鳥海山  日本海に向かって滑走

山形県  鳥海山・新山2,236m、笙ヶ岳(北峰1,660m、三角点1,635m)、扇子森1,759m  2019年5月12日

(鳥海山)日本百名山

397

 薄い青空

 まだ冷たい風

 山の木々には春の息吹

 そして山の旅人たち

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笙ヶ岳から見る鳥海山はほぼ左右対称の台形をしており、青空の下に黒い岩峰と白い雪をまとった姿は峻厳でかつ美しい。初めて登ったとき、ここから見たこの鳥海山の姿が目に焼き付いていて、私にとっては生涯最高の山岳景観の一つ。

真っ白な斜面の上に小さく見えていた岩峰が次第に大きくなり、岩峰が立ち並ぶ中央にある新山・頂上峰に到達。大きな岩が積み重なっているのでスキーブーツでは登りにくいが、ストックを使っていつものように登る。新山・西峰に登ると、鳥海山の西側の絶景を見ることができる。今日登った笙ヶ岳に、たどってきた御浜や扇子森、そして昨年登った稲倉岳。その手前に伸びる千蛇谷。

新山から滑走開始。最初のハイライトは大物忌神社の上の急斜面。オーバーハングしているので、下が見えるところまで横に下り、斜面がつながっているのを確認してから斜面に飛び込む。でこぼこしているところを滑ると足が痛いので、外輪の壁をトラバース気味に滑走し、千蛇谷下降点に続くトレースに乗る。

御浜小屋から先は傾斜がなくてスキーが滑らなくなるが、ビンディングのかかとを外し、再び下り傾斜となるところまで滑り歩きで進む。ここからは、眼下の雪に埋まった鳥海湖、そして造形物のような三つのピークが斜めに傾斜した笙ヶ岳が見もの。

スキーヤーたちは西大斜面に滑って行って、すぐに誰もいなくなってしまうが、私は足が痛いのでそんなに早く滑れない。のんびり写真を写しながら滑る。今日、登った笙ヶ岳、夕日になりかけの日本海。こんなに雄大に日本海が視界いっぱいに見えるのも、鳥海山のこのコースの良い所だろう。海の上に見えている黒い影は飛島。そして背後には峻厳かつ美しい鳥海山。行く手に広がる日本海に向けて滑走開始。のんびり滑走だったが、この絶景の日本海への滑走が本日のハイライト。夕日に染まる日本海の上にダイヤモンドの日の光。

 笙ヶ岳から見る鳥海山はほぼ左右対称の台形をしており、青空の下に黒い岩峰と白い雪をまとった姿は峻厳でかつ美しい。初めて登ったとき、ここから見たこの鳥海山の姿が目に焼き付いていて、私にとっては生涯最高の山岳景観の一つ。(2002年5月2日)
 行く手に広がる日本海に向けて滑走開始。のんびり滑走だったが、この絶景の日本海への滑走が本日のハイライト。夕日に染まる日本海の上にダイヤモンドの日の光。
 造形物のような三つのピークが斜めに傾斜した笙ヶ岳
 岩峰が立ち並ぶ中央にある新山・頂上峰に到達
笙ヶ岳・三角点と鳥海山

 いつもの鶴泉荘に寄っていく。今年は白いドウダンツツジ

  5:26 大平登山口発  8:14 笙ヶ岳・三角点  8:55 御浜手前コル  9:33 扇子森トラバース  9:57 外輪起点、シートラ10:58 千蛇谷下降点、シール13:01 神社の上、アイゼン13:23 新山・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・登り7時間57分13:31 新山・西峰13:59 新山発、滑走14:20 千蛇谷下降点、シートラ14:38 外輪雪斜面、滑走14:51 登り返し、徒歩・滑走・シートラ15:16 扇子森、滑走15:51 御浜手前コル16:11 大平登山口・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・往復10時間45分

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昼前に出たのに象潟に着いたのは16時。結構時間がかかる。ブルーラインを登っていくと、17時前にゲートを出ようとする車がたくさん降りてくる。途中の展望所で深い谷の向こうの稲倉岳、その更に向こうに鳥海山を見る。大平登山口駐車場にはまだ帰ろうとする車が数台。17時を過ぎてもまだ2、3台残っていたが、18時頃にはいなくなっていた。鉾立や大平山荘の駐車場に行ったのかもしれない。とにかく、大平登山口駐車場の夜を過ごしたのは一台のみ。ガスこんろを出してライスパックを温め、フライパンでウィンナーと野菜を炒めて食べる。

翌朝は4時のアラームで起きたが、眠くて起きれない。パンとカップうどんを食べていて時間が経ち、出発したのは6時前。これではゲートが開いてから登るのと1時間も違わない。駐車場にはもう1台がやってきていた。鉾立か大平山荘で一泊したのだろう。大平を出て最初の登りの時、雪が固く、思ったより急な斜面にシールが滑り、2度転倒。斜面をずるずる滑り落ちてパニックになり、とんでもなく弱気になって、手がかりのある灌木の中に踏み込み、正面の急斜面を避け、雪が切れているところをスキーを外して渡り、とんでもなく遠回りをしてしまう。全くバカなことをした。シールを利かせてまっすぐ登るか、アイゼンに変えればよかったのだが、冷静に考えられなかった。ようやく最初の急斜面との合流点に達すると、もうシールの男性が登ってきていて、私がこわくて登れなかった固い雪の上をまっすぐ快調に登っていく。やっぱり怖がっちゃあだめだ。冷静さを取り戻し、そこからはいつものペースで登っていく。朝日が差し、雪も柔らかくなり始めていた。

今回は御浜に行く前に笙ヶ岳に寄っていく。笙ヶ岳は初めて鳥海に来たときに登った山だが、そのとき登ったのは三つあるピークの北峰・最高点で、三角点はそれより低い南峰にある。最初に向かった笙ヶ岳の北峰はかなりの急斜面で、こいつをまっすぐシールで登るのは難しい。左に回りながらシールが滑らないように斜めに登っていき、なんとか北峰頂上に着く。頂上の雪は消えていたが、そこには三角点はないので、南峰に向かう。南の空の雲の上に浮かんでいるのは月山。前回来たときは南峰への尾根は狭かったと記憶しているが、今回は広い雪尾根が残っており、しかもその上に踏み跡とスキートレースがある。このルートを登ってくる人もいるようだ。東側が切れ落ちた斜面になっている中央峰の上には三角点はなく、その先の南峰に行くが、雪の近くには見当たらない。雪の消えた奥の方まで探し、二等三角点を発見。これで、気になっていた鳥海山の二つのサブ・ピーク、稲倉岳と笙ヶ岳の三角点を見ることができた。

笙ヶ岳から見る鳥海山はほぼ左右対称の台形をしており、青空の下に黒い岩峰と白い雪をまとった姿は峻厳でかつ美しい。初めて登ったとき、ここから見たこの鳥海山の姿が目に焼き付いていて、私にとっては生涯最高の山岳景観の一つ。新山と外輪がうまい具合に一つの山に組み合わさって見えているのだが、最初に見たときはそうとは知らなかった。だが、その構造を知った後も、この姿の峻厳さ、美しさは変わらない。笙ヶ岳・北峰に戻り、最初の休憩。シールを外し、バックルを締めて滑走しようとしていると、男性が一人登ってきた。やはり、この山にも登ってくる人はいるのだ。それとも私を見て登ってきたのかな。コル1,600mに滑り込み、シールを貼りなおして御浜に向かう。1,640m峰で休んでいるスキーヤーが一人。その男性はすごいスピードで私を追い抜いて行った。御浜にも扇子森に向かおうとしているパーティが見える。

御浜の長細い二つの1,700mピークの間はほとんど平坦で、少し下りもあり、尾根の中央にできた雪の割れ目を避けて進む。御浜小屋の先から扇子森へはシールでまっすぐ登るのはちょっと厳しい傾斜で、先行トレースは扇子森の北側をぐるっとトラバースしていた。トレースは浅く、やや怖かったが、スキーが滑らないように注意しながら淡々と進む。扇子森に登ろうとして途中で戸惑っていたのは1,640m峰にいた男性だろうか。やっぱりシールで頂上まで登るのは難しいようだ。

扇子森の東側に回り込み、そこから頃合いでコル1,692mまでシール滑走し、その先の雪の消えた登山道のところまで登る。外輪の西端の1,800m峰の南側をトラバースする夏道を、なるべく泥んこにならないように歩き、雪の上に出てからも千蛇谷に下るまではシートラで歩く。千蛇谷に下る箇所は3ヶ所あったのだが、二人のボーダーがすごいスピードで追い越して行き、最初の下降箇所を通り過ぎていったので、私もそこを通り過ぎる。石が折り重なった外輪に登る道の起点にある二つ目の下降箇所に下ろうとしたが、このときも追いついてきた三人のスキーヤーが外輪を登っていくので見送る(ここで下っておくべきだった)。最後の千蛇谷への下降点には夏道の分岐標示があり、ここを過ぎるともう下れないと思うが、三人のスキーヤーはなおも外輪を登って行った。彼等はもともと外輪を登る計画だったのだろうか。私は彼らのことまで気にしている余裕はなく、千蛇谷に向かうが、その道は二つ目の下降点と同じところまで急な岩場を下るところがあり、後ろ向きになって慎重に下り、その先でようやく、いつもの千蛇谷への下降点に出る。

それは外輪の雪壁を谷底まで緩やかに斜めに下っていくトレースにつながっており、雪の上に降りてシール・スキーを履き、トレースの上を進む。谷のずっと奥を進むパーティが見える。だが、左右は急斜面だが、前後はほとんど傾斜のないトレース上をシールで歩くのは思ったよりもしんどい。のろのろと進んでいると、向こう側からもう戻ってきたスキーヤーがやってきて、私のトレースの上につけ、私が通り過ぎるのを待っている。こんにちわと言っても返事をしなかったから、いらいらしていたんだろう。私もその先でトレースを見限り、斜めに谷底近くまで滑り降り、平らなところを進む。この方が断然速い。スピードは上がったものの、千蛇谷は長く(距離2㎞弱、高低差400m強)、なかなか新山は近づかない。このときは真上からの夏の日差になっていて、風もなかった。昨年までの私ならバテていただろうが、今回は途中で1回休憩したのみで登り通せた。日にあぶられても頭はぼんやりせず、息もあがらなかった。ただし、尾瀬で痛めた足が次第に辛くなっていた。ワカンの男性が追い越してゆく。

新山が真横に来たあたりでザックを下ろして休憩。ペットコーヒーを飲み、ナッツを食べる。シールはもうべったり湿っているが、まだ雪はついていない。再び歩き始めると、スキーヤーのパーティが滑り降りてきた最初に見た4人組かな。左回りに登っていくところで、最初に七高山への夏道かなと思ったところはまちがいで、もっと奥に七高山への夏道があり、今回はその更に奥のスノーブリッジを辿って新山に向かっているスキーヤーたちがいた。七高山から新山まで往復し、新山から順番に滑り降り、七高山に登り返しているようだ。先行トレースは大物忌神社の右側を回っていくものと、中にはいっていくものと二つあったが、私は中を通過。このときも下っていく徒歩の人たち数人に遭遇。神社の先に急斜面があり、シールで直登は無理なので右側を斜めに登るトレースに乗るが、途中で左スキーのシールが外れた。シールはもうべとべとだったので見限り、アイゼンに替える。

この頃はだいぶ足が痛んでいたが、踏み跡をたどって新山にむかう。真っ白な斜面の上に小さく見えていた岩峰が次第に大きくなり、岩峰が立ち並ぶ中央にある新山・頂上峰に到達し、右側から頂上峰の裏側に回ると、奥に西峰が見えてくる。二つの頂上の間で休んでいるスキーヤーが二人。私はザックをスキーを置き、空身で頂上峰と西峰に登る。大きな岩が積み重なっているのでスキーブーツでは登りにくいが、ストックを使っていつものように登り、頂上標識を撮影。前回と変わりなし。頂上峰の東には外輪とその最高点の七高山、西には岩だらけの新山頂上と西峰。その新山・西峰に登ると、鳥海山の西側の絶景を見ることができる。今日登った笙ヶ岳に、たどってきた御浜や扇子森、そして昨年登った稲倉岳。その手前に伸びる千蛇谷。新山に到達する直前にヘリコプターがやってきて、外輪の向こう側をしばらく飛んでいたが、誰かを救助に来たのだろうか。ザックのところに戻り、だいぶ温くなったテルモスのホットレモンを飲み、ナッツを食べてから帰路につく。

足が痛いので、いつもは3つ目で締めるディナフィット・ブーツのバックルを一つ目までにし、新山から滑走開始。もう13時半を過ぎていたので、七高山に行くのは止める。最初のハイライトは大物忌神社の上の急斜面。オーバーハングしているので、下が見えるところまで横に下り、斜面がつながっているのを確認してから斜面に飛び込む。快調にショートターンするが、トレースは残らない。でこぼこしているところを滑ると足が痛いので、外輪の壁をトラバース気味に滑走し、時々折り返して谷に下り、何度か休止して足を休め、そして千蛇谷下降点に続くトレースよりも少し上をトラバース滑走していき、下降点がだいぶ近づいたあたりでトレースに乗る。トレースの上を滑っているとき、新山に向かう徒歩の男性に一人会い、下降点直下を登り返したところで、帰ろうとしているスキーヤーに会う。私はそこから二つ目の下降点に向かったが、そのスキーヤーは三つ目の下降点に登って行ったようだ。彼にはその後も会わなかったが、大平から来たのではなかったのかもしれない。

二つ目の下降点から雪の上に出て、そこから雪の消えた夏道のところまで滑走。すると、夏道の下の雪のつながっている部分をトラバースしている滑走トレースがあったので、それを辿ってみる。雪は向こう側の夏道入口まではつながっておらず、途中でスキーを外して草地の上を少し登るが、夏道入口はすぐ近くだった。そこからコル1,692mまで滑走し、そこからシートラで最後の登り返し。辛くはなかったが、長く感じた。途中で徒歩の人、二人に追い越される。扇子森の頂上も雪が消えていて、ここにも三角点がないか探してみたが、なかった。代わりに「御田ヶ原」という標識が立っていたが、地理院地図の表記はまだ扇子森。扇子森から滑走再開。御浜小屋から往路ではなく、小屋の西側を行くことも考えたが、そっちは雪がつながっているかどうか分からない。トレースはみな往路に向かっているようなので、往路にすすむ。御浜小屋から先は傾斜がなくてスキーが滑らなくなるが、ビンディングのかかとを外し、再び下り傾斜となるところまで滑り歩きで進む。ここからは、眼下の雪に埋まった鳥海湖、そして造形物のような三つのピークが斜めに傾斜した笙ヶ岳が見もの。

コル1,630mにはまだ帰路途中のスキーヤーたちが数人いて、そこまで滑り降りていくと、西斜面までのわずかな登りを皆、カニ歩きで登っているので、私もカニ歩きで登る。スキーヤーたちは西大斜面に滑って行って、すぐに誰もいなくなってしまうが、私は足が痛いのでそんなに早く滑れない。あわてて滑ってもいいことがある訳でなし、のんびり写真を写しながら滑る。今日、登った笙ヶ岳、夕日になりかけの日本海。こんなに雄大に日本海が視界いっぱいに見えるのも、鳥海山のこのコースの良い所だろう。海の上に見えている黒い影は飛島。そして背後には峻厳かつ美しい鳥海山。行く手に広がる日本海に向けて滑走開始。のんびり滑走だったが、この絶景の日本海への滑走が本日のハイライト。どちらに進むのか、広すぎて訳がわからないが、間違えるとひどい目にあう。最初は光を反射している反射板が目印。背後の鳥海山はすぐに見えなくなるが、笙ヶ岳はしばらく見えている。南の雪の丘の上に並んでいるスキーヤーたちはこれからどっちに滑るんだろう。やがて広い雪原の上に立てられた指導旗が見えてきて、背後の笙ヶ岳が見えなくなる頃、今度は北に稲倉岳が見えてくる。夕日に染まる日本海の上にダイヤモンドの日の光。

指導旗の末端あたりまでくると、眼下の駐車場が見えてくる。駐車場はほぼ満車に見えたが、私が降りていくまでには2/3くらいに減っていた。往路で通らなかった急な片斜面を豪快に滑走・・・・と思ったら割れ目が現われ、それをかわして滑る。片斜面の下に来ると真下に駐車場が見えていて、まもなく駐車場に下ろうとしている人も見える。そこからのややでこぼこの急斜面はせわしいショートターンでスピードを殺してゆっくり降りる。最後のブッシュの上で停止し、駐車場手前数メートルに滑り込み、そこでスキーを外して駐車場に下る。そこは片付けに追われている人たちでいっぱい。一番奥に駐車したのは正解だった。私が片付けしている間に大半の車がいなくなり、私が出るときはもう数台(2台?)しか残っていなかった。まあ、17時を過ぎると出られなくなるから、無理もない。ブル-ラインを下っていき、半分閉じられたゲートを通過。ゲートの外の駐車場には、残りの片付けをしている車が数台。

いつもの鶴泉荘に寄っていく。そこの駐車場の一番奥から鳥海山がよい角度で見える。露天はないが300円でソープ・シャンプー付、熱い湯がいい。駐車場の向かいには、今年は白いドウダンツツジが咲いていた。

ブルー・ラインのゲート

昼前に出たのに象潟に着いたのは16時。結構時間がかかる。ブルーラインを登っていくと、17時前にゲートを出ようとする車がたくさん降りてくる。

ブルー・ラインから見る稲倉岳

途中の展望所で深い谷の向こうの稲倉岳、その更に向こうに鳥海山を見る。

大平登山口駐車場にはまだ帰ろうとする車が数台。17時を過ぎてもまだ2、3台残っていたが、18時頃にはいなくなっていた。鉾立や大平山荘の駐車場に行ったのかもしれない。とにかく、大平登山口駐車場の夜を過ごしたのは一台のみ。ガスこんろを出してライスパックを温め、フライパンでウィンナーと野菜を炒めて食べる。

大平登山口の駐車場

日の出

翌朝は4時のアラームで起きたが、眠くて起きれない。パンとカップうどんを食べていて時間が経ち、出発したのは6時前。これではゲートが開いてから登るのと1時間も違わない。駐車場にはもう1台がやってきていた。鉾立か大平山荘で一泊したのだろう。大平を出て最初の登りの時、雪が固く、思ったより急な斜面にシールが滑り、2度転倒。斜面をずるずる滑り落ちてパニックになり、とんでもなく弱気になって、手がかりのある灌木の中に踏み込み、正面の急斜面を避け、雪が切れているところをスキーを外して渡り、とんでもなく遠回りをしてしまう。全くバカなことをした。シールを利かせてまっすぐ登るか、アイゼンに変えればよかったのだが、冷静に考えられなかった。ようやく最初の急斜面との合流点に達すると、もうシールの男性が登ってきていて、私がこわくて登れなかった固い雪の上をまっすぐ快調に登っていく。やっぱり怖がっちゃあだめだ。冷静さを取り戻し、そこからはいつものペースで登っていく。朝日が差し、雪も柔らかくなり始めていた。

見えてきた鳥海山と笙ヶ岳・北峰

朝の鳥海山

笙ヶ岳・北峰

今回は御浜に行く前に笙ヶ岳に寄っていく。笙ヶ岳は初めて鳥海に来たときに登った山だが、そのとき登ったのは三つあるピークの北峰・最高点で、三角点はそれより低い南峰にある。最初に向かった笙ヶ岳の北峰はかなりの急斜面で、こいつをまっすぐシールで登るのは難しい。左に回りながらシールが滑らないように斜めに登っていき、なんとか北峰頂上に着く。頂上の雪は消えていたが、そこには三角点はないので、南峰に向かう。

月山

南の空の雲の上に浮かんでいるのは月山。

笙ヶ岳・中央峰

前回来たときは南峰への尾根は狭かったと記憶しているが、今回は広い雪尾根が残っており、しかもその上に踏み跡とスキートレースがある。このルートを登ってくる人もいるようだ。東側が切れ落ちた斜面になっている中央峰の上には三角点はなく、その先の南峰に行くが、雪の近くには見当たらない。

笙ヶ岳・三角点と鳥海山

雪の消えた奥の方まで探し、二等三角点を発見。これで、気になっていた鳥海山の二つのサブ・ピーク、稲倉岳と笙ヶ岳の三角点を見ることができた。

笙ヶ岳の二等三角点

鳥海山

笙ヶ岳から見る鳥海山はほぼ左右対称の台形をしており、青空の下に黒い岩峰と白い雪をまとった姿は峻厳でかつ美しい。初めて登ったとき、ここから見たこの鳥海山の姿が目に焼き付いていて、私にとっては生涯最高の山岳景観の一つ。新山と外輪がうまい具合に一つの山に組み合わさって見えているのだが、最初に見たときはそうとは知らなかった。だが、その構造を知った後も、この姿の峻厳さ、美しさは変わらない。笙ヶ岳・北峰に戻り、最初の休憩。シールを外し、バックルを締めて滑走しようとしていると、男性が一人登ってきた。やはり、この山にも登ってくる人はいるのだ。それとも私を見て登ってきたのかな。コル1,600mに滑り込み、シールを貼りなおして御浜に向かう。1,640m峰で休んでいるスキーヤーが一人。その男性はすごいスピードで私を追い抜いて行った。御浜にも扇子森に向かおうとしているパーティが見える。

 御浜手前から見る鳥海山: 稲倉岳、御浜、扇子森、鳥海湖、鍋森、新山、行者岳、月山森

御浜手前から見る鳥海山

御浜の長細い二つの1,700mピークの間はほとんど平坦で、少し下りもあり、尾根の中央にできた雪の割れ目を避けて進む。御浜小屋の先から扇子森へはシールでまっすぐ登るのはちょっと厳しい傾斜で、先行トレースは扇子森の北側をぐるっとトラバースしていた。トレースは浅く、やや怖かったが、スキーが滑らないように注意しながら淡々と進む。扇子森に登ろうとして途中で戸惑っていたのは1,640m峰にいた男性だろうか。やっぱりシールで頂上まで登るのは難しいようだ。

 御浜小屋: 扇子森、新山、行者岳

稲倉岳

稲倉岳の頂上

蟻ノ戸渡のキレット

千蛇谷

外輪に向かう雪の消えた道

扇子森の東側に回り込み、そこから頃合いでコル1,692mまでシール滑走し、その先の雪の消えた登山道のところまで登る。外輪の西端の1,800m峰の南側をトラバースする夏道を、なるべく泥んこにならないように歩き、雪の上に出てからも千蛇谷に下るまではシートラで歩く。千蛇谷に下る箇所は3ヶ所あったのだが、二人のボーダーがすごいスピードで追い越して行き、最初の下降箇所を通り過ぎていったので、私もそこを通り過ぎる。石が折り重なった外輪に登る道の起点にある二つ目の下降箇所に下ろうとしたが、このときも追いついてきた三人のスキーヤーが外輪を登っていくので見送る(ここで下っておくべきだった)。最後の千蛇谷への下降点には夏道の分岐標示があり、ここを過ぎるともう下れないと思うが、三人のスキーヤーはなおも外輪を登って行った。彼等はもともと外輪を登る計画だったのだろうか。私は彼らのことまで気にしている余裕はなく、千蛇谷に向かうが、その道は二つ目の下降点と同じところまで急な岩場を下るところがあり、後ろ向きになって慎重に下り、その先でようやく、いつもの千蛇谷への下降点に出る。

千蛇谷への下降点から西の景観: 御浜、扇子森、稲倉岳

千蛇谷への下降点

それは外輪の雪壁を谷底まで緩やかに斜めに下っていくトレースにつながっており、雪の上に降りてシール・スキーを履き、トレースの上を進む。谷のずっと奥を進むパーティが見える。だが、左右は急斜面だが、前後はほとんど傾斜のないトレース上をシールで歩くのは思ったよりもしんどい。のろのろと進んでいると、向こう側からもう戻ってきたスキーヤーがやってきて、私のトレースの上につけ、私が通り過ぎるのを待っている。こんにちわと言っても返事をしなかったから、いらいらしていたんだろう。私もその先でトレースを見限り、斜めに谷底近くまで滑り降り、平らなところを進む。この方が断然速い。スピードは上がったものの、千蛇谷は長く(距離2㎞弱、高低差400m強)、なかなか新山は近づかない。このときは真上からの夏の日差になっていて、風もなかった。昨年までの私ならバテていただろうが、今回は途中で1回休憩したのみで登り通せた。日にあぶられても頭はぼんやりせず、息もあがらなかった。ただし、尾瀬で痛めた足が次第に辛くなっていた。ワカンの男性が追い越してゆく。

大物忌神社

新山頂上に向かう

新山が真横に来たあたりでザックを下ろして休憩。ペットコーヒーを飲み、ナッツを食べる。シールはもうべったり湿っているが、まだ雪はついていない。再び歩き始めると、スキーヤーのパーティが滑り降りてきた最初に見た4人組かな。左回りに登っていくところで、最初に七高山への夏道かなと思ったところはまちがいで、もっと奥に七高山への夏道があり、今回はその更に奥のスノーブリッジを辿って新山に向かっているスキーヤーたちがいた。七高山から新山まで往復し、新山から順番に滑り降り、七高山に登り返しているようだ。先行トレースは大物忌神社の右側を回っていくものと、中にはいっていくものと二つあったが、私は中を通過。このときも下っていく徒歩の人たち数人に遭遇。神社の先に急斜面があり、シールで直登は無理なので右側を斜めに登るトレースに乗るが、途中で左スキーのシールが外れた。シールはもうべとべとだったので見限り、アイゼンに替える。

七高山

新山・頂上峰

この頃はだいぶ足が痛んでいたが、踏み跡をたどって新山にむかう。真っ白な斜面の上に小さく見えていた岩峰が次第に大きくなり、岩峰が立ち並ぶ中央にある新山・頂上峰に到達し、右側から頂上峰の裏側に回ると、奥に西峰が見えてくる。二つの頂上の間で休んでいるスキーヤーが二人。私はザックをスキーを置き、空身で頂上峰と西峰に登る。大きな岩が積み重なっているのでスキーブーツでは登りにくいが、ストックを使っていつものように登り、頂上標識を撮影。前回と変わりなし。頂上峰の東には外輪とその最高点の七高山、西には岩だらけの新山頂上と西峰。その新山・西峰に登ると、鳥海山の西側の絶景を見ることができる。今日登った笙ヶ岳に、たどってきた御浜や扇子森、そして昨年登った稲倉岳。その手前に伸びる千蛇谷。新山に到達する直前にヘリコプターがやってきて、外輪の向こう側をしばらく飛んでいたが、誰かを救助に来たのだろうか。ザックのところに戻り、だいぶ温くなったテルモスのホットレモンを飲み、ナッツを食べてから帰路につく。

頂上標識

新山・西峰

仁賀保高原風力発電所

 新山・頂上峰から西の景観

 新山・頂上峰から東の景観

 新山・西峰から西の景観: 笙ヶ岳・三角点峰、笙ヶ岳・北峰、千蛇谷への下降点、御浜、扇子森、稲倉岳

大物忌神社

頂上からの滑走

足が痛いので、いつもは3つ目で締めるディナフィット・ブーツのバックルを一つ目までにし、新山から滑走開始。もう13時半を過ぎていたので、七高山に行くのは止める。最初のハイライトは大物忌神社の上の急斜面。オーバーハングしているので、下が見えるところまで横に下り、斜面がつながっているのを確認してから斜面に飛び込む。快調にショートターンするが、トレースは残らない。

千蛇谷の滑走

でこぼこしているところを滑ると足が痛いので、外輪の壁をトラバース気味に滑走し、時々折り返して谷に下り、何度か休止して足を休め、そして千蛇谷下降点に続くトレースよりも少し上をトラバース滑走していき、下降点がだいぶ近づいたあたりでトレースに乗る。トレースの上を滑っているとき、新山に向かう徒歩の男性に一人会い、下降点直下を登り返したところで、帰ろうとしているスキーヤーに会う。私はそこから二つ目の下降点に向かったが、そのスキーヤーは三つ目の下降点に登って行ったようだ。彼にはその後も会わなかったが、大平から来たのではなかったのかもしれない。

千蛇谷下降点への登り返し

扇子森

二つ目の下降点から雪の上に出て、そこから雪の消えた夏道のところまで滑走。すると、夏道の下の雪のつながっている部分をトラバースしている滑走トレースがあったので、それを辿ってみる。雪は向こう側の夏道入口まではつながっておらず、途中でスキーを外して草地の上を少し登るが、夏道入口はすぐ近くだった。そこからコル1,692mまで滑走し、そこからシートラで最後の登り返し。辛くはなかったが、長く感じた。途中で徒歩の人、二人に追い越される。扇子森の頂上も雪が消えていて、ここにも三角点がないか探してみたが、なかった。代わりに「御田ヶ原」という標識が立っていたが、地理院地図の表記はまだ扇子森。扇子森から滑走再開。御浜小屋から往路ではなく、小屋の西側を行くことも考えたが、そっちは雪がつながっているかどうか分からない。トレースはみな往路に向かっているようなので、往路にすすむ。

御田ヶ原(扇子森)頂上標識

鳥海山

笙ヶ岳

御浜小屋から先は傾斜がなくてスキーが滑らなくなるが、ビンディングのかかとを外し、再び下り傾斜となるところまで滑り歩きで進む。ここからは、眼下の雪に埋まった鳥海湖、そして造形物のような三つのピークが斜めに傾斜した笙ヶ岳が見もの。

日本海に向かって滑走

コル1,630mにはまだ帰路途中のスキーヤーたちが数人いて、そこまで滑り降りていくと、西斜面までのわずかな登りを皆、カニ歩きで登っているので、私もカニ歩きで登る。スキーヤーたちは西大斜面に滑って行って、すぐに誰もいなくなってしまうが、私は足が痛いのでそんなに早く滑れない。あわてて滑ってもいいことがある訳でなし、のんびり写真を写しながら滑る。今日、登った笙ヶ岳、夕日になりかけの日本海。こんなに雄大に日本海が視界いっぱいに見えるのも、鳥海山のこのコースの良い所だろう。

飛島

海の上に見えている黒い影は飛島。そして背後には峻厳かつ美しい鳥海山。

日本海に向かって滑走

行く手に広がる日本海に向けて滑走開始。のんびり滑走だったが、この絶景の日本海への滑走が本日のハイライト。どちらに進むのか、広すぎて訳がわからないが、間違えるとひどい目にあう。最初は光を反射している反射板が目印。背後の鳥海山はすぐに見えなくなるが、笙ヶ岳はしばらく見えている。南の雪の丘の上に並んでいるスキーヤーたちはこれからどっちに滑るんだろう。やがて広い雪原の上に立てられた指導旗が見えてきて、背後の笙ヶ岳が見えなくなる頃、今度は北に稲倉岳が見えてくる。夕日に染まる日本海の上にダイヤモンドの日の光。

日本海に向かって滑走

象潟漁港

駐車場が見えてきた

指導旗の末端あたりまでくると、眼下の駐車場が見えてくる。駐車場はほぼ満車に見えたが、私が降りていくまでには2/3くらいに減っていた。往路で通らなかった急な片斜面を豪快に滑走・・・・と思ったら割れ目が現われ、それをかわして滑る。片斜面の下に来ると真下に駐車場が見えていて、まもなく駐車場に下ろうとしている人も見える。そこからのややでこぼこの急斜面はせわしいショートターンでスピードを殺してゆっくり降りる。最後のブッシュの上で停止し、駐車場手前数メートルに滑り込み、そこでスキーを外して駐車場に下る。そこは片付けに追われている人たちでいっぱい。一番奥に駐車したのは正解だった。私が片付けしている間に大半の車がいなくなり、私が出るときはもう数台(2台?)しか残っていなかった。まあ、17時を過ぎると出られなくなるから、無理もない。ブル-ラインを下っていき、半分閉じられたゲートを通過。ゲートの外の駐車場には、残りの片付けをしている車が数台。

眼下の駐車場

白いドウダンツツジ

いつもの鶴泉荘に寄っていく。そこの駐車場の一番奥から鳥海山がよい角度で見える。露天はないが300円でソープ・シャンプー付、熱い湯がいい。駐車場の向かいには、今年は白いドウダンツツジが咲いていた。