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「買い物?」
「ああ。お前もきなさい、石切丸」
珍しいこともあるものだと思った。
まぁ顕現してみればこの上背であるから荷物持ちとしては適しているのだろう。
神社暮らしとも武器としての本業とも全く関係のない人の営みはなかなかに楽しい。
だから出陣するときよりはかなり声を落として。
「加持祈祷の最中だったんだけどな……」
いつもの台詞を紡ぎながら首を縦に振ったのだけど。
「おや? 三日月も行くのかい?」
「主からの要請があってな」
支度を整えて表に向かうと三日月宗近がいた。
鍛刀され顕現した日が同じであったから部屋も同室で同じ部隊になることが多く、今では数多いる仲間たちの中でも気安い仲だ。
刀工も同じ流派だというがこの身を得るまでは相見えたことはなかった。
凛とした美しい刀だと訊いていたけれど、その内面は我が道を行く少し惚けた感のあるもので。神社暮らしが長く本業を忘れかけていた身の己にはちょうど良く、よく共に居た。
ふと気付く。
「あ、三日月。髪が解けそうだよ」
先ほどまで一緒に畑当番をしていたのだけど汗を流したのか外着に変わっている。
そのときに髪を結び変えたのだろうが解けかかっていた。
この刀はこうして身繕いには無頓着なところがあるから。
「おいで」
そう声をかけると素直に髪と身体を預けてくるのはいつか神社でみた猫という生き物のようで。大層愛いと思う。
審神者との約束の時間まで間がないから急いで髪を結わえ直してやる。
「じっとして」
「うむ」
「これでよし」
結び終わるといつのまにか審神者たちが背後に来ていた。
「相変わらず君たちは仲が良いねえ」
審神者の笑うその声に含みを感じないことはなかったけれど。
「そうなんですよ! あるじさま。みかづきといしきりまるは、ぼくといわとおしとおなじようになかよしなんですよ!」
今剣がそういうと審神者に向かって飛び跳ねた。
おや? 蛍丸はどうして顔を背けているのだろうか。
審神者と今剣と蛍丸。それに私たち二振り。
意外な組み合わせだと思う。
今剣も同じ流派の仲間で、私たちよりも先に顕現していたものだから初めは世話になった。今ではこうして懐いてくれている。
蛍丸は私より後から来た大太刀仲間で大太刀の中では身形が幼いものだから太郎殿や次郎殿と共にまるで人間の子のように可愛がっていた。
「今日はどこにいくの?」
「万屋に少し寄って……まぁ時間もないし行こう」
審神者はそういい、蛍丸と今剣の手を取ると歩き出した。
万屋でそう長く居ることもなく用事を済ますと、茶店に連れて行かれた。
どうやらこちらがメインだったようで、今剣と蛍丸は目を輝かせながら、ぱふぇというものを食べている。
「今剣、口についてるよ」
今剣の口に飛んだ白い菓子を懐紙で拭ってやる。
常であればそれは意外と面倒見の良い岩融がやるのだけど生憎彼は遠征中だ。
完全に拭いきると蛍丸がこちらをみていた。
どうしたんだ?
気になったけれど三日月まで団子のたれで口元を汚していたから。
清めてやっているうちに尋ねるのを忘れてしまった。
茶屋からの帰り道で。
なぜか審神者が万屋で買った品を抱えており私の片手は今剣で塞がっていた。
どうやら私の役目は荷物持ちではなく子守だったようだ。
御神刀が子守というのも大概だけれどね。
「はははっ。今剣よ、俺とも手をつないでおくれ」
差し出された三日月の手を今剣が握る。
「いいですよ! ふふふっ、三日月はあまえんぼうですね!」
そういって屈託なく笑う今剣の顔を久々に見た気がして私は嬉しくなる。
ここのところ仲の良い岩融が遠征続きで肩を落とすのをみるばかりだったから。
そうか……
審神者の意図に気付いた。
たしか愛染も同じ部隊で遠征中の筈だ。
「なんか今剣子どもみたい」
「蛍丸にいわれたくないですよ!」
短刀に言われたの気に障ったのか、拗ね出す蛍丸の手を空いた片方で取った。
「まぁまぁ、私たちは仲間なんだから仲違いはほどほどにね」
撥ね退けられると思った手は意外なことにぎゅっと握り返された。
私の言葉に荷物を抱えた審神者が振り返る。
「あー、お前たちはそうしていると親子みたいだね」
審神者の顔を覆う布が笑みで動いた気がする。
三日月も笑いながら返す。
「じじいと親と子どもか?」
三日月……私も今剣もじじいだと思うんだけどな。
「さあ?」
審神者はそれには答えず、再び前を向くと本丸のほうへと向かいだした。