その3
次の日に早速父と『そごうデパート』のペットショップに行きました。
絶対にシャムネコが欲しいと決めていたのです。
アクリルで出来たショーケースの中には何頭かのシャムネコがいました。
その中でひときわ美しいシールポイントの子がいたのです。
シールとはアザラシです。アザラシのように濃い茶色のポイントをもった子です。
シャムネコはご存じのように体の先っぽの色が濃いのです。
その色によって、シールポイント、ブルーポイント、チョコレートポイント、レッドポイントなどがいます。
シールポイントは一番オーソドックスな、それでいて一番美しいポイントです。
黒い長手袋をしてローブデコルテを着ている貴婦人のイメージです。
そのひときわ美しいその子はアーモンド形のブルーの瞳を持っていて、被毛もベルベットのように美しく輝き、触れた感覚もピタッと手に張り着くような素晴らしさです。
私は一目ぼれをして、この子に決めました。
名前ははじめから『ポンポン』と決めていました。
わが家に連れて帰ると、母がびっくりし「なんで、ネコを買って来たの!!!!!」と怒ります。
父は「え!!博子が飼っていいっていったんでしょ?」母は「雅子に甘いんだから!!!すぐ騙されるんだから!!!!」
私と母はいつも父を取りあっていました。
母がバッグを買ってもらったら「パパ、私にも買って」と張り合います。
父はいつも苦笑いでした。
でも、今では父は母のものです。母だけのものです。子供は引き下がりましょう。
母に「見て!」とポンポンを見せるとあまりの美しさに「仕方ないわね。買ってきちゃったんだから。」と受け入れました。
トイレのしつけもたった一回で覚えました。
前足を持って、トイレの中の砂を搔くしぐさをさせるとここがトイレとわかり、一回も失敗せずにすぐに覚えました。
わが家に来た翌朝、私のベッドルームに「ご飯下さい」と言って入って来たのにびっくりしました。
ウサギとネコは同じくらいの大きさですが、やはり知能が違います。ウサギは(放し飼いじゃなかったからかなあ?それだけじゃないよね)そんなことはしません。
シャムネコは社交的で飼い主にまるで犬のようになつきます。
ただ、顔に似合わないだみ声です。またそれがものすごく大きいのです。
ほんのお愛嬌です。
ポンポンが風邪をひいたときに連れて行った獣医さんがとてもハンサムで、私は胸キュンでした。
しかし、ポンポンに対してなぜか及び腰です。
「いやあ、僕はシャムネコが苦手なんだ。昔、シャムネコにものすごい勢いで引っ掻かれたんだ。シャムネコは気が強すぎる。」と言います。ポンポンはそんなことしないのに・・・・
ハンサムには後ろ髪をひかれますが、ポンポンの事をビクビク診察するのはやはり問題なので、一回きりの診察になりました。
それからはポンポンちゃんは都内からもその先生に見てもらうために俳優の池辺 亮や有名人が通う、たくさんの猫についての専門書も執筆しているという獣医さんに診てもらっていました。(のちにそれが良くない結果になるのですが)
その有名なお偉い先生は、犬や猫にも身分があると考えているようです。
ある人が病気の猫を拾ってその先生の病院に連れて行ったところ「そんな汚い猫なんか診られない!すぐ出ていけ!」と言ったそうです。命に貴賤はないはずなのに。伝染病の疑いがある子だとしても治療の方法はあるはずなのに。
ポンポンはますます美しく、利発な子に育ちました。
ポンポンは私の弟の洋一が苦手です。
可愛いあまり,
ついからかって、ポンポンの嫌がることをたくさんするのです。
ポンポンは嫌な事をひとつひとつ指を折って数えています。
そしてもう我慢できなくなったら反撃するのです。
その方法は・・・・・
弟は野球部に入っていました。
練習から帰って来ると、部屋の真ん中に野球の道具を置きっぱなしにするのです。
野球の道具の入った、電車の中に野球部員が乗っていると邪魔でしょうがないあの『迷惑バッグ』も部屋の真ん中にボンと置いてあります。
ポンポンは最もされちゃ困ること、そう、その迷惑バッグの中におしっこをしちゃうのです。
おもらしやそそうではありません。
実力行使です。
ただ、その後の仕返しが怖いので、変にビクビクするのです。ビクビクして洋一の部屋から出てくるので、すぐ分かります。
私はポンポンがまた洋一にいじめられちゃかわいそうなので、ぬれぞうきんで拭いて母の香水を迷惑バッグの中に振りかけました。
結果:猫のおしっことエルメスの香水、キャレーシュの混ざった匂いは物凄いものです。
後日、フランスに行ったとき、メスプレ先生がエルメスのキャレーシュをつけていて、「ママの匂いと同じだ」と共に「ポンポンのおしっこの匂いと同じだ」と大変なつかしく思いました。