平成26年から27年にかけての冬はことのほか寒く、金剛空間も必死になって冬営を耐えたという思いが強い。カエサルはヨーロッパを創作するために10年に及ぶガリア戦役を戦い、ルビコン河を前にして「賽は投げられた」という名台詞を吐いて、ポンペイウスとの雌雄を決する内乱に突入した。もう一人のヨーロッパの創作者キリストが生まれる50年ばかり前の話である。ヨーロッパを創作した二人を象徴する言葉が聖書にある。『新約聖書』マタイ伝にあるキリストの「カエサルのものはカエサルに神の物は神に返しなさい」という言葉がそれである。カエサルは武力でヨーロッパを創作し、キリストは精神の力でヨーロッパを創作したというわけである。翻って近代日本を精神肉体双方の力で作り上げたと言ってもいい吉田松陰は日下玄瑞や高杉晋作、伊藤博文、山県有朋など錚々たる英雄、豪傑、政治家を育て、僅かに30歳の人生を刑場の露と消えた。その吉田松陰も唯の硬派の革命思想家ではなく、ペリー艦隊に乗り込み、密航の罪に問われ、萩の野山獄に投じられた時、俳句の心得のある紅一点の獄囚の高須久子と知り合い、再び罪を得て、江戸へ護送される時、俳句の応酬があった。
手のとはぬ雲に樗の咲く日かな 久子
一声をいかで忘れんほととぎす 松陰
世界の音楽界において頂点を極め、80歳を迎える今尚現役の日本人指揮者は「わたしは天才ではなく、努力家である」という。今でも朝4時に起きて勉強を怠らないという。「努力に勝る天才なし」というから本物の天才なのであろう。とても及ぶところではない。
ほととぎす鳴く音待たるる朝寝床
怠け者朝寝貪るほととぎす 金剛