苗場山  広大な雪原台地、巨大な山の滑走

新潟県  苗場山2,145m、神楽ヶ峰2,029m  2009年4月5日

(苗場山)日本百名山

396

おまえさん、雪山には慣れてるね

なあに、トレースさえあれば楽なもんだ

空気はピンと張りつめて

神々しい純白の山々

晴れて視界が広がると

すっかり名山に取り囲まれている

❄❄❄❄❄

雲尾坂のラッセル斜面を登る直前に青空が広がり、背後には神楽ヶ峰が見えていた。丸い稜線の山。神楽の向こうにもう少し高いピークが見えている(霧の塔?)。

そして頂上台地に到着。眼前に息を呑む光景が広がる。こいつは、すごい。真っ平な雪原が大きく広がり、緩くえぐれた雪原の端がほぼ垂直に切れ落ちている。小さな点となって広大な雪原台地を歩く。すばらしき自然の造形。ちっぽけな人間の人生。

雪原の上には凍りついた樹木の他には何も見えない。頂上はどっちだ。たぶん右手の高みだろう。真っ平とはいえ緩い傾斜があり、右手の高みの向こうは見えない。そちらに向かうスキートレースもあるので、そちらに向かう。

どうやら一番高いところに来て、小屋の屋根のようなのもあり、そこを苗場の頂上と認定。三角点も頂上標識も雪に埋まっているようだ。

大きな小屋(自然体験交流センター)がほぼ半分雪に埋まっている。夏にはどんな感じなのだろう。静寂の白い世界。小屋の向こうにスキートレースが続いており、このスキーヤーたちはどこまで行ったのだろう。

何度も景色をデジカメで撮るが、この広大な眺めはとてもデジカメでは捉えきれない。切れ端になってしまう。苗場の頂上台地を最後に眺め、滑走開始。粉雪の下はアイスバーンで、ガリガリ滑る。

すぐに細い急斜面の手前に着く。ガリガリの横滑りで尾根を下る。次なるラッセル斜面は、左の斜面を下ることにする。ここもガリガリ真下に下り、頃合をみて尾根にトラバースして滑り込む。うまくいった。スキーの上には削り取った雪。見上げると雲尾坂の上に太陽。

神楽ヶ峰への斜面を半分登り返したところで振り返り、初めて苗場の全景を見る。頂上台地は尾根と台地斜面で隠れており、巨大な山がたたずんでいる。

 神楽ヶ峰への斜面を半分登り返したところで振り返り、初めて苗場の全景を見る。頂上台地は尾根と台地斜面で隠れており、巨大な山がたたずんでいる。
 雲尾坂の滑走直前(奥は神楽ヶ峰)
 神楽ヶ峰
雲尾坂の滑走
 和田小屋
 そして頂上台地に到着。眼前に息を呑む光景が広がる。こいつは、すごい。真っ平な雪原が大きく広がり、緩くえぐれた雪原の端がほぼ垂直に切れ落ちている。正に息を呑む光景。
  9:27 みつまた駐車場発  9:38 みつまたロープウェイ乗車10:00 かぐらゴンドラ乗車10:38 リフト・トップ発、シール11:09 神楽ヶ峰・北峰11:26 神楽ヶ峰11:54 休憩場所発、滑走12:05 コル(お花畑)、シール12:35 雲尾坂取付き、アイゼン13:37 雪原、シール13:50 苗場山・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・リフト・トップから登り3時間12分・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・みつまた駐車場から4時間23分13:53 山荘14:14 苗場山発、滑走14:39 コル(お花畑)、シール15:17 神楽ヶ峰15:32 神楽ヶ峰・北峰発、滑走15:38 リフト・トップ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・苗場山から1時間24分・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・往復5時間0分16:02 みつまた登り返しリフト16:13 みつまたロープウェイ乗車16:19 みつまた駐車場・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・苗場山から2時間5分・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・往復6時間52分

***********************

朝起きると外は雨。八海山も昨日よりも見えていない。テレビの天気予報では雨は朝には上がり、晴間が広がると言っている。ずいぶん違うな。まあ、少しタイムラグがあるようだということで8時頃にホテルを出る。翌週も晴のようなので、今週はこのまま帰り、来週また来るほうが正解かもしれない。まあ、スキー場までいってみよう。高速で湯沢に向かう。ほとんど本降りの雨で、スキーという感じではない。しかしみつまたスキー場は七分の入りで、小雨の中をスキー客がロープウェイに向かう。もう晴れるだろうということなのだろうが、濡れてしまうとツアーはつらい。しばらく車の中で雨の止むのを待つ。

9時を過ぎ、余り出発を遅らせても戻りがつらくなるので、準備する。お茶もテルモスに入れ、ペットボトルは今日はいらないかな。持っていこうと思ったピッケルを忘れたのは失敗。一応一日券を4,200円で買い、ロープウェイに乗る。およそ10年ぶりのはずだが、大きなロープウェイに客は七分ほど。上に着くとこれまた久し振りのレストハウス。寄って行きたいけど素通りして少し下のリフト乗り場まで滑る。ザラメ雪の上をのんびり滑るスキーヤーにボーダーたち。すると、ザックをしょった一団が同じリフトに向かおうとしている。やっぱり山スキーの人たちもいた。少し安心。

それにしても雨は上がったが空は晴れない。山も雲にかくれていて見えない。ゲレンデを滑るだけかな。リフトの最上部からいったん滑走してゴンドラ乗り場まで行くが、学生の頃、この急斜面が滑れなくて何度も転んだ記憶がよみがえる。今回はデジカメを撮りながらの滑走。いまや、たいした斜面ではない。ゴンドラに乗るものおよそ10年ぶり。谷を越えていくが天気は相変わらず。ゴンドラを降りると和田小屋があった。昔は由緒のある小屋とは知らずにいたが、だいぶモダンに改装されているようだ。和田小屋の向こうを少し滑り降りて4人リフトに乗り、リフトを降りると、右手に最奥のリフトが動いているのが見えたので、そっちに滑り降り、最奥リフトに乗る。これに乗るのは初めてだが、急なモグル斜面があっておもしろそうだ。しかしリフトはガスの中に入って行き、視界なし。

こいつはダメだな、とモグル練習を覚悟したのだが、リフトを降りてみるとなんとこれから登ろうとしている山スキーの人たちがいた。ロープが張ってあり、「本日登山道は悪天候のため閉鎖」と書いた看板が出ているのに・・・である。それでは私も・・・ということでザックを下ろしてシールをつける。和田小屋のところで追い抜いた山スキーの団体さんもやってきたところで、ガスの中に出発。

それにしても何も見えない。先発の団体さんもさっぱり見えないが、トレースがたくさんついているので方向は間違いない。緩い雪斜面で、次第に木もまばらになってくる。人影が・・・と思ったら団体さんが休憩しているようだ。後から追いついてくる人もいる。しかし斜面はまだ続いているので、トレースを登る。緩い斜面のトップあたりで休憩している団体がおり、ここらが神楽ヶ峰の頂上かな、と思ったが標識は見当たらない(P1・2,000m)。トレースは尾根沿いを左に続いているので、それを辿る。いったん下りとなり、追いついてきた人に先にいってもらうが、再び下りとなったところでトレースが消えたらしく、立ち止まっているので追い越して先に行く。トレースは切れ切れにつづいており、アップダウンを進むが、どうやら最高点らしきところに着く。ここが神楽ヶ峰頂上。その先はずっと下りになっている。

最高点の先の下りは広くなっていて、方角が分からない。やや左手に滑り降り、たぶんこの雪庇のある尾根だろうと思ったが、もっと右なのかもしれない。こいつは晴れないと無理だ、と思い、やや下の木陰でスキーを外し、ひっくりかえって休憩にする。木陰に来たのは風が冷たいから。時間は11時半。ロープウェイの下り最終が15時とあり、それに間に合わせたいなあ。ホールズワースを聞きながら目をつぶる。

まぶしい、と思ったら、雲間に日が霞んでいる。こいつは晴れるな、と思うが、すぐに隠れてしまう。あたりの視界もやや広がっているようだ。空の一角に青空が見えてきたときに起き上がり、出発する。行く手の下り斜面にその先にある山肌が見えてくる。あれが苗場だろうか。上はまだ隠れていて見えない。やがて斜面のはるか下のコルとコルに立つピークが見えてくる。ずいぶん100m弱くらい下る感じ(コル1,970mまで60mの下り)。とりあえずシールのままジャンプターンで下る。シールを外してショートターンで飛ばしたい広くて雪質最高の斜面。

斜面を下まで降りて行くとトレースがあり、それを辿ってコルに向かうと「お花畑」の標識あり、もうひとつの標識には、神楽ヶ峰方面が雷清水、行く手が雲尾坂、とある。なるほど。風でガスが時々切れ、そのたびにデジカメで写すが、行く手の雲尾坂はなかなか手強そうで、アイゼンで登ることになるだろうと直感。背後の神楽ヶ峰の斜面も見えてきた。コルから登り返し、途中にあるP2・1,948mを認定。こいつに登ってる訳にはいかない。秋山郷側からの沢筋が見えている。なるほど、これを登ってきて沢沿いに滑走するのも良さそうだ。

さて、雲尾坂の途中までスキーで登り、急斜面の手前でザックを下ろし、アイゼンをつける。ごつごつした尾根をハイ松の枝をつかみながら登る。尾根の両側は急斜面で、帰りは滑れるかもしれないなと思うが、登るには何も手がかりがない。数十メートル登ったところで、尾根にも手がかりがなくなり、真上に登れなくなる。傾斜がきつく、木の枝がつかめても足場がつくれない。左にまわっていくトレースがあったが、やや下に下って行くので止めておく(このトレースは左に回った後で登り返していたのかもしれない)。足がかりなしで踏ん張って登るのもできるだろうが、一回足場が崩れると落ちるだろう。ピッケルがあればなあ・・・(あっても余り変わらないかも)。結局、昔の雪庇登りの要領で、ラッセルすることにする。そもそも、雪が固ければ足場をつくれるのだから、雪が柔らかいならラッセルで雪を削って足場を作ればよいのだ。手袋でガリガリ雪を削り、そこを踏みこんでいって少しずつ足場を作って行く。最初はカメの歩みだったが、やることは一つなので着実に上昇していく。次第に傾斜が緩んでくると楽になり、ついに両足で立って尾根の途中に立つ。最難関を突破した。(所要12分)

雲尾坂のラッセル斜面を登る直前に青空が広がり、背後には神楽ヶ峰が見えていた。丸い稜線の山。雷清水というのは少し肩になってるところかな、休憩した雪庇の上のところ。神楽の向こうにもう少し高いピークが見えている(霧の塔?)。ラッセル斜面の上から改めて見渡す。そして行く手には苗場の頂上部分が青空の下に姿を見せている。急な尾根の上に広大な頂上台地が広がっている。もうすぐだ。

神楽の東南には遠くスキー場のゲレンデが見えており、その向こうの雲から出てきた山は日白山だろう。苗場の東南方向に真っ白な沢筋があり、そこを滑っていくとスキー場に出られるだろうか(帰りのとき、トレースがついていた)。急斜面を登りきると頂上台地に続く細い尾根が見える。傾斜は緩いが思ったより距離がある。古い足跡トレースが残っていて、その上が固くて歩きやすい。自然と足が速まる(気がする)。次第に傾斜は緩み、古いトレースと歩幅が合わなくなってきて、早めにスキーに戻したほうが良さそうだ。

延々と続く足跡を背後に、尾根がだいぶ広がったところでシールに履き変える。すぐに頂上台地に到着。眼前に息を呑む光景が広がる。こいつは、すごい。真っ平な雪原が大きく広がり、緩くえぐれた雪原の端がほぼ垂直に切れ落ちている。小さな点となって広大な雪原台地を歩く。すばらしき自然の造形。ちっぽけな人間の人生。雪原の上には凍りついた樹木の他には何も見えない。頂上はどっちだ。たぶん右手の高みだろう。真っ平とはいえ緩い傾斜があり、右手の高みの向こうは見えない。そちらに向かうスキートレースもあるので、そちらに向かう。

どうやら一番高いところに来て、小屋の屋根のようなのもあり、そこを苗場の頂上と認定。三角点も頂上標識も雪に埋まっているようだ。14時少し前。この先は緩い下りとなっているが・・・頂上台地の向こうに見えている三角ピークはどうやら鳥甲山だ。何年か前にはあの頂上から苗場を見ていた。すると、鳥甲の手前の頂上台地に屋根が見える。頂上にあるもうひとつの小屋だろう。スキートレースがたくさんそっちに向かってついているので、小屋まで行ってみることにする。

大きな小屋(自然体験交流センター)がほぼ半分雪に埋まっている。夏にはどんな感じなのだろう。静寂の白い世界。小屋の向こうにスキートレースが続いており、このスキーヤーたちはどこまで行ったのだろう。ロングツアーなのだろうか。ガイドにあった苗場から佐武流、白岩、稲包、三国峠のツアーにいつか挑戦したい。こんな日がつづくならいいが。鳥甲の左の、苗場の頂上台地の先にある丸い山が佐武流だろうか。その左にぐるりと山々が連なっており、稲包や平標が並んでいるはずだが、やや霞んでいる。

ここで14時となり、なごり惜しいが戻ることにする。頂上に埋まった屋根のところを通って戻りながら、何度も景色をデジカメで撮るが、この広大な眺めはとてもデジカメでは捉えきれない。切れ端になってしまう。尾根の手前でシールをはがし、苗場の頂上台地を最後に眺め、滑走開始。粉雪の下はアイスバーンで、ガリガリ滑る。腐ってるより全然いいが、氷のかたまりやら波打っているのがひっかかる。

すぐに細い急斜面の手前に着く。この下のラッセル斜面は左の西斜面を下れそうだったが、この細尾根は両側斜面とも滑れそうもない。ターンするとどうしてもどちらかの斜面に入ってしまうので、ガリガリの横滑りで尾根を下る。斜め前にガリガリ下り、今度は斜め後にガリガリ下る。うまいもんだ。次なるラッセル斜面は、登ってきたルートのずっと右側も滑れそうだったが、登り返しになるかもしれないので、左の斜面を下ることにする。ここもガリガリ真下に下り、頃合をみて尾根にトラバースして滑り込む。うまくいった。スキーの上には削り取った雪。見上げると雲尾坂の上に太陽。

広くなった尾根をコルに滑ると、雪の上に初めてシュプールが残る。雪質は最高だ。しかし、お花畑コルまで下りると、再びシールを付けてつらい登り返し。いったん滑ってしまうと、その後の登りはきつい。かなり急だが、シールはよく利く。誰かが滑り降り、登り返したトレースがあったが、トレースよりもまっすぐに登る。やや上の雪原斜面に出ると、自分が滑ったシール滑走のトレースが残っていた。シールで滑ったにしてはまあ、うまいもんだ。

神楽ヶ峰への斜面を半分登り返したところで振り返り、初めて苗場の全景を見る。頂上台地は尾根と台地斜面で隠れており、巨大な山がたたずんでいる。午前中に休憩した場所を過ぎ、雪庇の尾根の横を登る。何人かがここを滑ったようだ。いくつかはコルの東の沢を下っていた。神楽の最後部は雪尾根の途中にあり、午前中と違って太いトレースができている。何度も苗場を写す。ここは午前中は歩いたが、ガスで視界は無かったため、まるで初めての場所。いったん下りとなり、登り返したところに午後初めて人を見る。ボーダーが何人か休憩中。他には誰もいない。

もう15時半なので、ロープウェイは終わってるかもしれないが、ここがP1だとして、どっちに向かって滑ればいいんだ。はるか下にリフトのようなのが見えるが、そのずっと右手に神楽田代スキー場が見えているのに、神楽三俣スキー場のほうは見えていない。下のリフトを目指して滑走開始。尾根沿いにも太いトレースがついており、それもツアーコースなのだろう。神楽の広い斜面はトレースだらけだが、予想通り腐っていてスキーが抜けない。無理やりのジャンプターンでいくが、なんともスピードが出る。ボーダーたちはすぐに斜面のかなたに見えなくなり、林に入る手前くらいでバランスを失って転倒。疲れていてふんばりがきかない。いや、ふんばらないでもいいように細かくジャンプしないといけないのか。

誰にも会わないままでリフト最上部に着く。リフトは既に止まっており、誰もいない。ロープをくぐろうとしてザックがひっかかり、通り抜けるのに苦労。疲れてるなあ。モグル斜面に滑り込むとコブが硬くてとても滑れない。ヒザがもたないよ。斜面の端をゆっくり滑る。コースは迂回路のようなところに合流し、楽に滑っていると男性が一人。追いつこうとすると向こうもスピードを上げ、追いつけず・・・斜面を回ったところでゲレンデに出る。いやあ、まだ人がたくさん滑っている。

メイン・リフトはまだ動いていたが、もう帰ろうということで下山。和田小屋のところでネックウォーマーを外すが、滑ると風が当たって寒い。着けたままでよかったかも。のんびりとデジカメを撮りながら斜面を下る。もう16時で、日もかげってきた。ゴンドラ乗場の隣に登り返しリフトがあり、予想通り帰り客が並んでいる。割り込み乗車口に回って早めに乗せてもらえる。ラッキー。最後の三俣ゲレンデを久しぶりに滑り、10年前にも見た覚えのあるヤドリギを写し、下山ルートを下ってもよかったのだが、ロープウェイが動いていたのでそっちに乗る。

いやあお疲れさん。車に戻り、片付けていると、駐車場の反対側からスキーを担いで歩いてくる人たちがいる。どうやら下山ルートを降りてきた人たちのようだ。あそこに出るなら降りてくるんだった。駐車場を出てすぐ反対側に温泉「街道の湯」というのがあり、そこに寄っていく(500円)。大入り満員で、順番待ちで体を洗い、露天は諦める。

苗場。近くて遠い山だったが、ついに登ることができ、しかも快晴の真っ白な頂上台地を見られたのは幸運だった。また行こう。

****

ガスの神楽ヶ峰の先の斜面で横になって天気の回復を待ち、日が射してきたところでコルまで下って雲尾坂をアイゼンで登る。急斜面をよじ登り、細尾根を辿るとやがて青空が広がる。頂上大地に着くと真っ白な雪原がはるか先まで大きく広がっている。こいつは、すごい。正に息を呑む光景。小さな点となって広大な雪原を歩く。すばらしき自然の造形。ちっぽけな人間の人生。

 

 みつまたスキー場

朝起きると外は雨。八海山も昨日よりも見えていない。テレビの天気予報では雨は朝には上がり、晴間が広がると言っている。ずいぶん違うな。まあ、少しタイムラグがあるようだということで8時頃にホテルを出る。翌週も晴のようなので、今週はこのまま帰り、来週また来るほうが正解かもしれない。まあ、スキー場までいってみよう。高速で湯沢に向かう。ほとんど本降りの雨で、スキーという感じではない。しかしみつまたスキー場は七分の入りで、小雨の中をスキー客がロープウェイに向かう。もう晴れるだろうということなのだろうが、濡れてしまうとツアーはつらい。しばらく車の中で雨の止むのを待つ。

 ヤドリギ

9時を過ぎ、余り出発を遅らせても戻りがつらくなるので、準備する。お茶もテルモスに入れ、ペットボトルは今日はいらないかな。持っていこうと思ったピッケルを忘れたのは失敗。一応一日券を4,200円で買い、ロープウェイに乗る。およそ10年ぶりのはずだが、大きなロープウェイに客は七分ほど。上に着くとこれまた久し振りのレストハウス。寄って行きたいけど素通りして少し下のリフト乗り場まで滑る。ザラメ雪の上をのんびり滑るスキーヤーにボーダーたち。すると、ザックをしょった一団が同じリフトに向かおうとしている。やっぱり山スキーの人たちもいた。少し安心。

 かぐらゴンドラ麓駅への滑走

それにしても雨は上がったが空は晴れない。山も雲にかくれていて見えない。ゲレンデを滑るだけかな。リフトの最上部からいったん滑走してゴンドラ乗り場まで行くが、学生の頃、この急斜面が滑れなくて何度も転んだ記憶がよみがえる。今回はデジカメを撮りながらの滑走。いまや、たいした斜面ではない。ゴンドラに乗るものおよそ10年ぶり。谷を越えていくが天気は相変わらず。ゴンドラを降りると和田小屋があった。昔は由緒のある小屋とは知らずにいたが、だいぶモダンに改装されているようだ。和田小屋の向こうを少し滑り降りて4人リフトに乗り、リフトを降りると、右手に最奥のリフトが動いているのが見えたので、そっちに滑り降り、最奥リフトに乗る。これに乗るのは初めてだが、急なモグル斜面があっておもしろそうだ。しかしリフトはガスの中に入って行き、視界なし。

 ゴンドラ麓駅(復路時)

こいつはダメだな、とモグル練習を覚悟したのだが、リフトを降りてみるとなんとこれから登ろうとしている山スキーの人たちがいた。ロープが張ってあり、「本日登山道は悪天候のため閉鎖」と書いた看板が出ているのに・・・である。それでは私も・・・ということでザックを下ろしてシールをつける。和田小屋のところで追い抜いた山スキーの団体さんもやってきたところで、ガスの中に出発。

 和田小屋

 リフト・トップ

 神楽ヶ峰頂上(復路時)

それにしても何も見えない。先発の団体さんもさっぱり見えないが、トレースがたくさんついているので方向は間違いない。緩い雪斜面で、次第に木もまばらになってくる。人影が・・・と思ったら団体さんが休憩しているようだ。後から追いついてくる人もいる。しかし斜面はまだ続いているので、トレースを登る。緩い斜面のトップあたりで休憩している団体がおり、ここらが神楽ヶ峰の頂上かな、と思ったが標識は見当たらない(P1・2,000m)。トレースは尾根沿いを左に続いているので、それを辿る。いったん下りとなり、追いついてきた人に先にいってもらうが、再び下りとなったところでトレースが消えたらしく、立ち止まっているので追い越して先に行く。トレースは切れ切れにつづいており、アップダウンを進むが、どうやら最高点らしきところに着く。ここが神楽ヶ峰頂上。その先はずっと下りになっている。

 青空が見えてきた

最高点の先の下りは広くなっていて、方角が分からない。やや左手に滑り降り、たぶんこの雪庇のある尾根だろうと思ったが、もっと右なのかもしれない。こいつは晴れないと無理だ、と思い、やや下の木陰でスキーを外し、ひっくりかえって休憩にする。木陰に来たのは風が冷たいから。時間は11時半。ロープウェイの下り最終が15時とあり、それに間に合わせたいなあ。ホールズワースを聞きながら目をつぶる。

 コルと1,948m峰

まぶしい、と思ったら、雲間に日が霞んでいる。こいつは晴れるな、と思うが、すぐに隠れてしまう。あたりの視界もやや広がっているようだ。空の一角に青空が見えてきたときに起き上がり、出発する。行く手の下り斜面にその先にある山肌が見えてくる。あれが苗場だろうか。上はまだ隠れていて見えない。やがて斜面のはるか下のコルとコルに立つピークが見えてくる。ずいぶん100m弱くらい下る感じ(コル1,970mまで60mの下り)。とりあえずシールのままジャンプターンで下る。シールを外してショートターンで飛ばしたい広くて雪質最高の斜面。

 コルの「お花畑」標識

斜面を下まで降りて行くとトレースがあり、それを辿ってコルに向かうと「お花畑」の標識あり、もうひとつの標識には、神楽ヶ峰方面が雷清水、行く手が雲尾坂、とある。なるほど。風でガスが時々切れ、そのたびにデジカメで写すが、行く手の雲尾坂はなかなか手強そうで、アイゼンで登ることになるだろうと直感。背後の神楽ヶ峰の斜面も見えてきた。コルから登り返し、途中にあるP2・1,948mを認定。こいつに登ってる訳にはいかない。秋山郷側からの沢筋が見えている。なるほど、これを登ってきて沢沿いに滑走するのも良さそうだ。

 コルの道標

 雲尾坂

さて、雲尾坂の途中までスキーで登り、急斜面の手前でザックを下ろし、アイゼンをつける。ごつごつした尾根をハイ松の枝をつかみながら登る。尾根の両側は急斜面で、帰りは滑れるかもしれないなと思うが、登るには何も手がかりがない。数十メートル登ったところで、尾根にも手がかりがなくなり、真上に登れなくなる。傾斜がきつく、木の枝がつかめても足場がつくれない。左にまわっていくトレースがあったが、やや下に下って行くので止めておく(このトレースは左に回った後で登り返していたのかもしれない)。足がかりなしで踏ん張って登るのもできるだろうが、一回足場が崩れると落ちるだろう。ピッケルがあればなあ・・・(あっても余り変わらないかも)。結局、昔の雪庇登りの要領で、ラッセルすることにする。そもそも、雪が固ければ足場をつくれるのだから、雪が柔らかいならラッセルで雪を削って足場を作ればよいのだ。手袋でガリガリ雪を削り、そこを踏みこんでいって少しずつ足場を作って行く。最初はカメの歩みだったが、やることは一つなので着実に上昇していく。次第に傾斜が緩んでくると楽になり、ついに両足で立って尾根の途中に立つ。最難関を突破した。(所要12分)

 雲尾坂から北の景観: 日蔭山、霧ノ塔、神楽ヶ峰

 神楽ヶ峰

 神楽ヶ峰頂上の人影

 雲尾坂

雲尾坂のラッセル斜面を登る直前に青空が広がり、背後には神楽ヶ峰が見えていた。丸い稜線の山。雷清水というのは少し肩になってるところかな、休憩した雪庇の上のところ。神楽の向こうにもう少し高いピークが見えている(霧の塔?)。ラッセル斜面の上から改めて見渡す。そして行く手には苗場の頂上部分が青空の下に姿を見せている。急な尾根の上に広大な頂上台地が広がっている。もうすぐだ。

 神楽ヶ峰

 みつまたスキー場方面

神楽の東南には遠くスキー場のゲレンデが見えており、その向こうの雲から出てきた山は日白山だろう。苗場の東南方向に真っ白な沢筋があり、そこを滑っていくとスキー場に出られるだろうか(帰りのとき、トレースがついていた)。急斜面を登りきると頂上台地に続く細い尾根が見える。傾斜は緩いが思ったより距離がある。古い足跡トレースが残っていて、その上が固くて歩きやすい。自然と足が速まる(気がする)。次第に傾斜は緩み、古いトレースと歩幅が合わなくなってきて、早めにスキーに戻したほうが良さそうだ。

 雲尾坂上部

延々と続く足跡を背後に、尾根がだいぶ広がったところでシールに履き変える。すぐに頂上台地に到着。眼前に息を呑む光景が広がる。こいつは、すごい。真っ平な雪原が大きく広がり、緩くえぐれた雪原の端がほぼ垂直に切れ落ちている。小さな点となって広大な雪原台地を歩く。すばらしき自然の造形。ちっぽけな人間の人生。雪原の上には凍りついた樹木の他には何も見えない。頂上はどっちだ。たぶん右手の高みだろう。真っ平とはいえ緩い傾斜があり、右手の高みの向こうは見えない。そちらに向かうスキートレースもあるので、そちらに向かう。

 雲尾坂上部から北の景観: 日蔭山、霧ノ塔、神楽ヶ峰

 雲と霧ノ塔

 苗場山北東端から南の景観: 佐武流山、烏帽子岳、苗場山・頂上

 霧ノ塔

 鳥甲山

 苗場山頂上の雪に埋まった屋根

どうやら一番高いところに来て、小屋の屋根のようなのもあり、そこを苗場の頂上と認定。三角点も頂上標識も雪に埋まっているようだ。14時少し前。この先は緩い下りとなっているが・・・頂上台地の向こうに見えている三角ピークはどうやら鳥甲山だ。何年か前にはあの頂上から苗場を見ていた。すると、鳥甲の手前の頂上台地に屋根が見える。頂上にあるもうひとつの小屋だろう。スキートレースがたくさんそっちに向かってついているので、小屋まで行ってみることにする。

 苗場山頂上

 山小屋(自然体験交流センター)

大きな小屋(自然体験交流センター)がほぼ半分雪に埋まっている。夏にはどんな感じなのだろう。静寂の白い世界。小屋の向こうにスキートレースが続いており、このスキーヤーたちはどこまで行ったのだろう。ロングツアーなのだろうか。ガイドにあった苗場から佐武流、白岩、稲包、三国峠のツアーにいつか挑戦したい。こんな日がつづくならいいが。鳥甲の左の、苗場の頂上台地の先にある丸い山が佐武流だろうか。その左にぐるりと山々が連なっており、稲包や平標が並んでいるはずだが、やや霞んでいる。

 雲尾坂の滑走直前

ここで14時となり、なごり惜しいが戻ることにする。頂上に埋まった屋根のところを通って戻りながら、何度も景色をデジカメで撮るが、この広大な眺めはとてもデジカメでは捉えきれない。切れ端になってしまう。尾根の手前でシールをはがし、苗場の頂上台地を最後に眺め、滑走開始。粉雪の下はアイスバーンで、ガリガリ滑る。腐ってるより全然いいが、氷のかたまりやら波打っているのがひっかかる。

 雲尾坂の滑走

すぐに細い急斜面の手前に着く。この下のラッセル斜面は左の西斜面を下れそうだったが、この細尾根は両側斜面とも滑れそうもない。ターンするとどうしてもどちらかの斜面に入ってしまうので、ガリガリの横滑りで尾根を下る。斜め前にガリガリ下り、今度は斜め後にガリガリ下る。うまいもんだ。次なるラッセル斜面は、登ってきたルートのずっと右側も滑れそうだったが、登り返しになるかもしれないので、左の斜面を下ることにする。ここもガリガリ真下に下り、頃合をみて尾根にトラバースして滑り込む。うまくいった。スキーの上には削り取った雪。見上げると雲尾坂の上に太陽。

 滑走途中

広くなった尾根をコルに滑ると、雪の上に初めてシュプールが残る。雪質は最高だ。しかし、お花畑コルまで下りると、再びシールを付けてつらい登り返し。いったん滑ってしまうと、その後の登りはきつい。かなり急だが、シールはよく利く。誰かが滑り降り、登り返したトレースがあったが、トレースよりもまっすぐに登る。やや上の雪原斜面に出ると、自分が滑ったシール滑走のトレースが残っていた。シールで滑ったにしてはまあ、うまいもんだ。

 雲尾坂の滑走

 雲尾坂の滑走

神楽ヶ峰への斜面を半分登り返したところで振り返り、初めて苗場の全景を見る。頂上台地は尾根と台地斜面で隠れており、巨大な山がたたずんでいる。午前中に休憩した場所を過ぎ、雪庇の尾根の横を登る。何人かがここを滑ったようだ。いくつかはコルの東の沢を下っていた。神楽の最後部は雪尾根の途中にあり、午前中と違って太いトレースができている。何度も苗場を写す。ここは午前中は歩いたが、ガスで視界は無かったため、まるで初めての場所。いったん下りとなり、登り返したところに午後初めて人を見る。ボーダーが何人か休憩中。他には誰もいない。

 苗場山と雲尾坂

 苗場山

 苗場山

 神楽ヶ峰への登り返し

もう15時半なので、ロープウェイは終わってるかもしれないが、ここがP1だとして、どっちに向かって滑ればいいんだ。はるか下にリフトのようなのが見えるが、そのずっと右手に神楽田代スキー場が見えているのに、神楽三俣スキー場のほうは見えていない。下のリフトを目指して滑走開始。尾根沿いにも太いトレースがついており、それもツアーコースなのだろう。神楽の広い斜面はトレースだらけだが、予想通り腐っていてスキーが抜けない。無理やりのジャンプターンでいくが、なんともスピードが出る。ボーダーたちはすぐに斜面のかなたに見えなくなり、林に入る手前くらいでバランスを失って転倒。疲れていてふんばりがきかない。いや、ふんばらないでもいいように細かくジャンプしないといけないのか。

 神楽ヶ峰と苗場山

誰にも会わないままでリフト最上部に着く。リフトは既に止まっており、誰もいない。ロープをくぐろうとしてザックがひっかかり、通り抜けるのに苦労。疲れてるなあ。モグル斜面に滑り込むとコブが硬くてとても滑れない。ヒザがもたないよ。斜面の端をゆっくり滑る。コースは迂回路のようなところに合流し、楽に滑っていると男性が一人。追いつこうとすると向こうもスピードを上げ、追いつけず・・・斜面を回ったところでゲレンデに出る。いやあ、まだ人がたくさん滑っている。

 三角(大日蔭山)

メイン・リフトはまだ動いていたが、もう帰ろうということで下山。和田小屋のところでネックウォーマーを外すが、滑ると風が当たって寒い。着けたままでよかったかも。のんびりとデジカメを撮りながら斜面を下る。もう16時で、日もかげってきた。ゴンドラ乗場の隣に登り返しリフトがあり、予想通り帰り客が並んでいる。割り込み乗車口に回って早めに乗せてもらえる。ラッキー。最後の三俣ゲレンデを久しぶりに滑り、10年前にも見た覚えのあるヤドリギを写し、下山ルートを下ってもよかったのだが、ロープウェイが動いていたのでそっちに乗る。

 神楽ヶ峰付近から北の景観: 1,984m峰、みつまたスキー場、東谷山、日白山

 神楽ヶ峰付近から南の景観: 東谷山、神楽ヶ峰、苗場山

 神楽ヶ峰の東斜面滑走

いやあお疲れさん。車に戻り、片付けていると、駐車場の反対側からスキーを担いで歩いてくる人たちがいる。どうやら下山ルートを降りてきた人たちのようだ。あそこに出るなら降りてくるんだった。駐車場を出てすぐ反対側に温泉「街道の湯」というのがあり、そこに寄っていく(500円)。大入り満員で、順番待ちで体を洗い、露天は諦める。

 神楽ヶ峰

 リフト・トップ

 ゲレンデ・コースの滑走

 かぐらゴンドラ頂上駅と和田小屋を見下ろす

 和田小屋の上のゲレンデ

苗場。近くて遠い山だったが、ついに登ることができ、しかも快晴の真っ白な頂上台地を見られたのは幸運だった。また行こう。

 街道の湯

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ガスの神楽ヶ峰の先の斜面で横になって天気の回復を待ち、日が射してきたところでコルまで下って雲尾坂をアイゼンで登る。急斜面をよじ登り、細尾根を辿るとやがて青空が広がる。頂上大地に着くと真っ白な雪原がはるか先まで大きく広がっている。こいつは、すごい。正に息を呑む光景。小さな点となって広大な雪原を歩く。すばらしき自然の造形。ちっぽけな人間の人生。