雨飾山  猫の耳ふたたび

長野県  雨飾山・P2・1,838m  2020年3月26日

ネット情報、岳人

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小谷温泉手前のスノーシェルター出口のスペースに駐車。スキーをザックに取り付けて登っていくと、車道は雪で埋まっていて、さっそくスキーを下ろし、今回ツアーで初めてシールで歩き始める。

ようやく雨飾山が正面に見えてくる。それは真白なP2の背後に黒白の岩峰をのぞかせていて、右手に長く笹平の尾根を伸ばしている。

大海川の右岸を500m強歩き、夏道登山口の少し先の広い急斜面を九十九折に登ってるトレースを辿る。このトレースはとにかく楽に切ってあって辿りやすい。

P2の尾根にはテラスが三つほどあり、最初のテラス1,640mに着き、更に登って次の1,680mテラスに上がるが、けしからんことにそこから先にトレースは無かった。

そして行く手に、あの猫の耳(*)が見えてきた。この二つのピークが耳のように見えるのはP2から見るこの角度からだけ。またこの猫の耳に会えたのは感激だった。

かつて深田久弥が登った30mくらいしか離れていない二つの雨飾山の頂上峰、それに深田久弥が北から見た猫の耳は、P2から見た猫の耳とは違うようだ(*)。だが、私にとっては懐かしい猫の耳。

やがてP2の細長い雪尾根になっている頂上に到達。目の前には猫の耳、右手にはフトンビシの横顔。そして周囲には北アルプス、高妻・乙妻、登り損ねた天狗原山と金山。東にひときわ高いのは焼山、その左に昼闇山。

いつまでも眺めていたいところだが、長居はできない。ブーツをスキーモードに変更し、スキーを履いて滑走開始。

シールで九十九折に登ってきた斜面をショートターンでまっすぐ下る。まずまずの滑りだが、雪がだんごになって落ちてしまうので、滑走トレースはいまいち。

金山・天狗原山には登れず、雨飾山・本峰にも登れなかったが、雨飾山・P2に登り、また猫の耳を見れてよかった。

 そして行く手に、あの猫の耳(*)が見えてきた。この二つのピークが耳のように見えるのはP2から見るこの角度からだけ。またこの猫の耳に会えたのは感激だった。
 下からときどき頭だけ見えていた雨飾山は、林道の高いところに上がっても見えない。金山の南西尾根の先まで進むと、ようやく雨飾山が正面に見えてくる。それは真白なP2の背後に黒白の岩峰をのぞかせていて、右手に長く笹平の尾根を伸ばしている。
 小谷温泉手前のスノーシェルター出口のスペースに駐車
 P2の尾根にはテラスが三つほどあり、最初のテラス1,640mに着き、更に登って次の1,680mテラスに上がるが、けしからんことにそこから先にトレースは無かった。
 シールで九十九折に登ってきた斜面をショートターンでまっすぐ下る。まずまずの滑りだが、雪がだんごになって落ちてしまうので、滑走トレースはいまいち。
  5:36 駐車地点発  5:45 シール  6:35 栃ノ樹亭前、天狗原山に向かう  7:37 引き返し、滑走  8:22 栃ノ樹亭前、雨飾山P2に向かう、シール10:30 尾根取付き14:31 雨飾山P2・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・登り8時間55分・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・登り(除、天狗原山引き返し)7時間8分14:52 雨飾山P2発、滑走15:48 尾根取付き点17:02 林道トラバース17:18 滑走終了17:27 駐車地点・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・往復11時間51分・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・往復(除、天狗原山引き返し)10時間4分

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3時に起きるが、着替えに30分、食事に1時間かかり、道の駅を出たのはもう5時近い。R148に出ると大型トラックが迫ってきたので、道脇スペースでやりすごす。朝っぱらからスピードは出せない。R148から小谷温泉までは結構距離がある。ここは2年前にも来ていて、小谷温泉手前のスノーシェルター出口のスペースに駐車。準備しているうちに明るくなり、ヘッドランプはまたもや不要。スキーをザックに取り付けて登っていくと車が一台追い越してゆき、その車の主は小谷温泉前のスペースに停めて準備していた。ここに駐車してもよかったのか。その人は雨飾山P2に登ると言っていた。雪があるか心配だと言うと、すぐ先からもう雪があるという。その通り、角を曲がると2年前同様、車道は雪で埋まっていて、そこにスキー・トレースがついている。さっそくスキーを下ろし、今回ツアーで初めてシールで歩き始める。さあ、頂上まで行けるかな。(最初に目指したのは雨飾山P2でなく、金山・天狗原山だった。)

順調に雪の車道を歩き、旧栃ノ樹亭に着く前に行く手右(北東)に天狗原山への尾根が見えているが、雪が全く少ない。こいつはダメだなあ・・・と思いながらも一応、確かめるために前進。閉鎖されている露天風呂の前を過ぎ、栃ノ樹亭の手前から分岐を右に進む。期待していたトレースはそっちの方角にはなし。少なくとも最近、この道を辿った者はいないようだ。右折してすぐ、温泉の湯で林道の雪が大きく消えている箇所があり、スキーを担いで歩く。舗装面の上には緑色の藻が生えていて、その上を歩くと滑るので慎重に歩く。そこは大海川が南北に流れていて、林道を川沿いに北に200mほど歩いたところに橋がかかっている。そこから見る林道沿いの斜面には雪がなく、取付けない。大海川の左岸に渡り、南から東に林道を登っていき、取付き予定の手前にある九十九折の部分の雪が消えていたが、その左から尾根に上れそうだ。GPSを見ると歩道破線があるので、夏道がついているのかもしれない。やや急なところを斜めに登り、キックターンしようとするが、具合の悪いところに灌木が生えているので、スキーを外し、ブーツを雪に刺して尾根上まで登る。朝のうちは雪が固かった。そこからはたっぷりの雪の林の中を順調に登る。昨日(初雪山に向かうが、雪が無くて敗退)は雪のところまでたどり着けなかった。

だが、その先の広い斜面のところまで上がると、広い斜面の上に雪が無い。その広い尾根の雪のあるところまで登り、左の尾根筋まで雪の消えたところを登れないか探ってみたが、むき出しの土を歩かないといけない。尾根筋にも雪はなさそうだ。ここで諦めて引き返すことにする。だが、そこからは西に、北アルプスの名峰が並んでいるのを見ることができた。最初に気づいたのは鹿島槍、その隣が五竜、そして白馬三山。ここまで登ったのは無駄ではなかった。それからやや苦労してシールをはがし、滑走。まだ堅い雪の上の滑走はそこそこ楽しめた。林道まで下って滑っていくと、そこからも北アルプスは見えていた。なんだここからも見えるのか。栃ノ樹亭のところまで戻り、時計を見るとまだ8時半。このまま下って別の山を探すより、このままP2を目指そう、と決める。ここからなら4時間くらいで登れるだろう(6時間かかった)。

トレースの上のシール歩行は順調で、林道をショートカットするところもトレースを辿るが、この林道は長い。歩けども歩けどもなかなかキャンプ場は見えてこない。陽射がきついので日影になっているところで最初の休憩。二つ持ってきたパンの一つ(小さなクリームパン5個)を食べる。栃ノ樹亭からキャンプ場まで2.5㎞、P2までは5㎞弱。下からときどき頭だけ見えていた雨飾山は、林道の高いところに上がってもすぐには見えない。金山の南西尾根の先まで進むと、ようやく雨飾山が正面に見えてくる。それは真白なP2の背後に黒白の岩峰をのぞかせていて、右手に長く笹平の尾根を伸ばしている。ずいぶん調子よく歩けているので、P2じゃなくて本峰まで登ろうか、と考え始める。雨飾山に登ったらフトンビシを滑らなければ、最初に登った時、尻餅をついてしまったフトンビシを今度はちゃんと滑ってみたい。だが一方でフトンビシは滑りたくない、という怖さもある。キャンプ場の建物が見えてきたあたりで、トレースは林道を外れ、大海川左岸を緩くトラバースしていく。なるほど、キャンプ場から大海川へはだいぶ下るから、トラバースしていくのは正解だ。そのトレースを辿っていくが、最後のところで狭いスノーブリッジを渡る。この雪の下には橋があるんだろうか。ちょっと不安。

大海川の右岸を500m強歩き、夏道登山口の少し先の広い急斜面を九十九折に登ってるトレースを辿る。このトレースはとにかく楽に切ってあって辿りやすい。ところどころ、灌木を避けるために急なところはあるが、尾根をまっすぐ登らずに大きくトラバースしていくところはルートをよく知っているのだろう。やっと平坦なところ(1,340m付近)に着き、二度目の休憩。二個目のパンを食べる。だいぶ登ったつもりだが、尾根取付きからP2まで2㎞弱のうちまだ500m。本峰までだと3㎞弱。これはちょっときつかな。1,340m雪原から狭い尾根筋を登るところで左のシールが外れる。陽射がきついので、雪が融け出し、シールがびしょぬれなのだろう。上着も脱いでザックに入れていた。キックターンが切りにくいので、いったんスキーを外してシールを貼り直し、歩いて少し登ってからシールに戻す(この細尾根の部分にはスキーを外して歩いた踏跡があり、ここからみんな歩いて登ったのだろうかと思ったが、違っていた。スキー・トレースは続いていた。)。この緩い雪をブーツで登ると相当に時間がかかるだろう。なんとかシールで登り切らなければ。

細尾根の先でトレースは尾根の右(東側)を大きくトラバースしていき、その途中で休んでいる二人連れに会う。何かトラブルがあったのかもしれない。私もシールが外れ出したので、トレースがあれば本峰に行きたいと話したが、トレースはP2に向かっているようだ。本峰に行くなら、もう荒菅沢の右岸尾根に出ていなければならない。トレースがトラバースから左に登り始めたとき、ここから荒菅沢方面に向かうか考える。だが、もう12時半になっていて、尾根に取付いてからだいぶペースが落ちている。今回はP2にしておこう。立ち止まりながらの登りとなるが、いつもの二吸二吐の呼吸で淡々と登っていく。

P2の尾根にはテラスが三つほどあり、最初のテラス1,640mに着き、更に登って次の1,680mテラスに上がるが、けしからんことにそこから先にトレースは無かった。どうやらここで登りを切り上げ、滑走に移ったらしい。あともう200m、高低差150mくらいなのになぜ諦めたのだろう。私もトレースを使えなくなってしまった。トレースのない斜面をシールで登る。いつもの短いキックターンで登りたいところだが、シールが外れないよう、なるべく傾斜の緩いところを狙って登っていく。この、トレースがなくなってからの登りがどうやらちょっと過激すぎたのかもしれない。次第に疲労がたまってきたようだ。P2まであと少しの急な尾根を登っていくと突然、冷たい風が吹いてくる。上着を脱いでいて、汗をかいた厚手のポリエステルだけでは寒い。こいつはまずいと思って早々にザックを下ろして上着を着こむが、この後体調は急激に悪化し、P2頂上直下のテラスに上がる頃には頭がぼうっとしていた。久しぶりのハンガーノック症状。こうなってしまうと仕方ない。数歩登っては立ち止まる牛歩の歩きとなる。今度は頭の中の左上あたりが痛みだした。これは風邪をひいたかな。一方、登るに従い周囲の景観が見えてきて、朝に見た北アルプスが更に広い範囲で見えていて、どうやら雪倉と朝日が見えているので写真を撮ろうとしたらカードが満杯のサインが出ていて、これまたザックを下ろしてカードを取り換える。そして行く手に、あの猫の耳(*)が見えてきた。

かつて深田久弥が登った30mくらいしか離れていない二つの雨飾山の頂上峰、それに深田久弥が北から見た猫の耳は、P2から見た猫の耳とは違うようだ(*)。だが、私にとっては懐かしい猫の耳。

やがてP2の細長い雪尾根になっている頂上に到達。目の前には猫の耳、右手にはフトンビシの横顔。そして周囲には北アルプス、高妻・乙妻、登り損ねた天狗原山と金山。東にひときわ高いのは焼山、その左に昼闇山。P2頂上に腰を下ろし、ホットレモンを飲みながらまず北アルプスを眺め、それから周囲の写真を撮る。いつまでも眺めていたいところだが、長居はできない。ブーツをスキーモードに変更し、スキーを履いて滑走開始。P2からの滑走は急斜面ばかりなので楽しまなければ。シールで九十九折に登ってきた斜面をショートターンでまっすぐ下る。まずまずの滑りだが、雪がだんごになって落ちてしまうので、滑走トレースはいまいち。しかも、下るにつれて更に雪は柔らかくなり、ますます雪だんごが落ちる。滑走も引っかかってきて滑りにくい。体も疲れているので、立ち止まって休みながらの滑走。一つ目のテラスのあたりまで下って見上げると、尾根筋の右側に広い斜面が広がっていて、そこを滑ればよかったと気づく。今となっては後の祭り。二度目の休憩をとったあたりでいったんザックを下ろして休憩をとり、狭いところを慎重に滑って大海川右岸に滑り込む。最後は九十九折で登った広い斜面をショートターンで豪快に下る。16年前はここで滑り込んで安心したとたんに転倒したが、今回は余裕。ザックを下ろし、びしょぬれのシールを貼ってから5度目の休憩。雪の踏跡の中にびっしりついている黒い小さな点はどうやら虫のようだが、ユキカゲロウの幼虫なのだろうか。今日はユキカゲロウがたくさんいて、トレースの上を歩いているので、踏まずに歩くのが難しかった。

平坦な大海川の右岸を歩く分にはそれほど疲れはたまらず、立ち止まらずに歩き続ける。が、枝沢の上のスノーブリッジの上のトレースを歩いていて、突然右スキーが雪を踏みぬく。スキーで歩いていて雪を踏みぬくのは過去数回経験していて、久しぶり。あせっても仕方ないので、まず無事な左スキーを外し、左足を穴の中に下ろして支点にし、右スキーを持ち上げる。それから両手で踏ん張って脱出。頭で考える先に身体の方が反応するのは、経験の賜物?それとも単に流れに任せている?とにかく、力を入れたり急いだりすると碌なことが無いのは頭も体も身に染みてよくわかっている。キャンプ場まで登ってそこから滑走しようと思い、往路のトラバース・トレースに左折せずに直進したが、キャンプ場までは結構距離があり、登りはこたえる。そこでスノーブリッジ(ここは広い範囲で埋まってた)を渡り、少し登ったところから南に方向を変え、トラバースしてゆき、林道に至る手前でトラバース・トレースに合流する。ここでシールを外し、最後の休憩をとり、最後の滑走。ビンディングは外したままで滑り、途中の傾斜のないところを歩き滑りで進む。林道のショートカットは往路よりも少し先(西)。滑走トレースはそこからまっすぐ下に、下の林道も越え、栃ノ樹亭をパスして、更に下の雪の車道に至っていた。ここはビンディングをはめて滑走。だが、雪はもうべたべた。雪の車道に下ると雪は少しましになり、快調に滑って小谷温泉に着く。途中で夕日に鹿島槍や五竜が浮かび上がっていて美しかった。

P2までは登ってこなかった二人連れの車はもうなく、誰もいない車道をとぼとぼ歩いて車に戻り、ゆっくり片付ける。金山・天狗原山には登れず、雨飾山・本峰にも登れなかったが、雨飾山・P2に登り、あの猫の耳を再び見た。これはもう、チャレンジ・ファイブの一つに数えていいだろう。

車を出したときはもう暗くなってきていて、車道をR148に向かうと西の空に白馬鑓と杓子が見えていた。道を曲がるたびに何度も見える。道の駅おたりの温泉には十人弱の人がいたが、風呂は大きい。真っ暗な露天には誰もいなかったが、なぜだろう。散々な北陸ツアーだったが、また猫の耳(*)を見れてよかった。

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(*)雨飾山の三つの猫の耳

一つ目の猫の耳は「日本百名山」と「深田久弥の山がたり」に出てくる北側から仰ぎ見た猫の耳で、これは「深田久弥の山がたり」に載せられた写真によれば、右耳は雨飾山頂上、左耳は笹平1,894mと思われる。

「翌日、あざやかに晴れた。雨飾山はその広い肩の上に二つの耳を立てて、相変わらず気高く美しかった。・・・・二つのピークが睦まじげに寄り添ってすっきりと青空に立っていた。」(「深田久弥の山がたり」p42、雨飾山)「北側から仰いだ雨飾山はよかった。左右に平均の取れた肩を長く張って、その上に、猫の耳のような二つのピークが睦まじげに寄り添って、すっきりと五月の空に立っていた。」(「日本百名山」p142、雨飾山)

「梶山新湯から鋸岳へ至る稜線(北方)から見る雨飾山の二つの耳」の写真。(「深田久弥の山がたり」p42、雨飾山)

二つ目の猫の耳は「日本百名山」で雨飾山の頂上に立った深田久弥が歩いた30mほど離れた猫の耳で、これは三角点峰と最高点峰(祠のある峰)と思われる。因みに、一つ目の猫の耳は600mくらい離れているので、二つ目の耳ではあり得ない。

「一休みして、私たちはもう一つのピークの上へ行った。案外近く、三十米ほどしか離れていなかった。下から眺めてあんなに美しかった、その二つの耳の上に立った喜びで、私の幸福には限りがなかった。」(「日本百名山」p144、雨飾山)

三つ目の猫の耳は私がP2から見た冒頭の写真で、地形図と比較参照すると、これは二つ目の耳(最高点峰と三角点峰)ではなく、左耳は三角点峰、右耳は南東峰1,950m?(三角点峰の南東に突き出た峰)のようである。

 駐車地点(スノーシェルターの奥)

3時に起きるが、着替えに30分、食事に1時間かかり、道の駅を出たのはもう5時近い。R148に出ると大型トラックが迫ってきたので、道脇スペースでやりすごす。朝っぱらからスピードは出せない。R148から小谷温泉までは結構距離がある。ここは2年前にも来ていて、小谷温泉手前のスノーシェルター出口のスペースに駐車。

 

小谷温泉

小谷温泉の先の車道には雪があった


大渚山


初めて見えた天狗原山


初めて見えた雨飾山とP2


大渚山と栃ノ樹亭


尾根に上がる

順調に雪の車道を歩き、旧栃ノ樹亭に着く前に行く手右(北東)に天狗原山への尾根が見えているが、雪が全く少ない。こいつはダメだなあ・・・と思いながらも一応、確かめるために前進。閉鎖されている露天風呂の前を過ぎ、栃ノ樹亭の手前から分岐を右に進む。期待していたトレースはそっちの方角にはなし。少なくとも最近、この道を辿った者はいないようだ。

 雪が無い斜面、引き返し点

 朝に見た北アルプス: 爺ヶ岳、鹿島槍ヶ岳、五竜岳、唐松岳、白馬鑓ヶ岳、杓子岳、白馬岳

 雨飾山とP2

だが、その先の広い斜面のところまで上がると、広い斜面の上に雪が無い。その広い尾根の雪のあるところまで登り、左の尾根筋まで雪の消えたところを登れないか探ってみたが、むき出しの土を歩かないといけない。尾根筋にも雪はなさそうだ。ここで諦めて引き返すことにする。だが、そこからは西に、北アルプスの名峰が並んでいるのを見ることができた。最初に気づいたのは鹿島槍、その隣が五竜、そして白馬三山。

 狭い橋?スノーブリッジ?

トレースの上のシール歩行は順調で、林道をショートカットするところもトレースを辿るが、この林道は長い。歩けども歩けどもなかなかキャンプ場は見えてこない。陽射がきついので日影になっているところで最初の休憩。二つ持ってきたパンの一つ(小さなクリームパン5個)を食べる。

 広い大海川・右岸

 


尾根取付き

大海川の右岸を500m強歩き、夏道登山口の少し先の広い急斜面を九十九折に登ってるトレースを辿る。このトレースはとにかく楽に切ってあって辿りやすい。ところどころ、灌木を避けるために急なところはあるが、尾根をまっすぐ登らずに大きくトラバースしていくところはルートをよく知っているのだろう。やっと平坦なところ(1,340m付近)に着き、二度目の休憩。

 標高1,340m雪原

 


急斜面の登り

細尾根の先でトレースは尾根の右(東側)を大きくトラバースしていき、その途中で休んでいる二人連れに会う。何かトラブルがあったのかもしれない。私もシールが外れ出したので、トレースがあれば本峰に行きたいと話したが、トレースはP2に向かっているようだ。本峰に行くなら、もう荒菅沢の右岸尾根に出ていなければならない。

 トレースの終点、標高1,640mテラス

 

標高1,680mテラス


最後の急斜面


見えてきた猫の耳

そして行く手に、あの猫の耳が見えてきた。この二つのピークが耳のように見えるのはP2から見るこの角度からだけ。またこの猫の耳に会えたのは感激だった。かつて深田久弥が登った30mくらいしか離れていない二つのピーク(*1)というのはこの二つだと思う。(左耳は雨飾山頂上1,963m、右耳は南東尾根の突端、標高1,900mくらい?)一方、深田久弥が北から見た猫の耳は、雨飾山頂上1,963mと笹平峰1,894mらしい(*2)(*3)が、600m弱離れているので、P2から見た猫の耳とは違うようだ。

 猫の耳とザック(P2頂上)

(*1)「一休みして、私たちはもう一つのピークの上へ行った。案外近く、三十米ほどしか離れていなかった。下から眺めてあんなに美しかった、その二つの耳の上に立った喜びで、私の幸福には限りがなかった。」(「日本百名山」p144、雨飾山)

(*2)「梶山新湯から鋸岳へ至る稜線(北方)から見る雨飾山の二つの耳」の写真。(「深田久弥の山がたり」p42、雨飾山)

(*3)「翌日、あざやかに晴れた。雨飾山はその広い肩の上に二つの耳を立てて、相変わらず気高く美しかった。・・・・二つのピークが睦まじげに寄り添ってすっきりと青空に立っていた。」(「深田久弥の山がたり」p42、雨飾山)「北側から仰いだ雨飾山はよかった。左右に平均の取れた肩を長く張って、その上に、猫の耳のような二つのピークが睦まじげに寄り添って、すっきりと五月の空に立っていた。」(「日本百名山」p142、雨飾山)

 猫の耳(雨飾山)

やがてP2の細長い雪尾根になっている頂上に到達。目の前には猫の耳、右手にはフトンビシの横顔。そして周囲には北アルプス、高妻・乙妻、登り損ねた天狗原山と金山。東にひときわ高いのは焼山、その左に昼闇山。P2頂上に腰を下ろし、ホットレモンを飲みながらまず北アルプスを眺め、それから周囲の写真を撮る。いつまでも眺めていたいところだが、長居はできない。ブーツをスキーモードに変更し、スキーを履いて滑走開始。

 北方から見る雨飾山の二つの耳(「深田久弥の山がたり」p42)

 P2から見る北アルプス: 鹿島槍ヶ岳、五竜岳、白馬鑓ヶ岳、白馬岳、雪倉岳、朝日岳

 P2から南東の景観: 焼山、金山、天狗原山、黒姫山、地蔵山、乙妻山、高妻山、堂津山、西岳、奥西山、大渚山

 

大渚山

 P2から北の景観: 雨飾山・西峰、雨飾山・東峰、昼闇山、焼山、火打山?金山

 昼闇山

 


 

P2からの滑走


急斜面の滑走1


急斜面の滑走3


急斜面の滑走5


林間のショートターン


 

大海川・右岸に滑り込む

 


林道ショートカット滑走ルート

平坦な大海川の右岸を歩く分にはそれほど疲れはたまらず、立ち止まらずに歩き続ける。が、枝沢の上のスノーブリッジの上のトレースを歩いていて、突然右スキーが雪を踏みぬく。スキーで歩いていて雪を踏みぬくのは過去数回経験していて、久しぶり。あせっても仕方ないので、まず無事な左スキーを外し、左足を穴の中に下ろして支点にし、右スキーを持ち上げる。それから両手で踏ん張って脱出。

 夕日の北アルプス(爺ヶ岳、鹿島槍ヶ岳、五竜岳)

P2までは登ってこなかった二人連れの車はもうなく、誰もいない車道をとぼとぼ歩いて車に戻り、ゆっくり片付ける。金山・天狗原山には登れず、雨飾山・本峰にも登れなかったが、雨飾山・P2に登り、あの猫の耳を再び見た。これはもう、チャレンジ・ファイブの一つに数えていいだろう。

(*)雨飾山の三つの耳

一つ目の猫の耳(左耳は笹平峰、右耳は雨飾山頂上)

一つ目の猫の耳は「日本百名山」と「深田久弥の山がたり」に出てくる北側から仰ぎ見た猫の耳で、これは「深田久弥の山がたり」に載せられた写真によれば、右耳は雨飾山頂上、左耳は笹平1,894mと思われる。

「翌日、あざやかに晴れた。雨飾山はその広い肩の上に二つの耳を立てて、相変わらず気高く美しかった。・・・・二つのピークが睦まじげに寄り添ってすっきりと青空に立っていた。」(「深田久弥の山がたり」p42、雨飾山)「北側から仰いだ雨飾山はよかった。左右に平均の取れた肩を長く張って、その上に、猫の耳のような二つのピークが睦まじげに寄り添って、すっきりと五月の空に立っていた。」(「日本百名山」p142、雨飾山)

「梶山新湯から鋸岳へ至る稜線(北方)から見る雨飾山の二つの耳」の写真。(「深田久弥の山がたり」p42、雨飾山)

二つ目の猫の耳(奥が祠のある最高点峰、手前が三角点峰)

二つ目の猫の耳は「日本百名山」で雨飾山の頂上に立った深田久弥が歩いた30mほど離れた猫の耳で、これは三角点峰と最高点峰(祠のある峰)と思われる。因みに、一つ目の猫の耳は600mくらい離れているので、二つ目の猫の耳ではあり得ない。

「一休みして、私たちはもう一つのピークの上へ行った。案外近く、三十米ほどしか離れていなかった。下から眺めてあんなに美しかった、その二つの耳の上に立った喜びで、私の幸福には限りがなかった。」(「日本百名山」p144、雨飾山)

三つ目の猫の耳(左耳は雨飾山頂上、右耳は南東峰)

三つ目の猫の耳は私がP2から見た冒頭の写真で、地形図と比較参照すると、これは二つ目の耳(最高点峰と三角点峰)ではなく、左耳は三角点峰、右耳は南東峰1,950m?(三角点峰の南東に突き出た峰)のようである。