「暑さ寒さも彼岸まで」と言われるように、秋と春は解放感のある季節です。とりわけ春は訳もなく浮き浮きした気分になり、夜更かしもしようというものだ。
その気分は、北宋の詩人・文章家である蘇軾(そしょく、号は蘇東坡)の春夜詩「春宵一時値千金、花に清香有り、月に陰有り」に尽きるだろう。
春はまた節目の時でもあります。あちらこちらの窓にも遅くまで灯りが見えるが、その灯りの中にそれぞれの歓び、哀しみがきっとあるのでしょう。
駅の灯り、街灯の灯り、高層ビルの灯り、ヘッドライトの灯り等々「春の灯り」の華やぎ、潤み、滲みの中に、明日を待つ夜の心情があるのでしょう。たとえ蝋燭が電球になり、蛍光灯になり、LEDになろうとも。
春燈や衣桁に明日の晴の帯 富安風生
仰山に猫ゐやはるわ春灯 久保田万太郎
春燈にひとりの奈落ありて座す 野澤節子
春燈やはなのごとくに嬰のなみだ 飯田蛇笏