近頃住宅街を歩くと、窓や壁にネットを立てかけ、緑のカーテンとして苦瓜を育てている家が目につきます。
葉の繁りが良く、実も食べられ、丈夫で育てやすいし、エネルギー消費を抑えるというエコの考えも浸透してきているのでしょう。希望者に苗を配布している自治体もあるようです。背景には東日本大震災による電力危機があるとは思いますが、日常的に今後も長く続けてほしいものです。
夏の盛りに黄色の花を咲かせ、よく見ると雌花には1~2センチの小さいながらも疣のある実がついています。
苦瓜といふ悶々のうすみどり 坂巻純子
苦瓜のいぼいぼほどは主張せず 海藏由喜子
原産地は熱帯アジアで、日本では南西諸島と南九州で栽培されてきましたが、本州全域でも夏の高温と十分な降雨があれば育てられます。細長い紡錘形と全体を覆う疣が印象的です。よく観察すると、ずんぐりしたものや細長いもの、色の薄いものなどがあり、いくつかの品種があるようです。
沖縄の壺より茘枝もろく裂け 長谷川かな女
苦瓜を嚙んで火山灰降る夜なりけり 草間時彦
沖縄料理ブームの時、ゴーヤチャンプルーとして人気が出、以来野菜として注目され、今ではどの小売店でも見かけるようになりました。通常は未成熟の実を食べますが、熟すとオ レンジ色になり、種子は真っ赤なゼリー状の仮種皮に覆われます。これは甘くて南九州では果物として食べることもあるようです。鳥も好んで食べ、種子を運んでくれます。
屋根の上に茘枝爛れて廃屋なり 福永耕二
苦瓜という名の通り、強弱はあるものの苦みがあり、好き嫌いの分かれるところです。しかしこの苦さはさっぱりしていて、慣れると病みつきになります。収穫しないで放っておくと裂開して真っ赤な仮種皮を見せるようになりますし、緑色の実も追熟が進むと包丁で切った時真っ赤な仮種皮にドキッとすることがあります。
茘枝という名は果物のレイシ(ライチー)に形質が似ていることに由来します。正式和名は「蔓茘枝」ですが、俳句では「茘枝」又は「苦瓜」と詠まれることが多いようです。
農学・園芸学では「ツルレイシ」、生物学では「ニガウリ」、流通や料理では「ゴーヤ」と呼ばれることが多く、分野で呼び方が変わるのも面白いです。
苦瓜を食うべ浮世をとほざかる 谷 雅子