今日のアフターダイビングは何を食べる?(その2)
橋爪準一
いよいよ私たち夫婦はスクーバダイビングの資格を取るために沖縄に向かいます。
スクールは那覇の繁華街にある「おきなわトロピコ」と言うダイビングショップです。私達が泊まるホテルにチェックインして午後3時にロビーでトロピコからのピックアップを待っていると、ものすごく錆びた、今の日本にこんなに汚い車があっていいの?というようなワゴン車がきました。その中から背の高い、日本人ではありえないくらい日焼けをした真っ黒な顔で、半ズボンをはいて、いかにも着古したTシャツにビーチサンダルといういでたちの中年の男性が降りてきて、「橋爪さ~ん!」と呼んでいるではありませんか。 まさしく彼がトロピコの経営者、“山本 博”氏でした。
例によって私たちは、(ハーバービューホテルまでは行きませんが)高級ホテルに泊まっています。そこに、場違いのいでたちの男! 私たち夫婦はいっぺんに彼が気に入ってしまいました。
トロピコは平屋の古い建物でした。まずそこで次の日から使うレンタルのウェットスーツの試着をします。妻はところどころまるでワカメが付いているかのようなボロボロのウェットスーツを着る事になりました。(しかし彼女はそれが結構気に入っているようです。)
私は表と裏の素材が違うウェットスーツを“山本 博”が持ってきて、これを「裏返しにして着て見ろ」と言ったので、ゴム素材側を内側に着てみることにしました。これがまた大変で、古い建物で、冷房の効きが悪い暑い暑い部屋で、大汗を流して、約15分位かかって、やっとウェットスーツを着る事が出来ました。私はもうこれだけで疲れ果て、これから先、毎回こんなに大変な思いをするのかと思うと一気に滅入ってしまいました。そこに“山本 博”が「着れましたか?」と入ってきて、私を見ると「そうやって着たの?それ反対なんだよね。よく着れたね。」と平気な顔をして言います。もう一度裏返して着てみると、なんてことはなく簡単に着る事が出来ました。“山本 博”の最初に言った「裏返しに」は何だったのでしょう?
ダイビングの講習を受けるメンバーは、私達夫婦と、二人組みの20代の男性(東京から来ている)、そして沖縄大学の女子学生の5人です。さっそくその日の夕方から講習が始まりました。
講習1日目、今晩は座学です。スクーバダイビングの原理、器材の説明、緊急時の対処法など約6時間みっちり勉強しました。午後3時に迎えに来てもらって、終わったのが夜の10時です。その間夕食も食べずに勉強しました。その後、夕食を食べ、私達は就寝しました。
その時に使用したテキストが「PADIのオープンウォーターダイバーマニュアル」です。
参考:「PADI (Professional Association of Diving Instructors) は1966年にジョン・クローニンとラルフ・エリクソンによって創設されたスクーバダイビングの指導団体であり、世界最大のレクリエーショナルダイビングの会員組織。PADIのダイブセンター、ダイブリゾート、教育施設、インストラクターとダイブマスターを含む会員数はレクリエーショナルダイビングの世界で最多である。PADIの本部であるPADIワールドワイドはアメリカ合衆国カリフォルニア州に所在する。180の国と地域に個人会員130,000人と5,300のダイブセンターおよびダイブリゾートを擁している。PADIの教材は26以上の言語に翻訳され、利用されている 。PADIの教育コースは入門レベル (スクーバ・ダイバー、オープン・ウォーター・ダイバー) からマスター・スクーバ・ダイバーまでとインストラクターを認定している。」
講習2日目はプール実習です。今日のインストラクターは“加藤雅子”さんです。初めて器材をつけて昨日座学で教わったことを限定水域(プールなどの制限されたエリアのこと)でやってみるのです。
妻は泳げないので心配です。しかし一つ一つ勇気を出してこなしているようでした。後で、「よく頑張ったね!」といったら、彼女は「水の中で本当に地上に居るのと同じように呼吸が出来る事と、マスクをしていると鼻に水が入らない事、そして少しでもパニックになりそうな気配があるとすぐにインストラクター“加藤雅子”さんが、感じ取って落ち着かせてくれたから何とかなったよ。でも水の中でマスクや器材を着脱するのは本当に怖かった。マスクやレギュレーターがあるから水の中に居られるのに」と言っていました。明日はいよいよ海(オープンウォーター)での講習です。
沖縄での講習も3日目、いよいよ座学(1日目)でやった事、プール(2日目)でやった事を、本当の海で実践してみることになります。ものすごくいい天気で、私は気分爽快ですが、妻は浮かない顔をしています。海が怖いのかと聞いてみると、そうではなく日焼けをするのが心配だと真顔で答えます。そのうち、いい考えが浮かんだようです。それは、ずーッとウェットスーツを着て脱がないと言う事です。顔は、こまめに日焼け止めを塗りなおし、潜っていない時はバスタオルを頭から被っていれば焼けないというアイデアです。
ダイビングポイントはケラマ諸島というところです。そこは世界でも屈指のサンゴの美しさと透明度が抜群のポイントということです。そこまでは“山本 博”が操縦する小さなボートで向かいます。ケラマまで約2時間弱かかります。妻は本当にウェットスーツを着て、頭からバスタオルをすっぽり被っています。女性のインストラクター“加藤雅子”さんが、彼女に、そんな事をしていると船に酔ってしまうと注意をしますが、妻は聞き入れません。そうこうしているうちにダイビングポイントに着きました。彼女は根性で船酔いをしませんでした。
器材の準備をしていよいよ海中に。海中に入る事を「エントリー」という言い方をしますが、エントリーの仕方にはいくつかの方法があります。今回は「バックロールエントリー」といって、船のヘリにこしかけ、背中から水に入ります。腰掛けている事と背中にタンクがあるので背中が重いという理由で、このエントリー方法は初心者にとって、とても楽な方法です。
私も他の3人も難無くエントリー出来ました。妻もどうやらエントリーできたようです。船から降ろしたアンカーに繋がっているロープに捕まって海底(8メートルくらい)まで降りていくのですが、プールと違って水圧が耳にかかり、鼻をつまんでつばを飲み込むという作業(耳抜き)を繰り返さないと潜っていかれません。それでも何とか私達は降りていきました。しかし妻は水深3メートルくらいのところから、なかなか進めません。インストラクターが彼女について、ゆっくりゆっくり、進ませました。たった8メートルくらいでしたのに、10分くらいかかったのでは無いでしょうか?後で彼女に聞くと「耳が抜けなかった。音楽家にとって耳はとても大切なので無理は出来なかった。でもインストラクターがあきらめずに待っていてくれたので何とかなった。」と言っていました。
海底でひざをついて車座になって、昨日プールでやった事、すなわち器材やマスクの脱着を、ここで実際にやってみるのです。妻はさぞかしパニくっているのではと心配になりましたが、難無くこなしています。なぜこのような事をするのかというと、これはめったに無いことですが、もし器材にトラブルがあったときに脱いで点検をしなければならない事があるかもしれないからです。後で、妻になぜあまりパニくらずに出来たのか聞いたところ、“山本 博”が彼女に「一生に一回だから」と言ったそうです。
私たちに混ざって、“オジサン”と言う名前の魚も私達の車座に参加しています。「今日の講習生たちの出来はいかがかな?」とでも思っているのでしょうか?オジサンと言うのは、この魚は口ひげを持っていてそれがおじさんみたいなので、そんな名前がついたようです。ダイバーは、魚をとったり、いじめたりしません。それを魚たちは知っているので、魚も安心して近寄ってくるのです。
スクーバダイビングは、圧縮空気(決して酸素ではありません)が入ったタンク(ボンベとは呼びません)をしょって潜ります。スクーバ・タンクの容量は通常10~14リットルほどであり、始めに通常150 - 200気圧程度の圧縮空気を詰める。その空気を使用可能な圧力レベルまで下げる役割をレギュレーターがし、ダイバーが息を吸ったときだけ必要な量の空気を送り出してくれます。タンクはBCDというジャケットにつけます。このBCD(Buoyancy Control Device、ボイヤンシー・コントロール・デバイス)とは、日本語では浮力調整具と呼ばれます。これは、浮力をコントロールするために空気を出し入れできる空気袋です。昔はこのような器材はなかったので、肺の空気で浮力を調整しなければならなかったようです。その他に3点セットと呼ばれる、フィン(あしひれ)、マスク、スノーケルと水中での体温の維持と保護のためウェットスーツを着用します。これを全て身に付けると25kg位になりますが水中では重さをほとんど感じません。
ダイビングの経験数はタンクの数で表します。1本、2本と表します。ちなみに乗馬は1鞍、2鞍と数えます。2本目のダイビングも終え、どうやらこの日の講習も無事終えることが出来ました。
講習4日目(海洋実習2日目)です。
今日は昨日と違ったエントリー方法を実践します。今日は、先ず、一歩大きく足を踏み出してエントリーする「ジャイアント・ストライド・エントリー」で入りました。妻は平気な顔をしてエントリーしています。エントリーしてから水面に出る時間がこちらの方が早いみたいなのでやってみたとのことでした。彼女はいつもみんなの事を見て、大丈夫だと確認してから行っているようです。
相変わらず妻は耳抜きに苦労しているようですが、何とか海底にたどり着きました。
今日の課題は中性浮力を取ることです。中性浮力とは浮きも沈みもしない状態で、深度が深くなると肺の空気が圧縮されるためより多く肺に空気を入れなければなりません。そうしないと沈んでしまいます。又、浅いところでは肺の空気が膨張するため息を吐き続けねばなりません。それを簡単にするためにBCDに空気を入れたり出したりしますが、それと共に呼吸でもコントロールが必要です。中性浮力をうまくとるには、とても微妙な呼吸テクニックが必要ですが、妻はらくらくこなしています。彼女は声楽家なので、息のコントロールはお手のもののようです。
このようにして、何とか私達は、Cカード(認定書)「Cカード(C-card)とは、ダイビング指導団体が、直接、またはフランチャイズを通じて実施する技能講習を終了した者に対し発行する技能認定(Certification)カードである。」を手に入れることが出来ました。
次回はファンダイビングのお話をしましょう。
沖縄トロピコのhttpとオーナーの山本博の紹介
http://www.okinawa-tropico.com/
※オーナー:山本 博 出身:九州
おきなわトロピコのオーナーであり、船長であり、ダイビングのインストラクターでガイドでもある、海に関わる経験年数はかなり永い、沖縄に来たのは20年以上前と思われる。「むちゃなトロピコ」を作り上げた張本人。海に関する知識と根性と情熱は底が知れている。じゃなくて底知れないものがある。トロピコ号が「飛ばし屋」の異名を持つのも、山本船長の巧みな操船術から来る誉め言葉に他ならないだろう。しかし、昨今はあまりショップや海で見かけることが少ない。ダイビングのゲストの方々もあまり目にする事がないため、見かけると思わず願い事をする者もあると言う。
中央が筆者とその右に絶対に日に焼けない覚悟の為、着膨れ気味の妻雅子(トロピコ号の船上で)