鰹は暖海性の回遊魚で、全世界の熱帯・温帯海域に広く分布しており、日本沿岸にも回遊してきます。フィリピン沖あたりから黒潮に乗り、日本列島の太平洋沿岸を北上するのが代表的なルートです。2月に九州南部、3月に四国沖、4月に紀伊半島、5月に伊豆・房総沖を通り、7~8月には三陸沖まで達し、親潮の勢力が強くなる9月ごろにUターンして南下を始めます。
5月ごろに相模湾で獲れた鰹が「鎌倉物」として江戸に急送され、特に初物は法外な値段で取引されていました。鰹そのものは古くから食べられていましたが、江戸っ子が初鰹に熱狂するようになったのは、町人文化が花開いた文化文政時代、つまり江戸時代半ば以降のことです。
芝浦や初松魚より夜が明る 一茶
青葉のころ、関東まで北上した鰹は程よく脂が乗り、さっぱりとした味わいとともに、腹に走る独特の縞模様がいかにも涼しげで食欲をそそります。
みどり葉を敷いて楚々たり初鰹 鷹女
鰹は鯖と同様鮮度の落ちやすい魚です。当時の人たちはどのようにして鰹を相州から江戸まで運んだのでしょうか?それは「押送船」という小型の快速船でした。帆と櫓の両方を備え、風雨を問わず運行していました。
鎌倉を生きて出けむ初鰹 芭蕉
現代では鰹と言えば刺身もタタキもニンニクや生姜で食べるのが普通ですが、江戸の人々は皮付きにつくり、芥子醤油で食べていました。
初鰹芥子がなくて涙かな 一蝶
足の早い魚なので余った時は「なまり」にして食べていたようです。また昨今は初夏の鰹より、もっと脂の乗った「戻り鰹」が好まれる傾向ですし、冷凍技術も進歩したので、一年中出回っていますが、やはりこの時期ならではの「初鰹」を目と耳と口であじわいたいものです。
目には青葉山郭公初鰹 素堂