今日のアフターダイビングは何を食べる?(その3-1)
沖縄にてCカードを取得した私達は千葉に帰ってすぐにダイビング器材をそろえることにしました。
妻は沖縄のエメラルドグリーンに輝くきれいな海に潜ったことで少しはダイビングの楽しさを感じたようなので、「ダイビングってどう?」と彼女に聞いてみました。
「沖縄に行く前はダイビングをやりたいが5%で、やりたくないが95%だったけど、実際に潜ってみてやりたいが15%に増えた。」といいます。
私は「そんなものかい!」と思い、このままではCカードを取っただけで実際には潜らないペーパーダイバーになってしまう、これではいけないと思い、大枚をはたいて器材をそろえれば嫌でもダイビングをするだろうと考えたわけです。彼女は基本的にケチですから。
Cカード取得講習のために3点セット(マスク、フィン、スノーケル)はすでに揃えていましたから、あと必要な器材は、BC、レギュレーター、オクトパス、ゲージ、コンパス、ウェットスーツということになります。
スクーバー器材のメーカーは、国内メーカーが少なく海外のメーカー製が優れています。値段もピンからキリまでありますが、やはり安全性を考えると有名メーカーの製品を買ったほうが安心ですし保証もよいのでBC、レギュレーター、オクトパス、ゲージ、コンパスは外国製にしました。ウェットスーツはダイビングショップの紹介で自分の体を採寸して自分のデザインでオーダーメイドのスーツを購入しました。
全てそろえると二人で月収の2か月分になりますが“清水の舞台から飛び降りる覚悟”でそろえることにしました。
Cカード取得時は借り物の器材でしたが、いよいよ自分たちの器材でファンダイビングに行くことにしました。
世の中には何冊かのダイビング専門誌が出回っています。それを買い、中に載っていた広告から伊豆の大瀬崎にある『城(じょう)』というファンダイビング専門の店を選びました。
この店は大瀬崎のダイビングを専門にやっているファンダイビング専門店で、大瀬崎のポイントは、ダイビング専門誌の紹介記事で、東京に近く魚の種類も豊富で、海の透明度もいいという前評判の良いポイントのようです。
さっそく『城(じょう)』に電話すると「9時に沼津漁港の駐車場で待っている」という話になり週末を迎えることになりました。
ところが予定日の前日は嵐のような天候で、当日も沼津は大雨が降り、波も高いとの情報で、迷いましたが、潜れなくてもドライブがてら下見を兼ねて行って見ることにしました。
朝9時に約束の沼津漁港に行くと真っ黒に日焼けをした小柄で少し胡散臭そうな中年男性が「橋爪さん?」と近づいてきました。
「今日は潜れますか?」と聞いたところ「何も問題はない」と答えます。私達は急いでウェットスーツに着替え、器材を準備しタンクに取り付け準備完了。
潜るためにはオモリを付けなければなりません。沖縄では私が6キロ、妻が4キロで潜りましたが、『城のオヤジ』(後で書くように色々な事があったので愛を込めて、こう呼びます)は「重いほうがいい」と言って、私が7キロ、妻は6キロも付ける事になりました。
妻は『城のオヤジ』に、「私はエントリーに問題がある。時間がかかる。」と伝えていました。
どこで潜るのかと思っていたら、時化(しけ)で船が出せないので目の前の漁港で潜るとのこと。私は耳を疑いましたが、どうやら本当のようです。タンクを含めて全ての器材を身に付けて、いよいよエントリーですがどのように海に入ればいいのか皆目見当がつきません。桟橋から水面までは少なくとも3メートル以上はあります。しかし『城のオヤジ』は「ジャイアント・ストライドで」と言います。この桟橋から3メートル以上も下に水面がある漁港に飛び込むというのです。
妻が「えっ!?」といってびびっていましたが躊躇する間もなく『城のオヤジ』に突き落とされました。続いて『城のオヤジ』が飛び込むと私にも飛び込めというのです。妻がエントリーしている以上考えている暇はありません。私も飛び込みました。
妻は『城のオヤジ』に潜れないと訴えていましたが、頭をぐっと押さえられ海中に沈められました。ジェスチャーで「鼻をつまめ、息を吐け」と指導を受けながら潜っていきます。私もそれに続いて潜っていきました。
海中にたどり着くとそこは思ったより綺麗で魚もたくさんいます。岩がゴロゴロしている地形で、岩と岩の間に小魚がたくさん隠れています。『城のオヤジ』のガイドで港の中を移動して行きます。妻はだいぶ落ち着いて中性浮力もとれているようです。
『城のオヤジ』は桟橋の壁に取り付けてある古タイヤに近づいていきます。この古タイヤは船が桟橋に激突しないように取り付けてあるようです。『城のオヤジ』が、その中に手を入れると何かを引っ張り出そうとしています。それはものすごく抵抗しているのでなかなか外に出せません。『城のオヤジ』が我々に「こっちに来て見なさい」と手招きします。我々は何だろうと近づいたとたん、一面が真っ黒な墨で覆われました。なんと、タイヤの中にはタコが入っていたのです。蛸壺のタイヤ版です。
我々の新調したばかりのウェットスーツは、一本目のダイビングからタコの墨で無残にもシミが付いてしまうことになりました。新調したウェットスーツはブルーと白のツートンカラーのデザインですからたまったものではありません。(現在持っているウェットスーツは黒一色のデザインですが)
その後も『城のオヤジ』はタコ捕りに精を出し、我々のウェットスーツのタコ墨は面積を広げ一本目のダイビングは終了しました。
桟橋から突き落とされたり、頭を押さえられて沈んだり、蛸が手に絡み付いて取れなくなったり、墨をはかれたりファンダイビング1本目は散々なダイビングでしたが、妻は結構楽しんでいたようです。最初のファンダイビングで嫌な事があると以後ダイビングは二度とやらないというケースを良く耳にしますが。内心ひとまずホッとしました。
1本目のダイビングを終わり器材の後片付けをしながら、少しお腹がすいたなと思っていると、『城のオヤジ』が「こんな格好でレストランに入っても大丈夫かなあ?」と言っています。聞き返すと「お昼はレストランで食事をする。」と言います。私達はあわてて着替えて、ある程度のレストランなら問題ない格好に着替えました。
『城のオヤジ』はTシャツのまま、先ほど捕ったタコを手に私たちについて来いといいながら案内されたレストランは地元の居酒屋風の店でした。
そのレストランと称する店の中には、時化(しけ)で漁に出られず、朝から酒を飲んでいる地元の漁師さんたちがたくさんいました。『城のオヤジ』が今捕ってきたばかりの例のタコを「お土産だ。」と言って居酒屋のオヤジに渡します。店のオヤジがすぐにそのタコのうち一匹を塩もみして生のまま刺身にしてくれました。もう一匹は鍋でゆでて茹蛸にして刺身にして出してくれました。歯ごたえがあり甘くおいしい蛸でこんなにおいしい蛸を食べたのは初めてでした。これに酒があれば最高だろうと思いましたが、午後のダイビングがあるため我慢しました。
一方、朝から酒の入っている漁師さんたちは、「こんなにおいしい肴があったら、酒が進み過ぎて俺は死ぬぜ!」と喜んでいました。私達もその店に溶け込んで楽しい昼食を済ませました。(レストランってなんだったのでしょう?)
2本目は、どこで潜るのでしょうか?『城のオヤジ』について行くと、また午前中と同じ場所です。「同じところで潜るのですか?」と聞いたところ、違うところだと答えます。
一本目が『沼津漁港前』。二本目は桟橋をはさんで隣にある『県漁港前』と言うことでした。心の中で「同じじゃないか」と思いつつ、例によって桟橋エントリー。妻はやはり突き落とされて頭を押さえられ無理やり沈められています。
その3-2
2本目は、どこで潜るのでしょうか?『城のオヤジ』について行くと、また午前中と同じ場所です。「同じところで潜るのですか?」と聞いたところ、違うところだと答えます。
一本目が『沼津漁港前』。二本目は桟橋をはさんで隣にある『県漁港前』と言うことでした。心の中で「同じじゃないか」と思いつつ、例によって桟橋エントリー。妻はやはり突き落とされて頭を押さえられ無理やり沈められています。
ここにはウツボがいて『城のオヤジ』はそのウツボの頭を撫でていました。妻も『城のオヤジ』から無理やりウツボを触らされていましたが、まんざらではないようです。小さなミノカサゴやフグもいました。再びタコも捕り2本目のダイビングも終わりました。
『城のオヤジ』は漁業権も持っているのでタコを捕っても問題がないとのことです。私たちに先ほど捕ったタコや、形が整わなくて市場に出ない魚をたくさんお土産に持たせてくれました。そして帰るときに「これに懲りずに、ダイビングを続けてね。今度は大瀬崎で潜りましょう。」と『城のオヤジ』がいってくれました。これがきっかけとなってその後何度も『城』でダイビングをしました。少し胡散臭くていかがわしい雰囲気のオヤジですが頼りがいがあって魅力的な『城のオヤジ』のことを私達は今も忘れません。
その後わずか4ヶ月の間に立て続けに30本潜った私達は、再び沖縄の『山本 博』のもとでダイビングをすることになります。
4ヶ月ぶりに再会して、今回はファンダイビングのガイドをした『山本 博』は、ファンダイビングを終わった妻に対して「あれ?ダイビングに問題なかったっけ?」。
4ヶ月前のCカード取得講習では、海底にたどり着くまでに、ものすごく時間がかかっていたのに、わずか4ヶ月会わないうちに『ジャックナイフ(頭から水中にもぐって行く姿勢)』で、どんどん潜っていく妻を見て『山本 博』が発した言葉です。
これはファンダイブ一本目(西伊豆の沼津漁港でのダイビング)からの厳しい洗礼に見事打ち勝ち、ダイビングを自分のものとした我々を、Cカード認証した『山本 博』が認めてくれたことを示す言葉だったのです。
以後『山本 博』は、我々のファンダイビングに同行する時には、かなり難易度の高いダイビングポイントへ連れて行ってくれるようになりました。
スキルというものは、短期間でどんどん体験することにより体で覚えることが大切です。つまり知識だけに終わらず、体得すること(つまり身体で覚えて無意識のうちに反射的に対応できる状態)の大切さを示す事例ではないでしょうか。
これはダイビングだけでなく、いろいろなことに当てはまるのではないでしょうか。
ダイビングを始めてすぐの頃はただ潜るだけでも楽しくて、前回書いたように近場のダイビングポイントである伊豆半島の“大瀬崎”や“雲見”“海洋公園”、房総半島の“坂田”に潜りに行きました。房総半島の“坂田(バンダ)”というポイントでは、宝を積んだままカリブ海に沈んでいる船(沈船)を引き上げて、大金を儲けようと計画しているダイビングショップ(シークロップ)のオーナーと親しくなり何度も潜りに行きました。
しかし潜る回数を重ねると、近場の海(大瀬崎や伊豆、房総半島など)は、海底が砂地で濁っていて透明度も悪く、ワカメも生息しているので、まるで“白ミソ仕立て”の“味噌汁”のような海です。次第に「どうせ潜るなら沖縄や海外へ」と考えるようになりました。
“ロタ島”(サイパンとグアムの中間にある島)の海は、“恐ろしいくらい透明な海(透明度50m以上あります)”で、その美しさに魅了されて何度か行きました。
“グアム”と“サイパン”では、サイパンの方がグアムより田舎なので海は綺麗で透明度も良く、魚も豊富ですからサイパンへも結構行きました。
ハワイの“マウイ島”は、波が高いためサーファーには良いポイントかもしれませんが、ダイバーにとっては潜りにくく、海底が砂地でサンゴ礁がないため透明度も悪くダイビングには向いていません。
その他、南半球の“ニューカレドニア”やオーストラリアの“グレートバリアリーフ”にも行きました。しかし私達が一番気に入っている場所は“パラオ”です。
“パラオ”はその昔、“南洋松島”と呼ばれていたところで、小さな島が点在している国です。(第一次世界大戦の戦後処理のパリ講和会議によりドイツ占領下からパラオは日本の委任統治領になりました。第二次世界大戦終結後の1947年に、国際連合の委託を受けアメリカ合衆国がパラオを信託統治下に置きました。1994年10月1日に独立し、国連による信託統治が終了し国際連合へも加盟しパラオ共和国となる)
信託統治が終了し国際連合へも加盟しパラオ共和国となる)
「パラオ・パシフィック・リゾート:PPR」の前のプライベート桟橋
(ダイビングボートが待っています)
パラオは、フィリピンとグアムの間に位置し200以上の島からなります。島と島の間の入り江のような静かなポイントから、海流の流れの激しいダイナミックなポイントまで色々な顔の海を持つ島です。特に私達が気に入っているポイントは“ジャーマン・チャネル”というポイントです。このポイントは、昔、浅瀬だったのですが、ドイツの占領時代に大型戦艦を通行させるために海路(チャネル)を掘った場所だそうです。
<ダイビングポイント説明>
ジャーマン・チャネル:「ギンガメアジの群れ、バラクーダの群れなどもみられる。大潮の上げ潮を狙って入ると、潮が強くなるにつれ、水面近くにクマザサ、マダラタルミ、ミナミイスズミの群れを成す。その群れの密度は前が見えないくらいすごい。」
このポイントは、海流の流れが速いため、プランクトンが豊富で、たくさんの回遊魚がまるで魚でできた柱のように海底から海面近くまで回遊しています。マンタ(オニイトマキエイ)の出るポイントとしても有名です。タタミ6畳ほどもある大きなマンタが出て私たちダイバーにその姿を見せてくれます。潮の流れが速いため、この場所に止まるのにダイバーは常に全力でフィンを漕がなければなりません。少しでも力を弱めると後ろへ流されてしまいます。前へ前へと漕いでいても実際には同じ場所に止まっているのです。
パラオ“ジャーマン・チャネル”のマンタ
別のポイント(ブルーコーナー)では100匹以上のサメに出会うことが出来ます。そこは先ほどの“ジャーマン・チャネル”とは逆に流れに身を任せていると、サメの大群に出会えます。サメたちは流れに逆らって、大きな口をあけて勝手に口の中に入ってくるプランクトンや小さな生き物を食べているのです。私達はその横を通過していくのです。よく「サメって怖くないですか?」と聞かれますが、よほどの事がない限り、自分より大きな人間を襲うサメはいません。もちろんリスクは“0”ではありませんが。
<ダイビングポイント説明>
ブルーコーナー:「いわずと知れたパラオ・ナンバーワンスポットのブルーコーナー。サメやナポレオンには普通に出会えてしまう。最初のうちはサメだ!ナポだ!と感動しているのに、そのうち慣れてしまうのが悲しいくらい普通にいる。これでもかって言うくらいの魚影の濃さ。上げ潮時の流れているときにはギンガメアジ、マダラタルミがウォール付近で、群れを成している。『わー群れだー』 と近寄るのは要注意!群れを成しているのは流れている証拠。流される(飛ばされる)と戻って来れないし、エアを消費するので、必ずガイドの指示、コースに従うこと。このように流れている時、ウォール付近ではアップカレントが生じているので、フッキング以外では壁から距離を保ってダイビングする。最後のブルーウォーターでの安全停止中も気を抜かないように。目標物が無いので、深度管理が難しい(ガイドを指標に!)のと、バラクーダの群れに会う可能性大。」
パラオ“ブルーコーナー”のナポレオンフィッシュ
パラオでは俗称「ナポレオンフィッシュ」という大きな魚や海カメに良く出会えます。ナポレオンフィッシュはダイバーが自分のことが好きでアイドルだということを良く知っているようです。ダイバーにちやほやされることが気持ち良いのか、自分からダイバーに近づいて来ます。昔は餌付けもしていたようですが、今はなるべく自然の状態にということで現在では餌付けは禁止になっています。それなのに自分から寄ってくるというのはダイバーと一緒に泳いでいることが楽しいのでしょう。
また、海カメに会うと人生観が変わってしまいます。ゆっくりゆっくり岩についた海草を食べている海カメを見ると小さなことで一喜一憂していた自分が愚かに思えてきます。そして彼らの“黒目がちの大きい瞳”で見つめられると「大丈夫だよ。」と言われているようでダイビングから帰ったらまた頑張ろうという気持ちになれます。
パラオ“ブルーコーナー”のアオウミガメ