ハゼ科の魚は種類が多いのですが、代表的なものはマハゼ、ムツゴロウ、トビハゼ、淡水魚のヨシノボリなどでしょう。一般にハゼと言えばマハゼのことで、漢字では鯊、沙魚と書き、日本全国に分布し、呼び名は地方によっていろいろあるようです。
季語としては鯊、鯊の汐、鯊舟、鯊釣り、鯊日和などがあります。昭和30年代ごろまでは東京湾の奥でも秋になればあちこちで鯊釣りの光景が見られました。特に羽田付近の水路は穴場で、よく釣れたようです。
深川や橋より垂るる鯊の糸 宇都木水晶花
鯊釣の陸に背中を並べをり 森野 稔
初秋の鯊は今年鯊とも呼ばれ、小ぶりながらも貪欲で河口付近の土手や堤防、あるいはボートから糸を垂らせばすぐぴくぴくっと魚信があり、100尾以上釣る人もいます。この時期は浅い所にいるので、ゴカイなどを餌に子供でも簡単に釣ることができます。小気味良い魚信とユーモラスな表情も愛される所以でしょう。
ひらひらと釣られて淋し今年鯊 高浜虚子
船端に両足垂らす沙魚日和 西山 睦
空缶にきよとんと鯊の眼がありぬ 下田 稔
秋も深まり水温が下がってくると、だんだんと深場へ移動し、魚体は大きくなりますが釣るのも難しくなり趣が増します。冬になるとさらに深場へ移り、ケタハゼと呼ばれる体長20~25センチぐらいまで成長します。
くせの無い白身の鯊は煮ても揚げても美味で、江戸前天麩羅には白ギスやサイマキ海老と並んで欠かせない種です。佃煮も下町の味として親しまれています。
屋形船で食べる揚げたての鯊の天麩羅は、夏から秋にかけての東京湾の風物詩です。
池波正太郎の「仕掛人・藤枝梅安シリーズ」にも鯊の描写があります。『辛目にさっと煮た鯊を…』ですが、いかにも美味しそうな感じです。
江戸時代には鯊はどこでも獲れたことでしょう。
てんぷらやすでに鰭張る今年鯊 水原秋櫻子
冬のケタハゼは大きいので刺身にも出来、脂の乗った白身は奥深い甘さで、釣り人ならではの味です。
埋め立てや護岸工事で鯊の釣り場も少なくなりましたが、汽水域であれば思わぬ所で釣れたりもします。初秋から仲秋にかけて、江戸川の河口付近では休日ともなると鯊釣りのボートが連なる光景が見られます。秋の一日、鯊釣りに出かけ、釣果を料理するのも楽しいものです。
たらたらと洲崎の灯あり鯊の潮 石田波郷