名前だけでは思い出せない方がいるかもしれないが、写真を見れば誰でもスクリーンやテレビでお目にかかったことがあるはずである。
平成2年に55歳で早世した後、奥様の成田温子さんによって遺稿句集「鯨の目」が出版されている。
鯨の目人の目会うて巨星いず
成田三樹夫氏は、昭和10年に山形県酒田市で生まれ、高校卒業後東大に進むが中退して、翌年に山形大学に入学している。
昭和33年に山形大学も中退し、翌34年に俳優座養成所に入所。卒業後に大映と専属契約を結び、俳優としての道を歩むことになる。
いつごろから句作をはじめたのかははっきりしないが、
目が醒めて居どころがない
背をのばせばどこまでも天
風の音か息の音か
ひそと動いても大音響
などの山頭火、放哉のような自由律句が残されている一方で、
肉までもぬいだ寒さで餅をくい
ひげそる刃さえわたる朝ほうき星
つかれはてて肉声こぼるや酒光る
夕顔のつるのきつさに身構えり
など、鋭さが光る句も多く残している。
俳優としては、個性派としてなくてはならない存在であった。大映倒産後は東映の「仁義なき戦い」シリーズで独特の声と強い目で強烈な印象を残したほか、萬屋錦之助主演の「柳生一族の陰謀」では、剣の達人である公家の役を怪演している。
また、テレビドラマ「探偵物語」では、松田優作にからむ刑事役で「工藤ちゃ~ん」という台詞が印象に残る。
友の訃やせまき厠にただ涙落つ
逝きし友万化の宙に俳優(わざお)げり
の句は、俳優であった友人の死に際してのものであろうが、松田優作の死のだいぶ前に作られており、ひょっとすると、大映で同時期を過ごした田宮次郎のことかもしれない。
奥様の文章によれば大変にやさしい方だったようで、
妻の音にぐんにゃりとなる留守居かな
子供等の笑い顔みて時疾し
柿喰う児柿いろの中で眼が笑い
時計の音それはピノキオ妻来る日
などの句には家族に注ぐ愛情が見て取れる。