笠ヶ岳  名峰の景観と感動の滑走

岐阜県  笠ヶ岳2,897m 抜戸岳2,813m  2008年6月2日

(笠ヶ岳)日本百名山

493

D1

朝の松本は連休のときと大違いで曇っている。今日は晴れるのかなあ。しかし、安房トンネルを抜けてみると、真っ青な青空に笠ヶ岳が待っていた。なるほど、松本が曇っていても、飛騨側は晴れているのか。

笠新道に着いたのは9時前。登るにつれ視界が広がり、焼岳の向こうに乗鞍岳が見えてくるが、標高1700mあたりで穂高が見え始め、1800の先でトラバース路を歩いて尾根に向かう。14時半前、標高2,300mのあたりで雪渓に出る。こいつはシールで登れそうだ。ザックを下ろし、シールを貼ってあるスキーを下ろす。

やがて上に雪庇のある稜線が見えてくる。あれを越えれば杓子平だろう。

そして雪庇の上の稜線にたどり着く。ヤブを越えると目の前に思いがけない眺望が開ける。正面には抜戸岳と杓子平の傾いた広大な雪原。一目で杓子平とわかる。

D2

シールで出発したのは6時半。抜戸岳頂上から見る笠ヶ岳はなかなか立派である。左右対称の笠の形、その右肩は小笠。急峻な黒い岩肌を白い雪が覆っていて、その雪の上をたどって頂上を目指す。

抜戸岩はP2を少し下ったところにあった。二つに割れた岩の間を通る。小笠には思いがけず、細長いケルンがたくさん立っていた。

雪斜面を登りきり、岩場を少し越えると祠があった。頂上標識のところに着くと、ケルンの間の頂上標識の上に抜戸と槍が見える。なるほど、ここから見る槍ヶ岳は確かになかなか立派。

抜戸岩の手前で大きなワシが飛んでいるのを見る。ずいぶん低く飛んできて、槍の方へ飛び去っていった。このあたりを縄張りにしているのだろう。

抜戸の稜線でアイゼンを外し、スキーをはいて稜線の淵から下を眺める。なかなかの急斜面。とりあえず斜め左に滑走し、すぐに右にターン、そして左にターン。斜面は堅く、実にスムーズに滑れる。スピードが増し、一気に感動が押し寄せ、大声を上げて叫ぶ。実にいい気分。

これまで、辛い思いをして目指す頂上にたどり着くと、非常な感動を覚えたものだが、今回は笠の頂上に着いても何も感じなかった。相当疲れてるのかなあ、と思っていたが、抜戸岳に帰ってきて、スキーを履いて急斜面を滑り降りたときに一気に感動が湧き上がってきた。余りの感動のすさまじさに、大声で叫んでいた。

1,800mの下あたりで、白い大きなタムシバがたくさん木に咲いていた。

奥飛騨薬師の湯本陣というのに入る。800円くらいだったかな。宴会場のある大きな温泉。

 抜戸岳頂上から見る笠ヶ岳はなかなか立派である。左右対称の笠の形、その右肩は小笠。急峻な黒い岩肌を白い雪が覆っていて、その雪の上をたどって頂上を目指す。
 これまで、辛い思いをして目指す頂上にたどり着くと、非常な感動を覚えたものだが、今回は笠の頂上に着いても何も感じなかった。相当疲れてるのかなあ、と思っていたが、抜戸岳に帰ってきて、スキーを履いて急斜面を滑り降りたときに一気に感動が湧き上がってきた。余りの感動のすさまじさに、大声で叫んでいた。
見えてきた穂高連峰
 やがて上に雪庇のある稜線が見えてくる。あれを越えれば杓子平だろう。
槍ヶ岳と飛騨沢
 頂上標識のところに着くと、ケルンの間の頂上標識の上に抜戸と槍が見える。なるほど、ここから見る槍ヶ岳は確かになかなか立派。
 白い大きなタムシバがたくさん木に咲いていた
D1  6:34 新穂高P発  8:10 穴毛谷から引き返し  8:50 笠新道入口13:32 標高2,200m14:23    シール16:12 杓子平・雪庇16:31 テント設営地点・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・登り9時間57分D2 6:28 テント発、シール  7:52 抜戸岳2,813m  8:03 スキー・デポ、徒歩  8:54 抜戸岩  9:38 笠ヶ岳山荘10:06 笠ヶ岳・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・テントから3時間38分10:21 笠ヶ岳発11:13 抜戸岩12:57 スキー・デポ地点、滑走13:10 テント場着13:35 テント場発13:52 杓子平・雪庇14:11 夏道、滑走終了14:54 標高2,200m17:54 笠新道入口19:17 新穂高P・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・笠ヶ岳から8時間56分・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・朝のテントから12時間49分

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D1

この週は土曜まで雨だが、日曜・月曜と晴ということで、笠ヶ岳に登りにいくことにする。もう6月にはいってしまうが、穴毛沢は雪崩のため、5月中旬以降が適期ということで、構わないだろう。しかし、今年は雪が少ないのが心配(大当り)。

朝の松本は連休のときと大違いで曇っている。今日は晴れるのかなあ。行く手の乗鞍だけは晴れている。しかし、安房トンネルを抜けてみると、真っ青な青空に笠ヶ岳が待っていた。なるほど、松本が曇っていても、飛騨側は晴れているのか。今回の新穂高の駐車場は土曜なのにガラガラ。徒歩の男性が軽装で出かけていく。私はスキーとピッケルをかつぎ、ヘルメットをかぶる重装備で出発。バス停のところで登山届を出しておく。穴毛沢らしき谷は新穂高の駐車場のあたりからも見えた。三週間前と比べ、すっかり雪の消えた林道を歩く。大丈夫かなあ。

さて、穴毛谷の入口に着き、最初の作業道路に入る。もっと先にも作業道路の橋があったはずだが、たぶんここで大丈夫だろう。行く手には工事用のショベルカーやクレーンが見えるが、工事はしていないようだ。掲示板の地図には、谷の左岸に沿って林道が描いてある。谷はすぐに右に曲がってその先は見えず、谷の上には笠の稜線が高くそびえる。ひどく近く感ずるが、そうでもないはず。水溜りのある作業道を通って対岸に渡り、堰堤のほうに登っていくと、背後に焼岳とロープウェイの鉄塔が見え、北には穂高と槍の稜線が見えてくる。すごい快晴になりそうだ。ところが、巨大な堰堤のところで行き止まり。左岸の高いところに林道が見えており、あそこに登らないといけない。残雪の上から石垣を登るか、崩れそうな法面を登るかだが、法面を選んでガレを登り、一回ずり落ちて右手の小指を切る。今年は右手の小指が受難だが、気をつけよう。

しかし、この日の受難はこれだけではなかった。林道というか、作業道路を進むと、次の堰堤にぶつかり、残雪があってとても左岸から乗り越えられそうもない。かといって、右岸に渡るには徒渉しないと無理。最初から右岸だったのか、それとも通常はスノーブリッジで渡るのか。たぶん雪があれば左岸を越えたり、右岸に渡ったりできるのだろう。無理して右岸に渡ることも考えたが、この堰堤を越したところで、この調子では次なるハードルが待っているだろう。ここはあっさり諦めて作業道路を引返す。三週間前の小池新道から廻るか、笠新道を登るかすればよい。作業道路を戻り、上流まで辿ってから橋を渡って林道に戻る。全く雪はなし。魚釣りか山菜取りの男性が二人、川辺から上がってきて、少し林道を行ったところでまた川辺に下りていく。笠新道に着いたのは9時前。この急な登山道をスキーを担いで登れるか多少の不安はあったが、小池新道から廻っていたのでは、今日はともかく、明日が厳しくなって2泊3日になってしまう恐れがある。そこで笠新道を登る。まあ、ダメなら来年があるさ。時計は見てなかったが、笠新道入口が標高1,350mとあるので、杓子平の2,500m地点まで5時間以上かかるだろう。自然と急ぎ足となる。

思ったよりも楽な九十九折の道を快調に登る。手入れが良いとスキーがひっかからないのでずいぶん楽。しかし、樹間から差し込む日差で日射病ぎみになり、へばってくる。1,450m標示より更に登り、休憩。この後、だいたい1時間に200mづつこなして休憩を取る。時間は見なかったが、標高標示は1,700m以降、100m刻みで出てくる。マップの笠新道は少し違っていたが、岩小舎沢という穴毛沢の隣の谷の北側の尾根に取り付いていく。最初はそれより北側のブナ林斜面を九十九折。登るにつれ視界が広がり、焼岳の向こうに乗鞍岳が見えてくるが、日も差してきて、お茶が足りるか心配になってくる。標高1700mあたりで穂高が見え始め、1800の先でトラバース路を歩いて尾根に向かう。もう穂高の尾根は真っ青ですばらしく、三週間前よりも強烈に近いところに見えている。正面に斜めの尖りがあるのがたぶんジャンダルムで、その左ヶ奥穂高。その右に一段低いのが西穂高、左に並んでいるのが涸沢と北穂高だろう。尾根にとりつくと、さきほど水を汲みそこなった残雪が豊富に現われ、今度は空いたペットボトルに入れる。確か4本もってきていて、もう2本空けていた。このすぐ先に中間点1,920mの標識。ということは、杓子平は標高2,600mということになる。それにしても、杓子平まであと700mを「登り1時間30分」とは信じられない(5時間弱かかる)。

木立のないところに出て、槍ヶ岳も見えてくる。頭上には残雪をいだいた斜面が広がるが、目的地はまだまだ先だろう。槍は小槍を従え、飛騨沢の雪渓が大きく広がっており、その手前に大喰、中岳、南岳のピークが並ぶ。頭上に見えていた尾根上のコブに着いてみると、そこは小さな林で、残雪が夏道を覆っていた。新しい踏跡が雪の上に続いており、それを辿る。それは今朝のものらしく、この踏跡がなければ、ロストしていたかもしれない。2,100mから2,200mまでは残雪が多く、踏跡も消え気味で苦労。雪の下は岩場のことが多く、つなぎめで気を使う。乾いたところに出て休憩すると、もうさっきのコブ林がだいぶ下になっている。はるか下には谷底と川が見え、新穂高の建物も見える。いやあ、だいぶ高く登ったもんだ。14時半前、標高2,300mのあたりで雪渓に出る。こいつはシールで登れそうだ。ザックを下ろし、シールを貼ってあるスキーを下ろす。

雪渓の傾斜はきついが、シールで歩けることに最初はうかれる。雪渓は広く、まっすぐ登れそうだったが、どうも下に何もないのは不安で、右の尾根沿いに短いジグザグで登る。やがて上に雪庇のある稜線が見えてくる。あれを越えれば杓子平だろう。右の尾根沿いを登っていてヤブの間をなんとか登った先でスキーを踏み間違え、ヤブの下まで滑り落ちる。なんてことだ。諦めずに同じところをまた登る。そのあたりで徒歩の踏跡を見つける。リボンもある。たぶん夏道沿いなのだろうが、踏跡とリボンを追っていて、残雪が行き止まりとなり、スキーを外してヤブを越える。その先で雪の上から夏道を示すリボンがあり、ここはスキーをかついで夏道に上がる。すると、全然夏道ではなく、ただのヤブ道。ハイ松こぎになって岩場に上がり、もっと左にあった夏道を見つけて岩場を下る。夏道に降りついてほっとする。なんでこんなことになったのかなあ。一瞬の判断が大きく結果を変えるのだ。

夏道はやがて雪斜面となるが、行く手に岩峰が見えているのでそのまま担いで登る。岩峰のところにたどり着くと、まだ先に雪斜面が続いている。背後を振り返ると、槍・穂高の稜線にいつしか雲がかかろうとしている。北に大きなカールが見え、三週間前に登った鏡平がその底にある。もう同じくらいの高さだ。行く手の雪斜面は北側にオーバーハングして落ちているので、できるなら夏道を辿りたかったが、どうやら夏道は岩峰の裏側でなく、雪斜面に埋まっているようなので、途中からスキーを下ろしてシールで登る。このくらいの斜面なら問題なく登れるようになっていた。スキーを履く前に雪斜面にすわって休憩すると、正面に槍ヶ岳と鏡平。もう歩き始めて10時間弱。くたびれた。槍ヶ岳の飛騨沢は、この位置から見ると登れそうな傾斜に見える。

雪斜面の真上にピークがあり、その稜線右に抜戸に続く尾根が少し見えていたので、そちらに登ることも考えられたが、ここは左の雪渓の上の稜線を目指す。これは正解で、左に斜面を登ると雪庇の稜線は目前で、左下に雪渓が現われる。まっすぐ登っていたら稜線直下で立ち往生かヤブこぎになっていただろう。ただし、最後の登りはかなり急で、大きくジグザグに登る。雪渓の下を見下ろすと、オーバーハングの向こうに谷の底まで見える。たいへんな高度感。そして雪庇の上の稜線にたどり着く。尾根筋のところだけ雪庇はなかった。雪庇稜線の向こう側の山並が見えたが、稜線の残雪の上半分は雪が消えてヤブが出ており、笠も杓子平も見えない。スキーを外して休憩。細長い稜線上の雪の上に、クマのものらしい足跡を発見。そんなに大きくはないが、こんなことろを歩いているのか。先行の踏跡は同じところについていて、右のピークの側のヤブに消えていた。ザックをかつぎ、ヤブに入る・・・・・と、本物のヤブこぎとなり、なかなか向こう側に出ない。

ヤブを越えると目の前に思いがけない眺望が開ける。正面には抜戸岳と杓子平の傾いた広大な雪原。一目で杓子平とわかる。抜戸岳の稜線の南に笠ヶ岳が立っていた。すごく近く感ずる。笠の頂上の少し下に小屋も見えている。笠の下には谷が落ちており、それが穴毛谷に続いているのだろう。さて、もう夕方だし、今夜のテント場を探す。正面の抜戸(そのときは抜戸とは知らなかった)まで登るのはしんどそうなので、その手前の木立のところでいいだろう。とりあえずシールスキーをはいて雪原斜面を下り、コルから少し登り返す。先行の踏跡はアイゼンになっており、抜戸に登っていったようだ。笠ヶ岳の小屋まで行ったのだろうか(抜戸から更に北に行っていた)。木立の間に手頃な場所を見つけ、慎重に位置取りを決めてスコップで雪を掘り、平にならす。テントを張り、マットを膨らませ、飲用の雪を削り、テントに入る。正面には笠ヶ岳。いやあ、くたびれた。明日は往復して下るだけだから楽だろう(楽ではなかった)。ジェットボイルで食事を楽しむ。夜9時頃、外に出ると、北斗七星が見えた。東の空がぼんやり明るく、星は見えないが山の稜線がわかる。

D2

朝5時頃に起きて朝食を食べ、準備をする。昼食の分まで食べたので、ジェットボイルは持っていかない。今日は山は見えているが、高曇りで、日は差していない。結局、日が差さなかったのでスタミナがもったのかもしれない。シールで出発したのは6時半。笠は近く見え、昼過ぎには戻れるんではないか(全く違っていた)。稜線に上がると槍が見えた。小槍を従えた姿。先行のアイゼンはずっと抜戸めざして続いている。抜戸は思ったより遠く辛い。半分ほどきて振り返ると、昨日乗り越えてきた雪庇の尾根はもう眼下になっていて、穴毛谷はオーバーハングが更に深く底なしになっている。結構な傾斜だ。

いよいよ最後の斜面となり、どっちに登ろうかと考えていると、先行アイゼンはピークの左上に向かっている。もっと左側から廻れるのでは、と思ったが、先行アイゼンを信用して急傾斜を登ることにする(左側は切れ落ちていたので、正解)。シールで限界まで登ったが、最後のところは無理せずにアイゼンに切り替える。このへんは経験か。とにかくスキーを担いで稜線にたどり着く。ずいぶん苦労したように感じたが、テントから1時間強。稜線への最後のルートは正解で、そこより右では雪庇があり、左は崖になっている。

稜線上は広く、右奥には高いピークはなく、ここが抜戸岳だと分かる。しかし、反対側の笠への稜線は西側の雪が消えており、しかもアップダウンが思ったより多く、とてもスキーに向いてそうもない。足元の眼下には杓子平が広がり、テントのある木立ははるか下。昨日越えてきた稜線はまさに”杓子”のようにまるい線を描いて穴毛谷のほうに下っている。初めて見る稜線の西側には黒部五郎の背中が見えている。これは三週間前に双六、三俣蓮華から見たカールを大きく開いた姿とは全く違う。頂上は尖り、太い尾根を張っている。

稜線を歩いて抜戸の頂上に向かう。意外に遠そうなので途中にスキーを置いていく。昨日の先行アイゼンの跡を辿り、雪庇の上かもしれないところを歩き、雪から上がったところにある抜戸の頂上に着く。簡単な頂上標識と三等三角点。平坦な稜線なので、ここが頂上という感じではない。しかし、抜戸岳頂上から見る笠ヶ岳はなかなか立派である。左右対称の笠の形、その右肩は小笠。急峻な黒い岩肌を白い雪が覆っていて、その雪の上をたどって頂上を目指す。笠の西側には山はなく、金木戸川の谷がうねっている。いつしかあそこを遡って笠や三俣蓮華を目指すことがあるだろうか。稜線の先は急激に落ち込んでアイゼン踏跡はそこを辿っているようで、更にその先は落ち込んで見えなくなり、ずっと先にテーブルのように平らな双六が見える。その上の置物のように鷲羽や黒岳が並んでいる。

スキーを置いたところに戻り、笠へのルートへ歩く。思ったとおりルートは稜線から西側の雪のない夏道を下っている。アイゼンを付けたまま、スキーは残していくことにする。当初予定の2時間での往復はとても無理な気がしてくる(4時間半かかる)。夏道を下るとトラバース路との合流点で立派な標識があったのにびっくり。それから稜線の雪庇のへりに出て、夏道と雪の上をいったりきたりとなる。夏道を歩くとアイゼンが簡単に外れてしまうのに苦労。

最初は抜戸岩かと思った大きな岩のすぐ先が杓子平から見えていた一番手前のピーク(P1)。最高点はトラバースして先に進むと、大きな雪原の稜線となる。古い踏跡があり、古いものほど雪庇の端のほうを辿っているが、余り端を歩く気はしない。底が見えない穴毛谷の向こうに新穂高の出発点が見える(8時40分頃)。昨日より落ち着いた感じの穂高の真下に杓子平の稜線。この先のP2は見た目より遠く、雪の壁になっているところを登ってP2ピークを認定。笠はだいぶ近づいたが、山小屋手前で雪が細く切れている急な坂がある。

抜戸岩はP2を少し下ったところにあった。二つに割れた岩の間を通る。その後のアップダウンを歩き、急な坂の夏道に雪が細く残っている登りに達する。なにか臭い、と思ったら、ウサギの首が雪道の上に落ちている。クマだろうか(帰りに大きなワシを見たので、それだったかも)。雪原の斜面に上がり、急な坂を一歩一歩登る。最後の苦しいところ。雪原の中央に小屋ではなく、右手の小笠に向かう。ここで登っておかないと帰りには寄らないかもしれない。

小笠には思いがけず、細長いケルンがたくさん立っていた。頂上標識は見当たらなかったが、十分に頂上らしい。ケルンの向こうに黒部五郎と薬師が遠く見えている。山小屋までは雪の斜面なので、ここはグリセード、じゃなくてシリセードで下る。疲れた足を踏ん張らなくてもいいのがいい。山小屋は窓に板がはめられており、無人のようだ。小屋の前を通ってまっすぐ笠に向かう。しんどい斜面を一歩一歩登る。振り返るとはるか下に杓子平が見える。テントはあのへんかなあ。

雪斜面を登りきり、岩場を少し越えると祠があった。祠で拝んでいると、奥に別のピークがあり、そこに頂上標識があるようだ。その向こうには乗鞍がぼんやり見えている。祠の少し先の雪の上が一番高そうなので、そこで最高点の認定をしておく。頂上標識のところに着くと、ケルンの間の頂上標識の上に抜戸と槍が見える。なるほど、ここから見る槍ヶ岳は確かになかなか立派。それに比べて穂高はおとなしく見える。それほど大きくない頂上の岩場の中央に二等三角点。四角い平たい岩が散らばる。北西にははるか立山から赤牛、黒岳、鷲羽、野口五郎の山並とその手前の双六、丸山、三俣蓮華。双六の長い頂上の右側には抜戸から弓折、樅沢に続く稜線が折り重なって見える。南には尾根が低く続いており、どこかに錫丈があるはずだがよく分からない。東側を見下ろしてみると、杓子平から穴毛谷の入口を見ることができた。杓子平は急激に落ち込んでいて、雪は細い線になって手前の緑の笠の陰に消えている。あれを登るのは相当たいへんだろう。穴毛大滝というのは見えなかった。

頂上で15分ほど休み、お茶を飲んでから帰途につく。改めて北の空を見ると、黒部五郎の左に北ノ俣岳、右に雲ノ平が見えている。ずいぶん北アルプスの山々も同定できるようになった。下りは雪の斜面をグリセードぎみに、山小屋や小笠に寄らずに、まっすぐ降りる。登りに比べてグリセードの下りのほうが数段楽に感じたが、タイムを見ると抜戸と笠の間は往復ともに2時間。帰りはペースを落としていたと思われる。抜戸岩の手前で大きなワシが飛んでいるのを見る。ずいぶん低く飛んできて、槍の方へ飛び去っていった。このあたりを縄張りにしているのだろう。

抜戸岩の間を通り、P2を越え、雪壁を下り、双六や黒部五郎を見ながらP1に向かう。緩い下りから緩い登りとなり、辛い。稜線歩きの途中で遙か下方に新穂高を見る。手前の穴毛谷は手前の斜面で見えないが、その先にある谷の下の風景が見えている。P1に辿りつき、下りとなり、コブ岩を過ぎてから再び苦しい登りとなり、やがて分岐標識に至り、ついにスキーをひっくり返してあるところに帰りつく。どっかりと腰を下ろして休憩。いやあ疲れた。それにしても、これまでここまで辛い思いをして目指す頂上にたどり着くと、非常な感動を覚えたものだが、今回は笠の頂上に着いても何も感じなかった。相当疲れてるのかなあ、と思っていたが、抜戸に帰ってきて、スキーを履いて急斜面を滑り降りたときに一気に感動が湧き上がってきた。余りの感動のすさまじさに、大声で叫んでいた。

抜戸の稜線でアイゼンを外し、しばらく休む。時計を見て13時前だったのは予想より早かったので、クッキーを食べてリラックス。スキーの滑降には若干不安を感じていたのは、2週間前の針ノ木のときにうまく滑れなかったせいだろう。スキーをはいて稜線の淵から下を眺める。なかなかの急斜面。とりあえず斜め左に滑走し、すぐに右にターン、そして左にターン。斜面は堅く、実にスムーズに滑れる。スピードが増し、一気に感動が押し寄せ、大声を上げて叫ぶ。実にいい気分。

これまで、辛い思いをして目指す頂上にたどり着くと、非常な感動を覚えたものだが、今回は笠の頂上に着いても何も感じなかった。相当疲れてるのかなあ、と思っていたが、抜戸岳に帰ってきて、スキーを履いて急斜面を滑り降りたときに一気に感動が湧き上がってきた。余りの感動のすさまじさに、大声で叫んでいた。

二回目にターンして下を見たとき、このままテントのところまで滑れる気でいたが、十数回ターンしたあたりでヒザがくたびれて停止。曇だがターン・トレースは見えている。なかなかのショートターンで滑っている。結局、まっすぐに下らず、稜線に沿って左に大きくカーブ。左の稜線のところでターン・ストップすると、稜線の向こうに槍。稜線沿いの片斜面のターントレースは片側だけが大きくエッジが切れていて、それがまっすぐ並んでいるのは我ながらなかなかみごと。半分くらい下ったはずだが、まだまだテントは遠い。ずいぶん登ったものだ。

いったん傾斜が緩み、最後のところで急な片斜面を滑ってテントに到着。軽いザックでの楽しい滑走はこれで終了。しかし、前日と今日の午前中のがんばりが報われる13分間の滑走であった(たった13分とは思えない)。感動がトレースになって斜面に残っている。ヘリコプターから見えるかな(午前中、ヘリコプターの音が聞こえていた)。テントを片づけてザックに入れ、コルまで滑り、スキーを担いで登り返す。笠と抜戸と杓子平に別れを告げ、ヤブを越えて岩小舎沢の雪渓の上に出る。

抜戸からの斜面よりもっと厳しいほどの傾斜。ほぼ真下に蒲田谷の底が見える。出だしの傾斜はともかく、その先がオーバーハングしてる。途中にヤブがところどころ出ており、行き止まりになってしまうとやっかいなので、雪の切れている左側(登りのコース)や中央を避け、雪渓が広がっている右側に大きく膨らんで滑ることにする。登りのときは開けすぎていて避けたのだが、滑り降りるときはこちらのほうが良い。重いザックを背負っているので、抜戸からの滑走のようにはいかない。しかも、標高が下がって雪質も悪いだろう。慎重に斜滑降で滑り始める。

上部の滑走はうまくいって、大きなヤブを廻って中央に滑り出る。この先は雪渓に入った夏道をうまく見つけないといけない。調子に乗って滑っていると行き過ぎてしまうだろう。中央部分を滑っていて、前日の自分のトレースを発見。岩場に続く夏道沿いに向かう前の、雪渓を登っていたときのトレースだ。しかし、トレースは消えかけていて、左から右にターンして雪渓中央に戻ったときにいったん見失う。トレースを探しているとヤブを通っている箇所もあるため、雪渓中央を滑って夏道を探す。やがて、それらしいところを見つけ、そこから伸びる微かなシール・トレースを発見。ゆっくりと今回の滑走を終了する。これでもう今回、緊張を強いられる局面は終わった・・・いや、まだ残雪下りの局面が途中まである。

夏道入口でしばらく休み、スキーを担いで出発。14時半。笠新道入口まで焼く1,000m、新穂高まで1,300mの標高差を下るのにどのくらいかかるだろう。登りは1時間当り200m。下りはその2倍としても3時間強、18時前(実際は5時間弱、登りとさして変わらない)だから暗くなってしまうかなあ、と思いつつもゆっくり下る。どうせ今日は長岡泊まりだ。残雪をスキーを担いで下るのはなかなかこわい。グリセードでいければいいが、スピードがでるとやばい。夏道との接点が岩場で、雪との間があいてるところは越えにくい。1回しりもちをつくが大過なし。

標高2100mの休憩地点からはまだだいぶ下に見えたコブ林の雪の中を下ると、もう残雪もない。ただヒザが痛いだけ。向かいの槍・穂高には雲がかかっていて見えない。1,800mの下あたりで、白い大きな花がたくさん木に咲いている。岩小舎沢の尾根を外れるとやがてブナの林となり、樹間に谷底が見えてくる。そして笠新道の看板標識の裏側が見え、ようやく入口に降り立つ。18時。ザックを下ろして休憩だが、時計をみてびっくりし、ザックを担いで歩き出す。もう暗くなってくる。

岩小舎沢の正面から見上げると、下部にはほとんど雪はなく、ガスに隠れた上のほうに雪渓の端らしきものが見えている。橋を渡り、林道を歩いて穴毛谷のあたりまで来ると、谷の上に緑ノ笠と笠ヶ岳の頂上部分らしきのが見える。しかし、上からはこの林道は見えなかったから、下からも笠の頂上は見えないことになる。

ゲートに着いたのは19時前で、もう薄暗い。登山届の窓口で、標高1700m付近で拾った鍵といっしょに下山届を出しておく。ホテルの窓には明かり。駐車場に向かう細道はまっくら。車に辿り着き、薄暗い駐車場でザックを片付け、スキーをふいて車にしまう。前回寄った新穂高の温泉はもう閉まっていて、だいぶ戻ったところにある奥飛騨薬師の湯本陣というのに入る。800円くらいだったかな。宴会場のある大きな温泉。

今シーズン最後のスキーツアーはなかなか骨のあるしぶいツアー。約30分の滑走のために二日間で20時間以上を歩く。

D1

 新穂高P

この週は土曜まで雨だが、日曜・月曜と晴ということで、笠ヶ岳に登りにいくことにする。もう6月にはいってしまうが、穴毛沢は雪崩のため、5月中旬以降が適期ということで、構わないだろう。しかし、今年は雪が少ないのが心配(大当り)。

 笠ヶ岳の稜線と新穂高センター

 ゲート

笠ヶ岳(下から見上げる)

 

雪の無い穴毛谷

 笠新道入口

笠新道に着いたのは9時前。この急な登山道をスキーを担いで登れるか多少の不安はあったが、小池新道から廻っていたのでは、今日はともかく、明日が厳しくなって2泊3日になってしまう恐れがある。そこで笠新道を登る。まあ、ダメなら来年があるさ。時計は見てなかったが、笠新道入口が標高1,350mとあるので、杓子平の2,500m地点まで5時間以上かかるだろう。自然と急ぎ足となる。

 ブナの夏道

思ったよりも楽な九十九折の道を快調に登る。手入れが良いとスキーがひっかからないのでずいぶん楽。しかし、樹間から差し込む日差で日射病ぎみになり、へばってくる。1,450m標示より更に登り、休憩。この後、だいたい1時間に200mづつこなして休憩を取る。時間は見なかったが、標高標示は1,700m以降、100m刻みで出てくる。

 焼岳と乗鞍岳

 

見えてきた穂高連峰

 


 


初めて見えた槍ヶ岳


シールで登る

木立のないところに出て、槍ヶ岳も見えてくる。頭上には残雪をいだいた斜面が広がるが、目的地はまだまだ先だろう。槍は小槍を従え、飛騨沢の雪渓が大きく広がっており、その手前に大喰、中岳、南岳のピークが並ぶ。頭上に見えていた尾根上のコブに着いてみると、そこは小さな林で、残雪が夏道を覆っていた。新しい踏跡が雪の上に続いており、それを辿る。

 斜面の上端

雪渓の傾斜はきついが、シールで歩けることに最初はうかれる。雪渓は広く、まっすぐ登れそうだったが、どうも下に何もないのは不安で、右の尾根沿いに短いジグザグで登る。やがて上に雪庇のある稜線が見えてくる。あれを越えれば杓子平だろう。右の尾根沿いを登っていてヤブの間をなんとか登った先でスキーを踏み間違え、ヤブの下まで滑り落ちる。なんてことだ。諦めずに同じところをまた登る。

 穂高連峰

 大ノマ岳、弓折岳と鏡平: 大ノマ岳、弓折岳、樅沢岳、鏡平、2,674m峰、2,630m峰?

 

鏡平

 


杓子平が見える


夏道はやがて雪斜面となるが、行く手に岩峰が見えているのでそのまま担いで登る。岩峰のところにたどり着くと、まだ先に雪斜面が続いている。背後を振り返ると、槍・穂高の稜線にいつしか雲がかかろうとしている。北に大きなカールが見え、三週間前に登った鏡平がその底にある。もう同じくらいの高さだ。

 

尾根を進む

 


斜面の上端に着く


 杓子平: 笠ヶ岳、杓子平、抜戸岳

 抜戸岳

雪斜面の真上にピークがあり、その稜線右に抜戸に続く尾根が少し見えていたので、そちらに登ることも考えられたが、ここは左の雪渓の上の稜線を目指す。これは正解で、左に斜面を登ると雪庇の稜線は目前で、左下に雪渓が現われる。まっすぐ登っていたら稜線直下で立ち往生かヤブこぎになっていただろう。ただし、最後の登りはかなり急で、大きくジグザグに登る。

 テント

さて、もう夕方だし、今夜のテント場を探す。正面の抜戸(そのときは抜戸とは知らなかった)まで登るのはしんどそうなので、その手前の木立のところでいいだろう。木立の間に手頃な場所を見つけ、慎重に位置取りを決めてスコップで雪を掘り、平にならす。テントを張り、マットを膨らませ、飲用の雪を削り、テントに入る。正面には笠ヶ岳。いやあ、くたびれた。

夕方の笠ヶ岳


D2

 朝の笠ヶ岳

朝5時頃に起きて朝食を食べ、準備をする。昼食の分まで食べたので、ジェットボイルは持っていかない。今日は山は見えているが、高曇りで、日は差していない。結局、日が差さなかったのでスタミナがもったのかもしれない。シールで出発したのは6時半。笠は近く見え、昼過ぎには戻れるんではないか(全く違っていた)。稜線に上がると槍が見えた。小槍を従えた姿。

 槍ヶ岳と飛騨沢

いよいよ最後の斜面となり、どっちに登ろうかと考えていると、先行アイゼンはピークの左上に向かっている。もっと左側から廻れるのでは、と思ったが、先行アイゼンを信用して急傾斜を登ることにする(左側は切れ落ちていたので、正解)。シールで限界まで登ったが、最後のところは無理せずにアイゼンに切り替える。このへんは経験か。とにかくスキーを担いで稜線にたどり着く。ずいぶん苦労したように感じたが、テントから1時間強。稜線への最後のルートは正解で、そこより右では雪庇があり、左は崖になっている。

 抜戸岳の頂上標識と槍ヶ岳

稜線上は広く、右奥には高いピークはなく、ここが抜戸岳だと分かる。しかし、反対側の笠への稜線は西側の雪が消えており、しかもアップダウンが思ったより多く、とてもスキーに向いてそうもない。足元の眼下には杓子平が広がり、テントのある木立ははるか下。昨日越えてきた稜線はまさに”杓子”のようにまるい線を描いて穴毛谷のほうに下っている。

 抜戸岳頂上: 黒部五郎岳、薬師岳、双六岳、黒岳、鷲羽岳

 笠ヶ岳

稜線を歩いて抜戸の頂上に向かう。意外に遠そうなので途中にスキーを置いていく。昨日の先行アイゼンの跡を辿り、雪庇の上かもしれないところを歩き、雪から上がったところにある抜戸の頂上に着く。簡単な頂上標識と三等三角点。平坦な稜線なので、ここが頂上という感じではない。しかし、抜戸岳頂上から見る笠ヶ岳はなかなか立派である。左右対称の笠の形、その右肩は小笠。

 抜戸岩

スキーを置いたところに戻り、笠へのルートへ歩く。思ったとおりルートは稜線から西側の雪のない夏道を下っている。アイゼンを付けたまま、スキーは残していくことにする。当初予定の2時間での往復はとても無理な気がしてくる(4時間半かかる)。夏道を下るとトラバース路との合流点で立派な標識があったのにびっくり。それから稜線の雪庇のへりに出て、夏道と雪の上をいったりきたりとなる。夏道を歩くとアイゼンが簡単に外れてしまうのに苦労。

 笠ヶ岳山荘と小笠

最初は抜戸岩かと思った大きな岩のすぐ先が杓子平から見えていた一番手前のピーク(P1)。最高点はトラバースして先に進むと、大きな雪原の稜線となる。古い踏跡があり、古いものほど雪庇の端のほうを辿っているが、余り端を歩く気はしない。底が見えない穴毛谷の向こうに新穂高の出発点が見える(8時40分頃)。

 笠ヶ岳まであと少し

抜戸岩はP2を少し下ったところにあった。二つに割れた岩の間を通る。その後のアップダウンを歩き、急な坂の夏道に雪が細く残っている登りに達する。なにか臭い、と思ったら、ウサギの首が雪道の上に落ちている。クマだろうか(帰りに大きなワシを見たので、それだったかも)。雪原の斜面に上がり、急な坂を一歩一歩登る。最後の苦しいところ。雪原の中央に小屋ではなく、右手の小笠に向かう。ここで登っておかないと帰りには寄らないかもしれない。

 槍ヶ岳と穂高連峰: 槍ヶ岳、大喰岳、中岳、南岳、北穂高岳、涸沢岳、奥穂高岳、ジャンダルム、西穂高岳

 笠ヶ岳頂上の祠

小笠には思いがけず、細長いケルンがたくさん立っていた。頂上標識は見当たらなかったが、十分に頂上らしい。ケルンの向こうに黒部五郎と薬師が遠く見えている。山小屋までは雪の斜面なので、ここはグリセード、じゃなくてシリセードで下る。疲れた足を踏ん張らなくてもいいのがいい。山小屋は窓に板がはめられており、無人のようだ。小屋の前を通ってまっすぐ笠に向かう。しんどい斜面を一歩一歩登る。振り返るとはるか下に杓子平が見える。テントはあのへんかなあ。

 笠ヶ岳の頂上

頂上標識のところに着くと、ケルンの間の頂上標識の上に抜戸と槍が見える。なるほど、ここから見る槍ヶ岳は確かになかなか立派。それに比べて穂高はおとなしく見える。それほど大きくない頂上の岩場の中央に二等三角点。四角い平たい岩が散らばる。北西にははるか立山から赤牛、黒岳、鷲羽、野口五郎の山並とその手前の双六、丸山、三俣蓮華。双六の長い頂上の右側には抜戸から弓折、樅沢に続く稜線が折り重なって見える。

 笠ヶ岳頂上から槍ヶ岳を望む

頂上で15分ほど休み、お茶を飲んでから帰途につく。改めて北の空を見ると、黒部五郎の左に北ノ俣岳、右に雲ノ平が見えている。ずいぶん北アルプスの山々も同定できるようになった。下りは雪の斜面をグリセードぎみに、山小屋や小笠に寄らずに、まっすぐ降りる。登りに比べてグリセードの下りのほうが数段楽に感じたが、タイムを見ると抜戸と笠の間は往復ともに2時間。帰りはペースを落としていたと思われる。抜戸岩の手前で大きなワシが飛んでいるのを見る。ずいぶん低く飛んできて、槍の方へ飛び去っていった。このあたりを縄張りにしているのだろう。

 二等三角点

抜戸岩の間を通り、P2を越え、雪壁を下り、双六や黒部五郎を見ながらP1に向かう。緩い下りから緩い登りとなり、辛い。稜線歩きの途中で遙か下方に新穂高を見る。手前の穴毛谷は手前の斜面で見えないが、その先にある谷の下の風景が見えている。P1に辿りつき、下りとなり、コブ岩を過ぎてから再び苦しい登りとなり、やがて分岐標識に至り、ついにスキーをひっくり返してあるところに帰りつく。どっかりと腰を下ろして休憩。いやあ疲れた。

 

ケルンの上の頂上標識

 笠ヶ岳から北の景観: 双六岳、抜戸岳、槍ヶ岳

 双六岳: 黒岳、三俣蓮華岳、鷲羽岳、双六岳、野口五郎岳

 

杓子平

 



滑走開始

スキーをはいて稜線の淵から下を眺める。なかなかの急斜面。とりあえず斜め左に滑走し、すぐに右にターン、そして左にターン。斜面は堅く、実にスムーズに滑れる。スピードが増し、一気に感動が押し寄せ、大声を上げて叫ぶ。実にいい気分。

 抜戸岳に帰ってきて、スキーを履いて急斜面を滑り降りたときに一気に感動が湧き上がってきた。余りの感動のすさまじさに、大声で叫んでいた。

 抜戸岳からの滑走

二回目にターンして下を見たとき、このままテントのところまで滑れる気でいたが、十数回ターンしたあたりでヒザがくたびれて停止。曇だがターン・トレースは見えている。なかなかのショートターンで滑っている。結局、まっすぐに下らず、稜線に沿って左に大きくカーブ。左の稜線のところでターン・ストップすると、稜線の向こうに槍。稜線沿いの片斜面のターントレースは片側だけが大きくエッジが切れていて、それがまっすぐ並んでいるのは我ながらなかなかみごと。半分くらい下ったはずだが、まだまだテントは遠い。ずいぶん登ったものだ。

 滑走してきた抜戸岳

いったん傾斜が緩み、最後のところで急な片斜面を滑ってテントに到着。軽いザックでの楽しい滑走はこれで終了。しかし、前日と今日の午前中のがんばりが報われる13分間の滑走であった(たった13分とは思えない)。感動がトレースになって斜面に残っている。ヘリコプターから見えるかな(午前中、ヘリコプターの音が聞こえていた)。

 笠新道沿いの斜面の滑走

抜戸からの斜面よりもっと厳しいほどの傾斜。ほぼ真下に蒲田谷の底が見える。出だしの傾斜はともかく、その先がオーバーハングしてる。途中にヤブがところどころ出ており、行き止まりになってしまうとやっかいなので、雪の切れている左側(登りのコース)や中央を避け、雪渓が広がっている右側に大きく膨らんで滑ることにする。

 雪斜面の中の大岩

上部の滑走はうまくいって、大きなヤブを廻って中央に滑り出る。この先は雪渓に入った夏道をうまく見つけないといけない。やがて、それらしいところを見つけ、そこから伸びる微かなシール・トレースを発見。ゆっくりと今回の滑走を終了する。これでもう今回、緊張を強いられる局面は終わった・・・・・いや、まだ残雪下りの局面が途中まである。

 滑走終了点、夏道

夏道入口でしばらく休み、スキーを担いで出発。14時半。笠新道入口まで焼く1,000m、新穂高まで1,300mの標高差を下るのにどのくらいかかるだろう。登りは1時間当り200m。下りはその2倍としても3時間強、18時前(実際は5時間弱、登りとさして変わらない)だから暗くなってしまうかなあ、と思いつつもゆっくり下る。どうせ今日は長岡泊まりだ。残雪をスキーを担いで下るのはなかなかこわい。

 滑走終了

標高2100mの休憩地点からはまだだいぶ下に見えたコブ林の雪の中を下ると、もう残雪もない。ただヒザが痛いだけ。向かいの槍・穂高には雲がかかっていて見えない。1,800mの下あたりで、白い大きなタムシバがたくさん木に咲いていた。夏道沿いの尾根を外れるとやがてブナの林となり、樹間に谷底が見えてくる。そして笠新道の看板標識の裏側が見え、ようやく入口に降り立つ。18時。ザックを下ろして休憩だが、時計をみてびっくりし、ザックを担いで歩き出す。もう暗くなってくる。

 タムシバ

岩小舎沢の正面から見上げると、下部にはほとんど雪はなく、ガスに隠れた上のほうに雪渓の端らしきものが見えている。橋を渡り、林道を歩いて穴毛谷のあたりまで来ると、谷の上に緑ノ笠と笠ヶ岳の頂上部分らしきのが見える。しかし、上からはこの林道は見えなかったから、下からも笠の頂上は見えないことになる。

 笠新道登山口に到着

ゲートに着いたのは19時前で、もう薄暗い。登山届の窓口で、標高1700m付近で拾った鍵といっしょに下山届を出しておく。ホテルの窓には明かり。駐車場に向かう細道はまっくら。車に辿り着き、薄暗い駐車場でザックを片付け、スキーをふいて車にしまう。前回寄った新穂高の温泉はもう閉まっていて、だいぶ戻ったところにある奥飛騨薬師の湯本陣というのに入る。800円くらいだったかな。宴会場のある大きな温泉。

 薬師の湯

今シーズン最後のスキーツアーはなかなか骨のあるしぶいツアー。約30分の滑走のために二日間で20時間以上を歩く。

問合せ・コメント等、メール宛先: kawabe.goro@meizan-hitoritabi.com