「は?」
「ちょうどいい。ルヴァ、おまえが教えてやってくれ」
同僚で先輩の守護聖に笑いながら言われて地の守護聖ルヴァは固まってしまった。
(教えろといわれても困りました)
ここに緑の守護聖でもいれば庇ってもらえたかもしれないが、間の悪いことにどちらかというとルヴァが苦手とする者たちしか残っておらず。
少し奥で笑っているライに呆れる。
そういうものは年嵩の者が教えるべきではないかとは思うものの反論すらできなかった。
同じ年頃の、しかも首座である少年に性を教えろという。
十五を超えてから聖地に召喚されたとはいえルヴァは未だに清い身体だった。
このようなものは通常は異性が教えるのではないのかと考えたが女王のお膝元である聖地でそのような行為が許されるわけがなく、詳細を聞けば若くして守護聖となったものは時期が来れば代々その者より年嵩の守護聖が教える伝統になっているのだという。
そして、ルヴァは決められたボーダー以上の年齢で聖地に召喚され、僅かではあるが光の守護聖ジュリアスよりも年上になると言われた。
ルヴァは実際の守護聖としての年のとり方を学んだ後であったから、自分がジュリアスよりも年上というのは詭弁だとは思ったものの上手く反論できず、そのまま押し付けられたのであった。
ルヴァが年少の頃から知識を得るのはライフワークとなっていたから、性に関する知識もあるにはあるがなにせ実践したことはない。
思春期を迎えたルヴァにだっていつかは恋人や妻とという夢のようなものはあるが、地のサクリアが目覚めた以上はそれも遠い話だと思い、今回の話がくるまではできるだけ考えることを避けていた分野だった。
それにルヴァはジュリアスのような少年は苦手だった。
人付き合いがあまりうまくないと自覚しているルヴァだ。
脳内に行き渡る知識の波から相手に対して分かり易い様に言葉を選んで口に出しているためか、思ったことを表現するのに時間がかかる。
情報量が多すぎて、それを目の前の人間に合わせて喋ろうとするものだから、ついためて話すようになってしまう。
その喋りがせっかちな人間からは自分が苦手とされるのをルヴァは理解していた。
その上、貴族が持つオーラというのだろうか、故郷では一般市民だったルヴァはジュリアスの存在に気を張るような威圧を感じていた。
まだ闇の守護聖であるクラヴィスとのほうが気が合いそうだと常々考えていたが、そちらとも中々打ち解けることができてない以上自分は人間関係への対処が上手くないのだとルヴァは思っていた。
ジュリアスも職務上ルヴァに話しかけはするが、プライベートな領域までは踏み込ませず。
好ましい人物だと思われていないことくらい鈍いルヴァにだって分かる。
そのジュリアスに、性を教えなければならないとは。
ルヴァは肩の力を抜くと深くため息を吐いた。
ひたすら憂鬱な気分だというのに、他のときと同じく前準備は欠かさなかった。
新しい本を手に取ると頬を染めつつ知識を入手していく。いざその分野として考えると非常に興味深い内容も多々あった。
入手した知識に動揺している暇なぞなかった。
そうしているうちに当日となったのは余計なことを考えずにいられてよかったのかもしれない。
「今日はルヴァが講義をすると聞いたが私の執務室でいいのか?」
「はい…」
深くは知らされていないのか常と変わらない態度のジュリアスにルヴァは苛立たしく思うが、この苛立ちをぶつける相手はジュリアスではないと思い直し、いつものように困ったように笑んだ。
「ジュリアス、今日あなたに教えるのはこちらですが……」
持ってきた本の概要部分を指し示すとジュリアスが固まった。
初心者向けのそれには男と女が同衾している絵が描かれていた。
(やはり知らされていなかったのですね……)
空気の悪さに逃げ出したいと思うものの根が真面目なルヴァには難しく、仕方なくジュリアスに尋ねてみる。
「そのう、ジュリアス……生殖行為についてはまったく知らないのですか?」 「そなたは私を馬鹿にしているのか!? そんなことくらい知っている。健康な男女がこのように裸で同衾すると素晴らしき鳥がやや子を授けてくれるのだ!」
ジュリアスの言葉に今度はルヴァが固まった。
「念のためお聞きしてもよろしいでしょうか…?」
「何だ?」
「この場合の同衾とは……」
ちゃんとした行為を指し示しているのだろうかと尋ねてみると。
「なんだ、教えるといった割にはそんなことも知らないのか?」
ジュリアスは得意げに言い切った。
「同じ寝台の中に入って一晩眠るのだ」
あまりにも得意げに返されたものだからルヴァは困ってしまった。
予想通り、この首座殿は清らかなのであろう。
この年頃の男子としては問題があると思うがそれはこの清らかな聖地で育ってきた男だ。
ルヴァはひとまず男女の身体の仕組みや違いから教えていく。
挿入るべき突起と挿入られる窪みについては特に詳しく説明しておいた。
ジュリアスは青褪めたり赤くなったりしていたが、途中から無言でジュリアスの機嫌が急降下したのをルヴァは苦々しく思っていた。
それとともに自分にこれを振った守護聖たちに腹立ちを感じたが今となってはどうにもならない。
このように汚れなど知らない人間に何を教えているのか。
気高く無垢なものを汚したような罪悪感と羞恥心が沸き起こった。
人を堕落させるという魔物の話を読んだことを思い出す。
まるで今の自分がそんな魔物になったようで顔には出さないがルヴァの心中には嵐が吹き荒れていた。
「……ですから、このように身体が成長すると生殖準備も整うのですよー」
おおよそ説明が終わったところで大人しく聞いていたジュリアスにルヴァは更に尋ねる。
「ジュリアス、自慰の経験はありますか?」
神妙に聞いていたジュリアスだったがルヴァの質問にいきり立ち答える。
「そのようなことをこの私がする訳がないであろう!」
「あああぁ……ならば実技となるんですかねー…」
「は?」
ジュリアスから何をいってるんだと見つめられたものの年長の守護聖から言い含められている。
ジュリアスが自らで欲を発散させたことがなければ、今後のためにそれを教えるところまでが教育だと。
ルヴァは額を抱えながら言った。
「怒らないでくださいよー……私じゃなくて聖地の決まりだそうですから」
ルヴァは覚悟を決めると教えられたとおりにジュリアスに告げた。
サクリアを有した守護聖は常人よりも永いときを生きることになる。
不注意でまたは確信を持って子どもをつくればその子の死を見ることになる。
だから唆されても誑かされても自制をできるように自己処理方法までを教えるのだという。
そのような対応もできてこそ守護聖として大人になるということだとルヴァは教えられたとおりに伝えた。
さすがにこれまでの守護聖も説得してきた話なのか、それを理解するとジュリアスはしぶしぶ頷いた。
「ジュリアス、脱いでください」
「……私だけ脱ぐのは不公平であろう」
「そ、それは…」
服を汚すのもという思いからジュリアスに服を脱ぐように告げたものの返された言葉に逆らうことができず、ルヴァまで服を脱ぐことになった。
生まれたままの姿でルヴァを見つめるジュリアスにルヴァは息を飲んだ。
姿は成長期の少年だが美しいと思った。
同性にそんな感情を覚えるとは浅ましいとルヴァは首を横に振りつつ思考を切り替える。
未だ力なく萎んでいるジュリアスのペニスを掴むとゆるゆると動かし始めた。
しばらくは機械的に触っていたもののルヴァの拙い愛撫でも時間が経つとジュリアスの中心からは蜜が溢れルヴァの手を濡らしていく。
ルヴァとしても自分以外の体液が自分の手を伝うのを不思議な気持ちで見ていた。
一際大きくなったペニスの裏から少し強く擦りあげるとジュリアスが啼いた。
「ル、ルヴァ、身体がおかしい…」
自分の声に驚いたのかジュリアスは狼狽えてルヴァに訴えたが、その声音は普段のジュリアスからは想像もつかないほど甘く、切なげに震えるその睫や唇をみたルヴァを煽る。
「楽にしてください。快楽に逆らわず……そういい子ですねー」
思わず弟と接していたときのような扱いとなってしまい、ジュリアスのプライドを傷つけるかと心配したが、それを咎められることはなく身を任せるジュリアスにルヴァの中で何かが切れた。
「んっ」
ジュリアスの唇にルヴァのそれが重なっていた。
あまりにも自然に口付けていたせいで、呆けるように自分を見ていたジュリアスが先に我に返った。
意外なことにジュリアスは冷静だった。
怒鳴られると身構えていたルヴァはほっとするがそれに気付く。
「あ、初めてではないのですねー」
「ク、クラヴィスとしたことがある!」
そう頬を染めて視線を逸らすジュリアスを見てルヴァは不可解な感情に襲われた。
(おやまぁ、これは……普通にかわいいではないですか)
ルヴァは自分の思考が一瞬判らなくなったが頭を振ると、続けて聞いた。
「ジュリアスとクラヴィスは恋人なのですか?」
大慌てで首を横に振るジュリアスを見てルヴァはふに落ちなかったが、恋人ではないのであれば遠慮することもないだろう。
真っ赤になって珍しく困ったような顔をしているジュリアスには気付かなかった。
ジュリアスの頬に手を添えて再び口付けた。
先ほどのキスとは違い深く口付けると腰を下ろしているジュリアスのほうへ半濁の液体が流れる。
ルヴァはそれを拭う。
「男同士の交わりも習いましたか?」
ルヴァがいうとジュリアスは顔を盛大に顰めた。
「……ご存知なんですねぇ」
ルヴァは驚いた。子ができるのですら子供騙しな話を信じていたというのに。
クラヴィスと恋人ではないという話だが、もしかして自分に話したくないだけかもしれないと。
少し疎外感を覚えたがそのままジュリアスに触れた。開かれた脚の奥、濃桃色のそこに軽く手を触れて。
「ここもクラヴィスと使ったことがありますか?」
キスは平然と受け入れたものの、それは受け入れられなかったようで、真っ青になって否定される。
「馬鹿な! そこは汚らわしいところだ! つ、使うとはなんだ?」
「? さっき男同士の交わりは知っていると……男には膣はありませんので。こちらを使うのですよ」
「ル、ルヴァ! そなたは何をいってるんだ! 裸になって同衾するのは男同士でも可能であろう。そなたが先ほど言っていた接合は男同士では無理だ。入れるべきところがないではないか!」
ジュリアスの発言にルヴァは溜息を吐く。
「だからここに生殖器を入れるのですよー」
ジュリアスの蜜に塗れた指で、硬い蕾を撫でた。
「……男同士では繁殖はできないではないか。何が目的なのだ……」
「うーん。難しいですねー。うーんと、たとえばですけど……ジュリアス、もしあなたがこの先愛したひとが女性ではなく男性だった場合はどうやって愛を確認すると思いますか?」
「……知らん」
ふてくされたような表情をするジュリアスにルヴァは片眉をあげたものの続ける。
「性行為とは生殖のためだけではないのですよ」
大人ぶってそれを告げたものの性衝動に繋げる言葉は選ばなかった。
ジュリアスは良い意味でも純粋でそのような言葉を告げれば反発は必須だろうと踏んだからだ。
「いい機会です。こちらも使えるように準備しておきますか?」
「……準備が必要なのか?」
「恋人同士のうちのどちらかが慣れていればそのときでも問題ないとは思いますが……」
一度達した性器から流れ出る粘液を掻き掬うと、その指に絡めてジュリアスの蕾へ挿しいれる。
思ったよりもすんなりとそれを飲み込んだが……。
「うぅ…き、気持ち悪いぞ!」
「我慢してください。大人になるためです」
良く判らない物言いをするルヴァにジュリアスは抗議しようとしたが、中を蹂躙するルヴァの指に気をとられままならない。
しばらくするとジュリアスの顔色が突然変わった。
「ひゃッ!」
自分の出した声に慌てて口を塞ぎ羞恥に震えているジュリアスに、ルヴァはこれ以上ジュリアスのプライドを刺激するのはよくないと耳にいれなかったフリをした。
ここで行為を詰められるほうが自分の精神衛生上良くないことが判ったからだ。
ジュリアスの甘みの帯び始めた声を聞き、自分の中心が熱く硬くなるのをルヴァは不思議な気持ちで確認していた。
「こちらは立派に大人になっていますねー。ですが、少し我慢してくださいね」
天を向いてそそり勃った中心を根元で緩く締め上げて、ひたすら中を慣らし先ほど露骨に反応があった箇所を責めていく。
ジュリアスの止まらぬ喘ぎに今すぐにでもジュリアスの中へ自身を差し入れたいと思ったがそれは良くないことだとルヴァは自制する。
「ル、ルヴァッ!」
ジュリアスの肉がルヴァの指をきつく締めつけるとルヴァはジュリアスの中心を開放する。
ジュリアスの身体が跳ねてその白濁がジュリアスの腹を汚した。
続けてルヴァの放った白濁にも塗れるジュリアスはそれでも気高く美しいままだった。