それはそうだ。誘われてホイホイついてきたのはユウジの方だ。
話の流れから言って女役は財前の方だ。小春にできないヒドイコトをコイツにするんか?一通りの知識は仕入れていたけど、だから出来ないと思ったのだ。それを財前にする?さっき想像した淫らな財前がまたフラッシュバックする。アカン、イケる。
「お前、ホンマにええんか?」
ユウジはいつものようにベッドに腰を掛けているから、立ってる財前には上目遣いになる。これだと俺がお強請りしてるみたいやんけとユウジは真っ赤になる。
無表情だった財前がいつものようにユウジたちに呆れたときに作る笑顔を浮かべた。
「ホンマにって……別にユウジ先輩が小春先輩のことを好きでもどうでもええんで。まぁ、そやな。練習台とでも思ってくれれば……練習台でもええから抱いてください。先輩ゲイやのに可愛い後輩にここまで言われてヤれへんかったらただのヘタレっすわ」
酷いセリフを言われたのはユウジの方なのに揺れる財前のまつ毛とか、少し落ちた肩とかをみるとユウジは自分の方が悪いように思えてくる。苛立ちからか財前は唇を噛んでいる。あまりみたことがない財前の面持ちにユウジの胸が小さな音を立てる。
セックスするならまずはキスからやろ、とどこかでみたドラマのようにキスしようと財前の肩を掴む。
顔を近づけると――思い切り顔を逸らされた。
「一応、訊いときますけど、なにしようとしてるんですか?」
「え……キスや」
「…………なしや」
「財前?」
「キスは好きな人とした方がええでしょ」
ユウジは目をパチパチさせる。
ここまできてそれか!?
江戸の遊女みたいなこと言いよってと最近比較的まじめに歴史の授業を受けていた受験生のユウジは思ったが、どう財前へ返事していいか分からず、したくないならしなくてええと呟いて、財前から視線を逸らした。
◆ ◆ ◆
居なくなった時間に処理してきたらしい秘所を暴く。
そこは綺麗に洗われて、こすり過ぎたのかやや赤くなっていた。
自分以外のそんなところを(自分のであってもこんな風に見たことはない)リアルで見るのは初めてであるユウジは恐る恐る指を一本入れる。
「んっ」
ユウジの指を入れると財前の穴が閉じてくる。吸い付くようなそれをみてユウジは気持ち悪いと思うどころか興奮してしまった。
男のケツの穴やど……
ネットでこっそりとみた無修正のものよりスマホのガラス越しではない分ダイレクトに視覚にくる。
何かオイルのようなものを塗り込んでいるのか指は想像していたよりスムーズに入り、指が感じる皮膚や肉の感触がエロいとユウジは思ってそこに魅入って指の動きが止まってしまった。
「ン、んっ……ユウジ先輩、今からココにアンタのちんこ入れるんやから、ちゃんと解してくださいよ」
直接的な財前の言葉にユウジは言葉もなく首を縦にブンブン振ると、指で財前のアナを広げるように回してみたり、抜き挿ししてみたりして財前の穴を体を開いていく。恥ずかしさからか興奮からか多分顔は真っ赤になってるやろなとユウジは見えない自分の顔を想像する。
ぬぷぬぷとあっさりと指の根元まで入る。ユウジは財前の様子を伺い、顔色は少し赤いが平気そうだとみるともう一本指を増やした。
「アッ」
財前の体が跳ねた。
部活の着替えなどで何度も見たことがある財前の裸体が汗ばんで、ただその表情は今まで見たことがない性の臭いがしている。
色っぽい。
男に色っぽいだなんて小春以外に初めて思った。
だけど小春の時はこんなシチュエーションではなかったわけで。
だって今ユウジはセックスの前戯の真っ最中だ。
財前の眉根は中央に寄せられ、空気を求めてか唇は薄く開いてる。
男の、後輩をそういう目で見られる。
諦めとともに性癖が引きずり出される。
確か昨日見た映像では、男優が穴を激しく掻き回すと女優がヨガっていたはずだとユウジは二本の指で財前のアナルを少し乱暴に掻き回す。
映像の女優がしていた顔とは違って、財前が呆れた表情をしてユウジをみてくる。
これは失敗だったとわかった。
ユウジは二本の指をまた元のようにゆるゆると拡げていく。しかし先ほどのようにうまく拡がらない。
「あー、先輩がトロいせいで乾いてしまいましたわ」
これ足してもらえます?とベビーオイルを渡されたユウジは素直に受け取り、財前のアナルに向けてそれを垂らした。
とろりとした液体が財前の皮膚に流れて、視覚的にくるものがある。
指を抜いてもヒクヒクと動く口にとろりとした汁が滴り落ちて。
エロい。
控えめに言って童貞のユウジには刺激が強く。
ユウジの方はまだズボンも履いたままで、触られてもいないのにそれは下着毎ズボンの布を持ち上げている。冬物の学生服のかたいズボンの上からでもかなり張り詰めてるのがわかる。勃ち上がった性器はパンパンでもう痛いくらいだった。
男に興奮してる。しかも恋しているわけでもない後輩の男に勃起している。
穴が閉じて開く。ベビーオイルが蛍光灯の光を反射してキラキラと光った。
あー、エロい。
ユウジは正常に働かない頭を振る。煩悩に塗れたユウジが冷静になれと喚くもう一人のユウジを振り切った。
挿入たい。
慌ててベルトを解いてズボンを下ろすと勢いが良すぎて下着ごと落ち、ベロンとペニスが解放される。解放されたというのに血が漲って腹につきそうなことになっているのが自分でも滑稽だったがユウジにはもうそこに入れることしか考えられず。
「財前、挿入るで」
竿を支えるとぐっと亀頭を財前のアナルに押し付ける。オイルのおかげかニュとした感触がして入っていく。
頭の部分が入ったところで財前が叫んだ。
「イっ! 先輩、ちょ、アカン! ホンマにアカン! 待て、ハウス!」
財前の静止もきかず、ユウジは腰を光に押し付けた。
太い部分が狭い肉を押し入り、財前の中をペニスで満たす。
ユウジに突き立てられた財前のそこは異物を排出しようと扇動が始まった。それがユウジのペニスをゆるゆると包んで気持ちが良い。ナカの気持ちは良いが入り口付近の竿への締め付けには痛くて閉口する。
入り口を広げるように腰を回した。
かたい肉棒で中に入れたオイルが掻き回される、ぐちゅとヤラしい音がして。
「イタッ! 痛い! ユウジ先輩、ちょお緩めや!」
「処女は痛いもんや……我慢せぇ」
経験があるわけではないのにそう混ぜ返して。口では我慢しろと言いつつもユウジは腰を回すのをやめた。ほんのり赤みを帯びていた財前の顔は今度は青くなっていた。
「はぁ、むちゃいいますわ……平気や思たのにめちゃくちゃ痛ぁ、先輩アホや……ユウジ先輩のアホ」
繋がったままイヤイヤする財前にユウジは舌打ちしそうになったが、額や首筋に脂汗まで浮かべている財前の様子を見て、舌打ちの代わりに溜息を吐く。宥めるように財前の髪や背を撫でてやる。
コイツは何を考えてるんや
それなりに付き合いの長くなったユウジにも読めなかった。
ユウジのペニスを突き立てたれた腹が苦しいのか、えづきそうになりながら逃げようとする財前だったが、それをユウジは腰を押し付けて止める。
またグチュと音がして深く挿さる。
「ヒィッ!」
財前の泣きそうな顔に煽られた。普段滅多に見られないその表情に興奮する。
「先輩、いゃッ、アカン……あっ熱ッぁツッ」
浅く引いて入るところまで突く。奥に入ると財前の肉がユウジを包む。
気持ちがいい。財前に入っていたユウジに更に血が集まっていく。財前の肛も合わせて広がっていく。
「え…」
財前が両腕をクロスして顔を覆った。表情が読めない。
「はは…ユウジ先輩、ホンマにゲイなん……こんなんでも萎えへんのや」
「おん……」
ユウジのペニスは萎えるどころか財前の肉の温かさでもう破裂するんじゃないかと思うくらい腫れている。財前が泣きそうになってなければ、今でもすぐに腰を振ってその肚の中に白い体液を吐き出したいくらいだ。
交差された腕の間から見えた財前の泣きそうな表情にユウジの胸が痛む。
一つ下の後輩。初めてできた後輩。生意気で可愛げのない後輩。特にユウジには毒をぶつけてくるし。それなのに何かあれば意外と懐いてくる。下の兄弟がいないユウジには財前は可愛い後輩だった。
誘ってきたのは財前だったがそれにノッたのはユウジの方だ。ヤリたい盛りだとはいえ、財前のことを考えると止めるべきだった。なぜこんな話に乗ってしまったのか。
セックスとか愛し合っている恋人同士でやるものだ。職業的なプロではない男同士だと愛があるからあんなにヒドイコトに耐えられるのだ。少なくともユウジは数時間前までそう思っていた。それなのに今、現在進行形で付き合ってすらいない、しかも同性の後輩とヤっている。
「……もう動いてええですよ」
ユウジと繋がった箇所をじっと見ていた財前が腹を括ったのかそう告げた。
繋がったところが熱を帯びているのはユウジにもわかる。
とっとと終わらせてください、なんていうから、ユウジは財前の脚を抱えて律動を再開させる。財前の見慣れない新しそうな膝の瘡蓋をみて本当に引退したのだとユウジは実感する。
ちょっと前までは財前たち後輩らが怪我でもすれば銀や小春に白石、謙也たちが気にするから嫌でも目に入った。
「先輩……」
財前の声で我に返った。
他人の顔の美醜を気にしたことはあまりないが、財前の顔はわりと整っていると思う。その顔が欲に塗れ、汗に塗れて、掠れた声で自分の名を呼ばれるとユウジの中のなにかを刺激する。
自分をみている財前が無意識にか唇を舌で舐めた。濡れた唇がエロい。ユウジは少し濡れたその唇にキスしたい誘惑に駆られたが、始める前のやり取りを思い出してその衝動を押し留めてた。キスとか小春にはすぐに強請ることができるのに。(断られるけど)今キスよりもっとスゴいコトをヤッてる。それがなんで、なんで財前にはよう言わんの。ユウジの中で苦い感情が湧いてくる。
これはなんなんや?
頭がボーとして正解を求められずに、ただキモチが良くて腰を振った。
振るたびに性器全体がヌルヌルとした財前のナカと擦れて気持ちが良い。心なしか財前の体も慣れてきたようで、さっきまでの蒼白だった顔色の血の気は戻ってきている。
「ッ……もうだしてええ?」
財前がなにも言わず頷くとユウジは腰を振る速度をあげた。童貞脱出中のユウジの限界は近かった。
「財前アカンッ! イクッ」
頭の中が白く弾けてそのまま財前に倒れこむ。ユウジのペニスも財前の中で弾けてしまった。
入れたまま、ちょっと飛んでいたようだ。女とだけではなくてオナホールとかも遣ったことがないユウジはこれが初めての胎内射精だ。
自分の掌に出すのとは違って虚しい感じが少なくてユウジは驚いた。達成感すらする。
ペニスを抜こうとすると、どろっと体液が出てきて、やってしまったと思い、そのまま途中で止まる。急な誘いで雰囲気に流されてそのままヤッてしまった。財前は女ではないから子どもが出来たりはしないだろうけど、前にみたネットには男同士のセックスでもゴムをしろと書いてあった。
「財前、すまん」
「まぁ、童貞のユウジ先輩がゴム持っとるわけないやろうし、しゃーないっスわ」
珍しく毒もなく淡々とかえされたので逆にユウジの気は重くなる。
財前にも気持ちよくならせないと。
ユウジは上半身が財前と密着するように折り、キスする代わりに胸の頂きを口に含む。チロチロと舐めてみた。
思っていた反応が返ってこず、ユウジは首を捻る。
「乳首感じん?」
「なんつーか、あっ、気色悪いだけッスわ……こねくり回すのソレが捥げる前にやめてくれませんか」
「なんや、さっきまで処女だった財前には刺激強すぎるかー」
「はぁ?先輩かてさっきまで童貞やろ……そんなんいうたら、なんや俺が今度は先輩に入れるんで!ひッ」
ユウジが財前の乳首を指で甘噛みすると財前が鳴く。
「えろい声でるやんけ」
「〜〜〜なんで乳首舐めんねん!」
「AVでも舐めとるやろ? 何があかんねん……まさか光クンはそないなもん見たことないとかいわんやろな?」
ユウジは指で刺激されて形のはっきりとした財前の乳首を唇で挟むと舌で捏ね回す。指よりは優しい刺激だがさっきまではなかった粘液が気持ち良くて初めて受ける刺激だというのに財前のカラダが揺れる。ユウジは笑った。
それが恥ずかしいのか、必死にユウジの体から離れようとする財前をまたベッドに縫い止めて。
「財前ッ…ざ」
「先輩、ウザいっスわ」
「お前なぁ、愛し合ってるときにそんな冷たいこというなや」
「あ、あい?はぁ……なんやそれ……キモイっすわ」
「セックスしてんのやで。愛し合ってるやろ?ヒカルく〜ん、愛し合おうや」
ユウジがおちゃらけて両腕を財前に伸ばすと財前は嫌そうな顔でそれを阻止する。
「あー、そういうの面倒なんで。あ、そや、まだ入っとるし……二回目ヤるなら目つむって小春先輩の名前でも呼んだらどないですか?」
財前が挑発的にそんなことを言うから。
「あほ、俺が今抱いてんのは財前やろ……そないなことようできんわ」
ユウジの言葉になぜか財前は顔を歪めた。
「そうですか……そんなら別にええけど」
財前の言葉を聞いてユウジは思いつく。
「んー……」
一氏は得意のモノマネで声色を変える。二人がよく知った男の声に。
「財前」
その声で名前を呼んだその瞬間、財前の顔色が変わった。
「なっ!」
ユウジの真似たその声音はユウジの同級であり、財前の先輩で同じテニス部の忍足謙也のモノマネだった。
四天宝寺のD1は大体ユウジと小春で決まっていたがD2は固定ではない。財前と謙也は対戦相手のメンツ次第でダブルスを組むことも多くあってユウジから見ると自分たちより仲の良い先輩後輩に見えた。
顧問のオサムちゃんの指導でユウジや小春も財前と組んだことがあるが、お互いのパートナーほどではないがやりやすかった。
銀や千歳と組む時以外は憎まれ口を叩くことが多い財前だったが、わりとダブルスは嫌いな方ではないらしく、ダブルスの強化練になると謙也の側によって誘われ待ちをしてるのをよく見かけた。自分から寄っていくというのにいざ謙也に誘われればいつものしゃーないっスわと聞こえるのが定番だったのでユウジはその度に財前はアホやなと思っていた。
財前が謙也に仄かな想いを抱えていることにユウジは気付いていた。ユウジと小春にあんなにキモいキモいというのはノンケなんじゃなくて本物だからなのではと自他共に定評のある観察眼を持つユウジは薄々感じ取っていた。
何かの取材で財前の提出用紙が目に入った。家族構成と好きなタイプからみてよくある兄の嫁が初恋っていうヤツかと思っていたけど、今日なんとなくわかった。きっとフェイクを重ねられていて多分コイツは自分と同じなんだろうと思った。
まぁ本人に自覚がないのかと思っていたがどうやら違うらしい。
ユウジだけじゃない。四天宝寺中のテニス部の三年のレギュラーは一部を除いて、この生意気な後輩の気持ちに薄々勘付いている。一部は後輩から先輩への熱い思慕だと思っているものもいるがそれでも何かに気付いている。肝心の謙也以外は。
日頃の財前は口では生意気なことを言っていても、謙也に懐いているのはテニス部に近い人間ならすぐわかる。謙也が笑った時や他の人間といるときに、財前がまたにみせるあの切なげな視線をみれば。聡いものであればその視線の意味もわかるだろう。普段が無表情なだけに逆に目立った。四天宝寺中一の観察眼と言われるユウジは多分仲間の中で一番にそれが恋だと気付いた。ユウジは同じ性が恋愛の対象だったこともあって気付いたと思う。そして、この恋路がどんな結末を迎えるのか面白がってみていた。前の部長の白石や財前に「師範、師範」と懐かれている石田の心配とは全く違う、ただ純粋に他人事としておもしろがっているだけだったが。
それが当事者となるとは思いもせず、今ユウジは財前を抱いている。
「光……可愛い」
謙也の声音で囁き出す。兄属性の謙也が弟属性の財前が甘えたい時(同じ弟属性のユウジからは財前のそれはあざとすぎて、そう可愛いとは思えないが)に出す声に応じる謙也にしては少し優しい声で。財前が慌てて身体を押しのけて抵抗する。今までで一番強い抵抗に驚いたが同じくらいの体格とはいえ、ユウジの方が一学年上で力はまだ強い。
「『ユウジ』先輩ッ!それホンマやめてください!」
「あほ、財前、お前が最初にいうたんやろ」
ユウジが素の声で返すと、財前は目をパチパチさせる。
「そ、そういいますけど、ケンヤさんだけはアカン!」
ユウジは笑った。
「光のココ、俺のを飲み込んでめっちゃ可愛いやん」
ユウジは再び謙也の声に戻して続けた。ユウジのペニスを飲み込んでいた財前のそこがきゅんきゅんと啼きだす。ユウジはゲイの自覚があるとは言え、男女関係なく他人を抱くのは初めてで、だから、自慰のときに自分が気持ちの良かったアナルからペニスにかけて財前の皮膚を優しく撫でていく。二回目なら前立腺をせめてみて良いだろうか。まだ財前が一度もイッていないのにユウジは気付いていた。
「あっ……」
「財前、目閉じや…」
諦めたのかユウジの言う通り財前が目を閉じると。
「好きやで……光」
まるで謙也に抱かれてるような錯覚が起きそうなくらいそれは似ていた。似せられた声に財前が耐えきれなかったのかまた表情が変わった。いつもユウジたちには呆れたような目線しか返さない財前の目が潤み、まるで情事中の恋人からの表情にみえて、自分で仕掛けたはずなのにユウジはそれが面白くなかった。
なんでおもろないんや?
ユウジは財前の雄を撫でながら、想像する謙也のセックスをトレースしていく。実際に謙也のセックスをみたことはないし、スピードは、さすがに真似できないけど。
「光、かわええ……ひか、光」
多分、謙也なら財前の名前を呼び続けるだろうと思った。
名前を呼ばれるたび、ユウジを咥えている財前の中がきゅんと締まる。
エロ漫画のアレは嘘ではなかったんかとユウジは笑いそうになった。
今、笑ったら殴られるかもしれない。
流石に一度出したし、二度目は保つだろうと考えていたユウジは財前の中のその感覚に引き摺られてまたイきそうになるのを踏ん張る。
財前の方もさっきとは違い多少余裕があるのか、謙也に抱かれてる気分だからなのか、軽口を叩いてくる。
「ほんまにパンパン言うんスね。ちょおオモロイかも」
「アホか……集中しいや」
皮膚と皮膚がぶつかる音に感想を述べる財前に注意して尻を突く。
浅く引いてコリっとするところに当たるようにまた中へ入る。
「あッ、アッ、先輩そこあかん…へ、変や……へんになりそう」
「気持ちええってことやろ」
財前の声を無視してユウジは何度も何度も擦り付ける。
「アッ、ええわ…ええッ、イクッ」
抜き挿しされていたユウジのペニスが力をなくしたのがわかった。
気を遣ってなのか、自覚なしなのか、財前はユウジがイったことに気付くと、その最後を搾り取るように穴をぎゅと締める。
そのビクビクとした肉の動きに合わせて財前のペニスからも白濁が吐き出された。
しばらく放心していた二人であったがユウジが先に覚醒した。
一回目の射精後だからか、射精経験がそんなにないのか、後ろを使ったせいか、いまだ放心する財前に、ユウジはニマッと笑いかける。
「財前、今度は俺とや」
「はっ?」
ユウジのペニスが抜かれてまだ穴が痙攣してるというのにユウジが財前の体を後ろに向ける。
「ユウジ先輩? なんスか?」
「さっきまではケンヤとやろ?今度は俺がお前を抱くわ」
ユウジはそう言って、バックから財前の尻たぶを広げると侵入を開始する。
「ほらケツあげや」
財前の腰を持ち上げて尻を突き出させる。疲れからか逆らうのが面倒なのか、財前は大きく抵抗することもなく尻を突き上げたポーズに引き上げられる。
ただその顔は不機嫌だった。
「これめっちゃ恥ずかしいんやけど……」
財前が体勢について苦情を出すと
「はぁ? 恥ずかしいところ見せ合うのがセックスや。財前、お前は『俺』とセックスしてんのやで」
ユウジはそう言ってぐっと根元まで挿入する。
乾きかけたオイルとユウジの出した精液と財前の体液とでまだぬるつくそこは先ほどまでよりはるかに簡単にユウジのペニスを飲み込んだ。
「財前」
全く初めてでもたついた一回目より、謙也の真似していた二回目より、今度は冷静に周りを観察できる。ユウジは萎えていた財前のペニスを掴んだ。
「え……ちょお、先輩」
「あほ、おまえだって男や。この方が気持ちいいやろ?先輩のテクニック教えたる」
竿からゆるゆると触れられて。
乱暴にされるのかと思ってびくっとした財前だったが意外と繊細で小器用なタッチにユウジ先輩のテニスみたいやと微妙なことを考えてすぐに否定する。テニスとセックスを一緒にするなんてアホや、と。
カウパーがユウジの掌全体に行き渡るとすぐに強く擦られる。鈴口の方は全く触られず根元からカリにいくまでを散々愛撫された。尻への圧迫感とペニスへの圧迫感が己がこの男に支配されてるようで財前の背筋がピクッと震えた。その空気を読んだのか、いつものユウジより数倍優しい声で名前を呼ばれる。
「財前…」
宣言された通り、誰の真似でもなくユウジの声だった。
耳元で囁かれたからくすぐったい。ゾクッとして財前は少し笑ってしまった。慌てて元の顔に戻す。
ユウジはそんな財前の様子をみてホッとしたのか、竿への手の動きを再開する。
「ちょっと痛いけど我慢せえや」
ユウジは財前のペニスの少ししか出ていない先の太くなったところの皮を剥いて露出させる。
「ヒカルちゃんはまだ仮性ちんこで可愛いもんな」
「〜〜〜~~」
財前がユウジを睨み付けた。
比較的プライドの高い財前には未だにペニスの先に皮が被っているのは癪に触るものだったのだろう。ユウジは体格のわりに早く剥けていた方だったので、その気持ちは想像でしかわからないけど。
「俺のがケツに入ったままそんな顔しても怖ないで」
ユウジは財前の亀頭を露出させながら言った。ユウジには変なところで持続力があるらしく、硬度は少し失ったものの財前の中に入りきっている。
「おまえ、このまま俺の『女』になるんやないし、剥いといた方がええから剥くで」
ユウジの物言いに諦めたのか、先輩に挿入されたままペニスを弄られて、気持ちがよいのか、器用に剥かれてるせいか、そこまで痛くなさそうにしていた財前は溜息を吐いて渋々と頷く。何よりペニスを人質に取られていてはいつものように抵抗できないのか。
ペニスからでた先走りと先程までの汁で、ゆるゆると剥かれていく。
「ほれ、剥けた」
完全に露出した亀頭から見える鈴口を指の腹と爪で刺激されて、財前の萎え気味だったモノが力を取り戻す。ユウジはそのまま露出した頭を掌でぐるぐると撫でてやる。男なら大体が気持ちが良いはすだ。
「あぁッ、はっ、んんっッ」
自分の声に何か思うところがあったのか、財前が唇を噛む。喘ぎ声が止まった。止まらないユウジの手の動きに喘ぎ声は止まったが腰が揺れ始めて。
財前の変化を見たユウジのスイッチが入った。
「アカン! 財前。我慢できん。もう俺も腰振ってもええ?」
財前が無言で今度は首を縦に振るとユウジは律動を再開させる。深く腰を引いて財前の奥へと押し入る。すっかりユウジのペニスに馴染んでいたそこはユウジの激しい突きに形を変える。
「ゃ…ンッ、アぁ…」
財前の歯がその唇を切る。
今日男を知ったばかりだというのに財前の体にユウジの入っていた時間が長すぎてなのか、テニスの天才はこんなところでも天才なのか、財前の肉はユウジのモノにうまく絡みついている。
インラン、とか、エロい、とか、いつものように思うまま財前に言葉をぶつけようとしてユウジはそれをやめた。
多少卑怯なことをしたという自覚はあったので。
隙間がなくなるくらい恥骨を押し付けて、離して、また押し入る。何度も繰り返すと財前が呆れた声で言った。
「あ、あっ…ユ、ユウジ先輩…小春先輩やないんやから、そんながっつかなくてもええんとちゃいますか」
財前がユウジに告げた言葉をユウジは即断ち切る。
「だまれや……財前、お前は喘ぎ声だけあげてればええ」
ユウジは腰を振るのに夢中で放置してしまった可哀想な財前のペニスをまた掴んだ。
「ンッ! 無茶いいます」
抜き挿しに集中し出すユウジであったが、今度は財前のペニスも擦るのを忘れなかった。トロトロの体液が溢れてくる。
オイルはもう足さなかった。
パンパンとグチュグチュみたいな擬音とお互いのあがった息の音が空間を、二人を支配する。
二人でセックスしてる。お互いに恋はしていないけれど。
テニスも二人でする方が好きな二人が相手と合わせながら快感も伴うこの作業を嫌いなはずがなかった。
「気持ちよすぎや……なんやセックスってこんなにええんか…」
「ハァ…アッ……んんっ、それは同感っすわ」
男同士の、本来であればそういうの使い方をする器官でないところを使ってのセックスでなぜこんなに気持ちがいいのか、二人にはそれを考えるほどの余裕はなかった。肉と肉がぶつかる。身体が繋がっている。お互いのカラダに夢中だった。
イクッ
と聞こえたのは自分の声だったか相手の声だったのか、二人とも判断ができずに意識は白く飛んだ。
◆ ◆ ◆
ヤってしまったと天井の模様をじっと見ていたユウジが枕を抱きしめて放心している財前に話しかける。
「財前…」
「なんですか……俺は誰かさんのせいで疲れてるんで……初めてで三回もするとかありえへん……ケツの穴壊れそうや……」
返事はすぐに帰ってきた。飛んではないようだ。
財前の苦情にユウジが素で返す。
「いつも俺のちんこより大きいクソしとるやろ?」
「わかってましたけど、情緒もあれへん…先輩サイテーや……」
「あほか…俺かておまえじゃなかったらピロートークいうて愛のコトバ囁いたり色々したる。なぁ、財前は謙也のこと好きなんやろ?なんでこんなことしたん?」
ユウジの言葉にさっきまで悪態をつきつつも比較的ご機嫌に見えた財前の温度が下がった。
「……ケンヤさんはこないな道に進む人やないから」
遠くの誰かを見るように答える財前に、ユウジは思わずその頭を叩く。
「いきなりなにするんですか?!」
「どあほ!それは俺ならええってことか?俺かてホモは半分ネタやってんで? 小春以外の男にときめいたことなんてないし」
財前がユウジを見つめる。
少し嘘のついた自覚のあるユウジは少したじろぐ。
「ちゃいます……ユウジ先輩は俺とおなしやろ……正直、小春先輩はようわからんのですけど、ユウジ先輩はおなじやって俺にはわかったんですわ」
確信を持って告げる財前の言葉にゲイの自覚のあるユウジは肩を竦めた。昨日のオカズは男女モノのAVであったが見ていたのは男優の方だ。ゲイモノなんてスマホから恐る恐る踏んだ数回だけだったけど普通のものより興奮した。一時期はネタが悪いのかと思い、いろんな映像を試したりした。だけど性癖は変えられなかった。小春のことも当たっている。小春は恐らく男として男に抱かれたいのではないから。万一、ユウジに抱かれることがあってもそれは多分男としてじゃない。ユウジは小春のことを好きで好きで仕方がないが、小春を女として抱きたいわけではなかった。元より小春には断られていたけど思い余って押し倒したりしなかったのはその辺りが強い。さっき自分に抱かれる財前のことを女と表したのは別として、男を男として抱くほうが好きなんだろうと乏しい経験でもユウジは自覚していた。
「さよか……」
「ユウジ先輩はオトコ知れて、俺は……ケンヤさんへの未練断ち切れてWinWinやないですか」
また遠い目をし出す財前にユウジは舌打ちする。
謙也は多分ノンケだ。同じ部活で三年間汗を流したユウジはそう思う。財前より少しばかり長く生きてるユウジはそういう男を落とすのが面白いんやないかと思ったが、自分もこんな風に男を抱けるとか想像してなかったし、流石に財前を抱いたこの流れでそれをいう気は起こらなかった。三年はあと数ヶ月で卒業する。財前が謙也に想いを告げる気はないことがわかった。財前のまだ少年のラインをした体を眺めつつ、ホンマに男とやってしもたんやなとユウジは感慨深く、さっきまでの財前の痴態を思い出す。昨日までは一生できんかもと思っていたのにあっさりと童貞を捨ててしまった。
後輩とヤってしまった。お互いに好きなヤツがいるのに。
好きなヤツじゃなくてもヤレるのか……いつも嫌味たらしく返してくる財前のことは好きではないが、たまにデレる財前のことは可愛いと思う。可愛いと思う?
どう見ても可愛げのない塊にしか見えないこの男が?
同じ男でも小春は可愛い。金ちゃんも可愛い。だけど嗜虐的に犯したいとは思わない。
じゃあ、財前は?
自分が出した薄透明な液体が財前の太ももに数本伝うのが見えた。何度か出したから量も多いらしく膝あたりまで垂れてきている。
ごくりと喉がなる。
なにかが答えに近付いた気がした。でも、まだ足りない。薄いけど形の良い、だけど困り眉になった財前の眉根を見ながら。
「財前はそれでええん?」
生意気でもくそ餓鬼でも財前はユウジにとって大事な後輩だ。
心配げに尋ねると財前は困り眉のまま笑った。いつものユウジにみせるほうの顔だ。ある意味、ブレない。
ユウジは財前の髪を掴み、ワシワシとかき混ぜる。
迷惑そうな顔でそれを受け止めていた財前だったが、ふと思いついたように言う。
「あー、あと俺、わりとユウジ先輩のこと嫌いやないんですわ」
無表情でユウジを見て告げる財前にユウジは溜息を吐く。
ここでそのセリフはないわ。うちの後輩はアホすぎる。
「財前、お前アホやな……」
「はぁ?なんでやねん!なんや先輩さっきからヒトのことアホアホって……先輩こそアホやないですか」
ユウジが財前の顎を掴んだ。
キョトンとした財前にユウジはにっと笑って。
「財前、そう言う時はな……好きやっていうんや。覚えときや」
先輩…と紡ごうとした財前の声が聞こえることはなかった。
唇が塞がれたときに囁かれた言葉を財前は後から思い出し、その意味を考えてなんとも言えない気持ちになる。
『まぁ、忘れてもええで。これからカラダに覚えさせたるな!天才くんなら軽いやろ?』
ユウジ先輩はホンマにアホやわ……
今日のことはブログには書けんなと考えて財前はスマホの画面を切る。
ひとりごちる財前のその顔が少し前まで謙也を見てる時と同じものだったことをユウジは知らない。