自ら吐き出した薄白濁のそれを指で掻き出す。
「うっ…んっ!」
「まだ残っているから我慢するんだ、宗近」
突き入れた人差し指で少し粘度のある液体を掻き出すように壁を撫でれば三日月が嬌声をあげる。何度も男根を受け入れ慣らされた身体はその何分の一しかない指での触れ合いにすらよく反応を返す。
「ふっあっ…」
その嬌声に眉をしかめながら石切丸は指を動かす。
情事の後、石切丸は三日月の胎内に残った残滓を片付けていた。
「んっ、あぁ、あ」
恋刀の蠱惑的な嬌声に油断すると指ではなく己の刀を突き立てたくなるが今宵はもう三度も放ってしまっている。
さすがにこれ以上は己の身も受け入れる三日月の身も難儀だろうと平常心を心に唱えながら無心に指を動かしていた。
掻き出したものを懐紙で拭き取ると残留なきようにもう一度指を差し込む。
胎(はら)にそれが残ると災いとなすことは初めの頃の到らぬ失敗で二振りとも重々承知していたが、なぜか三日月は精液を触れぬようにする用具を石切丸が使うのを嫌がった。
それゆえ、今日もこうして石切丸は三日月の世話をしている。
やはり審神者から渡された用具を使うべきではないか。
むくむくと湧き上がる情欲を抑えながら石切丸は言った。
「なぜ君は用具の使用を嫌がるのかな?」
そう尋ねると三日月は顔を愉悦に染めたまま返す。
「コンドームとやら、あの膜は駄目だ……」
「だからなぜ?」
三日月は上半身を石切丸のほうへ向けると言う。
「おぬしが達したのか分からんだろう?」
そう艶やかな笑みを浮かべながら理由を述べる三日月に石切丸の動作が止まった。
「ッ!」
ちょうど善いところで指が止まったせいか三日月が息を詰める。
三日月も本分を忘れた訳ではなく明日も未だ揃わぬ弟分を探しに厚樫山への捜索部隊に入る予定だ。
もう三度は飛ばされていて、これ以上は確実に明日に障る。
「証が欲しい」
続けられた言葉に今度は石切丸が息を詰めた。
「石切が俺で満足している証が欲しい」
いつもは悠然と構える刀が心許なげに呟くものだから、石切丸は思わず笑いそうになる。
緩む頬を引き締めて言う。
「宗近、君は愚かだね」
完全に石切丸と向かい合った三日月に石切丸は更に言う。
「あのね、私は刀なんだし別に君を抱く必要はないんだよ。そうであるのになぜ君を抱くのか分からないのかな?」
石切丸は三日月を抱く必要がないという。閨で囁かれる言葉にしては酷すぎるそれに三日月は悲しくなった。
「俺を抱くのは嫌か?」
石切丸の表情が崩れる。
「そうではなくて、ああ! もう!」
石切丸の反応から三日月は思い違いを知る。
そのまま首を傾げた。
「必要もないのに抱くのは君を好きだからに決まってるじゃないか!」
「石切…」
「本当に今更すぎるよ…」
安心した三日月は石切丸の頭をかかえる仕草に随分と人らしくなったものだと思う。
用具の入っている小箱を指で示して。
「しかしあの膜は好かん」
やはり拒否する三日月に石切丸は苦笑する。
「つけないと後片付けが大変なんだけどな」
「この膜はおなごが子を孕らまぬようにする道具と聞く。俺たちには不要だろう?」
そう言い切る三日月に、本当は審神者から病気予防や何かで肉の身であれば男の形同士でも必要ときいていたけど、石切丸は三日月を説得するのを諦めた。
破壊されなければ手入れで直る。
資材不足で悩む審神者には悪いが我慢してもらおう。
事後の手間は己が被ろうと頬を緩ませながら答えた。
「ああ、もういいよ……どうせ世話をするのは私なんだから。君の好きなようにすればいい」
「あい、わかった。これからもよろしく頼む」
そういって笑みを零す恋刀に石切丸は呆れ、その我が儘を許す己にもっと呆れる。
感情とは多大な影響を持つものだと神社ぐらしで経験したことを今更思い出していた。
だけどそれも悪くはないと思ってしまう己を嫌いではないと石切丸は薄く笑った。