このあまりにも有名なアリアはピンカートンの帰国を信じる蝶々さんの気持ちを歌ったものである。
『ある晴れた日に、彼の乗った船が入港し坂を駆けあがって、「かわいい私の蝶々さん」と昔のように呼んでくれるだろう。』
と歌う。しかし、蝶々さんは本当に彼の帰国を心から信じていたのだろうか。
ある晴れた日に
(乳母のスズキに)
あの人は重い心を隠すようにほほえみながらこう答えたわ。
「おお蝶々さん、かわいい奥さん。コマドリが巣を作る晴れやかな季節になったらバラの花を持って帰って来るよ」と。
きっと帰って来る。私と同じようにあの人が帰って来るとお言い。
泣いているの?なぜ?信じられないのね。
お聞き。
ある晴れた日、海の遥か彼方に煙がひとすじ見え船が姿を現す。
白い船が入港すると礼砲が響き渡る。見える?帰ってらしたのよ!
けれども、私は迎えにはいかないの。向こうの丘のはじに立って待つの。いつまでも。
どんなに長く待っても平気よ。
間もなく人ごみの間から一人だけ抜け出してきて、この丘を登ってくるわ。
その人はだれでしょう?ここに着いたらなんて言うでしょう?
遠くからきっと「蝶々さん」と呼ぶわ。
でも、私は返事をしないで隠れるの。
からかうの、ほんの少しだけ。
喜びで死んでしまわないように。
あの人は心配になってきっとこう呼ぶわ
「美女桜の香りのようなかわいい奥さん」と。
あの人がここに来たときに付けてくれたあだ名なの。
これはすべて本当に起こる事なのよ。
お前が心配していても私は彼を待っているわ。