オスカーがまどろんでいる。
ルヴァは自分の寝所で寛ぐ青年のその額の汗をぬぐってやる。
二人が身体を重ねるようになってはや数ヶ月。
相変わらず、オスカーとルヴァの親密度は地を這ったままだった。
オスカーがルヴァに口付けを許すことは無かったし、オスカーからの誘いがなければ交わることもなかった。
最もオスカーによって初めてその渇きを覚えたルヴァが、飢えを感じる前にオスカーが訪ねてくるほうが多かっただけではあるが。
しかし、外界や聖地でのオスカーの行動が変わったということを聞かない。
つまりはそれなりに女性たちと関わっている筈で、その中に自分との行為も含めるとバイタリティが溢れ過ぎている。
どんな体力をしているのか気になるところであったが、下手にその辺りを突っ込むと自分に返ってきそうで怖い。
オスカーはこの間も外の世界で遊んできた筈だ。
そしておそらく今日も。
自分の情報網はそれなりに確かであるのを知っているルヴァはその情報も正しいことを知っていた。
それなのに何故自分の私邸の自分の寝所にこの男がいるのか理解らない。
お茶を準備しようと立ち上がりかけ、ふとオスカーに視線を向ける。
目が合うとオスカーが話し始めた。
「考えていたんだが」
ルヴァは香水などの類はつけることはあまりなく、部屋に焚く香も書物に影響を与えるため好まない。
今日のオスカーからは甘いバラの香りが漂っている。
「そろそろ終わりにしたい」
「はぁ…」
終わりにしたい。
それはこの不純でインモラルなこの関係のことだろう。
ルヴァはようやく普通の生活に戻れるのかと思うとホッとする。
もう本を読んでいる最中に館に忍び込まれて疲れているのに無理矢理強請(ねだ)られた挙句、朝まで搾り取られ次の日の執務に支障が出たりしなくて済むのだ。
強請(ゆす)られて新しい体位を試された挙句、翌日腰痛になることもないだろう。
ルヴァにとってオスカーの提案は僥倖だった。
思わずはーと吐いた息に、オスカーは顔を歪めた。
「あんたは俺のことをどう思っている?」
「は?」
悪戯な問いにしか思えなかったが、オスカーをみると意外と真剣な顔つきで何だかルヴァは居た堪れなくなった。
「どうとは……」
オスカー自身のことは、どちらかというと苦手だった。
いや、今でも苦手だ。
ただ嫌いかと聞かれるとそういう訳でもない。
少々強引で自信家のところがあるが、それを裏付けるだけの実力はもっていると思っている。
女性や心にいれた者へとその他への態度が違うのが気になるが、その他に属するルヴァはそれを不満に思ったことはなかった。
誰だって二面性を持っているものだ。
その二面の乖離が多いか少ないかで。
自分だってもっている筈のそれを考え、その差が他者より大きいオスカーを責める気はルヴァにはなかった。
「答えてくれ」
いつまでも何も返さないルヴァに痺れを切らせたオスカーが苛立った口調で続けた。
ルヴァはそのまま動かない。
オスカーがルヴァの腕を取り寝所に戻すとシーツの上に組み敷く。
視線が合ったまま、視界が近くなる。
ルヴァのいつも笑っていてなくなっている目が大きく見開かれた。
重ねられた唇。
初めてのキスにどうしていいのか判らないまま唖然としていると、歯列の間からざらついた柔らかなものの侵入を受けた。
そのまま自分のそれへと絡み付いてくる。
その動きに乞われるまま、ルヴァも舌も動かしていく。
キスの音が唇が離れるときにするとは気付かなかった。
唇の端からどちらのものか判らない唾液が伝わっていた。
「あんたキス下手だな」
ルヴァはオスカーの暴言にも気付かないまま、口に手を当てる。
初めての甘い痺れと感触。
唇自体がこんなにも快感を呼び起こすものになるとは知らなかったルヴァはキスの意味を考え、思考に沈む。
気が付くと下衣を脱がされていた。
キスの刺激で勃ち上がっていたルヴァの陰茎にオスカーがしゃぶりつく。
流石はオスカーといったところか、慣れている女性のものとは勝手が違うのにルヴァの双球の裏側から丹念に舐めあげると男のポイントを的確につく。ルヴァのモノは更に力強く硬度を増した。
わざとぴちゃぴちゃと音を立てて舐めあげるのは聴覚からも快感を与えるためだろうか。
口全体を性器のように広げルヴァのモノを飲み込むその姿は視覚からもルヴァを追い立てていた。
「オ、オスカー! 駄目です! 離して下さい!」
ルヴァが身体を引こうとしたがオスカーはそれを許さず逆に深く吸い付く。
「うっ! うぅ…」
やってしまったと、オスカーを見るもオスカーはごくんとルヴァが出したものを飲み込む。
口の端に少し零れたものまで舌で舐めとり満足そうに頷いている。
ルヴァは驚いていた。
今まで一度もルヴァの体液を上の口で飲むことなどなかったのに、オスカーの気が変わった理由が思い当たらず
呆然としていると、
「オ、オスカー~!?」
オスカーは自身の慣らしてもいないそこにルヴァのモノを沿え腰を沈めていく。
オスカー自身の重みで深く繋がると、やはりきついのか萎えていたオスカーが、擡げ始める。
ルヴァは慌ててそれに手を沿わすと痛みが少しでも早く快楽に変わるように誘ってやる。
ルヴァだって男が一番いい場所なんて経験で知っている。
ルヴァにしては珍しく積極的にオスカーを追い立てた。
「んっぁぁぁあ!」
男の象徴から受ける刺激からスイッチが入ったのか、慣れたのかオスカーの表情に愉楽が見え始めた。
オスカーの肉壁はルヴァの形を憶えていて、きゅうきゅうと絡みつくように蠢く。
その刺激がルヴァに伝わると更に押し広げるように膨張する。
通り道を拡張するようにルヴァは突き進んでは腰を引く。
オスカーはその刺激にも手馴れたもので開発された自分の弱みを上手く当たるように腰を動かす。
肌を打ち付ける音と淫靡な水音に吐息と喘ぎ声。
汗と汁に塗れた肌色。炎色と青色の絡み合う毛。
いつもと同じなのに何かが違う。
元々、男色の性癖はないようであったし、後腔の様子から自分以外には抱かれたことがないのだろうとは思うが、この関係は何かがおかしい。
オスカーを見ると、
だらしなく彷徨っている視線に口の端から流れ落ちるルヴァの体液が混じった水滴。
自ら刺激するようになった胸の先端。
快感からぷくりと立ち上がった二つの赤い突起。
隆起した真ん中から溢れ出る体液がシーツを汚す。
少なくともオスカーが抱いた女性たちは皆こんなオスカーの痴態は知らないはずだ。
きっかけはともかくとしてオスカーが自分にこだわる理由がルヴァには思い当たらなかった。
オスカーはどちらかというと快楽に弱そうな身体をしているとは思うが、特別にルヴァの手技が巧いわけではない筈だ。
それともこの数ヶ月でオスカーにルヴァに対するある種の情が湧いたのか。
そうでなければこんな仕打ちを受ける理由が理解らなかった。
そしてその情は片側からではなく自らにも芽生えているのをルヴァはまだ認めたくなかった。
「これが最後だ」
いつもは男に抱かれてるということがオスカーのプライドを刺激するのかルヴァに抱かれているときには喘ぎ声くらいしか漏らさないオスカーのためルヴァのほうが饒舌なくらいであったが、今日のオスカーの口は軽い。
続けられた台詞にルヴァの思考がとまる。
歯を食いしばり、続けられる抽挿部分を幾分か潤んだ瞳でみるオスカーにルヴァは、呟いた。
「繋がってるんですよ」
「ん?」
繋がっているんです。
ルヴァは身体を起こすと、繋がった状態のままオスカーの脚を持ち上げる。
ちょうど先端の部分がオスカーの良いところを刺激する。
「ひゃっぁあああ! っん…イイぜ…」
オスカーが自分に対してこんな風に素直に返すようになったのはいつからだろうか。
悦楽に塗れたオスカーは欲望を隠すことがなくルヴァを味わう。
ルヴァは快楽に犯されて霞がかっていく思考の中で必死に正解を考える。
絞りとられそうになる意識と精に愚かしい想いが浮かんできたけれど、そんなことはない筈だ。
では正解は?
「オ、オスカー……私はあなたのことは嫌いなわけじゃないんです……」
「も…んぁ、もう駆け引きは不要だ」
「ああ、もう! だ、だからですねー、あー、なんていいったら良いのか……あなたをみていると私は劣等感ばかり抱いてしまうんですよ」
ルヴァの告白にオスカーは眉を寄せる。
ルヴァはオスカーと繋がったまま言う。
「自分のことは嫌いじゃないんです。ただ私には貴方のような生き方は難しいんですよー。この先もきっとあなたと同じ道をいくことは……まぁないでしょう」
オスカーが深く息を吐き、目を伏せた。
寄せられた眉は深く刻まれたままで。
ルヴァは続けていった。
「……それでもいいですか?」
睦言にしては分かりにくいその言葉にオスカーは行為に溺れることも忘れてぽかんとなったが。
不器用な言葉の意味を理解するとオスカーは唇の端を持ち上げる。
心なしか目元まで緩んでいるのは気のせいだろうか。
「ああ」
肯定の言葉を聞いたルヴァは自分で尋ねたにも関わらず返された言葉に赤くなる。
ルヴァは戻れない道を選んでしまったことに後悔するかと思ったものの意外と気分は晴れやかで。
その心情に自分でも驚いていた。
「それにな、ルヴァ。同じじゃなくていいのさ」
「?」
「違うから面白いんじゃないか」
そういってニヤリと笑うオスカーに留めなく湧き上がる射精感と想いをぶつけようとルヴァはオスカーに口付けを落とすと更に腰を使い始めた。
The End.