皇海山  松木沢を歩き、松木沢を見下ろす

群馬県  皇海山2,144m、鋸山1,998m  2020年8月7日

栃木県  庚申山1,892m、オロ山1,822m、沢入山1,704m、中倉山(最高点1,530m、三角点1,500m) 2020年8月7日

(皇海山)日本百名山、栃木百名山、群馬百名山

(庚申山)栃木百名山、群馬百名山

(鋸山)栃木百名山

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D1

銅親水公園から松木沢に入り、皇海山の北尾根の国境平に泊まり、翌日、皇海山、鋸尾根、庚申山から北尾根の踏跡を歩いて銅親水公園に戻る、というプランは2017年のレコマネ(kamasennin氏)で見たものだが、その壮大かつ出発点に歩いて戻れるという点が気に入った。

中倉山登山口のある仁田元川沿いの道との分岐を過ぎ、元松木村の集落を通過。ここはかって足尾銅山があった場所。集落を過ぎたところで沢に下る。松木沢はそのあたりでは広いゴーロの河原をもち、水が元気に流れ、対岸にはものすごいスラブ尾根が広がっている。

沢靴に履き替え、河原のゴーロの上を進むと、大きな砂防ダムがあり、右岸の林道跡に上がって越える。左岸の踏跡は、砂防ダムを三つほど越えていく。

松木沢の河原は狭くなり、両側に垂直に近い壁が迫る。もうこの先、砂防ダムは無いのだろうと思ったら、もう一つでっかいのが現われた(右岸から越えたが、左岸にも巻道があるらしい)。そのすぐ先で三俣980m地点を通過。左の本流を進む。

この先からは本格的な沢歩き。滝はないが大きな岩が多く、ルート取りに気を付け、できるだけ楽なところを進んでいく。深い淵に二つ遭遇。二つ目の淵は両岸が立ったゴルジュになっていた。石を積み上げた小さなケルンから踏跡を歩いてゴルジュを越える。深い淵が濃い青緑に見えていた。

尾根取付き点が近づき、黄色いペンキの丸印、赤リボン、ケルン、更に赤黄の道標も確認できたので、そこで水を汲み、夏靴に履き替える。尾根取付きは急な支尾根に九十九折りについていたが、踏跡は消えかかっていて歩きにくく、辛かった。

支尾根の林を抜けると笹原が広がっていて、そこには二つほど、砂地の空地があり、絶好のテントサイトになっていた。周囲にまばらな林があり、谷の向こうには山並み。夜中は星空に月が出て、とても心地よいところだった。

D2

テントを撤収して歩き始めたのはもう5時近かった。朝日で金色に輝く皇海山。そこに向かう国境平からの道は、百名山登山者で賑わう整備された南尾根とは対照的に自然が支配する世界。微かな踏跡を辿る。

ついに14年ぶりの皇海山頂上に着く。大きな一等三角点、渡良瀬川水源碑の大きな標識、いくつかの頂上標識。栃木百名山というのが多い。頂上から少し下ったところには青銅の宝剣。

それまでの獣道の踏跡とは雲泥の差。登山道というのはいいものだ。鋭角の鋸山の正面に白い縦筋のような道がついていて、私はテントザックを背負い、のろのろと頂上に到達。鋸山の頂上標識の向こうに、寝そべった姿になった皇海山。東には鋸尾根(熊野岳?)の先にオロ山と庚申山が見えている。

南に見えているギザギザの山並みは袈裟丸山。鋸尾根・鎖場の途中に黄色いキンレイカ?や紫のシャジンが咲いていて、片手で鎖、片手でデジカメを持って撮影。そして鋸尾根で最長のロープ場(鎖とハシゴもある)を下る。

庚申山頂上手前の展望台から再び皇海山を見る。それは14年前に見た、深田久弥も見た、少し猫背の鋭鋒の姿の皇海山。その姿をもう一度見ることができた。そして、林の中の庚申山頂上に着く。

次のオロ山までの道はかなり薄くて途切れ途切れの踏跡もしくは獣道だったが、途中で見晴らしの良い尾根に出て、そこから猫背でない、すっきりした鋭角の皇海山を見ることができた。

16時半過ぎ、やっとオロ山頂上に到達。三角点と欠けて読めない頂上標識、少し奥に明大ウォーキングの頂上標識があった。

尾根を進んで二つ目のピークが沢入山で、主三角点に頂上標識が二つあった。そしてそこからは尾根は開け、踏跡は明瞭になる。

中倉山は、右(南)側は緑だが、左(北)側はスラブ斜面のすさまじい姿。その中倉山に向かう尾根から、左下(北)に広がるスラブ斜面とそのはるか下の松木沢を見ながらの旅となる。まさに空中散歩。前日はあそこからスラブ斜面を見上げていて、その上の尾根が歩けるとは思わなかった。

たいへんな二日目だったが、なんとか登り切ることができ、すばらしい景色を見ることができた。これもまた心に残る思い出のツアーになるだろう。

 朝日で金色に輝く皇海山。そこに向かう国境平からの道は、百名山登山者で賑わう整備された南尾根とは対照的に自然が支配する世界。微かな踏跡を辿る。
松木沢の河原は狭くなり、両側に垂直に近い壁が迫る。もうこの先、砂防ダムは無いのだろうと思ったら、もう一つでっかいのが現われた。(最後の砂防ダム手前)
中倉山に向かう尾根から、左下(北)に広がるスラブ斜面とそのはるか下の松木沢を見ながらの旅となる。まさに空中散歩。前日はあそこからスラブ斜面を見上げていて、その上の尾根が歩けるとは思わなかった。
対岸に鋭く立ち上がっているスラブ尾根のピークは沢入山1,704mだろうか。
 二つ目の淵は両岸が立ったゴルジュになっていた。踏跡を歩いてゴルジュを越える。深い淵が濃い青緑に見えていた。
 猫背でない、すっきりした鋭角の皇海山(オロ山への稜線より)
 やっとオロ山頂上に到達。三角点と欠けて読めない頂上標識、少し奥に明大ウォーキングの頂上標識があった。
上河内SAにはツバメの子がたくさん。もう巣立ち間近。
センニンソウ
 鋸尾根・鎖場のキンレイカ(オミナエシ?)
明大のオロ山の頂上標識
D1    4:41 無料駐車場発  6:05 松木沢の河原、沢靴に履き替え  6:41 左岸の林道跡(砂防ダム2.3,4を越える)  7:32 河原に下る  8:19 最後の砂防ダム  8:33 三俣980m、左10:04 二つ目の淵、右巻道10:46 二俣1,130m、右11:32 尾根取付き目印111:47 水汲み、休憩12:29 尾根取付き15:01 国境平、テント・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・登り10時間20分D2 4:46 国境平発  7:12 皇海山  9:39 鋸山13:31 庚申山・・・・・・・・・・・・・・・・・・国境平から8時間45分15:38 オロ山 17:16 沢入山18:44 中倉山・最高点18:55 中倉山・三角点19:13 ロスト19:35 登山道復帰20:41 車道22:25 無料駐車場・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・庚申山から8時間54分・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・国境平から17時間39分

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D1

ついに天気予報に雨マークが消え、晴マークが並び始めた。水曜からまず関東の皇海山/松木沢に向かうことにする。その後、袈裟丸山、鼻曲山、長野の西岳、東山、そして新潟の杁差岳の2週間ツアー。日中は気温が上がり、山形では37℃。上河内SAも夜中になってもなお30℃だった。

上河内SAにはツバメの子がたくさん。もう巣立ち間近。水曜夜はレモン味の鶏肉をたっぷり食べ、21時前に寝て翌日は1時半に起き、3時に上河内SAを出る。松木沢の起点の銅親水公園までは60㎞くらい。都市部から日光、足尾に入るとぐっと気温が下がってくる。銅親水(あかがねしんすい)公園の手前にトイレ付きの無料駐車場があったのでそこに入ってトイレに寄るが、その先にある銅親水公園駐車場が暗くてよくわからず、その無料駐車場に駐車。500mくらい遠くなるが木々で日が遮られるので悪くないだろう。そのときはもちろん誰もいなかったが、翌日夜に戻ってきたときは数台が駐車していた。久しぶりにフック付きのハーネスを付け、それに携帯ロープをぶら下げていくが、この日はこの携帯ロープを久しぶりに活用した。ヘッドランプを点けて準備したが、出かけるときにはもう明るくなっていて、ヘッドランプは不要になっていた。片手にスティックを持って舗装路を歩く。まだ暗い道脇に咲いていたのはセンニンソウ。

銅親水公園から松木沢に入り、皇海山の北で尾根に取付き、皇海山の北尾根の国境平に泊まり、翌日、皇海山、鋸尾根、庚申山から北尾根の踏跡を歩いて中倉山の南尾根を下って銅親水公園に戻る、というプランは2017年のレコマネ(1170325)で見たものだが、その壮大かつ出発点に歩いて戻れるという点が気に入った。初日の11㎞は10時間強と考えたのは当たったが、二日目の15㎞にはきついところもあり、これも10時間程度(1.5㎞/h)と見たのは甘かった。特に庚申山からの中倉山尾根ではペースが落ち、結局17時間かかった。2013年の記録のように、銀山平からMTB利用にすべきだったか。だが、その苦労した中倉山尾根には松木沢から見上げた切り立ったスラブ尾根の箇所があり、その上を歩いてはるか下の松木沢を見下ろしたのは爽快な体験で、ここに来て本当に良かったと思った。これもまた、忘れられない思い出になるだろう。

初日の11㎞のうち最初の5㎞は車道もしくは林道歩き。沢歩きは夏道よりも時間がかかるので、この車道・林道歩きのところはできる限りの速足で進む。夜明けの銅親水公園駐車場には数台が止めてあり、松木渓谷案内図が掲げてある。もう沢や山に向かった人もいるらしい。そのうちの二人は釣りで、だいぶ奥で出会った。銅親水公園駐車場に気づかなかったのは失敗だったが、陽射を避けられる点では無料駐車場の方が良いはずと思って先に進む。支沢を渡り、中倉山登山口のある仁田元川沿いの道との分岐を過ぎ、少し登っていった先には鉱山施設があり、西には中倉山がすさまじいスラブ斜面を見せている(ジャンダルムというのはどれだろう?)。その先では元松木村の集落を通過。ここはかって足尾銅山があった場所で、公害の影響で松木村の人たちは村を去ったという説明案内があった。車道のところどころに松木沢の道標があり、集落を過ぎたところで沢に下る。松木沢はそのあたりでは広いゴーロの河原をもち、水が元気に流れ、対岸にはものすごいスラブ尾根が広がっている。まさかこの尾根の上を明日、歩くわけではあるまいと思ったが、その翌日、まさにそのスラブ尾根の上を歩くことになる。

沢に下ったところには林道ゲートがあり、そこに自転車が2台置かれていた。たぶん釣りだろう。日向の河原に下る手前で最初の休憩。沢靴に履き替え、パンを食べる。対岸に鋭く立ち上がっているスラブ尾根のピークは沢入山1,704mだろうか。河原のゴーロの上を進むと、沢の流れの上にロープを張り渡しているところに来る。どうやらここで沢を渡れということらしい。ロープを張ってある箇所は沢の中の岩が少なくて水が深く、渡りにくそうに見えたので、もう少し上流の岩のたくさんあることろで右岸に渡る。岩の間の水の流れは速く、足やスティックを流そうとする。思ったより楽ではなさそうだ。その先には大きな砂防ダムがあり、右岸の林道跡に上がって越える。このために右岸に渡った訳だ。更に広くなった河原を進むとまたロープ設置箇所があり(ロープの片方は外れていた)、左岸に渡る。渡ったすぐ先の左岸の高いところにリボンを発見。たぶんそこに上がれということだろう。それは左岸に付けられた林道跡で、踏跡がずっと続いていた。「大イワナ」と赤ペンキでマークした石は何かの記念?左岸の踏跡は、河原を歩くよりは速いなと思ったが、その先で砂防ダムを三つほど越えていく。そして対岸には相変わらずスラブ尾根。奥のピークはやや姿を変えた沢入山だろうか。

左岸の林道跡は次第に荒れ、やがて踏跡は河原に降りてゆく。松木沢の河原は狭くなり、両側に垂直に近い壁が迫る。もうこの先、砂防ダムは無いのだろうと思ったら、もう一つでっかいのが現われた。こいつは左右のどっちから越えるんだろう。左岸は垂直の壁になっていて、それを登る階段のようなものはなし。右岸にも最初の砂防ダムのような道は見当たらない。とりあえずダムの右岸に近づき、登れそうなところを探る。すると、ダムから数十メートル手前に取付き点と思われる踏跡を発見。そこを登ってみる。踏跡は右岸を斜めにぐんぐん登っていき、垂直に近い斜面を灌木を掴んで強引に登っていくと残置ロープも現われた。ここで間違いないらしい。そして、ダムより数メートル高い地点でダムを抜ける。その先で沢筋ルンゼが行く手を阻んでいたが、踏跡は沢筋にいったん下り、更に川上に向かっている。いや、この沢筋をそのまま下れるんじゃないか。そこで沢筋を下ってみるが、あと少しというところで手ごろなホールドが無くなってしまう。そこで携帯ロープを取り出し、立木に引っ掛けて懸垂で下降。1回では足りず、もう一つ別の立木を使って川岸まで降りた。ハーネスにぶら下げた補助ロープを使ったのは結局この時だけだったが、十分に役に立ったと思う(右岸から越えたが、左岸にも巻道があるらしい)。そのすぐ先で三俣980m地点を通過。左の本流を進む。

この先からはゴーロの河原はなくなり、本格的な沢歩き。滝はないが大きな岩が多く、ルート取りに気を付け、できるだけ楽なところを進んでいく。たまに岸に上がってみるとヨメナが咲いている。流れの急なところは意外に水は浅いことが多く、スティックを使って速い流れに踏み込み、越えていく。これも沢歩きの楽しいところ。そして三俣から1時間強で、ついに二人の釣師に遭遇。この二人も私と同じルートを辿ってあの砂防ダムを越えてきたのだろうか。二人はなかなか動きそうもないので、なるべく沢に入らないようにして脇を通過。一人が私に気づいて挨拶してくれた。私の前にもう一人、登山者が登っていったらしい。ペースを上げて二人を追い越し、その先も同じペースで登り続けていくと、深い淵に二つ遭遇。最初の淵は右大岩の右にスペースがあり、そこを抜けるが、二つ目の淵は両岸が立ったゴルジュになっていた。その狭くなったゴルジュの入口まで行けばなんとかなりそうだが、その手前の淵は深く、胸から首くらいまであるかもしれない。そのまま水に入るとウェストバッグが水浸しになってしまうので、ウェストバッグを100円ナップサックに入れ、ザックに背負わせて担ぐ。だが、水に入る前に左岸を見ると、踏跡らしき微かなものが見えた。ゴルジュは十数メートルの高さがあり、そこまで歩いて登るにはゴルジュのだいぶ手前に登り口があるはず、あのあたり・・・・・と目を向けると、果たしてそこに目印のケルンがあった。石を積み上げた小さなケルン。そこからゴルジュ左岸を越える方向に微かな踏跡がついている。なんだ、これを辿ればいいのか。ザックを降ろし、ウェストバッグを取り出し、踏跡を歩いてゴルジュを越える。深い淵が濃い青緑に見えていた。越えた先にも拍子抜けするほど楽なルートが続いていた。一時張りつめていた緊張感がなくなり、元気よく沢を進む。

三俣から2時間ほどで二俣1,100m、そこから10数分で二俣1,130mを通過。二つとも右俣に入る。尾根取付き点が近づき、GPSを見ながら沢を進み、マーキング地点の数十メートル手前で黄色いペンキの丸印を発見。だが、そこから尾根を登る踏跡はよく分からない。そこでザックを黄色ペンキのところに残し、空の水バッグのみ持って偵察に進んでみると、GPSにマーキングしておいた付近に赤リボンを発見。その先にはケルン、更に赤黄の道標も確認できたので、そこで水を汲み、ザックを取りに戻り、3回目の休憩をとり、夏靴に履き替える。(水汲み11時半過ぎから尾根取付き12時半まで1時間近く経っているのは、横になったときに寝込んでしまったためらしい。)この時、入れておいたはずのダーン・タフ・ソックスが見つからず愕然。濡れたソックスで夏靴を履かないといけないのか。なんてことだ。テント泊用のソックスをもってきていたことを思い出し、それを履いて尾根に取付くが、いかんせん、通常のソックスでは辛い。かかとが痛くて困った。昔はこういうソックスで登山していたが、もう登山用ソックスに慣れてしまったようだ。尾根取付きは急な支尾根に九十九折りについていたが、踏跡は消えかかっていて歩きにくく、辛かった。水平に400mほどでいったん平になったところで次の休憩。柄の長い白い花が丸く集まっているのはイケマだろうか。その先で尾根の傾斜は次第に楽になるが、もう一度休憩を取り、国境平に向かう。いったん林を抜けたところで初めて皇海山と鋸山を見る。皇海山はぐっと左後に反り返った威圧感のある姿。鋸山は柔らかい双耳に見えている。

この日は銅親水公園から国境平まで11㎞のうち半分弱の5㎞は林道もしくは林道跡で、3時間弱で通過、その時は、この調子なら昼過ぎに国境平かなと思っていた。その後の沢歩きではややペースが落ち、最後の砂防ダムに手間取るがゴルジュは高巻き、尾根取付きにも4時間強で昼前に到着。(昼寝したので尾根取付きは12時半。)国境平までは2㎞程度だが高低差400m。この尾根取付きは楽ではなかろうと思っていたが、結局2時間半かかり、15時にやっと国境平にたどり着く。支尾根の林を登り切ったあたりで縦走路合流点と思われる標識があり、林を抜けると笹原が広がっていて、この笹原にテントは張りにくいなと思っていたら、そこには二つほど、砂地の空地があり、絶好のテントサイトになっていた。両方ともほぼ水平。倒木が数本ある方がテントを結わえるのに使えると思ってそっちにザックを降ろすが、日が射すとそこは日向になって暑そう。もう一つのテントサイトは日陰になっているので、日陰のほうに移動してテント設営。網戸にしておいて昼寝し、17時頃に夕食。そこは広い笹原の周囲にまばらな林があり、谷の向こうには山並み。夜中は星空に月が出て、とても心地よいところだった。テントを出すとき、しまっておいたダーン・タフ・ソックスを見つけたのも実にラッキー。


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2時半のアラームで起きて朝食(カップ麺とカフェオレ2杯)をとり、テントを撤収して歩き始めたのはもう5時近かった。少しゆっくりしすぎた。早朝の国境平は霧だったが、夜明と共に霧は薄まって遠景が見えてくる。行く手の皇海山の巨体も何度も見る。朝の月の下で霧をまとう皇海山、そして朝日で金色に輝く皇海山。そこに向かう国境平からの道は、百名山登山者で賑わう整備された南尾根とは対照的に自然が支配する世界。微かな踏跡を辿る。その直後に朝日が射してくる。国境平から皇海山へはたいへんな急坂だが、最初は笹原の踏跡を少し下り、登り返し、やや右(西)に回り込んでから林の中を登っていく。ところどころにテープや赤黄の道標。皇海山の北尾根に到達すると、西から南に転進する道標があったが、そこは灌木ヤブが密集していて踏跡が消えがち。灌木をくぐるとふいに北尾根の西側に出て視界が広がるが、西側は急斜面になっていてそこは歩けない。灌木ヤブの中に戻り、悪戦苦闘して登っていくとやがて灌木帯を抜け、林の急斜面を淡々と登っていく。そして、国境平方面への道標の先で、ついに14年ぶりの皇海山頂上に着く。そこは14年前と全く変わっていないように見えた。大きな一等三角点、渡良瀬川水源碑の大きな標識、いくつかの頂上標識。栃木百名山というのが多い。頂上から少し下ったところには青銅の宝剣。ここまで2時間半かかったのはちょっとかかりすぎだが、最初の休憩をとり、パンを食べる。

鋸山に登り返す前に皇海山から下らないといけない。その下りは結構大変だった記憶があったが、道標がたくさんあるものの、大小の段差がたくさんあって苦労。コルに近づいてようやく行く手の鋸山が見えてくる。これは14年前に見たのと同じ、鋸の歯の形。コル1,860mには利根村に下る分岐標識。ともあれ、それまでの獣道の踏跡とは雲泥の差。登山道というのはいいものだ。鋭角の鋸山の正面に白い縦筋のような道がついていて、ほとんど垂直に見えるが、前回はそこを往復した記憶がある。憂鬱。登り返しになってからまず右手前(北西)にある1,901m峰に登り、いったん少し下ってから鋸山への急斜面となる。急斜面に咲いているのはトウキ。ロープを使う箇所は二つ。その二つ目を登っているとき、その日初めての登山者に遭遇。軽装で軽やかに降りて行った。私はテントザックを背負い、のろのろと頂上に到達。今度は皇海山から2時間かかった。予想は1時間だったので心配になってくる。だがペースは崩さず、2度目の休憩。バナナを食べる。鋸山の頂上標識の向こうに、寝そべった姿になった皇海山。東には鋸尾根(熊野岳?)の先にオロ山と庚申山が見えている。

鋸山の頂上があるピークは実は台形のような形をしていて、その台形の上にもう二つの頂上標識(剣ノ山、熊野岳)を見た記憶があったが、今回はどちらの頂上標識も見なかった。南に見えているギザギザの山並みは袈裟丸山。鋸尾根の最初の鎖場(剣ノ山から熊野岳)を越えたあたりで二人目の登山者に遭遇。その人は「ここは恐ろしいところですね」と言っていた。そうかもしれない。鋸尾根・鎖場の途中に黄色いキンレイカ?や紫のシャジンが咲いていて、片手で鎖、片手でデジカメを持って撮影。花はたくさん咲いていたが、鎖場ではそんなに撮れないよ。そして鋸尾根で最長のロープ場(鎖とハシゴもある)を下る。それは数十メートルあるから石鎚山の三ノ鎖くらいあるかもしれない。今回は幸い、下りなので助かった。だが、下った先で次のピークに登り返さないといけない。垂直の壁をロープを伝って登ったところに蔵王岳の頂上標識があった記憶があるが、今回はそこにも頂上標識はなかった。その蔵王岳の狭い頂上で3回目の休憩。南には袈裟丸山。そこからは道はだいぶ楽になり、白山という頂上標識に出会い、前回は見つけられなかった駒形山の頂上標識を発見。登山道から少し外れたところにあり、鋸山に向かっているときは見つけられない位置にあった。前回、歩きにくかった記憶のある背の高い笹ヤブは今回もあり、一度、切り分けを外れてしまい、赤テープを頼りに正しいルートに戻る。

庚申山手前のコルで休憩をとり、ゆっくり登り返していくと途中に御岳山の頂上標識があり、そして庚申山頂上手前の展望台から再び皇海山を見る。それは14年前に見た、深田久弥も見た、少し猫背の鋭鋒の姿の皇海山。その姿をもう一度見ることができた。そして、林の中の庚申山頂上に着く。もう14時半。そこからはまた地理院地図にはない道を6㎞も辿らなければならない。今のペースだと6時間以上、夜中になってしまうだろう。かといってペースを上げるわけにもいかない。まあ、ヘッドランプを点ける前までに中倉山の下降点を目指そう。次のオロ山までの道はかなり薄くて途切れ途切れの踏跡もしくは獣道だったが、途中で見晴らしの良い尾根に出て、そこから猫背でない、すっきりした鋭角の皇海山を見ることができた。前日に登った国境平への支尾根もよく見える。行く手に見える小ぶりのトライアングルはオロ山だろう。背後には平らな庚申山。その間のコルは深く、がっかりするほど下って登り返し、16時半過ぎ、やっとオロ山頂上に到達。三角点と欠けて読めない頂上標識、少し奥に明大ウォーキングの頂上標識があった。

オロ山からも林や灌木や笹ヤブの中を延々と下り、ふと気づくと尾根を北に外して下っていることに気づき、登り返す。尾根に戻ると行く手に沢入山が見えたが、それは松木沢から見上げたスラブの岩山ではなく、濃い緑に包まれた平たい三角形をしていた。おそらくあの背後にスラブ斜面が隠れているのだろう。沢入山とのコルには広い草原と砂地があり、砂の上を歩いて次の踏跡を辿る。沢入山の手前の尾根は裸の細尾根で、そこから眼下にスラブ斜面の一角、そのはるか下に松木沢が見えた。こいつはすごい。昨日はあそこからここを見上げていたのだ。そのとき歩いていたのはスラブ尾根の上だった。その細尾根を辿り登っていく。高度が上がり、振り返ると庚申山とオロ山、それに歩いてきた尾根が並んで見えている。尾根を進んで二つ目のピークが沢入山で、主三角点に頂上標識が二つあった。そしてそこからは尾根は開け、踏跡は明瞭になる。沢入山の東にある1,640m峰から見えた中倉山は、右(南)側は緑だが、左(北)側はスラブ斜面のすさまじい姿。そこから、左下(北)に広がるスラブ斜面とそのはるか下の松木沢を見ながらの旅となる。まさに空中散歩。前日はあそこからスラブ斜面を見上げていて、その上の尾根が歩けるとは思わなかった。中倉山との間のコルに下るところで18時を回り、ヘッドランプを頭に付ける。中倉山の三角点1,500mは最高点よりも低い位置にあり、最高点は三角点の西にある二つのピークのうちの一つ(どちらも1,530m)だろう。頂上標識は見なかったが、どこかにあるのかもしれない。意外だったのは中倉山の三角点が道脇の草叢に隠れていたことで、探し出して緑の苔を笹の葉で掃除する。だいぶ暗くなり、ヘッドランプを点灯。

ヘッドランプでの中倉山からの下降は最初の取付きで誤り、GPSに入力したピンクルートから逸れて東に下る踏跡を辿り、ロスト。斜面は林の薄ヤブだったので、南に向かってトラバースしてゆき、GPSピンクルートのところで見事に登山道復帰。助かった。その踏跡は間違えようもないしっかりしたものだったが、目的地や出発点を示す道標や標識が全くない。登山道は林の急斜面を九十九折りで延々と下っていく。いいかげん足が痛くなっていたが、黙々と下り続け、ついに車道に着く。暗くてよく見えなかったが、登山口標識はなく、車道も未舗装だった。下りで疲れ切った足は車道歩きではフラついていたが、最後の休憩で休んだ後は体調は回復し、ぐんぐん歩いて銅親水公園に着き、更に500m歩いて無料駐車場に到着。思いがけず3台の車が駐車しており、手前の車の主は外で食事中?だった。話しかけてきて、クマに出会った話をしていたが、私は疲れ切っていてきちんと応対できなかった。申し訳ない。ゆっくり片付け、コンビニに行って買物し、日光PAの多目的トイレを借りて体を拭く。たいへんな二日目だったが、なんとか登り切ることができ、すばらしい景色を見ることができた。これもまた心に残る思い出のツアーになるだろう。

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 上河内SAのツバメの子

 

センニンソウ


松木渓谷案内図


松木渓谷・皇海山の道標(中倉山登山口のある仁田元川沿いの道との分岐)


中倉山


スラブ尾根


沢入山1,704m?


最初の渡渉


最初の砂防ダムを右岸から越える

 

松木沢


「大イワナ」マークの石


沢入山?(左奥)


松木沢(最後の砂防ダム手前)


松木沢、三俣980m地点


ヨメナ


釣り人たち


最初の淵、右大岩の右を通れる


二つ目の淵、右に巻道


二つ目の淵を巻く


二俣1,130m、右


尾根取付き目印1


尾根を登る道と赤黄目印


イケマ


初めて見えた皇海山


 

初めて見えた鋸山

 

縦走路合流点の目印


国境平のテントサイト


D2

 夜明


朝の月と皇海山


輝く皇海山


日の出


皇海山・北尾根の道標


 皇海山頂上から国境平への道標

皇海山の頂上


青銅の宝剣


鋸山


コル1,860mの分岐表示

 

鋸山頂上直下の道


トウキ


鋸山頂上直下のロープ


 鋸山の頂上標識と皇海山

 

鋸尾根(熊野岳?)の先のオロ山と庚申山


袈裟丸山


鋸尾根の最初の鎖場(剣ノ山から熊野岳?)


鎖場のキンレイカ?


鎖場のシャジン


鋸尾根最長のロープ場(鎖とハシゴも)


鋸尾根・蔵王岳の頂上(頂上標識はなし)と袈裟丸山


鋸尾根・駒掛山の頂上標識


庚申山展望所から見る鋸山と皇海山


庚申山の頂上


鋭角の皇海山(オロ山への稜線より)


オロ山


オロ山方面から見る庚申山


オロ山の頂上と三角点


明大のオロ山頂上標識

 

沢入山


 庚申山とオロ山

 

沢入山の頂上、主三角点と二つの頂上標識


中倉山


眼下のナギと松木沢


中倉山のナギと松木沢(拡大)


中倉山の三角点